馬油の基本情報・配合目的・安全性

馬油

化粧品表示名 馬油
医薬部外品表示名 馬油
INCI名 Horse Fat
配合目的 エモリエント基剤 など

1. 基本情報

1.1. 定義

ウマ科動物ウマ(学名:Equus caballus, syn. Equus ferus caballus 英名:Horse)のたてがみおよび尾の基部あるいは皮下脂肪層から得られる脂肪油(動物油脂)です(∗1)[1]

∗1 「syn」は同義語を意味する「synonym(シノニム)」の略称です。

1.2. 読み方

馬油の名称および読み方の由来については、1971年に日本で最初に食用油として馬油が商品化された際に、現在の薬師堂の創設者である直江 昶によって「馬油(ばぁゆ)」という商品名がつけられたことから、この名称が原料名の固有名詞として広がったと考えられています[2][3]

また、化粧品においては、1988年に化粧品原料として厚生省(現 厚生労働省)に許可された際に、規制の関係で食用油として登録商標を取得していた「馬油(ばぁゆ)」の名称が化粧品には使えず、化粧品においては尊い馬油という意味をこめて「尊馬油(ソンバーユ)」という商品名がつけられたことや、2001年には世界共通の化粧品原料として「ソンバーユ」が承認されたことなどから[4]、化粧品成分としては「ばぁゆ」または「バーユ」と読みます。

1.3. 物性・性状

馬油の物性・性状は(∗2)

∗2 融点とは固体が液体になりはじめる温度のことです。またヨウ素価とは油脂を構成する脂肪酸の不飽和度を示すものであり、一般にヨウ素価が高いほど不飽和度が高い(二重結合の数が多い)ため、酸化を受けやすくなります。

状態 融点(℃) ヨウ素価
油状液体-固体 30-35 65-95(不乾性油)

このように報告されています[5a]

たてがみから得られる脂肪油はパルミトレイン酸の含有量が多く、パルミトレイン酸の多い馬油は常温で流動性のあるバター状を呈します[6a]

1.4. 脂肪酸組成および不鹸化物

馬油の脂肪酸組成は、一例として、

脂肪酸名 脂肪酸の種類 炭素数:二重結合数 比率(%)
ミリスチン酸 飽和脂肪酸 C14:0 3.9
パルミチン酸 C16:0 24.5
ステアリン酸 C18:0 2.7
パルミトレイン酸 不飽和脂肪酸 C16:1 9.4
オレイン酸 C18:1 36.9
リノール酸 C18:2 17.3
リノレン酸 C18:3 2.1

このような種類と比率で構成されていることが報告されており[5b]、また馬油には不鹸化物(∗3)として、以下の表のように、

∗3 不鹸化物(不ケン化物)とは、脂質のうちアルカリで鹸化されない物質の総称です。水に不溶、エーテルに可溶な成分である炭化水素、高級アルコール、ステロール、色素、ビタミン、樹脂質などが主な不鹸化物であり、油脂においてはその含有量が特徴のひとつとなります。

不鹸化物 構成比
トコフェロール α-トコフェロール 95.6% 2.5-3.6
(mg/100g)
β-トコフェロール 0.1%
γ-トコフェロール 3.6%
δ-トコフェロール 0.7%

このような種類で構成されていることが報告されています[7]

馬油は、オレイン酸を主成分とし、パルミトレイン酸および多価不飽和脂肪酸であるリノール酸とα-リノレン酸の含有量がやや多いといった特徴を有しています。

多価不飽和脂肪酸の含有量が多く、抗酸化物質であるトコフェロールなどの含有量が少ないことなどから、総合的に自動酸化に対する安定性は低いと報告されています[8]

ただし、化粧品においてはトコフェロールに代表される酸化防止剤を添加することで酸化安定性が大幅に向上するため、一般にトコフェロールなどの酸化防止剤やトコフェロールの含有量の多い植物油脂と一緒に使用されます。

1.5. 歴史

馬油は、主に食用の肉を解体する際に腹や首の部位から採取され、中国においては16世紀に著された薬学書である「本草綱目」に皮膚病の治療や筋肉の痙攣の緩和などの効能が記載されていることもあり[9]、古くから皮膚治療の民間外用薬に用いられてきた歴史がうかがえます。

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • エモリエント効果
  • 油性基剤

主にこれらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ製品、マスク製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、ボディソープ製品、クレンジング製品、洗顔料、洗顔石鹸、ネイル製品など様々な製品に使用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. エモリエント効果

エモリエント効果に関しては、馬油はヒト脂肪酸組成と類似した構成であり、皮膚親和性が高く、閉塞性により皮膚の水分蒸発を抑え、その結果として皮膚に柔軟性や滑らかさを付与するエモリエント性を有していることから[6b][10]、各種クリーム、メイクアップ製品、ヘアケア製品、ネイル製品などに使用されています。

2.2. 油性基剤

油性基剤に関しては、馬油はヒト脂肪酸組成と類似した構成であり、皮膚浸透性が高く油性感を残さない上に皮膚保護効果に優れることから、油性基剤としてオイル製品を中心に使用されています[6c][5c]

3. 安全性評価

馬油の現時点での安全性は、

  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

3.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

医薬部外品原料規格2021に収載されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

3.2. 眼刺激性

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。

4. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「馬油」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,770.
  2. 直江 昶(1989)「馬油って何だ?」馬油と梅雲丹の研究,11-22.
  3. “馬油と梅雲丹の薬師堂”(-)「馬油の歴史」, 2022年1月22日アクセス.
  4. “馬油と梅雲丹の薬師堂”(-)「日本でも世界でもはじめて」, 2022年1月22日アクセス.
  5. abc直江 総一郎 (2001)「馬油について」aromatopia(10)(4),57-59.
  6. abc広田 博(1997)「動物性油脂」化粧品用油脂の科学,31-35.
  7. 兼松 弘, 他(1983)「食用陸産動物脂中のトコフェロールについて」油化学(32)(1),51-53. DOI:10.5650/jos1956.32.51.
  8. 直江 昶(1989)「馬油の成分と特殊性質」馬油と梅雲丹の研究,22-28.
  9. 李 時珍(1931)「馬」新註校定 国訳本草綱目<第12冊>,137-154.
  10. 平尾 哲二(2006)「乾燥と保湿のメカニズム」アンチ・エイジングシリーズ No.2 皮膚の抗老化最前線,62-75.

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