ナツメ果実エキスとは…成分効果と毒性を解説


・ナツメ果実エキス
[医薬部外品表示名]
・タイソウエキス
クロウメモドキ科植物ナツメ(学名:Ziziphus jujuba 英名:Jujube)の果実から水、エタノール、BG、またはこれらの混液で抽出して得られる抽出物(植物エキス)です。
ナツメ(棗)は、ヨーロッパ南部からアジア西南部を原産とし、中国では紀元前よりモモやアンズとともに重要な五果のひとつとして栽培されており、子供の誕生日にナツメの木を植えて嫁ぐときに持参するという風習があり、果実は熟すと甘くなることから砂糖に漬けた蜜棗(みつなつめ)などの菓子もよく親しまれています(文献1:2011)。
日本には奈良時代に中国から渡来し、明治時代などでは他の果実が少ないこともあって生食用果の家庭果樹として重要でしたが、現在では利用価値が低くなっています(文献2:2017)。
ナツメ果実エキスは天然成分であることから、国・地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、
分類 | 成分名称 | |
---|---|---|
その他 | サイクリックAMP | |
糖質 | 単糖 | フルクトース、グルコース |
少糖 | スクロース | |
有機酸 | リンゴ酸 |
これらの成分で構成されていることが報告されています(文献1:2011;文献3:1984;文献4:2017)。
ナツメの果実(生薬名:大棗)の化粧品以外の主な用途としては、漢方分野において沈滞した胃腸の気を補い機能を調えることから胃腸が弱く元気のないときに、また気虚(∗1)を補い精神安定効果があることから不安や興奮などを鎮静する目的で用いられます(文献1:2011;文献5:2016)。
∗1 気虚とは、陽気が虚した状態で活動力が鈍化し、疲れやすい、動く意欲がない、息切れ、などの症状を示す状態を指します(文献6:2016)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、シート&マスク製品、メイクアップ製品、洗顔料、洗顔石鹸、クレンジング製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、ボディソープ製品などに使用されています。
表皮角化細胞増殖促進による細胞賦活作用
表皮角化細胞増殖促進による細胞賦活作用に関しては、まず前提知識として表皮ターンオーバーの構造と役割について解説します。
以下の表皮構造図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
表皮細胞は、角化細胞(ケラチノサイト)とも呼ばれ、表皮最下層である基底層で生成された一個の角化細胞は、その次につくられた、より新しい角化細胞によって皮膚表面に向かい押し上げられていき、各層を移動していく中で有棘細胞、顆粒細胞と分化し、最後はケラチンから成る角質細胞となり、角質層にとどまったのち、角片(∗2)として剥がれ落ちます(文献7:2002)。
∗2 角片とは、体表部分でいえば垢、頭皮でいえばフケを指します。
この表皮の新陳代謝は一般的にターンオーバー(turnover)と呼ばれ、正常なターンオーバーによって皮膚は新鮮さおよび健常性を保持しています(文献8:2002)。
一方で、皮膚の新陳代謝は加齢によって低下していくことが知られており、皮膚代謝の低下によって皮膚内部での各化合物の生合成量の減少やダメージを受けた後の回復の遅延などが起こり、その結果として例えばハリやツヤの低下、シワの増加、乾燥の進行など好ましくない変化が現れてくることがわかっています。
このような背景から、ターンオーバーを正常化することは皮膚の健常性維持において重要であると考えられます。
2006年に丸善製薬によって報告されたナツメ果実エキスの表皮角化細胞およびヒト皮膚に対する影響検証によると、
ナツメ果実エキスは、優れた表皮角化細胞増殖促進作用を有することが確認された。
次に、5名の男性被検者の左右上腕内側に1%ナツメ果実エキス配合水溶液および無配合水溶液を1日2回27日間にわたって二重盲検法を用いて塗布し、試験開始前および塗布開始27日後に角層を採取し、角質細胞面積を測定(∗3)した。
∗3 角質細胞の面積が角層ターンオーバー時間と相関すること、また加齢にともない細胞面積が大きくなることから角層細胞面積を指標としています。
その結果、無配合水溶液塗布部では変化が認められなかったのに対して、1%ナツメ果実エキス配合水溶液塗布部においては細胞面積が有意に減少したことが確認された。
この結果から、ナツメ果実エキスは角層ターンオーバーを促進することがわかった。
このような試験結果が明らかにされており(文献9:2006;文献10:2006)、ナツメ果実エキスに表皮角化細胞増殖促進(ターンオーバー促進)による細胞賦活作用が認められています。
効果・作用についての補足 – 保湿作用
ナツメ果実エキスは、いくつかの糖類を含んでいることから保湿作用を有していることが知られています(文献12:2012;文献13:2020)。
ナツメ果実エキスに含まれる糖類としてはフルクトース、グルコースおよびスクロースが文献上に挙げられていますが、実際の成分分析においてはフルクトースを主体とし、グルコースやスクロースは微量であることが報告されており(文献3:1984)、フルクトースの外用における保湿作用に関する文献を現段階でみつけられていないことから、ナツメ果実エキスの保湿作用についてはフルクトースまたはナツメ果実エキスの保湿性に関する文献をみつけしだい追補します。
複合植物エキスとしてのナツメ果実エキス
ナツメ果実エキスは、他の植物エキスとあらかじめ混合された複合原料があり、ナツメ果実エキスと以下の成分が併用されている場合は、複合植物エキス原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | プランテージ<ホワイト> |
---|---|
構成成分 | オウゴン根エキス、カンゾウ根エキス、ナツメ果実エキス、BG、水 |
特徴 | メラノサイト活性化因子の一種であるエンドセリン-1の抑制、メラニン生合成に必須の酵素であるチロシナーゼの活性阻害およびできてしまったメラニンの排出促進といった多角的な色素沈着抑制作用を発揮する3種類の植物エキス混合液 |
原料名 | プランテージ<ホワイト>EX |
---|---|
構成成分 | オウゴン根エキス、ナツメ果実エキス、カワラヨモギ花エキス、マグワ根皮エキス、カンゾウ根エキス、BG、水 |
特徴 | メラノサイト活性化因子の一種であるエンドセリン-1の抑制、メラニン生合成に必須の酵素であるチロシナーゼの活性阻害およびできてしまったメラニンの輸送抑制および排出促進といった多角的な色素沈着抑制作用を発揮する5種類の植物エキス混合液 |
原料名 | フルーツリンクルプロテクトエッセンス |
---|---|
構成成分 | サンザシエキス、ナツメ果実エキス、グレープフルーツ果実エキス、リンゴ果実エキス、オレンジ果汁、レモン果汁、ライム果汁 |
特徴 | よどみのないフレッシュな肌への生まれ変わりをコンセプトとし、表皮角化細胞の増殖促進による表皮ターンオーバーの向上、CE強化因子産生促進によるバリア機能の向上、メラノサイト活性化因子の発現抑制による色素沈着抑制、h-BD3発現促進によるニキビの防止といった異なる作用で新鮮な肌(健常な皮膚)への生まれ変わりに総合的にアプローチする7種類の植物抽出液 |
ナツメ果実エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚一次刺激性:ほとんどなし
- 皮膚累積刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性について
- [動物試験] 3匹のウサギの剪毛した背部皮膚に乾燥固形分0.4%-1.5%ナツメ果実エキス水溶液(または50%エタノール溶液)を塗布し、塗布24,48および72時間後に一次刺激性を評価したところ、いずれのウサギにおいても紅斑および浮腫などの皮膚刺激を認めず、陰性と判定された
- [動物試験] 3匹のモルモットの剪毛した側腹部皮膚に乾燥固形分0.4%-1.5%ナツメ果実エキス水溶液(または50%エタノール溶液)0.5mLを1日1回週5回2週にわたって塗布し、各塗布日および最終塗布日の翌日に一次刺激性の評価基準に基づいて紅斑および浮腫を指標として評価したところ、いずれのモルモットにおいても紅斑および浮腫などの皮膚刺激を認めず、陰性と判定された
と記載されています。
試験データをみるかぎり、皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。
皮膚感作性(アレルギー性)について
日本薬局方および医薬部外品原料規格2021に収載されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
∗∗∗
ナツメ果実エキスは細胞賦活成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
参考:細胞賦活成分
∗∗∗
参考文献:
- 鈴木 洋(2011)「大棗(たいそう)」カラー版 漢方のくすりの事典 第2版,303-304.
- 杉田 浩一, 他(2017)「なつめ」新版 日本食品大事典,573.
- 一丸ファルコス株式会社(1984)「ナツメ果実抽出物含有化粧料」特開昭59-093011.
- 原島 広至(2017)「タイソウ(大棗)」生薬単 改訂第3版,300-301.
- 根本 幸夫(2016)「大棗(タイソウ)」漢方294処方生薬解説 その基礎から運用まで,113-114.
- 根本 幸夫(2016)「気の病変」漢方294処方生薬解説 その基礎から運用まで,260.
- 朝田 康夫(2002)「表皮を構成する細胞は」美容皮膚科学事典,18.
- 朝田 康夫(2002)「角質層のメカニズム」美容皮膚科学事典,22-28.
- 丸善製薬株式会社(2006)「抗老化剤及び表皮角化細胞増殖促進剤」特開2006-316028.
- 川嶋 善仁(2006)「高機能植物コンプレックス(オウゴン,タイソウ,カンゾウフラボノイド)の美白効果」Fragrance Journal(34)(8),69-73.
- 一丸ファルコス株式会社(1997)「リパーゼ活性促進剤」特開平09-301821.
- 鈴木 一成(2012)「タイソウエキス(ナツメ果実エキス)」化粧品成分用語事典2012,300-301.
- 宇山 侊男, 他(2020)「ナツメ果実エキス」化粧品成分ガイド 第7版,132.