ワサビノキ種子油の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ワサビノキ種子油 |
---|---|
慣用名 | モリンガオイル、ベンオイル |
INCI名 | Moringa Oleifera Seed Oil |
配合目的 | エモリエント など |
1. 基本情報
1.1. 定義
ワサビノキ科植物ワサビノキ(学名:Moringa oleifera, syn. Moringa pterygosperma 英名:Moringa, Horse-radish tree, Drumstick tree, Ben oil tree)の種子から得られる脂肪油(植物油)です(∗1)[1]。
∗1 「syn」は同義語を意味する「synonym(シノニム)」の略称です。
1.2. 物性・性状
ワサビノキ種子油の物性・性状は(∗2)、
∗2 融点とは固体が液体になりはじめる温度のことです。またヨウ素価とは油脂を構成する脂肪酸の不飽和度を示すものであり、一般にヨウ素価が高いほど不飽和度が高い(二重結合の数が多い)ため、酸化を受けやすくなります。
状態 | 融点(℃) | ヨウ素価 |
---|---|---|
油状液体 | 18.9 | 66.5(不乾性油) |
このように報告されています[2a]。
1.3. 脂肪酸組成および不鹸化物
ワサビノキ種子油の脂肪酸組成は、一例として、
脂肪酸名 | 脂肪酸の種類 | 炭素数:二重結合数 | 比率(%) |
---|---|---|---|
パルミチン酸 | 飽和脂肪酸 | C16:0 | 5.4 |
ステアリン酸 | C18:0 | 4.1 | |
アラキジン酸 | C20:0 | 2.7 | |
ベヘン酸 | C22:0 | 5.7 | |
パルミトレイン酸 | 不飽和脂肪酸 | C16:1 | 1.4 |
オレイン酸 | C18:1 | 75.5 | |
リノール酸 | C18:2 | 0.6 | |
エイコセン酸 | C20:1 | 2.4 |
このような種類と比率で構成されていることが報告されており[3]、またワサビノキ種子油には不鹸化物(∗3)として、以下の表のように、
∗3 不鹸化物(不ケン化物)とは、脂質のうちアルカリで鹸化されない物質の総称です。水に不溶、エーテルに可溶な成分である炭化水素、高級アルコール、ステロール、色素、ビタミン、樹脂質などが主な不鹸化物であり、油脂においてはその含有量が特徴のひとつとなります。
不鹸化物 | 構成比 | ||
---|---|---|---|
トコフェロール | α-トコフェロール | 13.5 | 24.9(mg/100g) |
γ-トコフェロール | 5.6 | ||
δ-トコフェロール | 5.8 | ||
フィトステロール | β-シトステロール | 44.6% | |
カンペステロール | 14.5% |
このような種類で構成されていることが報告されています(∗4)[2b]。
∗4 トコフェロールおよびフィトステロールはワサビノキ種子油20種の平均値です。
ワサビノキ種子油は、抗酸化物質であるトコフェロールなどの含有量は多くないものの、不飽和脂肪酸であるオレイン酸を主成分とし、多価不飽和脂肪酸をほとんど含まないことから、総合的に自動酸化に対する安定性が高いといった特徴を有しています[4]。
1.4. 分布と歴史
ワサビノキ(モリンガ)は、インド北西部のヒマラヤ山麓を原産とし、現在ではインドをはじめアジア諸国、南洋諸島、アフリカ諸国、西インド諸島、中南米諸国の熱帯・亜熱帯地域に広く分布しており、その若葉や未熟な莢(さや)は、サラダ、お浸し、ピクルスなどの野菜料理として、その種子から搾油されたオイルはサラダ油や食油として地域の人々に広く利用されています[5a]。
中でもワサビノキの葉は、カルシウム、カリウム、鉄、ビタミンA(β-カロテン)、ビタミンCが豊富で、現地の栄養資源として重宝されているだけではなく、ガーナ、セネガル、バングラデシュなどでは乳児、幼児、妊産婦の栄養サプリメントとして利用する取り組みが進められており、経済的資源としても見いだされています[5b][6]。
2. 化粧品としての配合目的
- エモリエント効果
主にこれらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、クレンジング製品、ボディソープ製品、洗顔石鹸など様々な製品に使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. エモリエント効果
エモリエント効果に関しては、ワサビノキ種子油は閉塞性により皮膚の水分蒸発を抑え、その結果として皮膚に柔軟性や滑らかさを付与するエモリエント性を有していることから[7][8]、各種クリーム、メイクアップ製品、ヘアケア製品などに使用されています。
3. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2017年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗5)。
∗5 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
4. 安全性評価
- 10年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[9]によると、
- [ヒト試験] 214名の被検者に0.01%ワサビノキ種子油を含むクレンジングオイルの10%水溶液0.2mLを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、誘導期間において3名の被検者に疑わしい皮膚反応、1名の被検者に明瞭な紅斑が7回目のパッチテストで観察されたが、未処置部位で再試験したところ、皮膚反応は観察されなかった。これらの結果からこの試験製剤は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではないと結論づけられた(TKL Research,2010)
このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
4.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
5. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「ワサビノキ種子油」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,1102.
- ⌃abR. Banerji, et al(2009)「Oil and Fatty Acid Diversity in Genetically Variable Clones of Moringa oleifera from India」Journal of Oleo Science(58)(1),9-16. DOI:10.5650/jos.58.9.
- ⌃Ricardo Ayerza(h)(2019)「Seed characteristics, oil content and fatty acid composition of moringa (Moringa oleifera Lam.) seeds from three arid land locations in Ecuador」Industrial Crops and Products(140),111575. DOI:10.1016/j.indcrop.2019.111575.
- ⌃S. Athikomkulchai, et al(2021)「Moringa oleifera Seed Oil Formulation Physical Stability and Chemical Constituents for Enhancing Skin Hydration and Antioxidant Activity」Cosmetics(8),2. DOI:10.3390/cosmetics8010002.
- ⌃ab尾山 廣, 他(2016)「ワサビノキ(モリンガ)の種子・葉に含まれる有用成分とその多目的利用」熱帯農業研究(9)(2),41-51. DOI:10.11248/nettai.9.41.
- ⌃National Research Council(2006)「MORINGA」Lost Crops of Africa: Volume Ⅱ:Vegetables,247-268.
- ⌃AA Warra(2014)「A Review of Moringa Oleofera Lam Seed Oil Prospects in Personal Care Formulations」Research & Reviews: Journal of Pharmaceutics and Nanotechnology(2)(3),31-34.
- ⌃平尾 哲二(2006)「乾燥と保湿のメカニズム」アンチ・エイジングシリーズ No.2 皮膚の抗老化最前線,62-75.
- ⌃C.L. Burnett, et al(2017)「Safety Assessment of Plant-Derived Fatty Acid Oils」International Journal of Toxicology(36)(3_suppl),51S-129S. DOI:10.1177/1091581817740569.