アストロカリウムムルムル種子脂の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | アストロカリウムムルムル種子脂 |
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慣用名 | ムルムルバター |
INCI名 | Astrocaryum Murumuru Seed Butter |
配合目的 | エモリエント など |
1. 基本情報
1.1. 定義
ヤシ科植物ムルムル(学名:Astrocaryum Murumuru)の種子から得られる脂肪(植物脂)です[1a]。
1.2. 物性・性状
アストロカリウムムルムル種子脂の物性・性状は(∗1)、
∗1 融点とは固体が液体になりはじめる温度のことです。またヨウ素価とは油脂を構成する脂肪酸の不飽和度を示すものであり、一般にヨウ素価が高いほど不飽和度が高い(二重結合の数が多い)ため、酸化を受けやすくなります。
状態 | 融点(℃) | ヨウ素価 |
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固体 | 32-36 | 6-16(不乾性油) |
1.3. 脂肪酸組成
アストロカリウムムルムル種子脂の脂肪酸組成は、一例として、
脂肪酸名 | 脂肪酸の種類 | 炭素数:二重結合数 | 比率(%) |
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ラウリン酸 | 飽和脂肪酸 | C12:0 | 47.1 |
ミリスチン酸 | C14:0 | 29.9 | |
パルミチン酸 | C16:0 | 7.7 | |
ステアリン酸 | C18:0 | 3.6 | |
アラキジン酸 | C20:0 | 0.3 | |
オレイン酸 | 不飽和脂肪酸 | C18:1 | 8.5 |
リノール酸 | C18:2 | 3.0 |
このような種類と比率で構成されていることが報告されており[3b]、ラウリン酸とミリスチン酸を主成分とし90%以上を飽和脂肪酸とした構成であることから、油脂の中では自動酸化に対する安定性は非常に高いといったヤシ油と類似した特徴を有していると考えられます。
1.4. 分布と歴史
ヤシの一種であるムルムルは、ペルー、ベネズエラ、ギアナおよびアマゾン地方全域に自生し、その果肉は黄色でメロンに似た香りと味があり、生であるいは加熱して食され、またムルムルの種子油であるムルムルバターは古くから食用油として用いられてきた歴史があります[4][5a]。
2. 化粧品としての配合目的
- エモリエント効果
主にこれらの目的で、リップ系化粧品、メイクアップ製品、ボディ&ハンドケア製品、スキンケア製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、ボディソープ製品、クレンジング製品、ヘアスタイリング製品など様々な製品に使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. エモリエント効果
エモリエント効果に関しては、アストロカリウムムルムル種子脂は液体になり始める温度が約33℃であり、肌の表面温度で容易に溶け、閉塞性により皮膚の水分蒸発を抑え、その結果として皮膚に柔軟性、ツヤおよび滑らかさを付与するエモリエント性を有していることから[1b][5b][6]、口紅、リップグロス、クリーム系製品、メイクアップ製品、ヘアケア製品などを中心に使用されています。
3. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2017年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗2)。
∗2 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
4. 安全性評価
- 15年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:濃度4%以下においてほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[7]によると、
- [ヒト試験] 97名の被検者に1%アストロカリウムムルムル種子脂を含むリップ製剤150mgを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を半閉塞パッチにて実施したところ、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Product Investigations Inc,2002)
- [ヒト試験] 108名の被検者に4%アストロカリウムムルムル種子脂を含むリップ製剤を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Clinical Research Laboratories,2008)
- [ヒト試験] 106名の被検者に4%アストロカリウムムルムル種子脂を含むリップ製剤を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Clinical Research Laboratories,2008)
このように記載されており、試験データをみるかぎり濃度4%以下において共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に濃度4%以下において皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
4.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
5. 参考文献
- ⌃ab日本化粧品工業連合会(2013)「アストロカリウムムルムル種子脂」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,129.
- ⌃鈴木 修, 他(1990)「油脂およびろうの性状と組成」油脂化学便覧 改訂3版,99-137.
- ⌃ab香栄興業株式会社(2005)「精製ムルムルバター」Fragrance Journal(33)(2),117.
- ⌃橋本 梧郎(1978)「ムルムルー」ブラジルの果実,617-618.
- ⌃ab一ノ原 初弥(2007)「機能性植物油剤の化粧品への応用」Fragrance Journal臨時増刊(20),76-83.
- ⌃平尾 哲二(2006)「乾燥と保湿のメカニズム」アンチ・エイジングシリーズ No.2 皮膚の抗老化最前線,62-75.
- ⌃C.L. Burnett, et al(2017)「Safety Assessment of Plant-Derived Fatty Acid Oils」International Journal of Toxicology(36)(3_suppl),51S-129S. DOI:10.1177/1091581817740569.