チャ種子油の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | チャ種子油 |
---|---|
医薬部外品表示名 | チャ実油、茶油 |
部外品表示簡略名 | 茶実油 |
INCI名 | Camellia Sinensis Seed Oil |
配合目的 | エモリエント など |
1. 基本情報
1.1. 定義
ツバキ科植物チャノキ(学名:Camellia Sinensis 英名:Tea plant)の種子から得られる脂肪油(植物油)です[1]。
1.2. 物性・性状
チャ種子油の物性・性状は(∗1)、
∗1 融点とは固体が液体になりはじめる温度のことです。またヨウ素価とは油脂を構成する脂肪酸の不飽和度を示すものであり、一般にヨウ素価が高いほど不飽和度が高い(二重結合の数が多い)ため、酸化を受けやすくなります。
状態 | 融点(℃) | ヨウ素価 |
---|---|---|
油状液体 | -12 – -5 | 83-90(不乾性油) |
このように報告されています[2a]。
1.3. 脂肪酸組成および不鹸化物
チャ種子油の脂肪酸組成は、一例として、
脂肪酸名 | 脂肪酸の種類 | 炭素数:二重結合数 | 比率(%) |
---|---|---|---|
パルミチン酸 | 飽和脂肪酸 | C16:0 | 17.8 |
ステアリン酸 | C18:0 | 3.0 | |
オレイン酸 | 不飽和脂肪酸 | C18:1 | 59.9 |
リノール酸 | C18:2 | 18.0 |
このような種類と比率で構成されていることが報告されており[2b]、またチャ種子油には不鹸化物(∗2)として、以下の表のように、
∗2 不鹸化物(不ケン化物)とは、脂質のうちアルカリで鹸化されない物質の総称です。水に不溶、エーテルに可溶な成分である炭化水素、高級アルコール、ステロール、色素、ビタミン、樹脂質などが主な不鹸化物であり、油脂においてはその含有量が特徴のひとつとなります。
不鹸化物 | 構成比(mg/100g) | ||
---|---|---|---|
トコフェロール | α-トコフェロール | 13.4-36.1 | 13.4-36.1 |
フィトステロール | ラノステロール | 270.8 | 584.6 |
7-スチグマステロール | 178.2 | ||
その他 | 135.6 | ||
スクワレン | 63.2 |
このような種類で構成されていることが報告されています[3a]。
チャ種子油は、オレイン酸を主成分とし、リノール酸の含有量がやや多く、抗酸化物質であるトコフェロールの含有量が少ないものの、総合的に自動酸化に対する安定性が高いといった特徴を有しています[3b][4][5]。
1.4. 分布と歴史
チャノキ(茶の木)は、中国南西部を原産とし、中国では紀元前10世紀の周の時代に薬用として、紀元3世紀ごろに嗜好品として利用され、8世紀の唐の時代に栽培や製茶が普及したという歴史があります[6][7a]。
日本においては、奈良末期から平安時代初期に入唐した僧が持ち帰りましたが、僧侶や貴族の間で薬用的趣味として飲用されていたため、平安末期には廃絶に近い状態となっていた中で、鎌倉時代に栄西が宋より茶の種子と製茶法(∗3)を持ち帰り、各地に広めるとともに日本最古の茶書である「喫茶養生記」を著したことをきっかけに喫茶の風習や茶道が広まったことが現在の茶文化の根幹を成していると考えられています[7b]。
現在は、主に乾燥茶の緑茶が静岡県、鹿児島県を中心に栽培されています[8]。
∗3 栄西が持ち帰った製茶法は、現在の抹茶方式です。
2. 化粧品としての配合目的
- エモリエント効果
主にこれらの目的で、メイクアップ製品、化粧下地製品、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、マスク製品、クレンジング製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、ボディソープ製品、洗顔石鹸、ヘアスタイリング製品など様々な製品に使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. エモリエント効果
エモリエント効果に関しては、チャ種子油は皮膚親和性が高く、閉塞性により皮膚の水分蒸発を抑え、その結果として皮膚に柔軟性や滑らかさを付与するエモリエント性を有していることから[9][10]、各種クリーム、乳液、メイクアップ製品、ヘアケア製品などに使用されています。
3. 混合原料としての配合目的
チャ種子油は混合原料が開発されており、チャ種子油と以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | K-Oleo |
---|---|
構成成分 | ヒマシ油、ツバキ種子油、チャ種子油、ツバキ花エキス、ツバキ種子エキス |
特徴 | 毛髪や爪の損傷防止や修復効果を発揮する3種の混合植物油 |
4. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2017年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗4)。
∗4 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
5. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績(旧称「チャ実油」から換算)
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[11]によると、
- [ヒト試験] 108名の被検者に0.0985%チャ種子油を含むリップ製剤0.2gを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、この試験製剤は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Consumer Product Testing Co,2008)
- [ヒト試験] 108名の被検者に0.0985%チャ種子油を含むリップ製剤0.2gを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)をパッチにて実施したところ、この試験製剤は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Consumer Product Testing Co,2008)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
5.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
6. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「チャ種子油」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,645.
- ⌃ab鈴木 修, 他(1990)「油脂およびろうの性状と組成」油脂化学便覧 改訂3版,99-137.
- ⌃abW. Zeng & Y. Endo(2019)「Lipid Characteristics of Camellia Seed Oil」Journal of Oleo Science(68)(7),649-658. DOI:10.5650/jos.ess18234.
- ⌃K.O. George, et al(2013)「Extraction and analysis of tea (Camellia sinensis) seed oil from different clones in Kenya」 African Journal of Biotechnology(12)(8),841-846.
- ⌃A.Erre & Co(2014)「Camellia Oil」Technical Data Sheet.
- ⌃鈴木 洋(2011)「茶葉(ちゃよう)」カラー版 漢方のくすりの事典 第2版,319.
- ⌃ab杉田 浩一, 他(2017)「ちゃ類」新版 日本食品大事典,493-495.
- ⌃農林水産省(2021)「作況調査(水陸稲、麦類、豆類、かんしょ、飼料作物、工芸農作物)」, 2022年1月16日アクセス.
- ⌃鈴木 一成(2012)「茶油」化粧品成分用語事典2012,11.
- ⌃平尾 哲二(2006)「乾燥と保湿のメカニズム」アンチ・エイジングシリーズ No.2 皮膚の抗老化最前線,62-75.
- ⌃C.L. Burnett, et al(2017)「Safety Assessment of Plant-Derived Fatty Acid Oils」International Journal of Toxicology(36)(3_suppl),51S-129S. DOI:10.1177/1091581817740569.