マンゴー種子脂の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | マンゴー種子脂 |
---|---|
慣用名 | マンゴーバター |
INCI名 | Mangifera Indica (Mango) Seed Butter |
配合目的 | エモリエント など |
1. 基本情報
1.1. 定義
ウルシ科植物マンゴー(学名:Mangifera indica 英名:Mango)の種子から得られる脂肪(植物脂)です[1a]。
1.2. 物性・性状
マンゴー種子脂の物性・性状は(∗1)、
∗1 融点とは固体が液体になりはじめる温度のことです。またヨウ素価とは油脂を構成する脂肪酸の不飽和度を示すものであり、一般にヨウ素価が高いほど不飽和度が高い(二重結合の数が多い)ため、酸化を受けやすくなります。
状態 | 融点(℃) | ヨウ素価 |
---|---|---|
半固体 | 25-38 | 50-70(不乾性油) |
このように報告されています[2a]。
1.3. 脂肪酸組成および不鹸化物
マンゴー種子脂の脂肪酸組成は、一例として、
脂肪酸名 | 脂肪酸の種類 | 炭素数:二重結合数 | 比率(%) |
---|---|---|---|
パルミチン酸 | 飽和脂肪酸 | C16:0 | 2-18 |
ステアリン酸 | C18:0 | 35-47 | |
アラキジン酸 | C20:0 | 1-7 | |
オレイン酸 | 不飽和脂肪酸 | C18:1 | 34-48 |
リノール酸 | C18:2 | 2-9 |
このような種類と比率で構成されていることが報告されており[2b]、ステアリン酸およびオレイン酸を主成分としていることから、酸化安定性に優れるといった特徴を有していると考えられます。
また、マンゴー種子脂構成成分のうち6%以下が不鹸化物(∗2)であり、不鹸化物の種類は、
∗2 不鹸化物(不ケン化物)とは、脂質のうちアルカリで鹸化されない物質の総称です。水に不溶、エーテルに可溶な成分である炭化水素、高級アルコール、ステロール、色素、ビタミン、樹脂質などが主な不鹸化物であり、油脂においてはその含有量が特徴のひとつとなります。
不鹸化物 | 構成比(%) |
---|---|
トリテルペン | – |
トコフェロール | – |
フィトステロール | – |
このような種類で構成されていることが報告されています[2c]。
1.4. 分布と歴史
マンゴーは、ミャンマーとインドの国境地帯を原産とし、5000年以上前からインドで栽培されており、14-15世紀にアフリカ東岸に、16世紀にはペルシア湾岸島やアゾレス島に、1905年にはイタリアに、19世紀半ばに米国に伝わり、現在は世界最大の産地であるインドを中心に中南米、アフリカ、インドネシア、中国など熱帯や亜熱帯地域で多く生産され、生で食されるほか加工品として飲料、ジャム、ゼリー、プリン、ソース、ドライマンゴーなどの加工品として普及しています[3a][4][5]。
日本においては、19世紀末までに台湾から沖縄に伝えられたと考えられており、その後鹿児島県や宮崎県など南九州でハウス栽培が行われるようになった経緯があり、現在は沖縄県の生産量が最も多く、そのほか宮崎県、鹿児島県で生産されています[3b][6]。
2. 化粧品としての配合目的
- エモリエント効果
主にこれらの目的で、リップ系化粧品、メイクアップ製品、ボディ&ハンドケア製品、スキンケア製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、ボディソープ製品、クレンジング製品、ヘアスタイリング製品など様々な製品に使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. エモリエント効果
エモリエント効果に関しては、マンゴー種子脂は液体になり始める温度が25-38℃であり、常温または皮膚の表面温度で容易に溶け、閉塞性により皮膚の水分蒸発を抑え、その結果として皮膚に柔軟性や滑らかさを付与するエモリエント性を有していることから[1b][7][8]、口紅、リップグロス、クリーム系製品、メイクアップ製品、ヘアケア製品などを中心に使用されています。
3. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2017年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗2)。
∗2 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
4. 安全性評価
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:濃度9%以下においてほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[9]によると、
- [ヒト試験] 100名の被検者に1%マンゴー種子脂を含むフェイシャルローション200mgを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を半閉塞パッチにて実施したところ、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Product Investigations Inc,2009)
- [ヒト試験] 102名の被検者に9%マンゴー種子脂を含むボディケア製品0.2gを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を半閉塞パッチにて実施したところ、この試験物質は皮膚感作剤ではなかった(TKL Research,2001)
このように記載されており、試験データをみるかぎり濃度9%以下において共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に濃度9%以下において皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
4.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
5. 参考文献
- ⌃ab日本化粧品工業連合会(2013)「マンゴー種子脂」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,949.
- ⌃abc日光ケミカルズ株式会社(2016)「油脂」パーソナルケアハンドブックⅠ,1-19.
- ⌃ab山下 研介(2008)「マンゴー」果実の事典,443-451.
- ⌃中央果実協会(2021)「マンゴー」世界の主要果実の生産概況2020年版,37-38.
- ⌃杉田 浩一, 他(2017)「マンゴー」新版 日本食品大事典,760-761.
- ⌃農林水産省(2021)「特産果樹生産動態等調査」,2021年12月30日アクセス.
- ⌃鈴木 一成(2012)「マンゴバター」化粧品成分用語事典2012,17.
- ⌃平尾 哲二(2006)「乾燥と保湿のメカニズム」アンチ・エイジングシリーズ No.2 皮膚の抗老化最前線,62-75.
- ⌃C.L. Burnett(2017)「Safety Assessment of Plant-Derived Fatty Acid Oils」International Journal of Toxicology(36)(3_suppl),51S-129S. DOI:10.1177/1091581817740569.