ヒオウギエキスとは…成分効果と毒性を解説

細胞賦活
ヒオウギエキス
[化粧品成分表示名称]
・ヒオウギエキス

[医薬部外品表示名称]
・ヒオウギ抽出液

アヤメ科植物ヒオウギ(学名:Iris domestica = Belamcanda Chinensis 英名:Leopard flower)の根茎からエタノール、またはこれらの混液で抽出して得られる抽出物植物エキスです。

従来はヒオウギ属(Belamcanda)に属しており、「Belamcanda Chinensis」の学名が命名されていましたが、2005年に分子生物学によるDNA解析の結果からアヤメ属(Iris)に分類され、現在の学名は「Iris domestica」と命名されています(文献1:2005)

ヒオウギ(檜扇)は、朝鮮半島、中国、インド北部、日本各地に自生しており、薬用のほかに花が美しいことから観賞用としても栽培されています(文献2:2011)

ヒオウギエキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、

分類 成分名称
フラボノイド イソフラボン イリジン、テクトリジン、ベラムカンジン など

これらの成分で構成されていることが報告されています(文献2:2011;文献3:1995)

ヒオウギの根茎(生薬名:射干)の化粧品以外の主な用途としては、漢方分野において清熱解毒・利咽・祛痰の効能があることから咽喉痛、咳嗽、リンパや扁桃腺の腫れなどに用いられ、民間医療分野においても咽痛、喉痺、気管支喘息などの治療に利用されています(文献2:2011;文献3:1995)

化粧品に配合される場合は、

これらの目的でスキンケア化粧品、ボディケア製品、シャンプー製品、トリートメント製品、洗顔料、クレンジング製品、頭皮ケア製品、入浴剤などに使用されています。

ピルビン酸キナーゼ活性促進による細胞賦活作用

ピルビン酸キナーゼ活性促進による細胞賦活作用に関しては、前提知識として表皮のターンオーバーのメカニズム、細胞のATP産生メカニズムおよびピルビン酸キナーゼについて解説します。

以下の皮膚の最外層である表皮の構造図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

表皮細胞の新陳代謝(ターンオーバー)のメカニズム

表皮細胞は、角化細胞(ケラチノサイト)とも呼ばれ、血液やリンパなどから栄養素や調節因子などの制御を受けながら、表皮最下層である基底層で生成された一個の角化細胞はその次につくられた、より新しい角化細胞によって皮膚表面に向かい押し上げられていき、相互に関連しながら各層を移動していく中で有棘細胞、顆粒細胞と分化し、最後はケラチンから成る角質細胞となり、角質層にとどまったのち、角片(∗1)として剥がれ落ちます(文献4:2002)

∗1 角片とは、体表部分でいえば垢、頭皮でいえばフケを指します。

この表皮の新陳代謝は一般的にターンオーバーと呼ばれ、細胞が正常に分裂・増殖し皮膚の恒常性を維持するためには、少なくともエネルギー伝達物質であるATP(adenosine tri-phosphate:アデノシン三リン酸)の供給が必要不可欠であることが知られています(文献5:2000;文献6:1977)

生体においてATPは、以下の細胞のATP産生メカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

細胞のATP産生メカニズム

細胞内に入った単糖の一種であるグルコースが分解され、「解糖系」「クエン酸回路」「電子伝達」とよばれる分解過程でそれぞれ産生されることが知られており(文献7:2017)、真皮に近い基底層から有棘層の表皮細胞には主に解糖系によって産生されるATPが供給されると考えられています(文献8:1978)

表皮細胞に供給されるATPを産生する解糖系のATP産生メカニズムおよびピルビン酸キナーゼについては、以下の解糖系メカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

細胞内でATPを産生する解糖系のメカニズム

細胞内に入ったグルコースは、最初はATP産生準備段階として2分子のATPを消費しながら分解され、その後ATP産生段階として4分子のATPを産生し、最後はピルビン酸としてミトコンドリアのクエン酸回路(TCAサイクル)に進みます(文献7:2017;文献9:2013)

ピルビン酸キナーゼは、解糖系においてホスホエノールピルビン酸をピルビン酸に変換する中で、直接2分子のATPを産生する役割をもつ加水分解酵素として知られています。

一方で、加齢にともない基底細胞の分裂能が低下すること(文献10:1997)、実際にヒト表皮細胞内のATP量が加齢にともない減少することが明らかにされています(文献11:2004)

このような背景から、ピルビン酸キナーゼの活性を促進し、減少したATP産生量の増加を促進することは、表皮ターンオーバーの正常化、ひいては皮膚恒常性の維持において重要であると考えられています。

1995年に一丸ファルコスによって報告されたヒオウギエキスのピルビン酸キナーゼおよびヒト皮膚に対する影響検証によると、

10匹のモルモットのうち5匹の剪毛した腹側部に乾燥固形分0.5%-1.5%ヒオウギエキス溶液1mlを、別の5匹に対照として溶媒のみを1日1回2週間にわたってリント布に含ませてテープで4時間密着固定した。

最終塗布の48時間後に試験部位および対照部位の皮膚抽出液100μLを基質混液に加え、培養後に生成されたピルビン酸の吸光度を測定し、対照部位を100%としたときのピルビン酸キナーゼの酵素活性率を算出したところ、ヒオウギエキスのピルビン酸キナーゼ活性率は113-117%であり、明らかな有意差が認められた。

次に、27人の被検者のうち14人に10%ヒオウギエキス配合化粧水を、別の13人に10%ヒオウギエキス配合浴用剤をそれぞれ1ヶ月間自由に使用してもらい、肌質改善効果または創傷治癒効果についてアンケートをもとめたところ、以下の表のように、

試料 肌質改善効果 創傷治癒効果
被検者数 有効数 被検者数 有効数
ヒオウギエキス配合化粧水 10 8 4 3
ヒオウギエキス配合浴用剤 10 7 3 2

10%ヒオウギエキス配合化粧水または浴用剤塗布グループは、有意に肌質の改善効果および創傷治癒効果を示した。

このような試験結果が明らかにされており(文献3:1995)、ヒオウギエキスにピルビン酸キナーゼ活性促進による細胞賦活作用が認められています。

また、ヒオウギエキスにα-ヒドロキシ酸を併用することで細胞賦活効果が増強することが報告されています(文献12:1997)

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ヒオウギエキスの安全性(刺激性・アレルギー)について

ヒオウギエキスの現時点での安全性は、

  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚一次刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚累積刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について

一丸ファルコスの安全性試験データ(文献3:1995;文献13:2001)によると、

  • [動物試験] 3匹のウサギの除毛した背部に固形分濃度1.4%ヒオウギエキスのエタノール、BGおよび水(1:1:3)の混合液を塗布し、塗布24,48および72時間後に紅斑および浮腫を指標として一次刺激性を評価したところ、いずれのウサギも紅斑および浮腫を認めず、この試験物質は皮膚一次刺激性に関して問題がないものと判断された
  • [動物試験] 5匹のモルモットの除毛した側腹部に固形分濃度1.4%ヒオウギエキスのエタノール、BGおよび水(1:1:3)の混合液0.5mLを1日1回週5回、4週にわたって塗布し、各塗布日および最終塗布日の翌日に紅斑および浮腫を指標として皮膚刺激性を評価したところ、いずれのモルモットも4週間にわたって紅斑および浮腫を認めず、この試験物質は皮膚累積刺激性に関して問題がないものと判断された
  • [動物試験] モルモットにヒオウギエキスを対象としたMaximization皮膚感作性試験を実施したところ、この試験物質は陰性であった

と記載されています。

試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

∗∗∗

ヒオウギエキスは細胞賦活成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:細胞賦活成分

∗∗∗

文献一覧:

  1. P. Goldblatt, et al(2005)「Belamcanda Included in Iris, and the New Combination I. domestica (Iridaceae: Irideae). Novon」A Journal for Botanical Nomenclature(15)(1),128–132.
  2. 鈴木 洋(2011)「射干(やかん)」カラー版 漢方のくすりの事典 第2版,462.
  3. 一丸ファルコス株式会社(1995)「ヒオウギ抽出物を含有する細胞賦活剤とその応用」特開平7-138179.
  4. 朝田 康夫(2002)「表皮を構成する細胞は」美容皮膚科学事典,18.
  5. M. Kondo, et al(2000)「The Rate of Cell Growth Is Regulated by Purine Biosynthesis via ATP Production and G1 to S Phase Transition」The Journal of Biochemistry(128)(1),57-64.
  6. F. Grummt, et al(1977)「Regulation of ATP Pools, rRNA and DNA Synthesis in 3T3 Cells in Response to Serum or Hypoxanthine」European Journal of Biochemistry(76)(1),7-12.
  7. 二井 將光(2017)「植物から動物へ。糖を変換してATPエネルギー生産」生命を支えるATPエネルギー メカニズムから医療への応用まで,31-68.
  8. 大城戸 宗男(1978)「角化の生化学;脂質の代謝(2)」皮膚臨床(20)(4),265-269.
  9. 多賀谷 光男(2013)「解糖とピルビン酸化」イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書29版,194-203.
  10. M. Engelke, et al(1997)「Effects of xerosis and ageing on epidermal proliferation and differentiation」British Journal of Dermatology(137)(2),219-225.
  11. S Shinohara, et al(2004)「Skin-lightening effects based on accelerated epidermal turnover」Abstract book of The 8th China-Japan Joint Meeting of Dermatology,131-132.
  12. 一丸ファルコス株式会社(1997)「ヒオウギ抽出物とα-ヒドロキシ酸を含有する細胞賦活剤とその応用」特開平9-301883.
  13. 河合 徳久, 他(2001)「イソフラボンの今後の展開」Fragrance Journal(29)(2),95-97.

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