酸化亜鉛の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | 酸化亜鉛 |
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医薬部外品表示名 | 酸化亜鉛、低温焼成酸化亜鉛 |
部外品表示簡略名 | 酸化Zn |
慣用名 | 亜鉛華 |
INCI名 | Zinc Oxide |
配合目的 | 着色、紫外線防御、収れん など |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表される亜鉛(元素記号:Zn)の酸化物(無機化合物:白色顔料)です[1]。
1.2. 物性・性状
酸化亜鉛の物性・性状は(∗1)(∗2)、
∗1 極大吸収波長とは、人体に影響を及ぼす紫外線波長であるUVB-UVAの波長領域(290-400nm)の中で最も吸収する波長のことをいいます。
∗2 屈折とは光の速度が変化して進行方向が変わる現象のことで、屈折率は「空気中の光の伝播速度/物質中の光の伝播速度」で表されます。光の伝播速度は物質により異なり、また同一の物質でも波長により異なるため屈折率も異なります(屈折率の例として水は1.33、エタノールは1.36、無機粉体で紫外線散乱剤として使用されている酸化チタンは2.52または2.72)。
状態 | 極大吸収波長(nm) | 屈折率 | 吸油量(ml/100g) |
---|---|---|---|
白色粉体 | 280-390 (UVB-UVA領域) |
2.00-2.02 | 10-15 |
無機顔料における光学的性質の第一因子は屈折率であり、屈折率が大きいほど表面反射(紫外線遮断効果)が大きくなりますが、一方で隠蔽性も高くなります[4a]。
隠蔽性が高いということは、言い換えれば透明性が低いということであり、酸化亜鉛の場合は酸化チタンほど屈折率が高くないため、塗布時に白くなりにくいという特性から使用されています[4b]。
また、酸化亜鉛は光触媒活性を有しており、光を照射すると表面で強力な酸化力を発揮し、共存するオイルや有機色素を酸化分解して異臭や変色を引き起こしたり、皮膚表面に対する安全性を著しく損なうことから、化粧品に使用される場合は必ずシリカやシリコーンなどで表面を処理し、光触媒活性を抑えた上で配合されています[5]。
1.3. 化粧品以外の主な用途
酸化亜鉛の化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
---|---|
医薬品 | 湿疹・皮膚炎の収斂・消炎目的の皮膚潰瘍治療薬として用いられるほか[6a]、安定・安定化、充填、着色、賦形、分散目的の医薬品添加剤として皮下注射、外用剤などに用いられています[7]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 白色の着色
- UVBおよびUVA吸収および散乱による紫外線防御効果
- 収れん作用
主にこれらの目的で、メイクアップ製品、化粧下地製品、日焼け止め製品、コンシーラー製品などに汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 白色の着色
白色の着色に関しては、酸化亜鉛は酸化チタンほど屈折率が高くないため、隠蔽性は低めで、透明感のある白色の着色や他の顔料に添加して目的の色をつくる目的でメイクアップ製品、化粧下地製品、コンシーラー製品などに汎用されています[8]。
2.2. UVBおよびUVA吸収および散乱による紫外線防御効果
UVBおよびUVA吸収および散乱による紫外線防御効果に関しては、まず前提知識として紫外線(ultraviolet:UV)および紫外線の皮膚への影響について解説します。
紫外線とは、以下の図表のように、
紫外線の分類 | 略称 | 波長領域(nm) |
---|---|---|
長波長紫外線 | UVA | 320-400 |
中波長紫外線 | UVB | 290-320 |
短波長紫外線 | UVC | 190-290 |
太陽による光の波長のうち可視光線よりも波長の短いものを指し、生物学的な作用によって3種類に分類されていますが、以下の図が示すように、
300nm以下の波長のものは成層圏のオゾン層に吸収されるため、地上に到達するのは波長領域300-400nm、つまりUVBの一部(300-320nm)とUVAのみであり、人体に作用するのはUVBおよびUVAであることが知られています[9a][10][11a]。
UVBおよびUVAによるヒト皮膚に対する障害は、以下の表のように、
UVB | UVA | ||
---|---|---|---|
皮膚到達度 | 表皮まで | 真皮まで | |
皮膚 外観 変化 |
単回 曝露 |
一過性の炎症(紅斑) 遅延黒化(紅斑消退後) |
一過性の即時黒化 UVBによる紅斑の増強 一過性の紅斑(大量曝露時) |
反復 曝露 |
持続型黒化の増強 | 光老化皮膚の形成 | |
皮膚 内部 変化 |
単回 曝露 |
表皮細胞の損傷 DNAの損傷 メラニン産生の促進 活性酸素(・O2–)の生成 活性酸素(NO)の促進 |
活性酸素(1O2)の生成 |
反復 曝露 |
メラノサイトの増殖 | 真皮細胞外マトリックスの変性 |
皮膚外観および皮膚内部のそれぞれで、主にこれらの変化が報告されています[9b][11b][12a][13a]。
UVBは、単回曝露時の即時的な皮膚反応としていわゆる「日焼け」とよばれる紅斑や浮腫のような炎症反応を引き起こすことが知られており、この炎症が紫外線曝露24時間をピークとして消退したあとに(紫外線曝露から3日後に)各メラノサイト活性化因子の分泌が亢進し、メラノサイトがそれらを受け取ることでメラノサイト内でメラニン産生が促進され、遅延型黒化を引き起こします(∗3)[9c][11c][13b]。
∗3 紫外線曝露による、炎症のメカニズムについては抗炎症成分カテゴリで、メラニン産生促進による黒化のメカニズムについては美白成分カテゴリでそれぞれ解説しているので併せて参照してください。
また、反復曝露(長期間の曝露)による主な皮膚反応としてメラノサイトの増殖によってメラニン量が増加することによる皮膚の持続的な黒化や部分的な色素沈着があります[11d][12b]。
一方で、UVAは単回曝露時の即時的な皮膚反応として、曝露した直後に皮膚が黒化する即時黒化を引き起こしますが、この即時黒化反応は2-3時間で消失する一時的な皮膚の外観変化であり、メラニンの生成促進によって引き起こされたものではなく、皮膚にすでに存在している淡色のメラニン(還元メラニン)の光酸化によるものであると考えられています[12c][13c]。
また、反復曝露(長期間の曝露)による主な皮膚反応として真皮に存在する細胞外マトリックスの変性による皮膚の老化(ハリや弾力の低下)が促進されることが知られています(∗4)[9d][11e]。
∗4 皮膚の老化(光老化)のメカニズムについては、抗老化成分カテゴリで解説しているので、併せて参照してください。
このような背景から、過剰なUVBおよびUVAの曝露から皮膚を保護することは、健常な皮膚の維持や光老化の予防という点で重要であると考えられています。
酸化亜鉛は、以下の紫外線吸収スペクトル図をみてもらうとわかりやすいと思いますが(∗5)、
∗5 吸光度(absorbance:abs)とは、溶液に吸収される光の量のことを指し、Lambert-Beerの法則を用いた場合、光透過率100%の吸光度0.0、31.6%の吸光度0.5、10%の吸光度1.0、1%の吸光度2.0となり、吸光度が大きいほど光透過率は低くなります。ただし、濃度依存的に吸光度は高くなるため、吸光度はあくまでもスペクトルを示すための参考値です。
UVB領域である290nmからUVA領域である390nmまでの幅広いUV吸収能を有しており[3b]、UVBおよびUVA吸収による紫外線防御目的で日焼け止め製品、化粧下地製品、メイクアップ製品などに汎用されています。
また、酸化亜鉛は酸化チタンと比較して屈折率が小さいため散乱効果が弱いものの、酸化チタンよりも透明性が高いといった特徴があり、高いUVA防御機能と透明性を目的に使用されますが、現在ではより高い機能と透明性を発揮する微粒子酸化亜鉛も使用されています[14]。
2.3. 収れん作用
収れん作用に関しては、酸化亜鉛は収れん性を有していることから皮膚炎などの治療薬として使用されており[6b]、化粧品においても毛穴の引き締めなどを目的にボディパウダー、制汗剤などに使用されています。
3. 混合原料としての配合目的
酸化亜鉛を紫外線散乱剤として使用する場合、その効果を発揮させるには粒子の分散をよくする必要があり、分散性を高めるために様々な成分で表面をコーティングする技術が使用されています。
酸化亜鉛と以下の成分が併用されている場合は、表面処理された原料として配合されている可能性が考えられます。
無機顔料 | 表面処理剤 | 表面特性 |
---|---|---|
酸化亜鉛 | シリカ | 親水性 |
イソステアリン酸 | 撥水性 | |
ジメチコン | ||
トリエトキシカプリリルシラン | ||
ハイドロゲンジメチコン | ||
メチコン | ||
シリカ、ジメチコン |
4. 安全性評価
- 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 40年以上の使用実績
- 皮膚刺激性(非ナノ粒子):ほとんどなし
- 皮膚刺激性(ナノ粒子):ほとんどなし
- 眼刺激性(非ナノ粒子):ほとんどなし
- 眼刺激性(ナノ粒子):ほとんどなし-軽度
- 皮膚感作性(非ナノ粒子):ほとんどなし
- 皮膚感作性(ナノ粒子):ほとんどなし
- 光毒性(光刺激性):ほとんどなし
- 光感作性:ほとんどなし
このような結果となっており、ナノ化の有無にかかわらず、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Scientific Committee on Cosmetic Products and Non-food products intended for ConsumersおよびScientific Committee on Consumer Safetyの安全性データ[15a][16a]によると、
– 非ナノ粒子 –
- [ヒト試験] 56名の被検者に25%酸化亜鉛(0.625%ジメチコンでコーティング)を含むコーン油を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、いずれの被検者においても有害な皮膚反応はみられず、この試験製剤は皮膚刺激および皮膚感作を示さなかった(P. Dufour,1991)
- [動物試験] 3匹のウサギの剃毛した皮膚に酸化亜鉛を分散した脱イオン水0.5mLを適用し、OECD404テストガイドラインに基づいてパッチ除去1,24,48および72時間後に皮膚刺激性を評価したところ、この試験物質はいずれの観察時間においても皮膚刺激を示さなかった(S. Cantor,1994)
- [動物試験] 10匹のモルモットを用いて酸化亜鉛を対象にOECD406テストガイドラインに基づいて皮膚感作性試験を実施したところ、この試験物質は皮膚感作剤ではなかった(B.V. Notox,1999)
– ナノ粒子 –
- [ヒト試験] 50名の被検者に25%微粒子酸化亜鉛を含むコーン油を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、いずれの被検者においても有害な皮膚反応はみられず、この試験製剤は皮膚刺激および皮膚感作を示さなかった(Umicore,2007)
- [動物試験] 10匹のモルモットを用いて微粒子酸化亜鉛(20nm)を分散した水溶液を対象にOECD406テストガイドラインに基づいてMaximization皮膚感作性試験を実施したところ、この試験物質は皮膚感作を誘発しなかった(Shiseido,2006)
このように記載されており、試験データをみるかぎりナノ化の有無に関わらず共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
4.2. 眼刺激性
Scientific Committee on Cosmetic Products and Non-food products intended for ConsumersおよびScientific Committee on Consumer Safetyの安全性データ[15b][16b]によると、
– 非ナノ粒子 –
- [動物試験] ウサギ(数不明)の片眼に酸化亜鉛約64mgを適用し、24時間後に眼をすすぎ、OECD405テストガイドラインに基づいて適用1,24,48および72時間後に眼刺激性を評価したところ、わずかな発赤や虹彩刺激がみられたが、これらの刺激は72時間までにすべて消失し、この試験物質は非刺激剤に分類された(B.V. Notox,1999)
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に6%酸化亜鉛を分散した水溶液0.1mLを点眼し、30秒後に3匹は眼をすすぎ、残りの3匹は眼をすすがず、Draize法に基づいて点眼1,2,3,4および7日後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質は洗眼の有無にかかわらず眼刺激を示さなかった(M. Atsunobo,1994)
– ナノ粒子 –
- [動物試験] 3匹を1群としそれぞれのウサギの片眼に100%微粒子酸化亜鉛(20nm)および25%微粒子酸化亜鉛(20nm)を分散したオリーブ油0.1mLを適用し、OECD405テストガイドラインに基づいて適用1および4時間後および1,23,6および7日後まで眼刺激性を評価したところ、濃度100%群においては1時間で3匹に発赤、2匹に軽度の浮腫がみられ、これらの刺激は6日目ですべて消失した。濃度25%群においては3匹に発赤、わずかな浮腫がみられ、これらの刺激は2日目ですべて消失した。刺激は濃度に依存し、どちらもわずかかつ一時的な刺激がみられたことから、これらの試験物質は軽度の眼刺激剤に分類された(Shiseido,2006)
このように記載されており、試験データをみるかぎり非ナノ粒子においては共通して眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。
一方でナノ粒子においては軽度の眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は軽度の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
4.3. 光毒性(光刺激性)および光感作性
Scientific Committee on Cosmetic Products and Non-food products intended for Consumersの安全性データ[15c]によると、
– 非ナノ粒子 –
- [ヒト試験] 30名の被検者に25%酸化亜鉛を含む乳化物を24時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後試験部位の一箇所にUVAを照射した。照射0,24および48時間後に光刺激性を評価したところ、いずれの被検者においても光刺激反応はみられず、この試験物質は光刺激剤ではなかった(E. Fink,1997)
- [ヒト試験] 30名の被検者に25%酸化亜鉛を含む乳化物を対象に光感作性試験をともなうHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)をUVBおよびUVAにて実施したところ、この試験物質は光感作反応を誘発しなかった(E. Fink,1997)
このように記載されており、試験データをみるかぎり非ナノ粒子において光刺激および光感作なしと報告されているため、一般に光毒性(光刺激性)および光感作性はほとんどないと考えられます。
非ナノ粒子に光毒性および光感作の兆候がみられないことから、ナノ粒子においてはこれらの試験は実施されておらず、同様の試験データになると考えられています[16c]。
5. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「酸化亜鉛」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,449.
- ⌃鈴木 福二・田中 宗男(1982)「無機顔料-Ⅰ無彩色顔料」色材協会誌(55)(6),413-428. DOI:10.4011/shikizai1937.55.413.
- ⌃abS. Daly, et al(2016)「Chemistry of Sunscreens」Principles and Practice of Photoprotection,159-178. DOI:10.1007/978-3-319-29382-0_10.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(2016)「無機系紫外線防御剤」パーソナルケアハンドブックⅠ,456-459.
- ⌃坂井 章人(2011)「微粒子粉体:紫外線防止と粉体」色材協会誌(84)(9),329-334. DOI:10.4011/shikizai.84.329.
- ⌃ab浦部 晶夫, 他(2021)「亜鉛華軟膏」今日の治療薬2021:解説と便覧,1109.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「酸化亜鉛」医薬品添加物事典2021,263-264.
- ⌃柴田 雅史(2021)「白色顔料-酸化亜鉛」美しさをつくる色材工学 -化粧品の開発からもっときれいになる使い方まで-,175-176.
- ⌃abcd正木 仁(2003)「紫外線」化粧品事典,500-502.
- ⌃磯貝 理恵子・山田 秀和(2021)「太陽光線と皮膚:マクロの変化」臨床光皮膚科学,16-22.
- ⌃abcde錦織 千佳子(2009)「紫外線と光防御」美容皮膚科学 改定2版,31-39.
- ⌃abc日光ケミカルズ株式会社(2016)「紫外線障害予防剤」パーソナルケアハンドブックⅠ,586-594.
- ⌃abc富田 靖(2009)「メラニンと色素異常」美容皮膚科学 改定2版,22-30.
- ⌃本間 茂継(2014)「化粧品開発に用いられる紫外線防御素材」日本化粧品技術者会誌(48)(1),2-10. DOI:10.5107/sccj.48.2.
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