メタリン酸Naの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | メタリン酸Na |
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医薬部外品表示名 | メタリン酸ナトリウム |
部外品表示簡略名 | メタリン酸Na |
INCI名 | Sodium Metaphosphate |
配合目的 | 金属イオン封鎖(キレート) |
1. 基本情報
1.1. 定義
化学式「(NaPO3)n」で表されるメタリン酸(∗1)のナトリウム塩です[1a][2]。
∗1 メタリン酸は、様々なポリリン酸の総称であり、通常は種々の重合度の混合物です。
化粧品におけるメタリン酸Na(sodium metaphosphate)は、化学式「(NaPO3)6」で表されるヘキサメタリン酸Na(sodium hexametaphosphate)と同一とみなされる構造をもつポリリン酸塩を指します。
1.2. 化粧品以外の主な用途
メタリン酸Naの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
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食品 | 金属イオンをキレートする作用が強く、タンパク質の沈殿剤や結着剤または保水性の分散剤として魚肉練製品、食肉練製品などに用いられています[3]。 |
医薬品 | 安定・安定化、緩衝、結合、粘稠、分散目的の医薬品添加剤として経口剤、外用剤に用いられています[4]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 金属イオン封鎖作用(キレート作用)
主にこれらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、シート&マスク製品、日焼け止め製品、洗顔料、クレンジング製品、ボディソープ製品など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 金属イオン封鎖作用(キレート作用)
金属イオン封鎖作用(キレート作用)に関しては、まず前提知識として化粧品における金属イオンの働きおよび金属イオン封鎖作用について解説します。
化粧品や洗髪に使用する水の中に金属イオンが含まれていると、
対象 | 金属イオンによる影響 |
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化粧品 | 酸化促進による油脂類の変臭や変色、機能性成分の阻害 |
透明系化粧品 | 濁り、沈殿 |
シャンプーをすすぐ水 | 泡立ちの悪化、金属セッケンの生成による毛髪のきしみ |
このような品質劣化や機能の低下などを引き起こすことが知られていることから、化粧品や洗髪における水による金属イオンの働きを抑制(封鎖)する目的で金属イオン封鎖剤(キレート剤)が用いられています[5a][6]。
メタリン酸Naは金属イオン封鎖能を有していることから、主に金属イオンを含む硬水の軟化や化粧品の安定化目的で様々な化粧品に汎用されています[1b][5b]。
3. 配合製品数および配合量範囲
配合製品数および配合量に関しては、海外の2015-2016年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗2)。
∗2 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
4. 安全性評価
- 食品添加物の指定添加物リストに収載
- 薬添規2018規格の基準を満たした成分が収載される医薬品添加物規格2018に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 40年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
化粧品におけるメタリン酸Naは、ヘキサメタリン酸Naと同一とみなされる構造をもつことから、メタリン酸Naの試験データがみあたらない場合はヘキサメタリン酸Naの試験データで代用しています。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ[7a]によると、
– 健常皮膚を有する場合 –
- [ヒト試験] 200名の被検者に2.04%ヘキサメタリン酸Naを含むアゾ染料混合物の4%水溶液1mLを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、2名の被検者に皮膚反応が認められた。皮膚反応を示した2名の被検者に再チャレンジパッチを実施したところ、この試験物質は皮膚感作性をもつ可能性があるが、皮膚刺激性はないと結論づけた(Food and Drug Research Laboratories Inc,1973)
– 皮膚炎を有する場合 –
- [ヒト試験] 化粧品に対する接触アレルギーが疑われるまたは確認された20名の患者に1%ヘキサメタリン酸Na水溶液をパッチテストしたところ、いずれの患者においても皮膚刺激の兆候は確認されなかった(de Groot,1994)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚状態にかかわらず皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
皮膚感作性については、少数ですが皮膚感作反応の可能性を示す報告があるため、皮膚感作を引き起こす可能性があると考えられますが、食品や医薬品にも使用されており、40年年の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられます。
4.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ[7b]によると、
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼の結膜嚢に0.2%ヘキサメタリン酸Na水溶液0.1mLを点眼し、24,48および72時間後に眼刺激性を評価したところ、いずれのウサギにおいても眼刺激性の兆候はみられなかった(Stauffer Chemical Company,1971)
このように記載されており、試験データをみるかぎり眼刺激性なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。
5. 参考文献
- ⌃ab日本化粧品工業連合会(2013)「メタリン酸Na」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,982.
- ⌃大木 道則, 他(1989)「メタリン酸ナトリウム」化学大辞典,2322.
- ⌃樋口 彰, 他(2019)「メタリン酸ナトリウム」食品添加物事典 新訂第二版,352-353.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「メタリン酸ナトリウム」医薬品添加物事典2021,656.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(2006)「金属イオン封鎖剤」新化粧品原料ハンドブックⅠ,476-480.
- ⌃神田 吉弘(2010)「金属イオン封鎖剤」化粧品科学ガイド 第2版,258.
- ⌃abL.S. Lanigan(2001)「Final Report on the Safety Assessment of Sodium Metaphosphate, Sodium Trimetaphosphate, and Sodium Hexametaphosphate」International Journal of Toxicology(20)(3_Suppl),75-89. DOI:10.1080/10915810152630756.