乳酸セチルの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | 乳酸セチル |
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医薬部外品表示名 | 乳酸セチル |
INCI名 | Cetyl Lactate |
配合目的 | エモリエント、感触改良 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
ヒドロキシ基(-OH)をもつ脂肪酸とアルコールとのエステルの一種であり、以下の化学式で表される乳酸のカルボキシ基(-COOH)にセタノールのヒドロキシ基(-OH)を脱水縮合(∗1)したエステルです[1]。
∗1 脱水縮合とは、分子と分子から水(H2O)が離脱することにより分子と分子が結合する反応のことをいいます。脂肪酸とアルコールのエステルにおいては、脂肪酸(R-COOH)のカルボキシ基(-COOH)の「OH」とアルコール(R-OH)のヒドロキシ基(-OH)の「H」が分離し、これらが結合して水分子(H2O)として離脱する一方で、残ったカルボキシ基の「CO」とヒドロキシ基の「O」が結合してエステル結合(-COO-)が形成されます。
1.2. 物性・性状
乳酸セチルの物性・性状は(∗2)(∗3)、
∗2 融点とは固体が液体になりはじめる温度のことです。また凝固点とは液体が固体になりはじめる(固まりはじめる)温度のことです。
∗3 比重とは固体や液体においては密度を意味し、標準密度1より大きければ水に沈み(水より重い)、1より小さければ水に浮くことを意味します。
状態 | 融点(℃) | 凝固点(℃) | 比重(d 25/25) |
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軟固体 | 41 | 23-26 | 0.893-0.905 |
1.3. 化粧品以外の主な用途
乳酸セチルの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
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医薬品 | 基剤、軟化目的の医薬品添加剤として外用剤に用いられています[4]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- エモリエント効果
- 油性感低減、クリーミィな感触付与および展延性向上による感触改良
主にこれらの目的で、スティック系メイクアップ製品、その他のメイクアップ製品、化粧下地製品、スキンケア製品、ハンドケア製品、コンディショナー製品、トリートメント製品などに使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. エモリエント効果
エモリエント効果に関しては、乳酸セチルはヒドロキシ基(-OH)をもつため、皮膚との親和性がよく、皮膚や毛髪に柔軟性や滑らかさを付与するエモリエント性を有していることから[3b][5]、メイクアップ製品、スキンケア製品、ヘアケア製品などに使用されています。
2.2. 油性感低減、クリーミィな感触付与および展延性向上による感触改良
油性感低減、クリーミィな感触付与および展延性向上による感触改良に関しては、乳酸セチルは油性感がなく、皮膚に対してべたつかないといった機能をもつことから、基剤の油性感を抑制し、展延性(∗4)を向上させる感触調整目的でメイクアップ製品、クリーム系製品、乳液などに使用されています[3c][6a][7]。
∗4 展延性とは、柔軟に広がり、均等に伸びる性質のことで、薄く広がり伸びが良いことを指します。
また、口紅に配合するとクリーミィな感触を付与します[6b]。
3. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の1995-1997年および2013-2014年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗5)。
∗5 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
4. 安全性評価
- 薬添規2018規格の基準を満たした成分が収載される医薬品添加物規格2018に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 40年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし-最小限
- 眼刺激性:ほとんどなし-最小限
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[8a]によると、
- [ヒト試験] 40名の被検者を2グループに分け、それぞれ2.5%または5%乳酸セチル水溶液を24時間閉塞パッチ適用し、適用後に皮膚刺激性を評価したところ、各グループ2名の被検者に軽度の刺激がみられ、これらの試験物質は最小限の皮膚刺激剤に分類された(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1973)
- [ヒト試験] 200名の被検者に5%乳酸セチル水溶液を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、いずれの被検者においても皮膚反応はみられず、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Food and Drug Research Laboratories,1973)
このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
また、皮膚刺激性については、試験データをみるかぎり、非刺激-最小限の皮膚刺激が報告されているため、一般に非刺激-最小限の皮膚刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
4.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[8b]によると、
- [動物試験] ウサギの眼に5%乳酸セチルを含むミネラルオイルを4日間にわたって点眼し、Draize法に基づいて24時間ごとに眼刺激性を評価したところ、この試験製剤は眼刺激剤ではなかった(Leberco Laboratories,1976)
- [動物試験] 6匹のウサギの眼に15%乳酸セチルを含むコーン油を4日間にわたって点眼し、Draize法に基づいて眼刺激スコア0-110のスケールで24時間ごとに眼刺激性を評価したところ、眼刺激スコアは1.3であり、この試験製剤は最小限の眼刺激剤に分類された(Bio-Toxicology Laboratories,1976)
- [動物試験] 6匹のウサギの眼に100%乳酸セチルを4日間にわたって点眼し、Draize法に基づいて眼刺激スコア0-110のスケールで眼刺激性を評価したところ、眼刺激スコアは0.3であり、この試験製剤は非刺激剤であった(Consumer Product Testing,1978)
このように記載されており、試験データをみるかぎり非刺激-最小限の眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-最小限の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
5. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「乳酸セチル」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,736-737.
- ⌃有機合成化学協会(1985)「乳酸ヘキサデシル」有機化合物辞典,677.
- ⌃abc広田 博(1997)「エステル類」化粧品用油脂の科学,91-113.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「乳酸セチル」医薬品添加物事典2021,443-444.
- ⌃平尾 哲二(2006)「乾燥と保湿のメカニズム」アンチ・エイジングシリーズ No.2 皮膚の抗老化最前線,62-75.
- ⌃ab鈴木 一成(2012)「乳酸セチル」化粧品成分用語事典2012,68.
- ⌃Ashland Inc.(2012)「Emollients」Ashland Care Specialties,11-13.
- ⌃abR.L. Elder(1990)「Final Report on the Safety Assessment of Cetyl lactate and Myristyl lactate」Journal of the American College of Toxicology(1)(2),97-107. DOI:10.3109/10915818209013150.