ヨーロッパキイチゴ種子油の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ヨーロッパキイチゴ種子油 |
---|---|
慣用名 | ラズベリーオイル |
INCI名 | Rubus Idaeus (Raspberry) Seed Oil |
配合目的 | エモリエント など |
1. 基本情報
1.1. 定義
バラ科植物ヨーロッパキイチゴ(学名:Rubus idaeus 英名:European Raspberry, Red raspberry)の種子から得られる脂肪油(植物油脂)です[1a]。
1.2. 物性・性状
ヨーロッパキイチゴ種子油の物性・性状は(∗1)、
∗1 融点とは固体が液体になりはじめる温度のことです。またヨウ素価とは油脂を構成する脂肪酸の不飽和度を示すものであり、一般にヨウ素価が高いほど不飽和度が高い(二重結合の数が多い)ため、酸化を受けやすくなります。
状態 | 融点(℃) | ヨウ素価 |
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油状液体 | – | 154-195(乾性油) |
1.3. 脂肪酸組成および不鹸化物
ヨーロッパキイチゴ種子油の脂肪酸組成は、一例として、
脂肪酸名 | 脂肪酸の種類 | 炭素数:二重結合数 | 比率(%) |
---|---|---|---|
パルミチン酸 | 飽和脂肪酸 | C16:0 | 4.19 |
ステアリン酸 | C18:0 | 1.19 | |
オレイン酸 | 不飽和脂肪酸 | C18:1 | 11.7 |
リノール酸 | C18:2 | 49.0 | |
リノレン酸 | C18:3 | 33.0 |
このような種類と比率で構成されていることが報告されており[4a]、またヨーロッパキイチゴ種子油には不鹸化物(∗2)として、以下の表のように、
∗2 不鹸化物(不ケン化物)とは、脂質のうちアルカリで鹸化されない物質の総称です。水に不溶、エーテルに可溶な成分である炭化水素、高級アルコール、ステロール、色素、ビタミン、樹脂質などが主な不鹸化物であり、油脂においてはその含有量が特徴のひとつとなります。
不鹸化物 | 構成比(mg/100g) | ||
---|---|---|---|
トコフェロール | α-トコフェロール | 65.6 | 295.1 |
β-トコフェロール | 3.8 | ||
γ-トコフェロール | 193.6 | ||
δ-トコフェロール | 32.1 | ||
トコトリエノール | α-トコトリエノール | 1.8 | 6.7 |
γ-トコトリエノール | 4.2 | ||
δ-トコトリエノール | 0.7 | ||
フィトステロール | シトステロール | 334.2 | 538.4 |
カンペステロール | 25.5 | ||
その他 | 178.7 |
このような種類で構成されていることが報告されています[4b]。
ヨーロッパキイチゴ種子油は、多価不飽和脂肪酸であるリノール酸を主成分としα-リノレン酸の含有量がやや多いといった脂肪酸組成を有していながら、抗酸化物質であるトコフェロールの含有量が高いこともあり、総合的に自動酸化に対する安定性がやや高いといった特徴を有していると考えられます[3b][4c][5]。
1.4. 分布と歴史
ヨーロッパキイチゴ(ヨーロッパ木苺)は、小アジアを原産とし、紀元前4世紀に古代ローマ人がその発見をきっかけに栽培をはじめ、古代ローマ人がヨーロッパ各地およびブリテン島を制服した際にヨーロッパキイチゴを持ち込んだことをきっかけに中世以降ヨーロッパ各地で栽培になり、1700年代後期にヨーロッパキイチゴの栽培品種が北アメリカの植民地に伝わったという経緯があります[6]。
ヨーロッパキイチゴは、生食とすることもできますが、酸味が強く腐敗しやすいため、主に加工用途としてジャム、ジュース、ソース、ゼリー、ヨーグルト、パイなど飲料や製菓などに用いられています[7]。
2. 化粧品としての配合目的
- エモリエント効果
主にこれらの目的で、メイクアップ製品、化粧下地製品、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、日焼け止め製品、アウトバストリートメント製品、クレンジング製品、洗顔料など様々な製品に使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. エモリエント効果
エモリエント効果に関しては、ヨーロッパキイチゴ種子油は皮膚親和性が高く、閉塞性により皮膚の水分蒸発を抑え、その結果として皮膚に柔軟性や滑らかさを付与するエモリエント性を有していることから[1b][8][9]、メイクアップ製品、各種クリーム、ヘアケア製品などに使用されています。
3. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2017年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗3)。
∗3 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
4. 安全性評価
- 10年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[3c]によると、
- [ヒト試験] 102名の被検者に5%ヨーロッパキイチゴ種子油を含むフェイス・ネックケア製品を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、この製品は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Personal Care Products Council,2010)
このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
4.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
5. 参考文献
- ⌃ab日本化粧品工業連合会(2013)「ヨーロッパキイチゴ種子油」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,1014.
- ⌃D. Firestone(2013)「Raspberry Seed Oil」Physical and Chemical Characteristics of Oils, Fats, and Waxes Third Edition,179.
- ⌃abcC.L. Burnett, et al(2017)「Safety Assessment of Plant-Derived Fatty Acid Oils」International Journal of Toxicology(36)(3_suppl),51S-129S. DOI:10.1177/1091581817740569.
- ⌃abcM. Pieszka, et al(2015)「Native Oils from Apple, Blackcurrant, Raspberry, and Strawberry Seeds as a Source of Polyenoic Fatty Acids, Tocochromanols, and Phytosterols: A Health Implication」Journal of Chemistry,659541. DOI:10.1155/2015/659541.
- ⌃B.D. Oomah, et al(2000)「Characteristics of raspberry (Rubus idaeus L.) seed oil」Food Chemistry(69)(2),187-193. DOI:10.1016/S0308-8146(99)00260-5.
- ⌃レベッカ ジョンソン, 他(2014)「ラズベリーリーフ」メディカルハーブ事典,301-303.
- ⌃小松 春喜(2008)「ラズベリー」果実の事典,243-245.
- ⌃A. Ispiryan, et al(2021)「Red Raspberry (Rubus idaeus L.) Seed Oil: A Review」Plants(10)(5),944. DOI:10.3390/plants10050944.
- ⌃平尾 哲二(2006)「乾燥と保湿のメカニズム」アンチ・エイジングシリーズ No.2 皮膚の抗老化最前線,62-75.