シリカとは…成分効果と毒性を解説








・シリカ
[医薬部外品表示名称]
・無水ケイ酸
ケイ素の酸化物である二酸化ケイ素、または二酸化ケイ素によって構成されるケイ素化合物(体質顔料)です。
地殻を形成する物質の一つであり、天然には主に石英、メノウ、玉髄、ケイ藻土として産出されますが、現在は工業的に乾式法または湿式法によって合成されています(文献11:2016)。
シリカは様々な粒子径のものが化粧品原料として使用されており、以下の表のように(∗1)、
∗1 粒子径の「μm」はマイクロメートル(1μm = 0.001mm)、「nm」はナノメートル(1nm = 0.001μm)のことです。
粒子径 | 形態(乾燥状態) | 特性・機能 | 凝集 | 白色度 |
---|---|---|---|---|
~1nm | オリゴマー (ゲル) |
薄膜形成、高反応性、高透明性 | 高 ↑ 低 |
低 ↓ 高 100nm以上で沈降性(∗4)が生じる |
1~100nm | コロイド(∗2) (ゲル) |
ハードコート、結合力、研磨効果 | ||
100nm~1μm | スラリー (ゲルまたは微細な粉末) |
ベアリング性(∗3)、光散乱、回折散乱 | ||
1~20μm | サスペンション (微細な粉末) |
ベアリング性、表面修飾 | ||
20μm~ | サスペンション (粉末) |
高流動性、スクラブ効果 |
∗2 コロイド(コロイド分散体)とは、一方が微小な液滴あるいは微粒子を形成し(分散相)、他方に分散した2組の相から構成された物質状態であり、例えば牛乳は水溶液中に脂肪が分散したコロイド分散体です。
∗3 ベアリング性とは、転がり(回転性)のことです。
∗4 沈降性とは、均一に分散したコロイド粒子などが、重力や遠心分離作用などによってブラウン運動による粒子の拡散作用との均衡が破れて沈殿したり不均一になる性質のことです。
粒子径によって形状および特性・機能が変わります(文献6:2000)。
粒子径100nmが特性を分ける目安となっており、100nm以下のシリカは「微粒子シリカ」と呼ばれ、コロイド状であり、粒子径が小さいほど比表面積が高くなり、化学構造的にヒドロキシ基(水酸基:-OH)の数が増えるため、結合力・凝集力が高まります。
一方で、粒子径100nm以上のシリカは「沈降シリカ」と呼ばれ、100nm以上では重力で沈降が生じ、粒子径が大きくなるほど紫外線の散乱が起こり、白濁した外観となります。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、メイクアップ化粧品、ネイル製品、日焼け止め製品、スキンケア化粧品、ボディケア製品、パック製品などに使用されています(文献6:2000;文献11:2016)。
ベアリング効果およびチキソトロピー性による感触改良
ベアリング効果およびチキソトロピー性による感触改良に関しては、まず前提知識としてベアリング効果およびチキソトロピー性について解説します。
まずベアリング効果とは、球体の回転のスムーズさ(滑らかさ)のことであり、たとえばマイカなどの体質顔料と一緒に配合する場合、シリカが体質顔料粒子の間に挟まれてスムーズに回転することで体質顔料粒子の滑りが向上し、非常に滑らかな使用感につながります。
次にチキソトロピー性とは、混ぜたり振ったり、力を加えることで粘度が下がり、また時間の経過とともに元の粘度に戻る現象のことです。
チキソトロピー性の理解のためによく例に挙げられるのはペンキの性質で、ペンキは塗る前によくかき混ぜると粘度が下がるため、はけなどで塗りやすくなり、塗られた直後には粘度が上がっていき(元に戻っていき)、垂れることなく乾燥するため塗料として汎用されています。
粒子径100nm以上のシリカはベアリング性(潤滑性)を有しており、また5-10μmの球状のものは展延性(∗5)の向上、マットな仕上がり感を付与することから、メイクアップ化粧品などに汎用されています(文献11:2016)。
∗5 展延性とは、柔軟に広がり、均等に伸びる性質のことで、薄く広がり伸びが良いことを指します。
また、微粒子のシリカは、粘度の調整、チキソトロピー性付与などの目的で泥パックに使用されています(文献11:2016)。
さらに粒子径1μm以上の球状シリカは、皮脂吸収剤としてパウダーファンデーションなどに使用されています(文献6:2000)。
光散乱によるソフトフォーカス効果
光散乱によるソフトフォーカス効果に関しては、まず前提知識として毛穴や小じわと光の関係およびソフトフォーカス効果について解説します。
肌の表面は皮表と呼ばれ、以下の図のように、
凸部の皮丘と凹部の皮溝で構成された肌理(キメ)構造によって形成されています。
皮丘には多くの光が当たることで明るく、皮溝、小ジワ、毛穴などくぼんだ部分には光が当たりにくく影になり、その明度差がくぼみ部分を目立たせる結果となります(文献7:2005)。
このような背景からくぼみ部分を目立ちにくくさせるには、
- 皮膚表面の凹凸間の輪郭をぼかすこと
- 皮膚表面の凹凸間の明度差を減少させること
この2点が重要であるというソフトフォーカス理論が報告されています(文献8:1987)。
次に、ソフトフォーカス効果とは、ソフトフォーカス理論に基づき、以下の図のように、
粉体からの反射光を多方向へ散乱させることで、その粉体の下にあるものを見えにくくする効果のことであり、デフォーカス効果とも呼ばれます。
光を散乱する代表的な粉体としては、紫外線散乱剤として汎用されている酸化チタンや酸化亜鉛などが挙げられますが、ソフトフォーカス効果はこれらのような隠蔽力の強い正反射粉体では得られず、拡散反射型粉体を用いることによって得られる機能・効果であることが知られています(文献9:2003)。
光の散乱能は屈折率以外に粒子径に依存することが知られており、平均粒子径100nm-1μmのシリカはソフトフォーカス効果に最適であることが明らかにされていることから、これらの粒子径のシリカはソフトフォーカス効果目的でメイクアップ化粧品に使用されています(文献6:2000)。
遊色効果
遊色効果に関しては、まず前提知識として遊色効果について解説します。
遊色効果とは、結晶の層状構造により干渉光が反する結果として向きを変えると色彩が変化し、虹のような多色の色彩を示す光学現象のことであり、主に鉱物の一種であるオパールが示す光学現象として有名です。
平均粒子径0.55μm以下のシリカは、水または水-有機溶媒中に分散することで微結晶の集合体に似た構造となり、この結果としてオパールに固有の遊色効果に類似した現象を呈することから、遊色効果目的で使用されています(文献10:1997)。
表面処理
表面処理に関しては、シリカは化学的安定性が非常に高く、無機酸化物の中で最も光屈折率が低く、ほかの顔料に被覆することで使用感の向上、持続性の向上などの相乗効果が得られ、また光触媒活性や化学的活性のある顔料を被覆することで、それらの活性を抑制し、使用感や持続性を向上させることから、体質顔料や着色顔料の被膜剤として汎用されています(文献6:2000)。
顔料によるシリカの皮膜効果の違いは、
顔料の種類 | 効果 |
---|---|
体質顔料 着色顔料 |
表面反射力を抑えて、高い透明性をによる肌の自然感を演出 |
着色顔料 | 濡れくすみの抑制によるロングラスティング性(∗6) |
微粒子酸化チタン 微粒子酸化亜鉛 |
酸化チタンおよび酸化亜鉛の化学的活性や光触媒活性を抑制することで光による劣化および変色を防止し、塗布時の白さと伸びの重さを改良 |
∗6 ロングラスティング性とは長持ちするという意味です。
このように報告されています(文献6:2000)。
スクラブ
スクラブに関しては、粒子径100μm以上の不定形または球状のシリカは、大きさによる物理的な研磨作用を利用してスクラブ目的で使用されています(文献6:2000)。
ウロキナーゼ吸着による抗炎症作用
ウロキナーゼ吸着による抗炎症作用に関しては、2002年に資生堂が第22回IFSCCエジンバラ大会において最優秀賞を受賞した研究成果で、その報告によると、
そこで、本来は表皮内部で活性化されると考えられていたウロキナーゼが角層表面で活性化されることに着目し、肌表面でその活性を取り除くことで肌荒れが防止できるのではと考え、様々な粉体を探索したところ、酸化亜鉛にウロキナーゼ活性抑制作用が、またシリカおよびタルクにウロキナーゼ吸着作用が明らかになった。
これら2種類の粉体をナノレベルで複合化し、パウダーファンデーションに配合して4,039人の女性に3週間連続使用してもらったところ、70%に肌荒れ改善効果が認められた。
このような研究結果が明らかになっており(文献12:2002)、シリカにウロキナーゼ吸着による肌荒れ防止・抗炎症作用が認められています。
ヒト試験は、ナノ化されたシリカを使用していることもあって効果が顕著ですが、ウロキナーゼ吸着作用はシリカの特性であるため、一般的なシリカでも効果を有していると考えられます。
実際の使用製品の種類や数および配合量は、海外の2008-2009年および2018-2019年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品というのは、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
シリカの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
- 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 光毒性・光感作性:ほとんどなし(データなし)
- 発がん性:動物における十分な証拠はなく、ヒトにおける十分な証拠もなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性について
– 微粒子シリカ(100nm以下) –
- [動物試験] 6匹のウサギの無傷および擦過した皮膚に微粒子シリカ500mgを24時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚を評価したところ、無傷の皮膚では刺激の兆候はなく、3つの擦過した試験部位ではわずかな紅斑が観察された(ECETOC,2006)
- [動物試験] 6匹のウサギの無傷および擦過した皮膚に微粒子シリカ500mgを24時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚を評価したところ、無傷の皮膚では24時間で1つの部位に最小限の紅斑が観察され、擦過した皮膚では最小限の明瞭な紅斑が観察された。72時間では紅斑の兆候は消失した(ECETOC,2006)
– 沈降シリカ(100nm以上) –
- [動物試験] 3匹のウサギの無傷の皮膚に沈降シリカ500mgを4時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚を評価したところ、刺激の兆候はなかった(ECETOC,2006)
- [動物試験] 12匹のウサギ群3グループの無傷および擦過した皮膚に沈降シリカ500mgをそれぞれ24時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚を評価したところ、いずれのグループのウサギも刺激の兆候はなかった(ECETOC,2006)
- [動物試験] 6匹のウサギ群2グループそれぞれにの無傷および擦過した皮膚に沈降シリカ23mgまたは190mgを24時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚を評価したところ、23mgでは24時間で5つの無傷の部位および3つの擦過した部位で最小限の紅斑が観察され、190mgでは24時間で4つの無傷の部位および3つの擦過した部位で最小限の紅斑が観察された(ECETOC,2006)
と記載されています。
試験結果をみるかぎり、微粒子シリカおよび沈降シリカの両方において、まれに一過性のわずかな紅斑がみられますが、ほとんどのケースで皮膚刺激なしと報告されているため、皮膚刺激性は非刺激またはまれに一過性のわずかな刺激が起こる可能性があると考えられます。
眼刺激性について
– 微粒子シリカ(100nm以下) –
- [動物試験] 8匹のウサギの眼に微粒子シリカ100mgを適用し、5匹は眼をすすがず、残りの3匹は適用5分後に眼をすすぎ、眼を検査したところ、いずれのウサギも刺激の兆候はなかった(ECETOC,2006)
- [動物試験] 3匹のウサギの眼に微粒子シリカ3mgを適用し、眼を検査したところ、わずか~軽度の発赤が観察されたが48時間で消失した(ECETOC,2006)
- [動物試験] 6匹のウサギの眼に微粒子シリカ3.5mgを適用し、眼を検査したところ、24,48および72時間で数匹のウサギでわずかな結膜紅斑またはケモ-シスが観察された。また4時間で2匹のウサギに一時的な混濁がみられた(ECETOC,2006)
- [動物試験] 9匹のウサギの眼に微粒子シリカ100mgを適用し、6匹は眼をすすがず、残りの3匹は眼をすすぎ、眼を検査したところ、24,48および72時間で洗眼したウサギに刺激の兆候はなかった(ECETOC,2006)
– 沈降シリカ(100nm以上) –
- [動物試験] 3匹のウサギの眼に沈降シリカ40mgまたは100mgを適用し、眼を検査したところ、40mgで刺激の兆候は観察されなかった。100mgにおいては24,48および72時間でわずかな発赤が観察されたが4日以内に回復した(ECETOC,2006)
- [動物試験] 8匹のウサギの眼に沈降シリカ100mgを適用し、5匹は眼をすすがず、残りの3匹は眼をすすぎ、眼を検査したところ、いずれのウサギも刺激の兆候はなかった(ECETOC,2006)
- [動物試験] 9匹のウサギの眼に沈降シリカ100mgを適用し、6匹は眼をすすがず、残りの3匹は適用4秒後に眼をすすぎ、眼を検査したところ、いずれのウサギも刺激の兆候はなかった(ECETOC,2006)
と記載されています。
試験結果をみるかぎり、微粒子シリカおよび沈降シリカの両方において、まれに一過性のわずかな眼刺激がみられますが、ほとんどのケースで眼刺激の兆候なしと報告されているため、眼刺激性は非刺激またはまれにわずかな一過性の眼刺激が起こる可能性があると考えられます。
皮膚感作性(アレルギー性)について
- [ヒト試験] 27人の被検者に21.74%シリカを含むフェイシャルパウダーの30%水溶液を対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を実施したところ、皮膚感作性を示さなかった(KGL Inc,2004)
と記載されています。
試験結果をみるかぎり、皮膚感作性なしと報告されているため、皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
光感作性について
化学的安定性が非常に高く、また光触媒活性を有する成分を被膜して活性を抑制する被膜剤として古くから使用されている実績から、光感作性はほとんどないと考えられます。
発がん性について
IARC(International Agency for Research on Cancer:国際がん研究機関)は、世界保健機関(WHO)の一機関であり、人に対する発がん性に関する様々な物質・要因を評価し、以下の表のように5段階に分類しています(文献3:2017;文献4:2019)。
グループ | グループ内容 | 分類理由 |
---|---|---|
グループ1 | ヒトに対する発がん性がある | ・ヒトへの発がん性について十分な証拠がある |
グループ2A | ヒトに対しておそらく発がん性がある | ・ヒトへの発がん性については限られた証拠しかないが、実験動物の発がんについては十分な証拠がある場合 |
グループ2B | ヒトに対して発がん性がある可能性がある | ・ヒトへの発がん性については限られた証拠があるが実験動物では十分な証拠のない場合 ・ヒトへの発がん性については不十分な証拠しかないあるいは証拠はないが、実験動物は十分な発がん性の証拠がある場合 |
グループ3 | ヒトに対する発がん性について分類できない | ・ヒトへの発がん性については不十分な証拠しかなく、実験動物についても不十分又は限られた証拠しかない場合 ・他のグループに分類できない場合 |
グループ4 | ヒトに対する発がん性がない | ・ヒトへの発がん性はないことを示す証拠があり、かつ実験動物についても同様な証拠がある場合 |
1997年に公開されたIARCの評価によると、シリカ(Amorphous silica)の発がん性は、
- 実験動物においてシリカの発がん性について十分な証拠がない
- ヒトにおいてシリカの発がん性について十分な証拠がない
このように結論づけられており、「グループ3」に分類されています(文献5:1997)。
∗∗∗
シリカはベース成分、表面処理剤、抗炎症成分、スクラブ剤にカテゴライズされています。
それぞれの成分一覧は以下からお読みください。
∗∗∗
文献一覧:
- Cosmetic Ingredient Review(2009)「Safety Assessment of Silica and Related Cosmetic Ingredients」Final Report of the Cosmetic Ingredient Review Expert Panel.
- Cosmetic Ingredient Review(2019)「Amended Safety Assessment of Amorphous Silica and Synthetically-Manufactured Amorphous Silicates as Used in Cosmetics」Tentative Amended Report for Public Comment.
- 農林水産省(2017)「国際がん研究機関(IARC)の概要とIARC発がん性分類について」, <http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/hazard_chem/iarc.html> 2019年10月29日アクセス.
- International Agency for Research on Cancer(2019)「Agents Classified by the IARC Monographs, Volumes 1–123」, <https://monographs.iarc.fr/agents-classified-by-the-iarc/> 2019年10月29日アクセス.
- International Agency for Research on Cancer(1997)「SILICA」IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans(68),41-242.
- 田中 博和, 他(2000)「シリカの特性と化粧品への応用」Fragrance Jpurnal(28)(11),64-70.
- 栗林 さつき(2005)「毛穴対策用メイクアップ化粧料」Fragrance Journal(33)(9),33-38.
- 中村 直生, 他(1987)「粉体の光学的研究とシワ隠し効果」日本化粧品技術者会誌(21)(2),119-126.
- 毛利 邦彦(2003)「ファンデーションの有用性と製品化技術」日本化粧品技術者会誌(37)(3),171-178.
- 株式会社資生堂(1997)「透明化粧料」特開平09-124455.
- 日光ケミカルズ(2016)「無機粉体」パーソナルケアハンドブック,290-293.
- 株式会社資生堂(2002)「新規肌あれ抑制成分スキンケアパウダーの開発」, <https://www.shiseidogroup.jp/newsimg/archive/00000000000275/275_w5m24_jp.pdf> 2018年8月15日アクセス.
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