ユズ種子エキスとは…成分効果と毒性を解説




・ユズ種子エキス
ミカン科植物ユズ(学名:Citrus junos 英名:Yuzu)の種子から水とエタノールで抽出して得られる抽出物(植物エキス)です。
ユズは、中国の揚子江上流を原産とし、日本には奈良朝または飛鳥時代に渡来したと考えられており、柑橘類の中では最も寒さに強く、北は東北地方まで全国的に分布しています(文献2:2017;文献3:2011)。
日本ではユズの酸味と芳香を珍重し、柚子味噌、柚子釜、柚餅子などの料理に、果汁は果実酢に、果実はジャムなどに、オイルは香料として利用されています(文献3:2011)。
ユズ種子エキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、
分類 | 成分名称 | ||
---|---|---|---|
テルペノイド | トリテルペン | リモノイド | リモニン(苦味成分,主要成分)、ノミリン(苦味成分,主要成分)、イチャンゲンシン |
モノテルペン | リモネン | ||
フラボノイド | フラバノン | ヘスペリジン |
これらの成分で構成されていることが報告されており(文献1:2016;文献4:1990)、主要成分はリモノイド(limonoid)のうち苦味成分であるリモニン(limonin)およびノミリン(nomilin)です。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア製品、パック&マスク製品、ボディケア製品などに使用されています。
また、ユズをコンセプトにした製品にも配合されています。
表皮角化細胞増殖促進による細胞賦活作用
表皮角化細胞増殖促進による細胞賦活作用に関しては、まず前提知識として表皮ターンオーバーの構造と役割について解説します。
以下の表皮構造図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
表皮細胞は、角化細胞(ケラチノサイト)とも呼ばれ、表皮最下層である基底層で生成された一個の角化細胞は、その次につくられた、より新しい角化細胞によって皮膚表面に向かい押し上げられていき、各層を移動していく中で有棘細胞、顆粒細胞と分化し、最後はケラチンから成る角質細胞となり、角質層にとどまったのち、角片(∗1)として剥がれ落ちます(文献5:2002)。
∗1 角片とは、体表部分でいえば垢、頭皮でいえばフケを指します。
この表皮の新陳代謝は一般的にターンオーバー(turnover)と呼ばれ、正常なターンオーバーによって皮膚は新鮮さおよび健常性を保持しています(文献6:2002)。
一方で、皮膚の新陳代謝は加齢によって低下していくことが知られており、皮膚代謝の低下によって皮膚内部での各化合物の生合成量の減少やダメージを受けた後の回復の遅延などが起こり、その結果として例えばハリやツヤの低下、シワの増加、乾燥の進行など好ましくない変化が現れてくることがわかっています。
このような背景から、ターンオーバーを正常化することは皮膚の健常性維持において重要であると考えられます。
2016年にオリザ油化によって公開されたユズ種子エキスの皮膚ターンオーバーへの影響検証(in vitro試験)によると、
その結果、ユズ種子エキスを添加していない場合と比較してユズ種子エキスを添加した場合は、表皮層の厚みが増す傾向が認められた。
この結果は、表皮細胞である基底細胞の生成が促進されたことを示唆するものであると考えられた。
このような検証結果が明らかにされており(文献1:2016)、ユズ種子エキスに表皮角化細胞増殖促進(ターンオーバー促進)による細胞賦活作用が認められています。
表皮ヒアルロン酸産生促進による保湿作用
表皮ヒアルロン酸産生促進による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚におけるヒアルロン酸について解説しておきます。
以下の皮膚の構造図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、
ヒアルロン酸は、結合組織の基質成分として存在する酸性ムコ多糖類の一種で、組織内では水と強く親和してゲル状をなし細胞間または組織化間を埋める接合物質として機能しています(文献7:2002)。
一般的に皮膚におけるヒアルロン酸は、真皮においてコラーゲンやエラスチンで構成された細胞外マトリックスの隙間を埋めるゲルとして細胞を保持し、皮膚の柔軟性を保つ役割が大部分ですが、表皮においても表皮細胞間の隙間に存在し、細胞間隙に水を保持する水路のような役割を担っていることが知られています(文献8:2006)。
2006年に資生堂によって公開されたユズ種子エキスの表皮ヒアルロン酸への影響検証(in vitro試験)によると、
ユズ種子エキス水溶液を添加していない場合と比較して、ユズ種子エキスを添加した場合は、いずれにおいても明らかなヒアルロン酸産生促進効果が認められた。
このような検証結果が明らかにされており(文献9:2006;文献10:2006;文献11:2013)、ユズ種子エキスに表皮ヒアルロン酸産生促進による保湿作用が認められています。
次に、2013年にオリザ油化によって公開された表皮に対するユズ種子エキスの角層水分量への影響検証(ヒト試験)によると、
0.5%ユズ種子エキス配合クリームは、未配合クリームと比較して角質層水分量の増加傾向が認められた。
このような検証結果が明らかにされており(文献11:2013)、ユズ種子エキスに各層水分量増加による保湿作用が認められています。
これらの背景から、ユズ種子エキスの主な保湿作用は表皮ヒアルロン酸産生促進によるものであると考えられます。
Ⅳ型コラーゲン、Ⅶ型コラーゲンおよびラミニン5産生促進による抗老化作用
Ⅳ型コラーゲン、Ⅶ型コラーゲンおよびラミニン5産生促進による抗老化作用に関しては、まず前提知識として表皮基底膜の役割と皮膚におけるⅣ型コラーゲン、Ⅶ型コラーゲンおよびラミニン5について解説します。
まず以下の皮膚構造図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
皮膚は大きく表皮と真皮に分かれており、表皮は主に角質層を中心に紫外線や細菌・アレルゲン・ウィルスなどの外的刺激から皮膚を保護する働きと水分を保持する働きを担い、真皮はプロテオグリカン(ヒアルロン酸およびコンドロイチン硫酸含む)、コラーゲン、エラスチンで構成された細胞外マトリックスを形成し、水分保持と同時に皮膚のハリ・弾力性に深く関与しています。
そして、表皮最下部の基底膜(基底層)は、表皮の土台および構造の異なる表皮-真皮間のコミュニケーション・コントロールを担う役割として、
- 表皮-真皮間においてエネルギーや栄養を輸送
- 細胞の分化形質の発現・維持
- 表皮細胞による酵素産生のコントロール
- 表皮-真皮間における各種サイトカイン類の動きをコントロール
これらの働きが知られており(文献12:1996;文献13:1996;文献14:1993;文献15:1998;文献16:1997;文献17:1997;文献18:1994)、肌を正常に保つために重要な働きを担っています。
基底膜の構造は、以下の基底膜拡大図をみてもらうとわかるように、
主として、基底細胞とⅣ型コラーゲンを接着し表皮を基底膜につなぎとめる役割としてラミニン5、膜状構造の骨格の役割としてⅣ型コラーゲン、真皮層と基底膜を繋ぎ止める足場となる繊維であるアンカリングフィブリル(anchoring fibrils)の主構成成分であり、真皮を基底膜につなぎとめる役割としてⅦ型コラーゲンが存在し、これらが正常に働くことによって皮膚の健常性が維持されています(文献9:2006)。
表皮基底膜は、このように重要な働きが明らかにされていますが、一方で紫外線など外界からのストレスに曝され続ける露光部皮膚においては、多重化や断裂などの構造変化を起こすことが知られており(文献19:2001;文献20:1979)、長期的に基底膜が紫外線ダメージを受け続けると真皮の構造異常が蓄積され、これらがシワ・たるみといった老化現象を誘導すると考えられています(文献19:2001)。
このような背景から、紫外線ダメージを受けた基底膜の修復は、皮膚の健常化維持において非常に重要であると考えられます。
2006年に資生堂によって公開されたユズ種子エキスのⅣ型、Ⅶ型コラーゲンおよびラミニン5への影響検証(in vitro試験)によると、
次に、培養ヒト皮膚モデルを用いてユズ種子エキスの表皮基底膜修復促進効果を評価したところ、ユズ種子エキスを添加した皮膚モデルでは、無添加の皮膚モデルと比較して損傷した基底膜構造の修復が促進されることを確認した。
このような検証結果が明らかにされており(文献6:2006)、ユズ種子エキスにⅣ型コラーゲン、Ⅶ型コラーゲンおよびラミニン5産生促進による抗老化作用が認められています。
実際の使用製品の種類や数および配合量は、海外の2016年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
ユズ種子エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 10年以上の使用実績
- 皮膚一次刺激性:ほとんどなし
- 皮膚累積刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし-わずか
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
- [ヒト試験] 30名の被検者にユズ種子エキスを対象に累積刺激性試験を実施したところ、いずれの被検者においても皮膚一次刺激、皮膚累積刺激および皮膚感作は認められなかった
と記載されています。
試験データをみるかぎり、皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
- [動物試験] 畜牛の眼球から摘出した角膜を用いて、角膜表面にユズ種子エキスを処理した後、角膜の濁度ならびに透過性の変化量を定量的に測定したところ(BCOP法)、軽微な眼刺激性があると予測された
と記載されています。
試験データをみるかぎり、軽微な眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-軽微な眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
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ユズ種子エキスは細胞賦活成分、保湿成分、抗老化成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
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参考文献:
- オリザ油化株式会社(2016)「ユズ種子エキス」技術資料.
- 杉田 浩一, 他(2017)「ゆず」新版 日本食品大事典,810.
- 鈴木 洋(2011)「柚」カラー版 漢方のくすりの事典 第2版,468-469.
- 橋永 文男, 他(1990)「ユズ種子中のリモノイド」日本食品工業学会誌(37)(5),380-382.
- 朝田 康夫(2002)「表皮を構成する細胞は」美容皮膚科学事典,18.
- 朝田 康夫(2002)「角質層のメカニズム」美容皮膚科学事典,22-28.
- 朝田 康夫(2002)「ヒアルロン酸とは何か」美容皮膚科学事典,113-114.
- 伊藤 賢一(2006)「GABA合成酵素(GAD)を活性化するビルベリーエキスの抗老化作用」Fragrance Journal(34)(8),48-53.
- 株式会社資生堂(2006)「ユズ種子エキスに基底膜の損傷を修復する効果、表皮のヒアルロン酸の産生を促進する効果を発見」, <https://www.shiseidogroup.jp/newsimg/archive/00000000000758/758_w8p73_jp.pdf> 2020年8月16日アクセス.
- 株式会社資生堂(2006)「Ⅳ型およびⅦ型コラーゲン産生促進剤」特開2006-206571.
- オリザ油化株式会社(2013)「ユズ種子エキス」技術資料.
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- A. De Arcangelis, et al(1996)「Inhibition of laminin alpha 1-chain expression leads to alteration of basement membrane assembly and cell differentiation」The Journal of Cell Biology(133)(2),417-430.
- F.M. Watt, et al(1993)「Regulation of keratinocyte terminal differentiation by integrin-extracellular matrix interactions」Journal of Cell Science(106)(Pt1),175-182.
- D. Breitkreutz, et al(1998)「Epidermal differentiation and basement membrane formation by HaCaT cells in surface transplants」European Journal of Cell Biology(75)(3),273-286.
- B.D. Sudbeck, et al(1997)「Induction and repression of collagenase-1 by keratinocytes is controlled by distinct components of different extracellular matrix compartments」The Journal of Biological Chemistry(272)(35),22103-22110.
- B.K. Pilcher, et al(1997)「The activity of collagenase-1 is required for keratinocyte migration on a type I collagen matrix」The Journal of Cell Biology(137)(6),1445-1457.
- D. Aviezer, et al(1994)「Perlecan, basal lamina proteoglycan, promotes basic fibroblast growth factor-receptor binding, mitogenesis, and angiogenesis」Cell(79)(6),1005-1013.
- 天野 聡(2001)「初期老化の兆候としての表皮基底膜ダメージと基底膜ケアのキー物質としてのラミニン5」日本化粧品技術者会誌(35)(1),1-7.
- R.M. Lavker(1979)「Structural Alterations in Exposed and Unexposed Aged Skin」Journal of Investigative Dermatology(73)(1),59-66.