フィチン酸の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | フィチン酸 |
---|---|
医薬部外品表示名 | フィチン酸液 |
INCI名 | Phytic Acid |
配合目的 | 金属イオン封鎖(キレート) など |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表される、環状六価アルコールであるイノシトールの6個のヒドロキシ基(-OH)にそれぞれリン酸基(H2PO4−)がエステル結合した六リン酸エステルです[1a][2]。
1.2. 分布
フィチン酸は、自然界において遊離状態で存在することはほとんどなく、カルシウム、マグネシウム、カリウムなどと混合した塩の形「フィチン(phytin)」として植物界に広く分布しており、とくにイネやトウモロコシをはじめとするイネ科植物の種子部に多く含有されています[3a][4a]。
1.3. 化粧品以外の主な用途
フィチン酸の化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
---|---|
食品 | 金属キレート作用およびキレート作用に基づく抗酸化作用があることから、果汁や色素の変色防止、加熱時の食品の変色防止、保存安定化目的で農畜水産加工品、飲料、菓子、デザートなどに用いられるほか[5][6a]、強酸性を示すことから酸味料として清涼飲料、マヨネーズなどに用いられます[4b]。 |
医薬品 | 賦形目的の医薬品添加剤として経口剤に用いられています[7]。 |
これらの用途が報告されています。
フィチン酸は、二価以上の金属イオンと強く結合するキレート作用をもちますが、バランスのとれた食事中に含まれる1-2gのフィチン酸は健常人のミネラル代謝に影響しないことが報告されています[6b]。
2. 化粧品としての配合目的
- 金属イオン封鎖作用(キレート作用)
主にこれらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、シート&マスク製品、洗顔料、洗顔石鹸、クレンジング製品、ボディソープ製品、化粧下地製品、アウトバストリートメント製品、デオドラント製品、入浴剤など様々な製品に使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 金属イオン封鎖作用(キレート作用)
金属イオン封鎖作用(キレート作用)に関しては、まず前提知識として化粧品における金属イオンの働きおよび金属イオン封鎖作用について解説します。
化粧品や洗髪に使用する水の中に金属イオンが含まれていると、
対象 | 金属イオンによる影響 |
---|---|
化粧品 | 酸化促進による油脂類の変臭や変色、機能性成分の阻害 |
透明系化粧品 | 濁り、沈殿 |
シャンプーをすすぐ水 | 泡立ちの悪化、金属セッケンの生成による毛髪のきしみ |
このような品質劣化や機能の低下などを引き起こすことが知られていることから、化粧品や洗髪における水による金属イオンの働きを抑制(封鎖)する目的で金属イオン封鎖剤(キレート剤)が用いられています[8a][9]。
フィチン酸は金属イオン封鎖能を有していることから、主に金属イオンを含む硬水の軟化や化粧品の安定化目的で様々な化粧品に汎用されています[1b][3b][8b]。
3. 配合製品数および配合量範囲
配合製品数および配合量に関しては、海外の2017-2018年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗1)。
∗1 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
4. 安全性評価
- 食品添加物の既存添加物リストに収載
- 薬添規2018規格の基準を満たした成分が収載される医薬品添加物規格2018に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 40年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ[10]によると、
- [ヒト試験] 21名の被検者に0.25%フィチン酸を含む製品を24時間閉塞パッチ適用したところ、いずれの被検者も皮膚刺激を示さなかった(Anonymous,2010)
- [ヒト試験] 110名の被検者に5%フィチン酸を含む保湿剤0.2gを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、誘導期間において48時間で1名の被検者に軽度の紅斑がみられたが、この反応は96時間で消失した。いずれの被検者も遅延型接触感作の兆候はなかった(Hill Top Research Inc,1995)
- [ヒト試験] 104名の被検者に1%フィチン酸を含む化粧製品を対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を半閉塞パッチにて実施したところ、チャレンジ期間において1名の被検者にほとんど知覚できない紅斑が観察されたが、皮膚感作性は陰性に分類された (Essex Testing Clinic Inc,2012)
- [ヒト試験] 98名の被検者に1%フィチン酸を含む化粧品を対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、試験期間中に皮膚反応は観察されず、この製品の適用は皮膚刺激および皮膚感作と関連はないと結論付けられた (Essex Testing Clinic Inc,2011)
- [ヒト試験] 25名の被検者に0.25%フィチン酸を含むフェイスゲルを対象にMaximization皮膚感作性試験を実施したところ、チャレンジパッチ適用48および72時間後でいずれの被検者もアレルギー性接触性皮膚感作の兆候を示さなかった (KGL Inc,2011)
このように記載されており、試験データをみるかぎりほぼ共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
4.2. 眼刺激性
化粧品配合量における試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
5. 参考文献
- ⌃ab日本化粧品工業連合会(2013)「フィチン酸」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,829.
- ⌃“Pubchem”(2021)「Phytic acid」,2021年6月9日アクセス.
- ⌃ab木村 午朗(1967)「フィチン酸について」有機合成化学協会誌(25)(2),167-179. DOI:10.5059/yukigoseikyokaishi.25.167.
- ⌃ab樋口 彰, 他(2019)「フィチン酸」食品添加物事典 新訂第二版,295.
- ⌃早川 利郎・伊賀上 郁夫(1992)「フィチン酸の構造と機能」日本食品工業学会誌(39)(7),647-655. DOI:10.3136/nskkk1962.39.647.
- ⌃ab谷口 久次, 他(2012)「米糠含有成分の機能性とその向上」日本食品科学工学会誌(59)(7),301-318. DOI:10.3136/nskkk.59.301.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「フィチン酸」医薬品添加物事典2021,507.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(2006)「金属イオン封鎖剤」新化粧品原料ハンドブックⅠ,476-480.
- ⌃神田 吉弘(2010)「金属イオン封鎖剤」化粧品科学ガイド 第2版,258.
- ⌃W.F. Bergfeld, et al(2018)「Safety Assessment of Polyol Phosphates as Used in Cosmetics(∗2)」,2021年6月9日アクセス.
∗2 PCPCのアカウントをもっていない場合はCIRをクリックし、表示されたページ中のアルファベットをどれかひとつクリックすれば、あとはアカウントなしでも上記レポートをクリックしてダウンロードが可能になります。