パンテノールの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | パンテノール |
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医薬部外品表示名 | DL-パントテニルアルコール、D-パントテニルアルコール |
INCI名 | Panthenol |
配合目的 | 細胞賦活、保湿、ヘアコンディショニング など |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるアミドアルコールです[1a]。
1.2. 物性・性状
パンテノールの物性・性状は、
状態 | 液体 |
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溶解性 | 水、エタノールに易溶、エーテルに可溶 |
このように報告されています[2a]。
1.3. 皮膚内挙動
パンテノールは、生体内でパントテン酸に変わり、パントテン酸に関連した効果を発揮すること、またパントテン酸に関連した活性(ビタミン活性)を示すのはD体のみであり、L体にはビタミン活性がないことが明らかになっています[2b]。
1.4. 化粧品以外の主な用途
パンテノールの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
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医薬品 | 代謝を促進し肌乾燥の修復を助けることからビタミン剤として湿疹・皮膚炎、ひび・あかぎれ、虫刺されの外用薬に用いられるほか[3a][4][5a]、目の新陳代謝を促進し疲労時の回復力を高める目的で点眼薬に用いられています[6]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 表皮角化細胞増殖促進による細胞賦活作用
- 角質柔軟化による保湿作用
- ヘアコンディショニング作用
主にこれらの目的で、スキンケア製品、メイクアップ製品、マスク製品、ネイル製品、ボディケア製品、ハンドケア製品、化粧下地製品、洗顔料、シャンプー製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、頭皮ケア製品、まつ毛美容液など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 表皮角化細胞増殖促進による細胞賦活作用
表皮角化細胞増殖促進による細胞賦活作用に関しては、まず前提知識としてターンオーバーの仕組みについて解説します。
皮膚は大きく最外層の表皮と表皮を支える真皮に分かれており、ターンオーバーについては以下の表皮の構造図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
ターンオーバー(turnover)とは、血液やリンパなどから栄養素や調節因子などの制御を受けながら、表皮最下層である基底層で生成された角化細胞(表皮細胞:ケラチノサイト)がその次につくられた、より新しい角化細胞によって皮膚表面に向かって押し上げられるとともに分化していき、最後はケラチンから成る角質細胞となり、角質層にとどまった後に角片(∗1)として剥がれ落ちる表皮の新陳代謝のことをいい、正常なターンオーバーによって皮膚の新鮮さおよび健常性が保持されています[7][8]。
∗1 角片とは、体表部分でいえば垢、頭皮でいえばフケを指します。
一方で、加齢にともない基底細胞の分裂能が低下することが明らかにされていることから[9]、表皮細胞の分裂・増殖・分化を促進し健常なターンオーバー機能を保持することは、健常な皮膚の維持において重要であると考えられています。
パンテノールは、皮膚内に浸パントテン酸として皮膚の新陳代謝を促進し、肌乾燥の修復を助けることから、湿疹・皮膚炎やひび・あかぎれなどの医薬品の外用剤として用いられており[3b][5b][10a]、配合上限内において化粧品にも配合が認められているため、表皮の代謝を促進し肌荒れやかぶれなどを改善する目的でスキンケア製品などに使用されていると考えられます[11]。
2.2. 角質柔軟化による保湿作用
角質柔軟化による保湿作用に関しては、パンテノールは吸湿性の低分子物質であり[2c]、浸透してパントテン酸に変化することにより爪に柔軟性を付与し、ひび割れや亀裂の発生を低減することから[10b]、ネイルコート製品、ネイルケア製品に使用されています。
また、頭皮においても持続性の保湿効果を付与することから、抜け毛の予防やフケの低減目的で頭皮ケア製品などに使用されています[10c]。
2.3. ヘアコンディショニング作用
ヘアコンディショニング作用に関しては、まず前提知識として毛髪の構造と毛髪ダメージとその原因について解説します。
毛髪の構造については、以下の毛髪構造図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
キューティクル(毛小皮)とよばれる5-10層で重なり合った平らかつうろこ状の構造からなる厚い保護外膜が表面を覆い、キューティクル内部は紡錘状細胞から成り繊維体質の大部分を占めるコルテックス(毛皮質)およびメデュラ(毛髄質)とよばれる多孔質部分で構成されています[12a]。
また、細胞膜複合体(CMC:Cell Membrane Complex)がこの3つの構造を接着・結合しており、毛髪内部の水分保持や成分の浸透・拡散の主要通路としての役割を担っています[12b]。
これら毛髪構造の中でキューティクルは、摩擦、引っ張り、曲げ、紫外線への曝露などの影響による物理的かつ化学的劣化に耐性をもち、その配列が見た目の美しさや感触特性となります[13a]。
一方で、キューティクルはシャンプーや毎日の手入れなどの物理的要因、あるいはヘアアイロン、染毛・脱色、パーマなど化学的要因によるダメージに対して優れた耐性を有しているものの、以下の図をみてもらうとわかるように、
これらのダメージが重なり合い繰り返されるうちに劣化していき、最終的にキューティクルのめくれ上がりや毛髪繊維の弱化につながることが知られています[13b][14]。
このような背景から、損傷したキューティクルを平らに寝かせてなめらかにすることやツヤを向上させることは、毛髪の外観や感触の改善において重要なアプローチのひとつであると考えられています。
パンテノールは、低分子の吸湿性物質であり[2d]、毛髪に浸透しパントテン酸に変化することにより持続性の保湿効果を発揮し、その結果として毛髪の損傷や枝毛の発生を抑制することから[10d][13c]、ヘアケア製品に使用されています。
3. 混合原料としての配合目的
パンテノールは混合原料が開発されており、パンテノールと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | NIKKOL Nikkosome Vitamin ABCE |
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構成成分 | グリセリン、水添レシチン、ソルビトール、テトラヘキシルデカン酸アスコルビル、トコフェロール、パンテノール、パルミチン酸レチノール、ピーナッツ油、スクワラン |
特徴 | 4種のビタミン(脂溶性ビタミンC,E,A誘導体、ビタミンB前駆体)を配合したビタミン補給向けナノエマルジョン |
原料名 | Vitamin Concentrate watersoluble |
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構成成分 | セイヨウトチノキ種子エキス、PG、水、PEG-40水添ヒマシ油、酢酸トコフェロール、ソルビトール、パンテノール、パルミチン酸レチノール、アマニ脂肪酸、ヒマワリ種子油、BHT |
特徴 | 水溶性マルチビタミン複合原料 |
原料名 | ROVISOME Biotin |
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構成成分 | 水、エタノール、パンテノール、レシチン、酢酸トコフェロール、カフェイン、ビオチン |
特徴 | ビオチン(ビタミンH)、酢酸トコフェロール(ビタミンE)、D-パンテノール(プロビタミンB5)およびカフェイン組み合わせ、これらが頭皮と毛根領域に効果的に輸送され、成長期と休止期の毛周期比率を正常化し発毛促進にアプローチする複合原料 |
原料名 | Asebiol |
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構成成分 | 水、ピリドキシンHCl、ナイアシンアミド、グリセリン、パンテノール、加水分解酵母タンパク、トレオニン、アラントイン、ビオチン、フェノキシエタノール、ソルビン酸K、リン酸2Na、クエン酸 |
特徴 | 皮脂の産生に関与する酵素である5α-リダクターゼを阻害することにより頭皮の皮脂量を調整するビタミンおよびアミノ酸の複合体 |
原料名 | WIDELASH |
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構成成分 | グリセリン、水、パンテノール、ビオチノイルトリペプチド-1 |
特徴 | 毛球ケラチノサイトの増殖促進作用を有する |
4. 配合製品数および配合量範囲
DL-パントテニルアルコールおよびD-パントテニルアルコールは、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。
種類 | 配合量 |
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薬用石けん・シャンプー・リンス等、除毛剤 | 上限なし |
育毛剤 | 1.0 |
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 | 1.0 |
薬用口唇類 | 0.30 |
薬用歯みがき類 | 0.30 |
浴用剤 | 1.0 |
染毛剤 | 上限なし |
パーマネント・ウェーブ用剤 | 上限なし |
DL-パントテニルアルコールおよびD-パントテニルアルコールは医薬品成分であり、化粧品に配合する場合は以下の配合範囲内においてのみ使用されます。
– DL-パントテニルアルコール –
種類 | 最大配合量(g/100g) |
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粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流すもの | 上限なし |
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流さないもの | 8.0 |
粘膜に使用されることがある化粧品 | 0.30 |
– D-パントテニルアルコール –
種類 | 最大配合量(g/100g) |
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粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流すもの | 上限なし |
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流さないもの | 3.0 |
粘膜に使用されることがある化粧品 | 0.30 |
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2002-2004年および2016-2017年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗2)。
∗2 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
5. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 30年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし-軽度
- 眼刺激性:ほとんどなし-最小限
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[15a]によると、
- [ヒト試験] 206名の被検者に0.5%パンテノールを含むクリームを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激および皮膚感作はみられず、この試験製剤は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Leo Winter Associates Inc,1974)
- [ヒト試験] 238名の被検者に0.5%パンテノールを含むクリームを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、誘導期間において1名の被検者に紅斑がみられたが、チャレンジ期間においてはいずれの被検者も皮膚刺激および皮膚感作はみられず、この試験製剤は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1983)
- [ヒト試験] 200名の被検者に0.2%パンテノールを含む製品を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところこの試験製剤は皮膚感作剤ではなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
皮膚刺激性については、ごくまれに紅斑反応が報告されていることから、一般に非刺激-軽度の皮膚刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
5.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[15b]によると、
- [動物試験] 3匹のウサギの片眼に2%D体およびDL体パンテノールを含む水溶液を点眼し、点眼後に眼刺激性を評価したところ、最小限の結膜発赤がみられたが、これらは72時間以内に解消した(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,-)
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に0.5%パンテノールを含むクリームを適用し、適用後に眼刺激性を評価したところ、最小限の結膜発赤がみられたが、これらは24時間以内に解消した(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1979)
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に0.5%パンテノールを含むマスカラを適用し、適用後に眼刺激性を評価したところ、わずかな結膜発赤がみられたが、これらは2日以内に解消した(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1981)
- [動物試験] 9匹のウサギの片眼に0.1%パンテノールを含むマスカラを適用し、5匹は眼をすすぎ、4匹は眼をすすがず、適用後に眼刺激性を評価したところ、洗眼の有無にかかわらず、眼刺激の兆候はみられず、この試験製剤は眼刺激剤ではなかった(Leberco Laboratories,1982)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して非刺激-最小限の眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-最小限の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
6. 参考文献
- ⌃ab日本化粧品工業連合会(2013)「パンテノール」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,783.
- ⌃abcd有機合成化学協会(1985)「パンテノール」有機化合物辞典,708.
- ⌃ab小林 秀樹(2021)「湿疹・皮膚炎治療薬」今日のOTC薬 改訂第5版:解説と便覧,332-351.
- ⌃新倉 卓(2021)「虫さされ, 痒み止め用薬」今日のOTC薬 改訂第5版:解説と便覧,352-361.
- ⌃ab新倉 卓(2021)「しもやけ, ひび, あかぎれ用薬」今日のOTC薬 改訂第5版:解説と便覧,362-371.
- ⌃折井 孝男・田邉 直人(2021)「眼科用薬」今日のOTC薬 改訂第5版:解説と便覧,428-459.
- ⌃朝田 康夫(2002)「表皮を構成する細胞は」美容皮膚科学事典,18.
- ⌃朝田 康夫(2002)「角質層のメカニズム」美容皮膚科学事典,22-28.
- ⌃M. Engelke, et al(1997)「Effects of xerosis and ageing on epidermal proliferation and differentiation」British Journal of Dermatology(137)(2),219-225. DOI:10.1046/j.1365-2133.1997.18091892.x.
- ⌃abcd日光ケミカルズ株式会社(2006)「パントテン酸類」新化粧品原料ハンドブックⅠ,426-427.
- ⌃鈴木 一成(2012)「D-パントテニルアルコール」化粧品成分用語事典2012,391.
- ⌃abクラーレンス・R・ロビンス(2006)「毛形態学的構造および高次構造」毛髪の科学,1-68.
- ⌃abcデール・H・ジョンソン(2011)「毛髪のコンディショニング」ヘアケアサイエンス入門,77-122.
- ⌃クラーレンス・R・ロビンス(2006)「シャンプー、髪の手入れ、ウェザリング(風化)による毛髪ダメージおよび繊維破断」毛髪の科学,293-328.
- ⌃abR.L. Edler(1987)「Final Report on the Safety Assessment of Panthenol and Pantothenic Acid」Journal of the American College of Toxicology(6)(1),139-162. DOI:10.3109/10915818709095492.