ルリジサ種子油の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ルリジサ種子油 |
---|---|
慣用名 | ボラージオイル、ボラージ油 |
INCI名 | Borago Officinalis Seed Oil |
配合目的 | エモリエント、バリア機能改善 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
ムラサキ科植物ルリジサ(学名:Borago officinalis 英名:Borage)の種子から得られる脂肪油(植物油)です[1a]。
1.2. 物性・性状
ルリジサ種子油の物性・性状は(∗1)、
∗1 融点とは固体が液体になりはじめる温度のことです。またヨウ素価とは油脂を構成する脂肪酸の不飽和度を示すものであり、一般にヨウ素価が高いほど不飽和度が高い(二重結合の数が多い)ため、酸化を受けやすくなります。
状態 | 融点(℃) | ヨウ素価 |
---|---|---|
油状液体 | – | 130-155(乾性油) |
このように報告されています[2a]。
1.3. 脂肪酸組成および不鹸化物
ルリジサ種子油の脂肪酸組成は、一例として、
脂肪酸名 | 脂肪酸の種類 | 炭素数:二重結合数 | 比率(%) |
---|---|---|---|
パルミチン酸 | 飽和脂肪酸 | C16:0 | 10.7 |
ステアリン酸 | C18:0 | 6.4 | |
オレイン酸 | 不飽和脂肪酸 | C18:1 | 18.5 |
リノール酸 | C18:2 | 36.6 | |
γ-リノレン酸 | C18:3 | 21.1 | |
エイコセン酸 | C20:1 | 4.2 | |
エルカ酸 | C22:1 | 2.3 |
このような種類と比率で構成されていることが報告されており[3a]、また未精製のルリジサ種子油には不鹸化物(∗2)として、以下の表のように、
∗2 不鹸化物(不ケン化物)とは、脂質のうちアルカリで鹸化されない物質の総称です。水に不溶、エーテルに可溶な成分である炭化水素、高級アルコール、ステロール、色素、ビタミン、樹脂質などが主な不鹸化物であり、油脂においてはその含有量が特徴のひとつとなります。
不鹸化物 | 構成比(mg/100g) | |
---|---|---|
トコフェロール | γ-トコフェロール | 3.9 |
δ-トコフェロール | 132.0 |
このような種類で構成されていることが報告されています[3b]。
ルリジサ種子油は、不飽和脂肪酸であるリノール酸を主成分とし、かつγ-リノレン酸を約20%含むことを特徴としており、またトコフェロールなど抗酸化物質の含有量および活性が低いことなどから、総合的に自動酸化に対する安定性が低いといった特徴を有していると考えられます[4]。
ただし、化粧品においてはトコフェロールに代表される酸化防止剤を添加することで酸化安定性が大幅に向上するため、一般にトコフェロールなどの酸化防止剤やトコフェロールの含有量の多い植物油脂と一緒に使用されます。
1.4. 分布と歴史
ルリジサ(瑠璃苣)は、地中海沿岸地方を原産とし、古代ギリシャやローマ時代からうつ病の治療薬として知られ、また中世ヨーロッパでは「勇気のでる薬草」とよばれ、この草のもつ心の憂さを晴らし、気分を引き上げる効果が称揚されてきたほか、若葉がサラダなどに利用されてきた歴史を経て、現在はヨーロッパ、北アフリカ、小アジアに自生するほか、世界中で栽培されるに至っています[5][6][7]。
2. 化粧品としての配合目的
- エモリエント効果
- γ-リノレン酸補充によるバリア機能改善作用
主にこれらの目的で、スキンケア製品、メイクアップ製品、ボディ&ハンドケア製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品などに使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. エモリエント効果
エモリエント効果に関しては、ルリジサ種子油は皮膚親和性に優れており、閉塞性により皮膚の水分蒸発を抑え、その結果として皮膚に柔軟性や滑らかさを付与するエモリエント性を有していることから[1b][8]、各種クリーム、乳液、メイクアップ製品、ヘアケア製品などに使用されています。
2.2. γ-リノレン酸補充によるバリア機能改善作用
γ-リノレン酸補充によるバリア機能改善作用に関しては、まず前提知識として皮膚におけるγ-リノレン酸の役割について解説します。
γ-リノレン酸は、以下の細胞膜の構造図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
脂肪酸鎖としてリノール酸とともに細胞の流動性と安定性を保持している細胞膜の構成成分であり、γ-リノレン酸が不足することと、アトピー性皮膚炎、湿疹、乾燥肌、経皮水分蒸散量の増加などの皮膚障害が関係していることが報告されています[9][10]。
このような背景から、皮膚炎を有する場合や加齢などにより皮膚の乾燥傾向を自覚している場合は、経口・経皮を問わず不足しているγ-リノレン酸を補充することがバリア機能の回復にとって重要なアプローチのひとつであると考えられます[11]。
1995年にドイツのボン大学皮膚科によって報告された荒れ肌におけるルリジサ種子油の影響検証によると、
– ヒト使用試験 –
健常な皮膚を有する20名の被検者の皮膚をSDS処理することによって人工的に肌荒れをつくり、肌荒れ部位と健常な部位に3%ルリジサ種子油、サフラワー油配合クリームおよび両者無配合ベースクリームを1日2回14日間にわたって塗布し、それぞれの角層水分量および経表皮水分蒸散量を測定したところ、以下のグラフのように、
3%ルリジサ種子油配合クリームの塗布部位は、他の2つのクリームよりも明らかに角層水分量量の増加を示した。
一方で、経表皮水分蒸散量については、3種類のクリームで大きな差はみられなかった。
このような試験結果が明らかにされており[12]、ルリジサ種子油に角層水分量の増加が認められています。
このルリジサ種子油に角層水分量増加は、不足していたγ-リノレン酸の補充により、低下していた角層バリア機能が強化した結果であると考えられることから、バリア機能改善作用に分類しています。
3. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2017年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗3)。
∗3 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
4. 安全性評価
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[2b]によると、
- [ヒト試験] 213名の被検者に1%ルリジサ種子油を含むボディ&ハンド製剤0.2gを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、これらの製剤は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(TKL Research,2007)
- [ヒト試験] 108名の被検者に2%ルリジサ種子油を含むフェイスセラムを対象に皮膚一次刺激性試験を実施したところ、この試験物質は皮膚刺激剤ではなかった(Institut D’Expertise Clinique,2010)
- [ヒト試験] 108名の被検者に2%ルリジサ種子油を含むフェイスセラムを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Institut D’Expertise Clinique,2010)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
4.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
5. 参考文献
- ⌃ab日本化粧品工業連合会(2013)「ルリジサ種子油」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,1089.
- ⌃abC.L. Burnett(2017)「Safety Assessment of Plant-Derived Fatty Acid Oils」International Journal of Toxicology(36)(3_suppl),51S-129S. DOI:10.1177/1091581817740569.
- ⌃abI. Tasset-Cuevas, et al(2013)「Protective Effect of Borage Seed Oil and Gamma Linolenic Acid on DNA: In Vivo and In Vitro Studies」PLoS ONE(8)(2),e56986. DOI:10.1371/journal.pone.0056986.
- ⌃Qian Ying, et al(2018)「Phytochemical Content, Oxidative Stability, and Nutritional Properties of Unconventional Cold-pressed Edible Oils」Journal of Food and Nutrition Research(6)(7),476-485. DOI:10.12691/jfnr-6-7-9.
- ⌃Majid Asadi-Samani, et al(2014)「The chemical composition, botanical characteristic and biological activities of Borago officinalis: a review」Asian Pacific Journal of Tropical Medicine(7)(Suppl 1),S22-S28. DOI:10.1016/s1995-7645(14)60199-1.
- ⌃ジャパンハーブソサエティー(2018)「ボリジ」ハーブのすべてがわかる事典,178.
- ⌃鈴木 洋(2011)「ボリジ」カラー版健康食品・サプリメントの事典,173.
- ⌃平尾 哲二(2006)「乾燥と保湿のメカニズム」アンチ・エイジングシリーズ No.2 皮膚の抗老化最前線,62-75.
- ⌃K.L. Campbell(1990)「Fatty acid supplementation and skin disease」Veterinary Clinics of North America: Small Animal Practice(20)(6),1475-1486. DOI:10.1016/S0195-5616(90)50156-4.
- ⌃B. Melnik & G. Plewig(1991)「Atopic dermatitis and disturbances of essential fatty acid and prostaglandin E metabolism」Journal of the American Academy of Dermatology(25)(5),859-860. DOI:10.1016/S0190-9622(08)80989-9.
- ⌃田中 稔久(2002)「γ-リノレン酸を化粧品に配合した時の効果」Fragrance Journal(30)(8),86-88.
- ⌃H.P. Nissen, et al(1995)「Borage oil. Gamma-linolenic acid decreases skin roughness and TEWL and increases skin moisture in normal and irritated human skin」Cosmetics & Toiletries(110),71-74.