ラノリンの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ラノリン |
---|---|
医薬部外品表示名 | ラノリン、吸着精製ラノリン |
INCI名 | Lanolin |
配合目的 | エモリエント、光沢、乳化安定化 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
ウシ科動物ヒツジ(学名:Ovis aries 英名:Sheep)の皮脂分泌物(羊毛脂:wool grease)を精製したロウです[1]。
医薬部外品表示名については、それぞれ、
医薬部外品表示名 | 本質 |
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ラノリン | ヒツジ(Ovis aries Linne´ (Bovidae))の毛から得た脂肪ようの物質を精製したもの |
吸着精製ラノリン | 活性白土を用いてラノリンより極性不純物を除去して得られる非極性のラノリンワックス |
このように分けられており、化粧品表示名としてはいずれも「ラノリン」と表示されます。
1.2. 物性・性状
ラノリンの物性・性状は(∗1)(∗2)、
∗1 融点とは固体が液体になりはじめる温度のことです。
∗2 屈折とは光の速度が変化して進行方向が変わる現象のことで、屈折率は「空気中の光の伝播速度/物質中の光の伝播速度」で表されます。光の伝播速度は物質により異なり、また同一の物質でも波長により異なるため屈折率も異なりますが、化粧品において重要なのは空気の屈折率を1とした場合の屈折率差が高い界面ほど反射率が大きいということであり、平滑性をもつ表面であれば光沢が高く、ツヤがでます(屈折率の例として水は1.33、エタノールは1.36、パラフィンは1.48)。
状態 | 融点(℃) | 屈折率(n 60/D) |
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軟膏様物質 | 37-43 | 1.475 |
1.3. 組成
ラノリンの組成は、一例として、
成分 | 含有比(%) |
---|---|
エステル | 90-96 |
遊離脂肪酸 | 微量 |
遊離アルコール | 3-5 |
炭化水素 | 1以下 |
このような種類と比率で構成されていることが報告されています[4a]。
ラノリンのロウエステルを構成する脂肪酸組成およびアルコール組成については、純粋な型で分別したり、含有されている構造のままで分別することが非常に困難であることが知られていますが、構造から分類すると、一例として以下の表のように、
脂肪酸の分類 | 炭素数範囲 | 含有比(%) | |
---|---|---|---|
直鎖脂肪酸 | 10-26 | 偶数のみ | 7-10 |
イソ脂肪酸 | 10-28 | 偶数(一部奇数) | 22-25 |
ヒドロキシ脂肪酸 | 12-18 | 偶数のみ | 28-33 |
アンテイソ脂肪酸 | 9-31 | 奇数のみ | 29-32 |
アルコールの種類 | アルコールの分類 | 炭素数範囲 | 含有比(%) |
---|---|---|---|
脂肪族 アルコール |
直鎖アルコール | 18-26 | 4.0 |
イソアルコール | 17-26 | 6.0 | |
アンテイソアルコール | 7.0 | ||
ジオール、直鎖およびイソ | 16-24 | 3.5 | |
ステロール | コレステロール | – | 20.0 |
その他 | 9.0 | ||
イソコレステロール | ラノステロール | – | 10.0 |
ジヒドロラノステロール | 10.0 | ||
その他 | 7.0 |
このような種類と比率で構成されていることが報告されています[5a][6a]。
イソ脂肪酸(C10-28)およびアンテイソ脂肪酸(C9-31)とステロールおよび高級アルコールのモノエステルが主成分であり[4b]、また脂肪酸のうちイソ脂肪酸およびアンテイソ脂肪酸で50%以上を占めるため、炭素数が多いわりに融点が低く、皮膚親和性が高いといった特徴を持っています[5b]。
1.4. 化粧品以外の主な用途
ラノリンの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
---|---|
医薬品 | 乳化、粘稠目的の医薬品添加剤として外用剤、眼科用剤などに用いられるほか[7]、吸着精製ラノリンが基剤目的の医薬品添加剤として外用剤に用いられています[8]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 抱水性エモリエント効果
- 光沢付与
- 乳化安定化
主にこれらの目的で、メイクアップ製品、化粧下地製品、スキンケア製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、ボディ&ハンドケア製品、洗顔料など様々な製品に使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 抱水性エモリエント効果
抱水性エモリエント効果に関しては、ラノリンはその脂肪酸の大部分が分岐鎖脂肪酸であり、コレステロールと脂肪族アルコールを含み、これらが複雑にエステルを成していることから、約2倍量の水を吸収する抱水性を示し、皮膚に対して親和性が高く、湿潤性を高めるとともに皮膚の水分蒸発を抑え、その結果として皮膚に柔軟性や滑らかさを付与するエモリエント性を有していることから[9][10][11]、リップ系製品をはじめとするメイクアップ製品、クリーム系製品、ヘアケア製品などに使用されています。
2.2. 光沢付与
光沢付与に関しては、ラノリンは高い光沢をもつことから、光沢やツヤを付与する目的で主にリップ系製品をはじめとするメイクアップ製品、クリーム製品、ヘアケア製品などに使用されています[12]。
2.3. 乳化安定化
乳化安定化に関しては、ラノリンはコレステロールエステル、コレステロール、脂肪族アルコールなどの相互作用によって約2倍量の水を吸収する抱水性を示し、乳化製品に用いた場合に乳化安定性を増強することから[6b]、乳化の安定性を高める目的でクリーム系製品、乳液、メイクアップ製品、ヘアケア製品などに使用されています。
3. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の1980年および2002-2003年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
4. 安全性評価
- 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
(ラノリンのみ) - 薬添規2018規格の基準を満たした成分が収載される医薬品添加物規格2018に収載
(吸着精製ラノリンのみ) - 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 40年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 皮膚感作性(皮膚炎を有する場合):まれに皮膚感作を引き起こす可能性あり
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
ただし、皮膚炎を有している場合は、まれに皮膚感作が報告されているため、注意が必要であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[13a][14][15]によると、
– 健常皮膚を有する場合 –
- [ヒト試験] 200名の被検者に100%ラノリンを対象にDraize法に基づいて週3回合計10回にわたってパッチ適用し、適用後にチャレンジパッチを適用したところ、この試験物質は皮膚感作の兆候を示さなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)
- [ヒト試験] 50名の被検者に100%ラノリンを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、この試験物質はいずれの被検者においても皮膚刺激および皮膚感作の兆候を示さなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)
– 皮膚炎を有する場合 –
- [ヒト試験] 化粧品皮膚炎、女子顔面黒皮症、その他湿疹、皮膚炎患者430例にラノリンおよびその誘導体をパッチテストしたところ、接触アレルギー反応率はラノリンアルコールが最も高く、+以上6.8%、++以上2.3%であった。100%および30%吸着精製ラノリンにおいては72時間後で++以上の明らかなアレルギー反応は430例中0であり、精製ラノリンより安全であることを確認した(ラノリンパッチテスト研究班,1985)
- [ヒト試験] 1982年から1991年までの10年間に皮膚科を受診した患者のうち香粧品または外用薬による接触皮膚炎の疑いのある4,839例を対象にICDRG(International Contact Dermatitis Research Group:国際接触皮膚炎研究グループ)の基準に基づいて30%ラノリンアルコール、ラノリン(局方精製ラノリン)、水素添加ラノリン(還元ラノリン)の3種類を対象にパッチテストを実施したところ、平均陽性率はラノリンアルコールが99名(2.0%)、ラノリンが28名(0.6%)、還元ラノリンが79名(1.7%)であり、陽性者のうち26.8%がアトピー性皮膚炎患者であった。ラノリン陽性者のうち80.5%が多感作例で、そのうち41.6%が香料成分に陽性であった(大阪回生病院皮膚科,1994)
このように記載されており、試験データをみるかぎり健常な皮膚を有する場合においては共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
皮膚炎を有する場合においては、試験データをみるかぎりラノリン(精製ラノリン)においてはまれに皮膚感作が認められますが、吸着精製ラノリン(ラノリン中の極性物質、とくに遊離のアルコールを除去したもの)においては皮膚感作反応なしと報告されているため、一般に皮膚感作性は吸着精製ラノリンにおいてほとんどなく、ラノリンにおいてはまれに皮膚感作を引き起こす可能性があると考えられます。
4.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[13b]によると、
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に100%ラノリンを適用し、適用後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質は眼刺激剤ではなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)
- [動物試験] 9匹のウサギの片眼に100%ラノリンを適用し、適用後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質は軽度の眼刺激剤に分類された(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)
- [動物試験] 9匹のウサギの片眼に100%ラノリンを適用し、適用後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質は眼刺激剤ではなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)
- [動物試験] 9匹のウサギの片眼に100%ラノリンを適用し、適用後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質は軽度の眼刺激剤に分類された(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して非刺激-軽度の眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-軽度の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
5. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「ラノリン」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,1064.
- ⌃日光ケミカルズ株式会社(2016)「ロウ類」パーソナルケアハンドブックⅠ,20-24.
- ⌃広田 博(1970)「ロウ類」化粧品のための油脂・界面活性剤,15-26.
- ⌃ab小林 進(2007)「天然ロウの現状と化粧品原料としての新たな展開」Fragrance Journal臨時増刊(20),47-54.
- ⌃ab広田 博(1970)「ロウ類」化粧品のための油脂・界面活性剤,15-26.
- ⌃ab広田 博(1970)「ラノリン脂肪酸」化粧品のための油脂・界面活性剤,43-45.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「精製ラノリン」医薬品添加物事典2021,342-344.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「吸着精製ラノリン」医薬品添加物事典2021,170-171.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「ロウ類」香粧品科学 理論と実際 第4版,100-107.
- ⌃大石 孔(1983)「動物系ワックス」ワックスの性質と応用,32-47.
- ⌃平尾 哲二(2006)「乾燥と保湿のメカニズム」アンチ・エイジングシリーズ No.2 皮膚の抗老化最前線,62-75.
- ⌃小林 進(2007)「天然ロウの現状と化粧品原料としての新たな展開」Fragrance Journal臨時増刊(20),47-54.
- ⌃abR.L. Elder(1980)「Final report on the safety assessment for acetylated lanolin alcohol and related compounds(∗3)」Journal of environmental pathology and toxicology(4)(4),63-92.
∗3 PCPCのアカウントをもっていない場合はCIRをクリックし、表示されたページ中のアルファベットをどれかひとつクリックすれば、あとはアカウントなしでも上記レポートをクリックしてダウンロードが可能になります。 - ⌃加藤 順子, 他(1994)「ラノリンによる接触アレルギー」皮膚(36)(2),115-124. DOI:10.11340/skinresearch1959.36.115.
- ⌃ラノリンパッチテスト研究班(1985)「パッチテストによるラノリンおよびラノリン誘導体の安全性の比較検討」西日本皮膚科(47)(5),864-873. DOI:10.2336/nishinihonhifu.47.864.