ウコン根茎エキスとは…成分効果と毒性を解説

着色 抗老化
ウコン根茎エキス
[化粧品成分表示名]
・ウコン根茎エキス

[医薬部外品表示名]
・ウコンエキス

ショウガ科植物ウコン(学名:Curcuma longa 英名:turmeric)の根茎からエタノール、またはこれらの混液で抽出して得られる抽出物植物エキスです。

ウコン(鬱金)は、東南アジアを原産とし、インド、東南アジア、中国南部などで栽培されており、日本においては江戸時代中期に渡来し沖縄県や九州南部で栽培されています(文献1:2011)

ウコン根茎エキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、

分類 成分名称
ジアリールヘプタノイド クルクミン(黄色色素) など
テルペノイド セスキテルペン ツルメロン
フラボノイド フラボン アピゲニン

これらの成分で構成されていることが報告されています(文献1:2011;文献2:2013;文献3:2018)

ウコンの根茎(生薬名:欝金)の化粧品以外の主な用途としては、スパイス分野において香辛料のターメリックの原料として、食品分野においては黄色の着色料として、健康食品分野においては「秋ウコン」の名称で二日酔い予防、肝機能の改善や健胃効果を期待してサプリメント、ドリンク、ウコン茶などに用いられています(文献1:2011;文献4:2011)

また、漢方分野においては気をめぐらし血熱(∗1)を鎮め瘀血(∗2)を排泄することから胸脇部や腹部の痛み、精神の病的抑鬱や興奮、熱病による意識混濁などに用いられ、また外用としては患部の炎症を鎮める目的で用いられます(文献1:2011;文献5:2016)

∗1 血熱とは、瘀血(おけつ)で炎症の強いもの、および温病で熱が血分に入った状態(通常、血便・吐血などの出血を伴う)

∗2 瘀血(おけつ)とは、血行障害もしくは婦人科系の代謝不全により体内に非生理的血液が残り、それによって起きる様々な症状(月経不順、冷え、のぼせ、こり、痛みなど)や疾病を指します。

化粧品に配合される場合は、

これらの目的でヘアマニキュア製品、カラートリートメント製品、カラーシャンプー製品、スキンケア製品、メイクアップ製品、シート&マスク製品、洗顔料、クレンジング製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、入浴剤などに使用されています。

黄色の着色

黄色の着色に関しては、ウコンの根茎は主要成分としてカレー粉の黄色としても有名な黄色色素であるクルクミン(curcumin)およびその誘導体を有していることから(文献1:2011;文献2:2013;文献6:1992)、主に天然色素・天然ハーブをコンセプトとしたヘアカラー製品などに使用されています(文献7:2002)

線維芽細胞エラスターゼ活性阻害による抗老化作用

線維芽細胞エラスターゼ活性阻害による抗老化作用に関しては、まず前提知識として真皮の構造、光老化のメカニズムについて解説します。

真皮については、以下の真皮構造図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

真皮の構造

表皮を下から支える真皮を構成する成分としては、細胞成分と線維性組織を形成する間質成分(細胞外マトリックス成分)に二分され、以下の表のように、

分類 構成成分
間質成分
(細胞外マトリックス)
膠原線維 コラーゲン
弾性繊維 エラスチン
基質 糖タンパク質、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン
細胞成分 線維芽細胞

主成分である間質成分は、大部分がコラーゲンからなる膠原線維とエラスチンからなる弾性繊維、およびこれらの間を埋める基質で占められており、細胞成分としてはこれらを産生する線維芽細胞がその間に散在しています(文献8:2002;文献9:2018)

間質成分の大部分を占めるコラーゲンは、膠質状の太い繊維であり、その繊維内に水分を保持しながら皮膚のハリを支えています(文献8:2002)

このコラーゲンは、Ⅰ型コラーゲン(80-85%)とⅢ型コラーゲン(10-15%)が一定の割合で会合(∗3)することによって構成されており(文献10:1987)、Ⅰ型コラーゲンは皮膚や骨に最も豊富に存在し、強靭性や弾力をもたせたり、組織の構造を支える働きが、Ⅲ型コラーゲンは細い繊維からなり、しなやかさや柔軟性をもたらす働きがあります(文献11:2013)

∗3 会合とは、同種の分子またはイオンが比較的弱い力で数個結合し、一つの分子またはイオンのようにふるまうことをいいます。

エラスチン(elastin)を主な構成成分とする弾性繊維は、皮膚の弾力性をつくりだす繊維であり、コラーゲンとコラーゲンの間に絡み合うように存在し、コラーゲン同士をバネのように支えて皮膚の弾力性を保持しています(文献8:2002)

基質は、主に糖タンパク質(glycoprotein)プロテオグリカン(proteoglycan)およびグリコサミノグリカン(glycosaminoglycan)で構成されたゲル状物質であり、これらの分子が水分を保持し、コラーゲンやエラスチンと結合して繊維を安定化させることにより、皮膚は柔軟性を獲得しています(文献8:2002;文献9:2018)

細胞成分としては線維芽細胞(fibroblast)が真皮に分散しており、コラーゲン繊維やエラスチン繊維が古くなるとこれらを分解する酵素を産生して不必要な分を分解し、新しいコラーゲン繊維やエラスチン繊維を産生して細胞外マトリックス成分の産生・分解系バランスを保持しています(文献8:2002)

これら真皮の働きを要約すると、

  • コラーゲン繊維が水分を保持しながら皮膚の張りを支持
  • エラスチンを主とした弾性繊維がコラーゲン同士をバネのように支えて皮膚の弾力性を保持
  • 基質(ゲル状物質)が水分を保持し、コラーゲン繊維と弾性繊維を安定化
  • 紫外線曝露時など必要に応じてコラーゲン繊維、弾性繊維、ムコ多糖を産生し、細胞外マトリックス成分の産生・分解系バランスを保持

それぞれがこのように働くことで、皮膚はハリや柔軟性・弾性を保持しています。

一方で、一般に紫外線を浴びる時間や頻度に比例して、間質成分(細胞外マトリックス成分)であるコラーゲン、エラスチン、ムコ多糖類への影響が大きくなり、シワの形成促進、たるみの増加など老化現象が徐々に進行することが知られています(文献12:2002)

紫外線の曝露によりシワやたるみが形成されるメカニズムは複合的であることから、わかりやすさを優先するために直接的に関係がないメカニズムは省略しますが、以下の光老化メカニズム図をみてもらうとわかるように、

光老化のメカニズム

UVAは直接真皮に到達して線維芽細胞に働きかけ、MMP-1(Matrix metalloproteinase-1:マトリックスメタロプロテアーゼ-1)の発現促進によりコラーゲンを分解するとともに、線維芽細胞の細胞膜に局在するネプリリシン(neprilysin)を本体とする線維芽細胞エラスターゼを過剰に産生し、エラスチンを分解することが報告されています(文献13:2018;文献14:2019;文献15:2010)

20代あたりまでは細胞外マトリックス成分の合成が活発であるため、紫外線照射によってコラーゲンやエラスチンが分解・破壊されてもダメージが蓄積されずシワやたるみの形成まで至らないと考えられますが、過剰および長期にわたって紫外線環境に曝されている場合は加齢とともに細胞外マトリックス成分の産生能が低下していくに従って細胞外マトリックス成分の産生・分解系バランスが崩れていき、主な皮膚老化現象としてシワが形成されていくと考えられています(文献16:1998)

このような背景から、紫外線の曝露による線維芽細胞エラスターゼの過剰な産生を抑制することは光老化の防御において重要であると考えられています。

2002年に一丸ファルコスによって報告されたウコン根茎エキスのエラスターゼおよび紫外線照射後ヒト皮膚に対する影響検証によると、

in vitro試験において1mMのエラスターゼ基質100μLに0.05unit/mL膵臓由来エラスターゼ緩衝液50μLを加えた後に固形分濃度0.01%ウコン根茎エキス50μL、または比較対照として0.01%グリチルリチン酸ジカリウムを添加し、それぞれ培養後に吸光度を測定しエラスターゼ活性阻害率を算出したところ、以下のグラフのように、

ウコン根茎エキスのエラスターゼ活性阻害作用

ウコン根茎エキスは、エラスターゼ活性を有意に抑制する作用を有することが確認された。

次に、60名の女性被検者(25-50歳)のうち30名に5%ウコン根茎エキス配合乳液を、別の30名に陰性対照としてウコン根茎エキス未配合乳液を3ヶ月にわたって連日顔面塗布してもらった。

3ヶ月後にシワ・小ジワおよび肌のツヤ・ハリの評価を「有効:シワ・小ジワが目立たなくなった、ハリ・ツヤが改善された」「やや有効:シワ・小ジワが少し目立たなくなった、ハリ・ツヤがやや改善された」「無効:使用前と変化なし」の3段階で評価したところ、以下の表のように、

試料 症例数 シワ・小ジワに対する効果(人数)
有効 やや有効 無効
ウコン根茎エキス配合乳液 30 5 22 3
乳液のみ(比較対照) 30 1 4 25
試料 症例数 ツヤ・ハリに対する効果(人数)
有効 やや有効 無効
ウコン根茎エキス配合乳液 30 4 19 7
乳液のみ(比較対照) 30 0 4 26

ウコン根茎エキス配合乳液塗布群は、未配合乳液塗布群と比較してシワ・小ジワおよび肌のツヤ・ハリに対する改善効果が確認された。

このような試験結果が明らかにされており(文献17:2002)、ウコン根茎エキスに線維芽細胞エラスターゼ活性阻害による抗老化作用が認められています。

複合植物エキスとしてのウコン根茎エキス

ウコン根茎エキスは、他の植物エキスとあらかじめ混合された複合原料があり、ウコン根茎エキスと以下の成分が併用されている場合は、複合植物エキス原料として配合されている可能性が考えられます。

原料名 K-Blend HANA
構成成分 BGムラサキ根エキストウキ根エキスキハダ樹皮エキスウコン根茎エキス
特徴 漢方処方「紫雲膏」および「中黄膏」に基づき、チロシナーゼ活性阻害作用および抗酸化作用による多角的な色素沈着抑制作用を発揮する4種類の植物エキス混合液

ウコン根茎エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について

ウコン根茎エキスの現時点での安全性は、

  • 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚一次刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚累積刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性について

一丸ファルコスの安全性試験データ(文献17:2002)によると、

  • [動物試験] 3匹のウサギの剃毛した背部に固形分濃度0.5%ウコン根茎エキス水溶液を塗布し、塗布24,48および72時間後に紅斑および浮腫を指標として一次刺激性を評価したところ、いずれのウサギも紅斑および浮腫を認めず、この試験物質は皮膚一次刺激性に関して問題がないものと判断された
  • [動物試験] 3匹のモルモットの剃毛した背部に固形分濃度0.5%ウコン根茎エキス水溶液0.5mLを1日1回週5回、2週にわたって塗布し、各塗布日および最終塗布日の翌日に紅斑および浮腫を指標として皮膚刺激性を評価したところ、いずれのモルモットも2週間にわたって紅斑および浮腫を認めず、この試験物質は皮膚累積刺激性に関して問題がないものと判断された

と記載されています。

試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

皮膚感作性(アレルギー性)について

日本薬局方および医薬部外品原料規格2021に収載されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

∗∗∗

ウコン根茎エキスは着色剤、抗老化成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:着色剤 抗老化成分

∗∗∗

参考文献:

  1. 鈴木 洋(2011)「欝金(うこん)」カラー版 漢方のくすりの事典 第2版,23-24.
  2. 御影 雅幸(2013)「ウコン」伝統医薬学・生薬学,216-217.
  3. 長島 司(2018)「ウコン(ターメリック)」ビジュアルガイド植物成分と抽出法の化学,114.
  4. 鈴木 洋(2011)「欝金」カラー版健康食品・サプリメントの事典,20-21.
  5. 根本 幸夫(2016)「鬱金(ウコン)」漢方294処方生薬解説 その基礎から運用まで,162-163.
  6. 吉積 智司(1992)「ハーブ系化学的合成品以外の着色料(天然色素)の特性と応用」Fragrance Journal臨時増刊(12),182-187.
  7. 株式会社コスモビューティー(2002)「染毛性整髪用組成物」特開2002-322040.
  8. 朝田 康夫(2002)「真皮のしくみと働き」美容皮膚科学事典,28-33.
  9. 清水 宏(2018)「真皮」あたらしい皮膚科学 第3版,13-20.
  10. D.R. Keene, et al(1987)「Type Ⅲ collagen can be present on banded collagen fibrils regardless of fibril diameter」Journal of Cell Biology(105)(5),2393-2402.
  11. 村上 祐子, 他(2013)「加齢にともなうⅢ型コラーゲン/Ⅰ型コラーゲンの比率の減少メカニズム」日本化粧品技術者会誌(47)(4),278-284.
  12. 朝田 康夫(2002)「急性と慢性の皮膚障害とは」美容皮膚科学事典,195.
  13. 市橋 正光, 他(2018)「皮膚のアンチエイジング」オレオサイエンス(18)(3),121-129.
  14. 楊 一幸(2019)「抗シワ医薬部外品成分の開発」日本香粧品学会誌(43)(1),24-27.
  15. N. Morisaki, et al(2010)「Neprilysin Is Identical to Skin Fibroblast Elastase : Its role in skin aging nad UV responses」Journal of Biological Chemistry(285)(51),39819-39827.
  16. 大林 恵, 他(1998)「植物抽出物の細胞外マトリックス分解酵素に対する阻害作用」日本化粧品技術者会誌(32)(3),272-279.
  17. 一丸ファルコス株式会社(2002)「エラスターゼ活性阻害剤及び化粧料組成物」特開2002-205950.

TOPへ