グアイアズレンの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | グアイアズレン |
---|---|
医薬部外品表示名 | グアイアズレン |
INCI名 | Guaiazulene |
配合目的 | 着色、抗炎症、抗アレルギー、紫外線防御補助 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表される二環式セスキテルペンに分類される環式炭化水素です[1a]。
1.2. 物性・性状
グアイアズレンの物性・性状は(∗1)、
∗1 融点とは固体が液体になりはじめる温度のことです。
状態 | 青色の固体または液体 |
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融点(℃) | 30-31.5 |
溶解性 | 油脂、パラフィン、ワックス、精油に可溶、無水エタノールに微溶、水に不溶 |
このように報告されています[2a]。
1.3. 分布
グアイアズレンは、自然界においてユソウボク(学名:Guaiacum officinale)やバハマユソウボク(学名:Guaiacum sanctum)の精油中に存在しています[2b][3]。
1.4. 化粧品以外の主な用途
グアイアズレンの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
---|---|
医薬品 | 抗炎症作用を有することから、湿疹や熱傷などによるびらん・潰瘍の外用薬として用いられています[4a]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 青色の着色
- 抗炎症作用
- ヒスタミン遊離抑制による抗アレルギー作用
- UVB吸収による紫外線防御補助効果
主にこれらの目的で、スキンケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、リップケア製品、洗顔料、洗顔石鹸、クレンジング製品、マスク製品などに使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 青色の着色
青色の着色に関しては、グアイアズレンは青色の固体または液体であり、天然由来色素として青色の着色または他の着色剤と組み合わせて様々な色に着色する目的で様々な製品に使用されています[1b]。
2.2. 抗炎症作用
紅斑抑制による抗炎症作用に関しては、グアイアズレンは紫外線による紅斑抑制効果などの抗炎症作用が認められていることから湿疹、皮膚炎、びらん性皮膚疾患などの抗炎症外用薬として用いられており[4b][5a]、紫外線による紅斑や肌荒れによる炎症を鎮める目的でスキンケア製品、マスク製品、リップケア製品、シャンプー製品、石鹸などに使用されています[6a]。
2.3. ヒスタミン遊離抑制による抗アレルギー作用
抗アレルギー作用に関しては、まず前提知識として皮膚におけるアレルギーの種類およびⅠ型アレルギー性皮膚炎のメカニズムについて解説します。
皮膚におけるアレルギー反応は、
種類 | 名称 | 抗体 | 抗原 |
---|---|---|---|
Ⅰ型 | 即時型 アナフィラキシー型 |
IgE | 化粧品、薬剤、洗剤、ダニ、カビ、ハウスダスト、金属、花粉、ほか |
Ⅳ型 | 遅延型 細胞性免疫 |
感作T細胞 | 細菌、真菌、自己抗原 |
種類 | 皮膚反応 | 考えられる主な疾患 |
---|---|---|
Ⅰ型 | 15-20分で最大の発赤と膨疹 | アナフィラキシーショック、蕁麻疹、アレルギー性鼻炎、結膜炎、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、ほか |
Ⅳ型 | 24-72時間で最大の紅斑と硬結 | アレルギー性接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、ほか |
主にこの2種類に分類されています(∗2)[7][8][9a]。
∗2 アレルギーの分類としてはⅠ型-Ⅳ型まで4種類が存在し、Ⅰ型-Ⅲ型までの3種類が即時型に分類されていますが、皮膚に関連するものはⅠ型とⅣ型であることから、ここではⅠ型とⅣ型のみで構成しています。
Ⅰ型アレルギーは、即時型アレルギーまたはアナフィラキシー型とも呼ばれ、皮膚反応としては15-20分で最大に達する発赤・膨疹を特徴とする即時型皮膚反応を示しますが、このⅠ型アレルギー性炎症反応が起こるメカニズムは、以下のアレルギー性皮膚炎のメカニズム図をみてもらうとわかるように、
まず、アレルギーを起こす原因物質(抗原)が皮膚や粘膜から体内に侵入すると、抗原提示細胞(ランゲルハンス細胞や真皮樹状細胞)がその抗原の一部を自らの細胞表面に提示し、次にヘルパーT細胞の一種であるTh2細胞が抗原提示細胞の提示した抗原情報を認識し、抗原と結合して抗炎症性サイトカインの一種であるIL-4(Interleukin-4)を分泌します[9b]。
次に、Th2細胞から分泌されたIL-4によりB細胞が刺激を受けIgE抗体を産生し、このIgE抗体が肥満細胞の表面にある受容体に結合することによりIgE抗体と抗原が反応し、肥満細胞に貯蔵されていたケミカルメディエーターであるヒスタミンが放出(脱顆粒)され、同時に細胞膜からはアラキドン酸が遊離し、ケミカルメディエーターであるロイコトリエンやプロスタグランジンに代謝されます[9c]。
そして、放出されたヒスタミンはヒアルロニダーゼを活性化し、アラキドン酸から代謝されたロイコトリエンやプロスタグランジンとともに血管透過性を亢進させて浮腫を起こし、好酸球など炎症細胞の遊走を誘導し、炎症を引き起こします[9d][10]。
このような背景から、アレルギー性皮膚炎や肌荒れなどバリア機能が低下している場合に、ヒスタミンの遊離を抑制することはアレルギー性炎症の抑制において重要であると考えられます。
グアイアズレンはヒスタミン遊離抑制作用が認められていることから、湿疹、皮膚炎、びらん性皮膚疾患などの抗アレルギー外用薬として用いられており[4c][5b]、肌荒れや皮膚過敏反応を鎮める目的でスキンケア製品、マスク製品、シャンプー製品、石鹸などに使用されています。
2.4. UVB吸収による紫外線防御補助効果
UVB吸収による紫外線防御補助効果に関しては、まず前提知識として紫外線(ultraviolet:UV)および紫外線の皮膚への影響について解説します。
紫外線とは、以下の図表のように、
紫外線の分類 | 略称 | 波長領域(nm) |
---|---|---|
長波長紫外線 | UVA | 320-400 |
中波長紫外線 | UVB | 290-320 |
短波長紫外線 | UVC | 190-290 |
太陽による光の波長のうち可視光線よりも波長の短いものを指し、生物学的な作用によって3種類に分類されていますが、以下の図が示すように、
300nm以下の波長のものは成層圏のオゾン層に吸収されるため、地上に到達するのは波長領域300-400nm、つまりUVBの一部(300-320nm)とUVAのみであり、人体に作用するのはUVBおよびUVAであることが知られています[11a][12][13a]。
UVBおよびUVAによるヒト皮膚に対する障害は、以下の表のように、
UVB | UVA | ||
---|---|---|---|
皮膚到達度 | 表皮まで | 真皮まで | |
皮膚 外観 変化 |
単回 曝露 |
一過性の炎症(紅斑) 遅延黒化(紅斑消退後) |
一過性の即時黒化 UVBによる紅斑の増強 一過性の紅斑(大量曝露時) |
反復 曝露 |
持続型黒化の増強 | 光老化皮膚の形成 | |
皮膚 内部 変化 |
単回 曝露 |
表皮細胞の損傷 DNAの損傷 メラニン産生の促進 活性酸素(・O2–)の生成 活性酸素(NO)の促進 |
活性酸素(1O2)の生成 |
反復 曝露 |
メラノサイトの増殖 | 真皮細胞外マトリックスの変性 |
皮膚外観および皮膚内部のそれぞれで、主にこれらの変化が報告されています[11b][13b][14a][15a]。
UVBは、単回曝露時の即時的な皮膚反応としていわゆる「日焼け」とよばれる紅斑や浮腫のような炎症反応を引き起こすことが知られており、この炎症が紫外線曝露24時間をピークとして消退したあとに(紫外線曝露から3日後に)各メラノサイト活性化因子の分泌が亢進し、メラノサイトがそれらを受け取ることでメラノサイト内でメラニン産生が促進され、遅延型黒化を引き起こします(∗3)[11c][13c][15b]。
∗3 紫外線曝露による、炎症のメカニズムについては抗炎症成分カテゴリで、メラニン産生促進による黒化のメカニズムについては美白成分カテゴリでそれぞれ解説しているので併せて参照してください。
また、反復曝露(長期間の曝露)による主な皮膚反応としてメラノサイトの増殖によってメラニン量が増加することによる皮膚の持続的な黒化や部分的な色素沈着があります[13d][14b]。
一方で、UVAは単回曝露時の即時的な皮膚反応として、曝露した直後に皮膚が黒化する即時黒化を引き起こしますが、この即時黒化反応は2-3時間で消失する一時的な皮膚の外観変化であり、メラニンの生成促進によって引き起こされたものではなく、皮膚にすでに存在している淡色のメラニン(還元メラニン)の光酸化によるものであると考えられています[14c][15c]。
また、反復曝露(長期間の曝露)による主な皮膚反応として真皮に存在する細胞外マトリックスの変性による皮膚の老化(ハリや弾力の低下)が促進されることが知られています(∗4)[11d][13e]。
∗4 皮膚の老化(光老化)のメカニズムについては、抗老化成分カテゴリで解説しているので、併せて参照してください。
このような背景から、過剰なUVBおよびUVAの曝露から皮膚を保護することは、健常な皮膚の維持や光老化の予防という点で重要であると考えられています。
グアイアズレンは、UVB領域である280-310nmに高い紫外線吸収性を示すUVB吸収能を有していることから、UVB吸収による紫外線防御補助目的で化粧下地製品、日焼け止め製品などに使用されています[2c][6b]。
3. 配合量範囲
グアイアズレンは、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。
種類 | 配合量 |
---|---|
薬用石けん・シャンプー・リンス等、除毛剤 | 0.50 |
育毛剤 | 0.030 |
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 | 0.030 |
薬用口唇類 | 0.010 |
薬用歯みがき類 | 0.010 |
浴用剤 | 0.010 |
染毛剤 | 0.05 |
パーマネント・ウェーブ用剤 | 0.24 |
4. 安全性評価
- 局外規2002規格の基準を満たした成分が収載される日本薬局方外医薬品規格2002に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
日本薬局方外医薬品規格2002および医薬部外品原料規格2021に収載されており、また医薬部外品において配合量の上限が定められており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
4.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
5. 参考文献
- ⌃ab日本化粧品工業連合会(2013)「グアイアズレン」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,345.
- ⌃abc日光ケミカルズ株式会社(2006)「天然色素」新化粧品原料ハンドブックⅠ,333-344.
- ⌃大木 道則, 他(1989)「グアイアズレン」化学大辞典,609.
- ⌃abc浦部 晶夫, 他(2021)「アズレン」今日の治療薬2021:解説と便覧,508.
- ⌃ab日本新薬株式会社(2005)「炎症性皮膚疾患治療剤 アズノール軟膏0.033%」医薬品インタビューフォーム.
- ⌃ab鈴木 一成(2012)「グアイアズレン」化粧品成分用語事典2012,407.
- ⌃厚生労働省(2010)「アレルギー総論」リウマチ・アレルギー相談員養成研修会テキスト,5-14.
- ⌃R.R.A. Coombs, et al(1968)「Classification of Allergic Reactions Responsible for Clinical Hypersensitivity and Disease」Clinical Aspects of Immunology Second Edition,575-596.
- ⌃abcd西部 幸修, 他(1999)「植物抽出物の抗アレルギー作用」Fragrance Journal臨時増刊(16),109-115.
- ⌃椛島 健治(2009)「皮膚のスーパー免疫」美容皮膚科学 改定2版,46-51.
- ⌃abcd正木 仁(2003)「紫外線」化粧品事典,500-502.
- ⌃磯貝 理恵子・山田 秀和(2021)「太陽光線と皮膚:マクロの変化」臨床光皮膚科学,16-22.
- ⌃abcde錦織 千佳子(2009)「紫外線と光防御」美容皮膚科学 改定2版,31-39.
- ⌃abc日光ケミカルズ株式会社(2016)「紫外線障害予防剤」パーソナルケアハンドブックⅠ,586-594.
- ⌃abc富田 靖(2009)「メラニンと色素異常」美容皮膚科学 改定2版,22-30.