アミノ酪酸の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | アミノ酪酸 |
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医薬部外品表示名 | γ-アミノ酪酸、アミノ酪酸 |
慣用名 | GABA |
INCI名 | Aminobutyric Acid |
配合目的 | 細胞賦活 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるカルボキシ基(-COOH)とアミノ基(-NH2)をもつ双性イオン化合物(∗1)かつアミノ酸です[1]。
∗1 双性イオン化合物とは、両性イオン化合物とも呼び、一つの分子内にプラス電荷とマイナス電荷の両方を持ち、全体としては中性イオンを示す化合物を指します。
アミノ酪酸は、アミノ基(-NH2)のつく位置によってα-、β-、γ-の3種類の構造異性体が存在しますが、一般に食品(健康食品含む)や化粧品分野に用いられるアミノ酪酸は「γ-アミノ酪酸」であり、γ-アミノ酪酸は英名の「Gamma-Amino Butylic Acid」の頭文字をとって「GABA(ギャバ)」の略称で広く知られています。
1.2. 物性・性状
アミノ酪酸の物性・性状は、
状態 | 結晶 |
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溶解性 | 水に易溶、エタノールに難溶 |
1.3. 分布
アミノ酪酸は、動物、植物、微生物など自然界に広く分布する非タンパク質構成のアミノ酸として分布しており、動物においてはとくに脳組織に多く存在し、植物においては食品として発芽玄米など穀類、カボチャやトマトなど野菜、茶葉(∗2)、キムチなど発酵食品などに微量に含まれています[4a][5a]。
∗2 緑茶を窒素ガスで処理することにより、高いγ-アミノ酪酸含有量を有する「ギャバロン茶」が知られています。
1.4. 皮膚における働き
生体の細胞内では、以下のATP産生メカニズム図をみてもらうとわかるように、
グルコースが輸送されることにより「解糖系」「クエン酸回路」「電子伝達」とよばれる分解過程のそれぞれで生体のエネルギー伝達物質であるATP(adenosine tri-phosphate:アデノシン三リン酸)が産生されることが知られています[6]。
γ-アミノ酪酸(GABA)は、以下のクエン酸回路とγ-アミノ酪酸生合成の関係図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
主に中枢神経系において、クエン酸回路の中で合成されたα-ケトグルタル酸がアミノ基転移酵素を介してグルタミン酸に転換され、さらにグルタミン酸がGAD(glutamic acid decarboxylase:グルタミン酸デカルボキシラーゼ)を介することによって合成され、γ-アミノ酪酸が増加するとクエン酸回路活性化(脳内のグルコース代謝を促進)され、その結果として脳血流や酸素供給が促進され、脳機能が改善されると考えられています[5b]。
皮膚においては、まず前提知識として皮膚における真皮の構造を解説します。
以下の皮膚構造図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、皮膚上層部は、
直接外界に接する皮膚最外層である角質層を含む表皮と、表皮を支える真皮から構成されていることが知られています。
表皮を下から支える真皮を構成する成分としては、細胞成分と線維性組織を形成する間質成分(細胞外マトリックス成分)に二分され、以下の表のように、
分類 | 構成成分 | |
---|---|---|
間質成分 | 膠原線維 | コラーゲン |
弾性繊維 | エラスチン | |
基質 | 糖タンパク質、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン | |
細胞成分 | 線維芽細胞 |
主成分である間質成分は、大部分がコラーゲンからなる膠原線維とエラスチンからなる弾性繊維、およびこれらの間を埋める基質で占められており、細胞成分としてはこれらを産生する線維芽細胞がその間に散在しています[7a][8a]。
細胞間を満たす無定形成分である基質は、親水性が強く水分量の調整、水溶性物質の組織への浸透・拡散に重要な役割を果たすとともにコラーゲンやエラスチンと結合して繊維を安定化させることにより皮膚の柔軟性を保持しています[7b][8b]。
この基質は、主に糖タンパク質(glycoprotein)とプロテオグリカン(proteoglycan)およびグリコサミノグリカン(glycosaminoglycan)で構成されており、グリコサミノグリカンとしてはヒアルロン酸とデルマタン硫酸(コンドロイチン硫酸B)が多いのが特徴です[9a]。
ヒアルロン酸は粘稠性が強く、大量の水分保持能があり、細胞の足場として機能するのに対してデルマタン硫酸は繊維の維持や他の基質を保持しています[9b]。
γ-アミノ酪酸は、真皮の線維芽細胞に存在が確認されており、ヒアルロン酸の産生を促進することが報告されていますが[10]、皮膚における研究データはまだ少なく、今後新たな情報がみつかりしだい追補・再編集します。
1.5. 化粧品以外の主な用途
アミノ酪酸の化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
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食品 | 血圧降下作用を有することから、血圧降下目的の特定保険用食品として認可および利用されています[4b][11]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 表皮角化細胞増殖促進および表皮ヒアルロン酸産生促進による細胞賦活作用
主にこれらの目的で、スキンケア製品、マスク製品、メイクアップ製品、洗顔料などに使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 表皮角化細胞増殖促進および表皮ヒアルロン酸産生促進による細胞賦活作用
表皮角化細胞増殖促進および表皮ヒアルロン酸産生促進による細胞賦活作用に関しては、まず前提知識としてターンオーバーの仕組みと表皮におけるヒアルロン酸の役割について解説します。
皮膚は大きく最外層の表皮と表皮を支える真皮に分かれており、ターンオーバーについては以下の表皮の構造図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
ターンオーバー(turnover)とは、血液やリンパなどから栄養素や調節因子などの制御を受けながら、表皮最下層である基底層で生成された角化細胞(表皮細胞:ケラチノサイト)がその次につくられた、より新しい角化細胞によって皮膚表面に向かって押し上げられるとともに分化していき、最後はケラチンから成る角質細胞となり、角質層にとどまった後に角片(∗3)として剥がれ落ちる表皮の新陳代謝のことをいい、正常なターンオーバーによって皮膚の新鮮さおよび健常性が保持されています[12][13]。
∗3 角片とは、体表部分でいえば垢、頭皮でいえばフケを指します。
次に、表皮においてヒアルロン酸は、密接に隣接した細胞間に網目状に高濃度で存在することが確認されており、表皮細胞間において増殖・分化・移動・接着といった基本的な細胞機能と密接な関係があり、かつ下層細胞間の細胞外空間維持、上層の細胞への栄養供給、老廃物の排出促進などの機能が明らかにされています[14a][15]。
一方で、加齢にともない基底細胞の分裂能が低下し[16]、また加齢にともなう表皮ヒアルロン酸の減少は皮膚機能の低下に関与すると考えられています[14b]。
このような背景から、表皮ヒアルロン酸の産生を促進することや表皮細胞の分裂・増殖・分化を促進し健常なターンオーバー機能を保持することは、健常な皮膚の維持において重要であると考えられています。
2007年にクラシエホームプロダクツによって報告されたアミノ酪酸の表皮角化細胞および表皮ヒアルロン酸への影響検証によると、
– in vitro : 表皮細胞増殖作用 –
培養ヒト表皮角化細胞に各濃度のアミノ酪酸を添加し、培養後に表皮角化細胞量を測定したところ、以下のグラフのように、
アミノ酪酸の添加によって表皮細胞の有意な増加が確認できた。
– in vitro : ヒアルロン酸産生促進作用 –
培養ヒト表皮角化細胞に各濃度のアミノ酪酸を添加し、3日間培養後にヒアルロン酸産生量を測定したところ、以下のグラフのように、
少なくとも0.38mg/L以上のアミノ酪酸の添加によって、ヒアルロン酸産生量は有意に促進されたことが確認された。
このような検証結果が明らかにされており[17]、アミノ酪酸に表皮角化細胞増殖促進および表皮ヒアルロン酸産生促進作用が認められています。
次に、2012年にクラシエホームプロダクツによって報告されたアミノ酪酸のヒト皮膚水分蒸散量および肌理(キメ)に対する有効性検証によると、
– ヒト使用試験 –
10名の被検者に0.1%アミノ酪酸配合乳化製剤含浸マスクおよびアミノ酪酸未配合乳化製剤含浸マスクを3日に1回、1ヶ月にわたって全10回ハーフマスク適用し、適用終了後に水分蒸散量を測定したところ、以下のグラフのように、
0.1%アミノ酪酸配合製剤含浸マスクは、未配合製剤含浸マスクと比較して表皮水分蒸散量が有意に改善していることから、実際の化粧品としても有効であることを確認した。
また、同試験において連用後のキメの状態を観察し、被検者に「良好」「やや良好」「普通」「悪い」の4段階で評価してもらったところ、以下の表のように、
試料 | キメに対する評価(人数) | |||
---|---|---|---|---|
良好 | やや良好 | 普通 | 悪い | |
アミノ酪酸 | 8 | 2 | 0 | 0 |
製剤のみ | 0 | 6 | 4 | 0 |
0.1%アミノ酪酸配合製剤含浸マスクは、未配合製剤含浸マスクと比較してキメの改善率が高いことから、実際の化粧品としても有効であると考えられた。
このような検証結果が明らかにされており[18]、アミノ酪酸にターンオーバー促進作用およびキメ改善作用(細胞賦活作用)が認められています。
3. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
3.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
医薬部外品原料規格2021に収載されており、10年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
3.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
4. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「アミノ酪酸」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,150.
- ⌃大木 道則, 他(1989)「γ-アミノ酪酸」化学大辞典,88.
- ⌃有機合成化学協会(1985)「γ-アミノ酪酸」有機化合物辞典,67.
- ⌃ab下位 香代子(2007)「γ-アミノ酸」機能性食品の事典,182-183.
- ⌃ab佐々木 泰弘・河野 元信(2010)「ギャバ(GABA)の効能と有効摂取量に関する文献的考察」美味技術研究会誌(15),32-37. DOI:10.11274/bimi2002.2010.15_32.
- ⌃二井 將光(2017)「植物から動物へ。糖を変換してATPエネルギー生産」生命を支えるATPエネルギー メカニズムから医療への応用まで,31-68.
- ⌃ab朝田 康夫(2002)「真皮のしくみと働き」美容皮膚科学事典,28-33.
- ⌃ab清水 宏(2018)「真皮」あたらしい皮膚科学 第3版,13-20.
- ⌃ab大塚 藤男(2011)「真皮」皮膚科学 第9版,32-44.
- ⌃伊藤 賢一(2006)「GABA合成酵素(GAD)を活性化するビルベリーエキスの抗老化作用」Fragrance Journal(34)(8),48-53.
- ⌃鈴木 洋(2011)「ギャバ」カラー版健康食品・サプリメントの事典,237.
- ⌃朝田 康夫(2002)「表皮を構成する細胞は」美容皮膚科学事典,18.
- ⌃朝田 康夫(2002)「角質層のメカニズム」美容皮膚科学事典,22-28.
- ⌃ab佐用 哲也(2013)「表皮ヒアルロン酸合成制御機構の解明」東京薬科大学(323). DOI:10.15072/00000011.
- ⌃井上 紳太郎(2009)「皮膚ヒアルロン酸の不思議」グルコサミン研究(5),4-10.
- ⌃M. Engelke, et al(1997)「Effects of xerosis and ageing on epidermal proliferation and differentiation」British Journal of Dermatology(137)(2),219-225. DOI:10.1046/j.1365-2133.1997.18091892.x.
- ⌃クラシエホームプロダクツ株式会社(2007)「GABAの表皮への作用を確認」, 2018年3月11日アクセス.
- ⌃クラシエホームプロダクツ株式会社(2012)「表皮角化細胞におけるヒアルロン酸及びインボルクリンの産生促進剤」特開2012-144566.