リノレン酸の基本情報・配合目的・安全性

リノレン酸

化粧品表示名 リノレン酸
慣用名 α-リノレン酸
INCI名 Linolenic Acid
配合目的 エモリエント など

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表される、炭素数と二重結合の数が18:3で構成された不飽和脂肪酸高級脂肪酸です[1]

リノレン酸

リノレン酸には「α-リノレン酸」と「γ-リノレン酸」が存在しますが、化粧品表示名において「リノレン酸」はα-リノレン酸を指し、また一般においても「リノレン酸」はα-リノレン酸のことを指します。

1.2. 物性

リノレン酸の物性は、

融点(℃) 沸点(℃) 溶解性
-11 220-232(1mmHg) 水に不溶エタノールエーテルに可溶

このように報告されています[2][3a]

1.3. 分布

リノレン酸は、自然界において植物油にグリセリド(∗1)として存在し、とくにエゴマ油、シソ油、アマニ油などに多く存在しています[3b]

∗1 「グリセリド(glyceride)」とは、グリセリンと脂肪酸とのエステル化合物の総称であり、とりわけグリセリンに3つの脂肪酸が結合した「トリグリセリド(triglyceride)」が多くを占めますが、ほかにもグリセリンに1つの脂肪酸が結合した「モノグリセリド(monoglyceride)」やグリセリンに2つの脂肪酸が結合した「ジグリセリド(diglyceride)」もわずかながら存在します。グリセリンに結合する脂肪酸には多くの種類があり、油脂の種類によって脂肪酸の種類や割合が異なります。

また、動物の体脂肪中にも10%以下存在しています[3c]

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • エモリエント効果

主にこれらの目的で、スキンケア製品、ボディケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、マスク製品、クレンジング製品などに使用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. エモリエント効果

エモリエント効果に関しては、リノレン酸は皮膚親和性が高く、閉塞性により皮膚の水分蒸発を抑え、その結果として皮膚に柔軟性や滑らかさを付与するエモリエント性を有していることから[4][5]、各種クリーム、乳液、メイクアップ製品などに使用されています。

ただし、化学的に二重結合を3つもつ多価不飽和脂肪酸であり、自動酸化に対する安定性が低いため、トコフェロールに代表される酸化防止剤と一緒に使用されます。

3. 混合原料としての配合目的

リノレン酸は混合原料が開発されており、リノレン酸と以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。

原料名 ビタミンFオイルソルブル
構成成分 リノレン酸オレイン酸リノール酸パルミチン酸ステアリン酸BHT
特徴 皮脂の合成に必要不可欠なビタミンFとして知られる必須不飽和脂肪酸の脂溶性複合体
原料名 ビタミン コンセントレイト オイルソルブル
構成成分 ミリスチン酸イソプロピルリノール酸パルミチン酸レチノールヒマワリ種子油酢酸トコフェロールオレイン酸パルミチン酸リノレン酸ステアリン酸BHT
特徴 皮脂の合成に必要不可欠なビタミンFとして知られる必須不飽和脂肪酸の脂溶性複合体、ビタミンA誘導体、ビタミンE誘導体を含んだ油溶性マルチビタミン剤

4. 配合製品数および配合量範囲

実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2016-2019年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗2)

∗2 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

リノレン酸の配合製品数と配合量の比較調査結果(2016-2019年)

5. 安全性評価

リノレン酸の現時点での安全性は、

  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):弱感作を引き起こす可能性あり。ただしヒトでの感作症例はみあたらない

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

複数の皮膚感作性試験で弱い皮膚感作性物質であると示されていますが、化粧品だけでなく食用植物油での使用実績も長い中でヒトでの感作症例がみあたらず、実際的には問題ないとも考えられますが、現段階では試験結果と実際のヒト感作の相違が解決されておらず、さらなる試験データが必要とされています。

以下は、この結論にいたった根拠です。

5.1. 皮膚刺激性

20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般に皮膚刺激はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

5.2. 眼刺激性

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。

5.3. 皮膚感作性(アレルギー性)

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[6]によると、

  • [in vitro試験] 皮膚感作性試験代替法であるDPRA(Direct Peptide Reactivity Assay:ペプチド結合性試験)において、合成システインペプチドおよび合成リシンペプチドと99%リノレン酸を混合・反応させ、ペプチドの減少率から皮膚感作性を判定(反応率の平均が6.38%以上で陽性)したところ、23.1%(中程度の反応)を示し、この試験物質は陽性と判定された(Yamashita et al,2015)
  • [動物試験] LLNA:DAE(誘発相を含み、境界線陽性化学物質を識別する局所リンパ節試験)において、試験群マウスの右耳に5-50%リノレン酸を含むアセトン:オリーブ油混合液を1,2および3日目に塗布し、10日目に両耳に塗布、またコントロール群には10日目のみ左耳に99%リノール酸溶液の10%濃度を塗布した。どちらも12日目にリンパ節を摘出し、リンパ節重量を測定したところ、この試験物質は弱感作物質と結論付けられた(K. Yamashita et al,2015)

このように記載されており、試験データをみるかぎり、共通して弱-中程度の皮膚感作反応が報告されているため、皮膚感作を引き起こす可能性があると考えられます。

ただし、一方でリノレン酸は化粧品として20年以上にわたって数多くの製品に用いられてきただけでなく、食用植物油の構成成分として摂取されてきた中で、ヒトにおける皮膚感作症例報告が各種データベース(PubMed、TOXLINE、STN)にみあたらない事実があります[7]

試験データが皮膚感作を示している一方で、長年にわたって数多くの製品に用いられてきた中でヒトにおける皮膚感作症例の報告がないことが、皮膚感作リスクがないことを示しているかどうかは結論づけることができないため、さらなる試験データが必要です。

6. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「リノレン酸」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,1077.
  2. 大木 道則, 他(1989)「α-リノレン酸」化学大辞典,2473.
  3. abc有機合成化学協会(1985)「α-リノレン酸」有機化合物辞典,1082.
  4. 日光ケミカルズ株式会社(2016)「美白剤」パーソナルケアハンドブックⅠ,534-550.
  5. 平尾 哲二(2006)「乾燥と保湿のメカニズム」アンチ・エイジングシリーズ No.2 皮膚の抗老化最前線,62-75.
  6. C.L. Burnett(2019)「Safety Assessment of Fatty Acids & Fatty Acid Salts as Used in Cosmetics(∗3)」, 2022年1月27日アクセス.
    ∗3 PCPCのアカウントをもっていない場合はCIRをクリックし、表示されたページ中のアルファベットをどれかひとつクリックすれば、あとはアカウントなしでも上記レポートをクリックしてダウンロードが可能になります。
  7. R. Kreiling, et al(2008)「Comparison of the skin sensitizing potential of unsaturated compounds as assessed by the murine local lymph node assay (LLNA) and the guinea pig maximization test (GPMT)」Food and Chemical Toxicology(46)(6),1896-1904. DOI:10.1016/j.fct.2008.01.019.

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