アンズ核油の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | アンズ核油 |
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医薬部外品表示名 | キョウニン油 |
INCI名 | Prunus Armeniaca (Apricot) Kernel Oil |
配合目的 | エモリエント、溶剤 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
バラ科植物アンズ(学名:Prunus armeniaca 英名:Apricot)の核から得られる脂肪油(植物油)です[1]。
1.2. 物性・性状
アンズ核油の物性・性状は(∗1)、
∗1 融点とは固体が液体になりはじめる温度のことです。またヨウ素価とは油脂を構成する脂肪酸の不飽和度を示すものであり、一般にヨウ素価が高いほど不飽和度が高い(二重結合の数が多い)ため、酸化を受けやすくなります。
状態 | 融点(℃) | ヨウ素価 |
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油状液体 | -22 – -4 | 90-110(半乾性油) |
1.3. 脂肪酸組成
アンズ核油の脂肪酸組成は、一例として、
脂肪酸名 | 脂肪酸の種類 | 炭素数:二重結合数 | 比率(%) |
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パルミチン酸 | 飽和脂肪酸 | C16:0 | 7.6 |
ステアリン酸 | C18:0 | 1.3 | |
パルミトレイン酸 | 不飽和脂肪酸 | C16:1 | 0.8 |
オレイン酸 | C18:1 | 68.3 | |
リノール酸 | C18:2 | 22.0 |
このような種類と比率で構成されていることが報告されており[3b]、オレイン酸を主成分とし、80%以上を不飽和脂肪酸とした構成であることから、不飽和脂肪酸含有量が高く、他の植物油脂と比較して自動酸化に対する安定性がやや低いと考えられます。
ただし、化粧品においてはトコフェロールに代表される酸化防止剤を添加することで酸化安定性が大幅に向上するため、一般にトコフェロールなどの酸化防止剤やトコフェロールの含有量の多い植物油脂と一緒に使用されます。
1.4. 分布と歴史
アンズ(杏)は、植物学上ホンアンズ(学名:Prunus armeniaca)、マンシュウアンズ(学名:P. mandshurica)、モウコアンズ(学名:P. sibirica)に大別されますが、現在世界各地で広く栽培されているのはホンアンズであり、一般にアンズというとホンアンズを指します。
アンズは、中国東部を原産とし、中国では2000年以前から利用されており、日本においては11世紀に渡来したとの記録があり、現在では生食用というよりは缶詰、ジャム、乾燥あんず、果汁入り飲料などの加工品目的で主に長野県、山梨県、青森県などで栽培されています[4][5a]。
またその核(種子)は、品種によって苦味のある「苦杏仁(くきょうにん)」と甘みのある「甜杏仁(てんきょうにん)」とがあり、生薬としては苦杏仁を、杏仁豆腐などに代表されるお菓子には甜杏仁が用いられています[5b]。
2. 化粧品としての配合目的
- エモリエント効果
- 溶剤
主にこれらの目的で、リップ系化粧品、メイクアップ製品、ネイル製品、ボディ&ハンドケア製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、クレンジング製品、ボディソープ製品、洗顔石鹸など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. エモリエント効果
エモリエント効果に関しては、アンズ核油は閉塞性により皮膚の水分蒸発を抑え、その結果として皮膚に柔軟性や滑らかさを付与するエモリエント性を有していることから[2b][6][7]、各種クリーム、メイクアップ製品、ヘアケア製品、ネイル製品などに汎用されています。
2.2. 溶剤
溶剤に関しては、アンズ核油は主に油溶性植物エキスを溶かし込む溶剤として用いられています。
3. 混合原料としての配合目的
アンズ核油は混合原料が開発されており、アンズ核油と以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | APB – Apricot Butter |
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構成成分 | アンズ核油、水添野菜油 |
特徴 | アンズ核油と水添野菜油を混合した融点50-60℃のアプリコットバター |
原料名 | AWB – Squalene-Based Apricot Waxy Butter Specification |
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構成成分 | アンズ核油、オリーブ油不けん化物 |
特徴 | スクワレンベースのワックス状アプリコットバター |
4. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2017年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗2)。
∗2 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
5. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[8]によると、
- [ヒト試験] 108名の被検者に2%アンズ核油を含むアイクリーム20μLを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(EVIC Romania,2010)
- [ヒト試験] 119名の被検者に2.5%アンズ核油を含むクリームを対象に皮膚一次刺激性試験を実施したところ、この試験物質は皮膚一次刺激剤ではなかった(Institut D’Expertise Clinique,2010)
- [ヒト試験] 108名の被検者に19.749%アンズ核油を含むウェイスセラムを対象に皮膚一次刺激性試験を実施したところ、この試験物質は皮膚一次刺激剤ではなかった(Institut D’Expertise Clinique,2010)
- [ヒト試験] 104名の被検者に0.005%アンズ核油を含むスカルプコンディショナーまたはヘアワックスを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Clinical Research Laboratories,2005)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
5.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
6. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「アンズ核油」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,167.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(2016)「油脂」パーソナルケアハンドブックⅠ,1-19.
- ⌃ab鈴木 修, 他(1990)「油脂およびろうの性状と組成」油脂化学便覧 改訂3版,99-137.
- ⌃杉田 浩一, 他(2017)「あんず」新版 日本食品大事典,44-45.
- ⌃ab鈴木 洋(2011)「杏仁(きょうにん)」カラー版 漢方のくすりの事典 第2版,99.
- ⌃広田 博(1997)「不乾性油」化粧品用油脂の科学,18-26.
- ⌃平尾 哲二(2006)「乾燥と保湿のメカニズム」アンチ・エイジングシリーズ No.2 皮膚の抗老化最前線,62-75.
- ⌃C.L. Burnett, et al(2017)「Safety Assessment of Plant-Derived Fatty Acid Oils」International Journal of Toxicology(36)(3_suppl),51S-129S. DOI:10.1177/1091581817740569.