合成フルオロフロゴパイトの基本情報・配合目的・安全性

合成フルオロフロゴパイト

化粧品表示名 合成フルオロフロゴパイト
医薬部外品表示名 合成金雲母
部外品表示別名 合成フッ素金雲母
慣用名 合成マイカ
INCI名 Synthetic Fluorphlogopite
配合目的 増量・希釈光沢 など

1. 基本情報

1.1. 定義と解説

以下の化学式で表される合成鉱物体質顔料です[1]

合成フルオロフロゴパイト

化粧品表示名「合成フルオロフロゴパイト」は旧表示名を「合成金雲母」とし、金雲母の学名が「phlogopite:フロゴパイト」であり、雲母の結晶中のヒドロキシ基(-OH)をフッ素(fluorine:元素記号F)に置換することからフルオロフロゴパイトとしています。

また、雲母は英名が「mica:マイカ」であり、化粧品分野においては雲母はマイカとよばれることから、合成フルオロフロゴパイトは「合成マイカ」とよばれています。

1.2. 物性・性状

合成フルオロフロゴパイトの物性・性状は、

状態 白色の層状粉末
溶解性 水に不溶

このように報告されています[2a][3a]

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 増量・希釈
  • 光沢付与

主にこれらの目的で、メイクアップ製品、ネイル製品、化粧下地製品などに汎用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 増量・希釈

増量・希釈に関しては、まず前提知識としてパウダー化粧品における着色剤の役割について解説します。

パウダー化粧品において着色剤は、美肌に見せるために肌の色を好ましい色に調整し、肌のムラやくすみ、シミなどの欠点を隠す役割を担っていますが、着色顔料だけでは肌の色は好みどおりでかつ肌の欠点も隠れたとしても人工的で不自然な仕上がりになり、また肌への伸びや滑り性も悪いものとなってしまうことが知られています[4a]

そこで、着色剤の色を薄め、かつ塗りやすく均一で適切な仕上がりにするために体質顔料を混合することが、パウダー化粧品には不可欠となっています[4b]

合成フルオロフロゴパイトは、天然マイカと比較して不純物が少なく、透明度が高いほか、皮脂や汗にぬれても変色しないため、くすみを起こしにくいといった特徴を有していることから[2b][4c]、着色剤の希釈剤や増量剤としてメイクアップ製品、化粧下地製品、ネイル製品などに汎用されています。

2.2. 光沢付与

光沢付与に関しては、天然マイカは表面反射による光沢が強いことで知られていますが、合成フルオロフロゴパイトも同様に表面が非常に平滑であり、天然マイカに多く含まれる鉄分が極めて少ないため、透明度が高く、くすみや濁りのない光沢を有していることから(∗1)、光沢・ツヤを付与する目的でメイクアップ製品などに汎用されています[4d][5][6]

∗1 粒径が大きいほど透明な平滑面の影響が大きくなり、光沢が高く、粒径が小さいほど光の乱反射の影響が相対定期に大きくなるため、光沢や透明度が低下し白色の粉体となります。

3. 混合原料としての配合目的

合成フルオロフロゴパイトは混合原料が開発されており、合成フルオロフロゴパイトと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。

とくに合成フルオロフロゴパイトと、酸化チタンまたは酸化鉄が併用されている場合は、パール顔料またはグリッターとして用いられることが多く、これらが併用されている場合はパール顔料またはグリッターとして使用されている可能性が考えられます。

構成成分 合成フルオロフロゴパイト酸化鉄
特徴 合成マイカを基剤とし様々な色調の酸化鉄を被覆したパール顔料
構成成分 合成フルオロフロゴパイト酸化チタン
特徴 合成マイカを基剤とした様々な色調のパール顔料またはグリッター
構成成分 合成フルオロフロゴパイト酸化チタン酸化鉄
特徴 合成マイカを基剤とした様々な色調のパール顔料またはグリッター
構成成分 合成フルオロフロゴパイト酸化チタン酸化スズ
特徴 合成マイカを基剤とした様々な色調のパール顔料またはグリッター
原料名 Syncrystal Soft Black
構成成分 合成フルオロフロゴパイトコンジョウ
特徴 合成マイカを基剤としたブラック(黒)のパール顔料
原料名 Colorona SynBerry Pink
構成成分 合成フルオロフロゴパイト酸化チタンカルミン
特徴 合成マイカを基剤としたピンク調パール顔料
原料名 Syncrystal Sapphire
構成成分 合成フルオロフロゴパイト酸化チタンコンジョウ
特徴 合成マイカを基剤としたサファイア(青)のパール顔料
原料名 Syncrystal Jade
構成成分 合成フルオロフロゴパイト酸化チタン酸化鉄コンジョウ
特徴 合成マイカを基剤としたジェイド(緑)のパール顔料
原料名 Colorona SynGold
構成成分 合成フルオロフロゴパイト酸化チタン酸化鉄酸化スズ
特徴 合成マイカを基剤とした着色ゴールドパール顔料
原料名 GGeoflake Crystal Royal Blue
構成成分 合成フルオロフロゴパイト酸化チタン青1
特徴 合成マイカを基剤とした青色のグリッター
原料名 Geoflake Crystal Green
構成成分 合成フルオロフロゴパイト酸化チタン青1黄4
特徴 合成マイカを基剤とした緑のグリッター
原料名 Geoflake Crystal Lavender
構成成分 合成フルオロフロゴパイト酸化チタン赤218青1
特徴 合成マイカを基剤とした緑のグリッター
原料名 Geoflake Crystal Salmon
構成成分 合成フルオロフロゴパイト酸化チタン、赤40
特徴 合成マイカを基剤としたサーモン色のグリッター

4. 配合製品数および配合量範囲

実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2011年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗2)

∗2 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

合成フルオロフロゴパイトの配合製品数と配合量の調査結果(2011年)

5. 安全性評価

合成フルオロフロゴパイトの現時点での安全性は、

  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
  • 光毒性(光刺激性):ほとんどなし
  • 光感作性:ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[3b]によると、

  • [ヒト試験] 107名の被検者に13.824%合成フルオロフロゴパイトを含む圧縮粉末を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、この製品は皮膚刺激および皮膚感作を誘発しなかったと結論づけられた(Clinical Research Laboratories Inc,2010)
  • [ヒト試験] 42名の被検者に55%合成フルオロフロゴパイト水溶液0.05gを48時間単一閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、この試験物質は皮膚刺激を示さなかった(Personal Care Products Council,2011)
  • [ヒト試験] 21.2%合成フルオロフロゴパイトを含むパウダーファンデーション製品の48時間パッチ試験の結果、この製品は皮膚刺激剤ではなかった(Personal Care Products Council,2011)

このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

5.2. 眼刺激性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[3c]によると、

  • [動物試験] 3匹のウサギの片眼に合成フルオロフロゴパイト0.1gを適用し、適用後に眼刺激性を評価したところ、適用1時間後ですべてのウサギに結膜の赤みやめやにが観察され、そのうち1匹はケモ-シスを伴ったが、眼刺激剤ではないと考えられた(N. Htibler,2011)
  • [in vitro試験] 鶏卵の漿尿膜を用いて、100%合成フルオロフロゴパイトを処理したところ(HET-CAM法)、刺激性は示されなかった(N. Htibler,2011)
  • [in vitro試験] 畜牛の眼球から摘出した角膜を用いて、角膜表面に20%合成フルオロフロゴパイトを含む0.9%塩化ナトリウム溶液を処理した後、角膜の濁度ならびに透過性の変化量を定量的に測定したところ(BCOP法)、角膜の濁度および透過性を増加されなかったため、この試験物質は眼刺激性または腐食性を示さなかったと結論づけられた(N. Htibler,2011)

このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。

5.3. 光毒性(光刺激性)および光感作性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[3d]によると、

  • [動物試験] 5匹のモルモットの剃毛した皮膚に55%合成フルオロフロゴパイト水溶液を適用後にUVAライト(114J/c㎡)を30分間照射し、照射24,48および72時間後に光刺激性を評価したところ、この試験物質は光刺激剤ではなかった(Anonymous,2011)
  • [動物試験] 10匹のモルモットに55%合成フルオロフロゴパイト水溶液0.1gを4日間にわたって繰り返し投与しUVAライト(10.2J/c㎡)を照射した後、21日目にチャレンジ投与およびUVA照射したところ、この試験物質は光感作反応を示さなかった(Anonymous,2011)

このように記載されており、試験データをみるかぎり光刺激および光感作なしと報告されているため、一般に光毒性(光刺激性)および光感作性はほとんどないと考えられます。

6. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「合成フルオロフロゴパイト」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,939-940.
  2. ab日光ケミカルズ株式会社(2016)「体質粉体」パーソナルケアハンドブックⅠ,290-298.
  3. abcdL.C. Becker(2015)「Safety Assessment of Synthetic Fluorphlogopite as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(34)(3_suppl),43S-52S. DOI:10.1177/1091581815613513.
  4. abcd柴田 雅史(2021)「無色の光の美しさと感触調整 – 体質顔料」美しさをつくる色材工学,180-199.
  5. 鈴木 高広(2002)「透明感のある光沢をもつ合成マイカ化粧料の開発」Fragrance Journal(30)(4),45-52.
  6. 安孫子 昌周(2006)「ファンデーション用合成マイカ粉体の開発」Fragrance Journal(34)(6),65-70.

TOPへ