アフリカマンゴノキ核脂の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | アフリカマンゴノキ核脂 |
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慣用名 | アフリカマンゴーバター |
INCI名 | Irvingia Gabonensis Kernel Butter |
配合目的 | エモリエント など |
1. 基本情報
1.1. 定義
ニガキ科植物アフリカマンゴノキ(学名:Irvingia gabonensis 英名:wild mango, dika)の種子から得られる脂肪(植物脂)です[1a]。
1.2. 物性・性状
アフリカマンゴノキ核脂の物性・性状は(∗1)、
∗1 融点とは固体が液体になりはじめる温度のことです。またヨウ素価とは油脂を構成する脂肪酸の不飽和度を示すものであり、一般にヨウ素価が高いほど不飽和度が高い(二重結合の数が多い)ため、酸化を受けやすくなります。
状態 | 融点(℃) | ヨウ素価 |
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固体 | 39-40 | 3.5-4.2(不乾性油) |
このように報告されています[2a]。
1.3. 脂肪酸組成
アフリカマンゴノキ核脂の脂肪酸組成は、一例として、
脂肪酸名 | 脂肪酸の種類 | 炭素数:二重結合数 | 比率(%) |
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ラウリン酸 | 飽和脂肪酸 | C12:0 | 35.0-51.1 |
ミリスチン酸 | C14:0 | 36.8-58.0 | |
パルミチン酸 | C16:0 | 3.9-5.0 | |
ステアリン酸 | C18:0 | 0.4-0.7 | |
オレイン酸 | 不飽和脂肪酸 | C18:1 | 0.6-2.7 |
リノール酸 | C18:2 | 0.6 | |
リノレン酸 | C18:3 | 1.3 |
このような種類と比率で構成されていることが報告されており[3a]、ラウリン酸とミリスチン酸を主成分とした構成であることから、自動酸化に対する安定性に優れるといった特徴を有しています[2b]。
1.4. 分布と歴史
アフリカマンゴノキは、中央アフリカから西アフリカ(アンゴラ北端からセネガルまで)の湿地帯に自生し、その種子は「ディカナッツ(dika nats)」とよばれ、これらの地域の代表的な料理のひとつである「オグボノスープ(ogbono soup)」にとろみや風味をつける必要不可欠な調味料として用いられています(∗2)[4a]。
∗2 果実はゼリー、ジャム、ジュースなどに加工されますが、種子と比較すると資源としての重要度は低いようです。
また、この種子から得られる油脂はこれらの地域を支える貴重な財源となっており、現在は野生種に頼っているものの、商業栽培化による輸出の拡大に向けての取り組みが始まっています[4b]。
2. 化粧品としての配合目的
- エモリエント効果
主にこれらの目的で、リップ系化粧品、ハンドケア製品、スキンケア製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、ボディソープ製品などに使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. エモリエント効果
エモリエント効果に関しては、アフリカマンゴノキ核脂は閉塞性により皮膚の水分蒸発を抑え、その結果として皮膚に柔軟性や滑らかさを付与するエモリエント性を有していることから[1b][5]、口紅、リップグロス、クリーム系製品、ヘアケア製品などを中心に使用されています。
3. 混合原料としての配合目的
アフリカマンゴノキ核脂は混合原料が開発されており、アフリカマンゴノキ核脂と以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | Irwinol LS 9890 |
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構成成分 | オクチルドデカノール、アフリカマンゴノキ核脂、水添ココグリセリル |
特徴 | 持続性のある保湿作用と皮膚柔軟作用を発揮するワイルドマンゴー由来ワックス |
4. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2017年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗3)。
∗3 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
5. 安全性評価
- 15年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[3b]によると、
- [ヒト試験] 52名の被検者に0.31%アフリカマンゴノキ核脂を含むフェイシャルおよびネック製品を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を半閉塞パッチにて実施したところ、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Personal Care Products Council,2010)
このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
5.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
6. 参考文献
- ⌃ab日本化粧品工業連合会(2013)「アフリカマンゴノキ核脂」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,145.
- ⌃abJ.K. Joseph(1995)「Physico-chemical attributes of wild mango (Irvingia gabonensis) seeds」Bioresource Technology(53)(2),179-181. DOI:10.1016/0960-8524(95)00044-F.
- ⌃abC.L. Burnett(2017)「Safety Assessment of Plant-Derived Fatty Acid Oils」International Journal of Toxicology(36)(3_suppl),51S-129S. DOI:10.1177/1091581817740569.
- ⌃National Research Council(2006)「DIKA」Lost Crops of Africa: Volume Ⅱ:Vegetables,119-136.
- ⌃平尾 哲二(2006)「乾燥と保湿のメカニズム」アンチ・エイジングシリーズ No.2 皮膚の抗老化最前線,62-75.