ダイズステロールとは…成分効果と毒性を解説

エモリエント成分 安定化成分
ダイズステロール
[化粧品成分表示名称]
・ダイズステロール

[医薬部外品表示名称]
・フィトステロール

ダイズ油の不鹸化物(∗1)から得られる植物ステロール(∗2)の混合物であり、化学構造的にステロイド環(シクロペンタノヒドロフェナントレン環)の3位にヒドロキシ基(水酸基:-OH)を有した環状アルコールです(文献3:1997)

∗1 不鹸化物(不ケン化物)とは、脂質のうちアルカリで鹸化されない物質の総称です。水に不溶、エーテルに可溶な成分である炭化水素、高級アルコール、ステロール、色素、ビタミン、樹脂質などが主な不鹸化物であり、油脂においてはその含有量が特徴のひとつとなります。

∗2 環状アルコールの主なものをステロール(sterol)と総称し、動物に含まれているステロールは動物ステロールと称され、主な動物ステロールとしてコレステロールがあります。また、植物に含まれているステロールはフィトステロール(植物ステロール)と称されます。

化粧品成分表示名称においてダイズステロールはフィトステロールズと同一の成分です。

ダイズステロールは単一の化合物ではなく、主に、

混合物 割合(%)
シトステロール 50
スチグマステロール 35
カンペステロール 15

これら3種類のステロールから成る混合物です(文献3:1997;文献4:1970)

同じステロールの一種であるコレステロールとは、化学構造が類似しているだけでなく、溶解性、乳化作用、皮膚に対する作用なども類似しており(文献4:1970)、また植物由来であることから、コレステロールの代用として使用される傾向にあります。

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、スキンケア化粧品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ化粧品、シート&マスク製品、シャンプー製品、トリートメント製品、洗顔料、アウトバストリートメント製品、クレンジング製品、ヘアスタイリング製品、ボディソープ製品など様々な製品に汎用されています。

また、植物由来をコンセプトとした製品にコレステロールの代用として使用されています。

エモリエント作用

エモリエント作用に関しては、コレステロールは角質層の細胞間脂質中に遊離状態およびコレステロールエステルとして含まれているという点から高い皮膚親和性を有していることが知られていますが、ダイズステロールはコレステロールと類似したエモリエント性を有しており、かつ植物由来であることから、皮膚保護目的のエモリエント剤として古くからスキンケアクリーム、乳液、ヘアケア製品などに使用されています(文献3:1997;文献4:1970)

乳化安定化

乳化安定化に関しては、コレステロールと同様の親油性の乳化性能・乳化安定性を有しており(文献4:1970)、親水性乳化剤と併用してO/W型エマルションに配合することで乳化安定性を非常に高めることから、クリーム、乳液などに古くから使用されています(文献3:1997;文献4:1970)

リポソームの安定化

リポソームの安定化に関しては、まず前提知識として細胞膜の構造およびリポソーム技術について解説します。

細胞膜とは、細胞の内外を隔てる生体膜であり、以下の図をみてもらうとわかるように、

細胞膜の構造

親水性のリン酸基(頭部)と疎水性の脂肪酸鎖(テール部分)をもつリン脂質が二層に連なった脂質二重層で構成されており、ほぼ全ての生物で細胞膜の基本構造として存在しています。

リン脂質のような親水性と疎水性の両方を含む両親媒性分子は、水溶液中において親水性のリン酸基は水溶液側に向かって動くため外側に位置し、また疎水性の脂肪酸鎖は水溶液から自ら離れて内側に向くように自然に自己集合して、以下の図のように、

リポソームの構造

脂質二分子膜を形成し、さらにリポソームと呼ばれる閉じた球状の閉鎖小胞を形成します。

このリポソーム形成現象は、1960年代にBanghamによって見いだされ(文献5:1965)、医療分野においては、そのままでは皮膚に浸透しない成分を脂質二重膜の親水性部分および/または脂肪酸鎖部分に充填・内包することで、安定性を保持したまま皮膚内へ浸透させるDDS(Drug Derivery System:ドラッグ輸送技術)とよばれる医療技術に応用されており、現在では化粧品においてもその技術が応用されています(文献6:2005;文献7:2011)

ただし、リポソームの形成により皮膚に対して内包成分に薬効が認められる場合は、医薬品または医薬部外品として扱われることから(文献8:1990)、化粧品においては化粧品としての効果にとどまると考えられます。

2007年にファンケルによって報告された超微細化リポソーム安定化技術検証によると、

界面活性剤を用いてリポソームの微細化検討を行い、フィトステロール添加によるリポソームの安定性および内水相容積を評価した。

リポソームの膜補助成分としてフィトステロールを添加した場合、粒子径と保持効率との間には比例関係が成り立つことがわかったが、フィトステロールを添加した場合は、添加していない場合に比べて同じ粒子径でも格段に保持効率を上昇させることがわかった。

またフィトステロールの添加によって膜厚が薄くなっていることがわかった。

さらにフィトステロールとポリオキシエチレンフィトスタノールを併用することで内水相容積の減少を抑制しながらリポソームを微細化できることもわかった。

このような検証結果が明らかにされており(文献9:2007)、フィトステロールと同一成分であるダイズステロールにもリポソームの安定化が認められていると考えられます。

一般的にダイズステロールが用いられる場合は水添レシチンを乳化剤として併用したリポソームが用いられています。

セラミドの安定化

セラミドの安定化に関しては、皮膚におけるセラミドの役割および化粧品におけるセラミドの効果について理解している前提で解説します。

荒れ肌、乾燥した皮膚、アトピー性皮膚炎などバリア機能が低下した皮膚はセラミド比率が低下していることが知られており(文献10:1998;文献11:2011)、セラミドを塗布することで直接的にセラミドが補強・充填されることから、

  • バリア機能の改善
  • バリア機能改善による水分保持能の改善

これらの効果が知られています。

ただし、補強・充填されるセラミドというのはラメラ液晶構造を形成したセラミドのことであり、ラメラ液晶構造はセラミド単体では形成されず(∗3)、コレステロール、遊離脂肪酸などの両親媒性脂質(∗4)とともに形成されることから(文献12:2004)、化粧品にセラミドが配合される場合はコレステロールまたはフィトステロールなどのステロールが併用される処方が汎用されています。

∗3 セラミド、コレステロール、脂肪酸の単独塗布では荒れ肌のバリア機能は回復しないことが報告されています(文献12:1996)。

∗4 両親媒性とは、親水性と親油性の両方を有している性質のことです。

セラミドとダイズステロールが併用される場合は、さらに高級脂肪酸を加えてこれらを適当な比率で併用した細胞間脂質モデルやラメラ形成能を有する乳化剤を加えた処方が汎用されています。

実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2013年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。

ちなみに表の中の製品タイプのリーブオン製品というのは付けっ放し製品という意味で、主にスキンケア化粧品やメイクアップ化粧品などを指し、リンスオフ製品というのは洗浄系製品を指します。

ダイズステロールの配合製品数と配合量の調査結果(2013年)

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ダイズステロールの安全性(刺激性・アレルギー)について

ダイズステロールの現時点での安全性は、

  • 薬添規2018規格の基準を満たした成分が収載される医薬品添加物規格2018に収載
  • 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
  • 50年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
  • 皮膚感作性(大豆アレルギーを有する場合):ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ(文献1:2014)によると、

  • [in vitro試験] 正常ヒト表皮角化細胞によって再構築された3次元培養表皮モデル(EpiDerm)を用いて、角層表面に100%ダイズステロールを処理したところ、これらの試験物質に皮膚刺激性は予測されなかった(Active Concepts,2013)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ(文献1:2014)によると、

  • [in vitro試験] 正常ヒト表皮角化細胞によって再構築された3次元培養角膜モデル(EpiOcular)を用いて、モデル角膜表面に100%ダイズステロールを処理したところ、眼刺激性は予測されなかった(Active Concepts,2013)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。

皮膚感作性(アレルギー性)について

医薬部外品原料規格2006に収載されており、50年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

– 大豆アレルギーを有する場合 –

European Food Safety Authorityの安全性試験データ(文献2:2007)によると、

  • [ヒト試験] 大豆アレルギーを有する29人の患者の皮膚に大豆油ステロール由来スタノールエステル(∗5)を垂らし、検査用の針を皮膚の表面に押し当てて、15分後に反応を観察するスキンプリックテストを実施したところ、いずれの患者も陽性反応を示さなかった

∗5 スタノールとは、ステロールに類似した構造を示す物質です。

と記載されています。

試験データをみるかぎり、皮膚感作なしと報告されており、ほかに重大な皮膚感作の報告もみあたらないため、一般に化粧品配合量において皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

∗∗∗

ダイズステロールは、エモリエント成分、安定化成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:エモリエント成分 安定化成分

∗∗∗

文献一覧:

  1. Cosmetic Ingredient Review(2014)「Safety Assessment of Phytosterols as Used in Cosmetics」Final Report.
  2. European Food Safety Authority(2007)「Opinion of the Scientific Panel on Dietetic Products, Nutrition and Allergies on a request from the Commission related to a notification from Raisio Life Sciences on plant stanol esters produced from soybean oil sterols pursuant to Article 6, paragraph 11 of Directive 2000/13/EC- for permanent exemption from labelling」The EFSA Journal(571),1-6.
  3. 広田 博(1997)「環状アルコール」化粧品用油脂の科学,82-87.
  4. 広田 博(1970)「芳香族アルコール(環状アルコール)」化粧品のための油脂・界面活性剤,54-56.
  5. AD. Bangham, et al(1965)「Diffusion of univalent ions across the lamellae of swollen phospholipids」Journal of Molecular Biology(13)(1),238-252.
  6. 内藤 昇, 他(2005)「化粧品とリポソーム」リポソーム応用の新展開,644-650.
  7. 紺野 義一(2011)「リン脂質の化粧品への応用」日本化粧品技術者会誌(45)(2),83-91.
  8. 田村 健夫, 他(1990)「リポソーム」香粧品科学 理論と実際 第4版,281-283.
  9. 松尾 真樹, 他(2007)「超微細化リポソームの安定化技術」日本化粧品技術者会誌(41)(3),167-172.
  10. Di Nardo, et al(1998)「Ceramide and cholesterol composition of the skin of patients with atopic dermatitis」Acta Dermato-Venereologica(78),27-30.
  11. I. Angelova‐Fischer, et al(2011)「Distinct barrier integrity phenotypes in filaggrin‐related atopic eczema following sequential tape stripping and lipid profiling」Experimental Dermatology(20)(4),351-356.
  12. 石田 賢哉(2004)「光学活性セラミドの開発と機能」オレオサイエンス(4)(3),105-116.
  13. M. Mao-Qiang, et al(1996)「Optimization of Physiological Lipid Mixtures for Barrier Repair」Journal of Investigate Dermatology(106)(5),1096-1101.

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