カーボンブラックの基本情報・配合目的・安全性

化粧品表示名 カーボンブラック
医薬部外品表示名 カーボンブラック
INCI名 Carbon Black、Black 2
配合目的 着色

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表される炭化水素の不完全燃焼により得られる単体炭素(無機顔料)です[1a]

1.2. 性状

カーボンブラックの性状は、

状態 黒色の微粒子粉体

このように報告されています[2]

1.3. 化粧品以外の主な用途

カーボンブラックの化粧品以外の主な用途としては、

分野 用途
医薬品 着色目的の医薬品添加剤として経口剤、外用剤に用いられています[3]

これらの用途が報告されています。

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 黒色の着色

主にこれらの目的で、メイクアップ製品、ネイル製品、ヘアカラー製品、洗顔石鹸、入浴剤などに汎用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 黒色の着色

黒色の着色に関しては、カーボンブラックは黒色の微粒子粉末であり、黒酸化鉄と比較して着色力が強いため、少量配合すれば黒色になることから、黒色の着色目的で主にメイクアップ製品、ネイル製品、ヘアカラー製品などに汎用されています[1b][4][5]

3. 混合原料としての配合目的

カーボンブラックは混合原料が開発されており、カーボンブラックと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。

原料名 Geonature C Blue 008 HEX x 001
構成成分 セルロースグリセリン、ポリウレタン-33、アクリレーツコポリマーAlコンジョウカーボンブラック
特徴 セルロースを基材とした青の生分解性ラメ材

4. 安全性評価

カーボンブラックの現時点での安全性は、

  • 薬添規2018規格の基準を満たした成分が収載される医薬品添加物規格2018に収載
  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
  • 発がん性:なし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

Scientific Committee on Consumer Safetyおよびカーボンブラック協会の安全性データ[6a][7a]によると、

  • [動物試験] ウサギの無傷または擦過した皮膚に20%または27%カーボンブラック懸濁液を24時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚反応を評価したところ、皮膚反応は観察されなかったため、カーボンブラックは非刺激性であると考えられた(Degussa AG,1977;1978)
  • [動物試験] ウサギの無傷または擦過した皮膚に水で湿らせた未希釈のカーボンブラックを4時間単一閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に試験部位を評価したところ、いずれのウサギも皮膚刺激の兆候を示さなかったため、この試験物質は皮膚刺激剤ではないと結論付けられた(Degussa AG,1984)
  • [in vitro試験] 正常ヒト表皮角化細胞によって再構築された3次元培養表皮モデル(EpiDerm)を用いて、角層表面に2%,6%および10%カーボンブラックを含むサンフラワーオイルを処理したところ、皮膚刺激は予測されなかった(Brémond,2011)
  • カーボンブラックに皮膚感作性は報告されていない。長期にわたる接触では皮膚の乾燥、刺激をともなうことがある(カーボンブラック協会,2013)

このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

4.2. 眼刺激性

Scientific Committee on Consumer Safetyの安全性データ[6b]によると、

  • [動物試験] 6匹のウサギの片眼の結膜嚢に未希釈のカーボンブラックを点眼し、OECD405テストガイドラインに基づいて点眼24,48および72時間後に眼刺激性を評価したところ、いずれのウサギもいずれの時間においても眼に影響はみられず、この試験物質は眼刺激剤ではなかった(Degussa AG,1977)
  • [動物試験] 8匹のウサギの片眼の結膜嚢に未希釈のカーボンブラックを適用し、5匹のウサギは5分後に眼をすすぎ、3匹のウサギは24時間後に眼をすすいだ後にDraize法に基づいて適用24,48,72および96時間後に眼刺激性を評価したところ、いずれのウサギもいずれの時間においても眼に影響はみられず、この試験物質は眼刺激剤ではなかった(Degussa AG,1978)

このように記載されており、試験データをみるかぎり眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。

4.3. 発がん性

カーボンブラックは発がん性が疑われていますが、これはラットにおける肺吸入による発がん性の疑いであり、皮膚においては1958年に報告されたマウスを用いたカーボンブラックにおける皮膚接触試験によると、

オイルに懸濁させたカーボンブラックをマウスの皮膚に塗布する試験を実施したところ、皮膚に対する発がん性への影響は認められなかった

このような試験データが報告されており[8]、また現在では発がん性成分であるベンツピレンが混入する危険性のない製法で製造されており[9]、化粧品として通常使用する場合において安全性に問題はないと考えられます。

ラットにおける肺吸入による発がん性の疑いに関しては、2013年までの発がん性試験によると、

雌ラット、マウス、ハムスターを使用した動物実験では、吸入による肺過負荷条件下で、雌ラットのみに肺腫瘍がみられ、カーボンブラック工場労働者を対象としたコホート研究では、曝露と肺がんの発生率に因果関係は見いだせなかった

このような研究結果が報告されています[7b]

世界保健機関(WHO)の一機関であるIARC(International Agency for Research on Cancer:国際がん研究機関)は、ヒトに対する発がん性に関する様々な物質・要因を評価し、以下の表のように4段階に分類しており[10][11]

グループ グループ内容 分類理由
グループ1 ヒトに対して発がん性がある ヒトにおいて発がん性の十分な証拠がある
グループ2A ヒトに対しておそらく発がん性がある 以下のうち少なくとも2つを含み、その中に暴露を受けたヒトまたはヒトの細胞もしくは組織のいずれかに係るものを少なくとも1つ含む場合。
・ヒトにおいて発がん性の限定的な証拠がある
・実験動物において発がん性の十分な証拠がある
・作用因子が発がん性物質の主要な特性を示す有力な証拠がある
グループ2B ヒトに対して発がん性がある可能性がある 以下のうちいずれか1つのみを含む場合。
・ヒトにおいて発がん性の限定的な証拠がある
・実験動物において発がん性の十分な証拠がある
・作用因子が発がん性物質の重要な特性を示す有力な証拠がある
グループ3 ヒトに対する発がん性について分類できない 作用因子が他のグループに分類できない場合。
また「実験動物における発がん性の作用機序がヒトでは作用しないという有力な証拠」が1つ以上の腫瘍部位について存在し、残りの腫瘍部位が「実験動物における十分な証拠」とは評価されず、かつヒトにおける研究や作用機序の研究に由来するデータから他のカテゴリーに分類することが適当でない場合も含む

2010年に公開されたIARCの評価によると、カーボンブラックの発がん性は、

  • 実験動物においてカーボンブラックおよびその抽出物の発がん性について十分な証拠がある
  • ヒトにおいてカーボンブラックの発がん性について十分な証拠がない

このように結論づけられており、「グループ2B」に分類されています[12]

また、IARCだけでなく世界の主要な発がん性分類によると(∗1)

∗1 赤字がカーボンブラックの該当区分です。

GHS区分 IARC EU 産衛学会 ACGIH
1A 1 1A 1 A1
1B 2A 1B 2A A2
2 2B 2 2B A3
分類できない 3 A4
区分外 4 A5

このように区分されており[13a]、それぞれの機関における評価の詳細は以下のように、

評価機関およびルール 評価結果
国連世界調和システム
(UN GHS)
区分外(評価機関:国際カーボンブラック協会)
根拠:動物実験で有害影響がみられたが、その機構および作用モードにおいてヒトへの関連性が十分でないため有害であると分類すべきではない
国際がん研究機関
(IARC)
総合評価:2B(ヒトに対して発がん性があるかもしれない)
評価理由:発がん性に関して実験動物の研究では十分なエビデンスがあるが、ヒトにおいては十分なエビデンスがない
米国産業衛生専門家会議
(ACGIH)
A3(動物で発がん性が確認されているが、ヒトへの関連性は知られていない)
日本産業衛生学会 第2群B(疫学研究からの証拠はないが、動物実験からの証拠が十分である)

共通してヒトへの関連性のエビデンスがなく、関連性は不明としています[13b]

5. 参考文献

  1. ab日本化粧品工業連合会(2013)「カーボンブラック」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,288.
  2. 日光ケミカルズ株式会社(2016)「無機色材」パーソナルケアハンドブックⅠ,347-351.
  3. 日本医薬品添加剤協会(2021)「カーボンブラック」医薬品添加物事典2021,136.
  4. 田村 健夫・廣田 博(2001)「無機顔料」香粧品科学 理論と実際 第4版,153-157.
  5. 柴田 雅史(2021)「白・黒・茶 – カバー力の高い無機色材」美しさをつくる色材工学,169-179.
  6. abScientific Committee on Consumer Safety(2015)「OPINION on Carbon Black (nano-form)」SCCS/1515/13.
  7. abカーボンブラック協会(2013)「カーボンブラックのナノマテリアルとしての安全性」, 2018年5月23日アクセス.
  8. C.A. Nau, et al.(1958)「A study of the physiological effects of carbon black. II. Skin contact」AMA Arch Ind Health(18),511-520. PMID:13593888.
  9. 宇山 侊男, 他(2020)「カーボンブラック」化粧品成分ガイド 第7版,218.
  10. 農林水産省(2022)「国際がん研究機関(IARC)の概要とIARC発がん性分類について」, 2022年9月6日アクセス.
  11. International Agency for Research on Cancer(2022)「Agents Classified by the IARC Monographs, Volumes 1–131」, 2022年9月6日アクセス.
  12. International Agency for Research on Cancer(2010)「Carbon Black」IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans(93),43-191.
  13. abカーボンブラック協会(2016)「カーボンブラック取扱安全指針 第七版」, 2019年7月13日アクセス.

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