タルクの基本情報・配合目的・安全性

タルク

化粧品表示名 タルク
医薬部外品表示名 タルク
慣用名 滑石
INCI名 Talc
配合目的 増量・希釈吸着 など

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式から成る天然の含水ケイ酸マグネシウム(体質顔料)であり、ときに少量のケイ酸Alを含みます[1][2a]

タルク

1.2. 物性・性状

タルクの物性・性状は、

状態 白色の層状粉末
溶解性 水、エタノール、油脂に不溶

このように報告されています[2b][3a][4a][5]

1.3. 分布

タルクは粘土鉱物であり、カンラン岩、輝石、ドロマイト、マグネサイトの滑石片岩などに存在し[4b]、世界各地に広く分布していますが、とくに米国、中国、オーストラリアなどから産出されます[6]

1.4. 化粧品以外の主な用途

タルクの化粧品以外の主な用途としては、

分野 用途
食品 チューインガムの食感を調整して弾力性を付与することから、ガムベースに添加されるほか、製造過程において濾過助剤として使われています[4c]
医薬品 安定・安定化、滑沢、基剤、光沢、コーティング、帯電防止、着色、糖衣、流動化、乳化、粘着増強、賦形、崩壊、防湿目的の医薬品添加剤として経口剤、外用剤、歯科外用および口中用剤などに用いられます[3b]

これらの用途が報告されています。

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 増量・希釈
  • 吸着

主にこれらの目的で、メイクアップ製品、コンシーラー製品、化粧下地製品、ネイル製品、洗顔料などに汎用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 増量・希釈

増量・希釈に関しては、まず前提知識としてパウダー化粧品における着色剤の役割について解説します。

パウダー化粧品において着色剤は、美肌に見せるために肌の色を好ましい色に調整し、肌のムラやくすみ、シミなどの欠点を隠す役割を担っていますが、着色顔料だけでは肌の色は好みどおりでかつ肌の欠点も隠れたとしても人工的で不自然な仕上がりになり、また肌への伸びや滑り性も悪いものとなってしまうことが知られています[7a]

そこで、着色剤の色を薄め、かつ塗りやすく均一で適切な仕上がりにするために体質顔料を混合することが、パウダー化粧品には不可欠となっています[7b]

タルクは、Mg3SiO4O10(OH)2の組成をもつ層状粉体(粘土鉱物)であり、シートの層間は水素結合なので弱い力で容易にばらばらになるため、鉱物の中で最も柔らかく、滑石という名前の通り塗布時に滑るように広がる滑性の高さが特徴のひとつです[2b][7c]

加えてオイルなどの有機物との親和性が高く、やや親油的な性質を示すので感触にはオイルっぽさがあり、柔らかくしっとりとした感触を特徴とすることから[7d]、着色剤の希釈剤や増量剤としてメイクアップ製品、コンシーラー製品、おしろい、ベビーパウダー製品、化粧下地製品、ネイル製品などに汎用されています。

2.2. 吸着

吸着に関しては、タルクは皮膚への付着性に優れていることから、付着性向上目的でメイクアップ製品、コンシーラー製品、おしろい、ベビーパウダー製品、化粧下地製品などに汎用されています[2c]

3. 混合原料としての配合目的

タルクは混合原料が開発されており、タルクと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。

原料名 タルク DN-SH
構成成分 タルクハイドロゲンジメチコン
特徴 タルク表面をハイドロゲンジメチコンで処理することにより撥水性を付与したタルク
原料名 タルク EX-15WA3
構成成分 タルクアモジメチコン
特徴 タルク表面をアモジメチコンで処理することにより撥水性、滑り性、密着性、使用感を向上させたもちもちした感触のタルク
原料名 プルセア TZ-30
構成成分 タルク酸化亜鉛
特徴 タルク表面を微粒子酸化亜鉛で処理することにより紫外線防御効果となめらかな感触を両立させたタルク
原料名 MBBT タルク DM
構成成分 タルクメチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノール水酸化Alジメチコン
特徴 タルク表面をUVBとUVAを防御するメチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノールにて被覆した後にジメチコンにて処理することにより紫外線防御効果を付与したタルク
原料名 NIKKOL FONCOAT TA-1
構成成分 タルク、パーフルオロプロポキシ(パーフルオロPPG)-9ジメチルアミノプロピルアミド、リン酸
特徴 タルク表面をパーフルオロポリエーテル誘導体で処理することにより優れた撥水性、撥油性、化粧崩れを防ぐロングラスティング効果を付与した非常に滑らかな感触のタルク
原料名 UNISPHERES RE0M-574XS
構成成分 結晶セルロースマンニトールタルク酸化鉄酢酸トコフェロールデシルグルコシドヒドロキシプロピルメチルセルロース
特徴 極小サイズの赤色の球状キャリア
原料名 UNISPHERES GE0M-575XS
構成成分 結晶セルロースマンニトールタルク水酸化クロム酢酸トコフェロールデシルグルコシドヒドロキシプロピルメチルセルロース
特徴 極小サイズの緑色の球状キャリア
原料名 UNISPHERES UE0M-576XS
構成成分 結晶セルロースマンニトールタルク酢酸トコフェロールグンジョウシリカカオリンデシルグルコシドヒドロキシプロピルメチルセルロース
特徴 極小サイズの青色の球状キャリア
原料名 UNISPHERES YE0M-554LG
構成成分 マンニトール結晶セルロースタルクアクリレーツコポリマー、ポリブチレンテレフタレート、酢酸トコフェロール、(エチレン/VA)コポリマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロース酸化鉄シメチコン
特徴 色剤や活性成分を坦持する目に見える大きさの黄色の球状キャリア
原料名 WHITE SHELL UNISPHERES NTL-3510C
構成成分 マンニトール結晶セルロースマイカ、(アクリレーツ/メタクリル酸アンモニウム)コポリマー、クエン酸トリエチル酸化チタンタルクヒドロキシプロピルメチルセルロース
特徴 光沢のある白色の球状キャリア
原料名 CAVIAR UNISPHERES NTL-3613C
構成成分 マンニトール結晶セルロース酸化鉄酢酸トコフェロール、(アクリレーツ/メタクリル酸アンモニウム)コポリマー、パルミチン酸レチノールタルククエン酸トリエチルトリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルマイカ酸化チタンヒドロキシプロピルメチルセルロース
特徴 光沢のある黒色の球状キャリア
原料名 ROSE CORAL UNISPHERES NTL-3423C
構成成分 マンニトール結晶セルロース酢酸トコフェロールマイカ、(アクリレーツ/メタクリル酸アンモニウム)コポリマー、パルミチン酸レチノールタルククエン酸トリエチルトリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル酸化チタン水酸化Al赤226グンジョウシリカカオリンヒドロキシプロピルメチルセルロースポリソルベート20シメチコン
特徴 光沢のあるピンク色の球状キャリア
原料名 COSMOPOLITAN UNISPHERES NTL-3821C
構成成分 マンニトール結晶セルロースマイカ酸化鉄クエン酸トリエチル、(アクリレーツ/メタクリル酸アンモニウム)コポリマー、タルクヒドロキシプロピルメチルセルロースアルミナ
特徴 光沢のあるオレンジブラウンの球状キャリア
原料名 GOLD TREASURE UNISPHERES NTL-3212C
構成成分 マンニトール結晶セルロース酢酸トコフェロール酸化鉄クエン酸トリエチルマイカ酸化チタン、(アクリレーツ/メタクリル酸アンモニウム)コポリマー、タルクヒドロキシプロピルメチルセルロース
特徴 光沢のある金色の球状キャリア
原料名 UNISPHERES DIAMOND M
構成成分 マンニトール結晶セルロースタルク、ポリブチレンテレフタレート、アクリレーツコポリマー、(エチレン/VA)コポリマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロース酸化チタン、ダイヤモンド末、グンジョウカオリンシリカシメチコン
特徴 ダイヤモンド末を配合したきらめく水色の球状キャリア
原料名 UNISPHERES SAPPHIRE M
構成成分 マンニトール結晶セルロースタルク、ポリブチレンテレフタレート、グンジョウカオリンシリカアクリレーツコポリマー、(エチレン/VA)コポリマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、サファイア末、酸化鉄シメチコン
特徴 サファイア末を配合したきらめく青色の球状キャリア
原料名 UNIHEARTS P0-651C
構成成分 マンニトール結晶セルロースアクリレーツコポリマーヒドロキシプロピルセルローストリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルデシルグルコシドヒドロキシプロピルメチルセルロースタルク、(アクリレーツ/メタクリル酸アンモニウム)コポリマー、マイカクエン酸トリエチル酸化チタン赤226水酸化Alポリソルベート20シメチコン
特徴 ピンクのハート型ビーズ
原料名 UNIHEARTS R0-652C
構成成分 マンニトール結晶セルロースアクリレーツコポリマーヒドロキシプロピルセルローストリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルデシルグルコシドヒドロキシプロピルメチルセルロース水酸化Al赤226、(アクリレーツ/メタクリル酸アンモニウム)コポリマー、タルクマイカクエン酸トリエチル酸化チタンポリソルベート20シメチコン
特徴 赤いハート型ビーズ

4. 配合製品数および配合量範囲

実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2010-2013年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。

タルクの配合製品数と配合量の調査結果(2010-2013年)

5. 安全性評価

タルクの現時点での安全性は、

  • 食品添加物の既存添加物リストに収載
  • 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
  • 発がん性(会陰部に使用する場合):ヒトにおける十分な証拠はないが、一部の女性に対して上皮がんに進行する懸念のある炎症反応を誘発する可能性の結論がでていない

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

ただし、会陰部へのタルクパウダーの使用に関しては、ヒトに対して証拠は不十分であるものの、発がん性の可能性が疑われており、さらなる検証結果および因果関係の解明が求められています。

以下は、この結論にいたった根拠です。

5.1. 皮膚刺激性

食品添加物の既存添加物リスト、日本薬局方および医薬部外品原料規格2021に収載されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般に皮膚刺激はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

5.2. 眼刺激性

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。

5.3. 皮膚感作性(アレルギー性)

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[8]によると、

  • [動物試験] モルモット(数不明)に前処理として滅菌生理食塩水0.5mLのエマルション中の英国薬局グレード滅菌タルク10mgおよび完全フロイントアジュバントエマルション溶液0.5mLを皮内注射し、11匹の対照モルモットにはエマルションのみを注射した。皮膚試験は、様々な期間で片耳にデンプン粉末懸濁液を、もう片方にタルクを適用し、両耳にチャレンジパッチを適用してから24時間後に皮膚反応を評価したところ、すべての対照群においてわずかな皮膚の肥厚が観察され、その皮膚反応はタルク試験群におけるタルクのチャレンジに対する皮膚反応にみられたものと同様であった。この結果からタルクは皮膚感作剤ではなかった(G.G. Hawley et al,2007)

このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

5.4. 発がん性

世界保健機関(WHO)の一機関であるIARC(International Agency for Research on Cancer:国際がん研究機関)は、ヒトに対する発がん性に関する様々な物質・要因を評価し、以下の表のように4段階に分類しており[9][10]

グループ グループ内容 分類理由
グループ1 ヒトに対して発がん性がある ヒトにおいて発がん性の十分な証拠がある
グループ2A ヒトに対しておそらく発がん性がある 以下のうち少なくとも2つを含み、その中に暴露を受けたヒトまたはヒトの細胞もしくは組織のいずれかに係るものを少なくとも1つ含む場合。
・ヒトにおいて発がん性の限定的な証拠がある
・実験動物において発がん性の十分な証拠がある
・作用因子が発がん性物質の主要な特性を示す有力な証拠がある
グループ2B ヒトに対して発がん性がある可能性がある 以下のうちいずれか1つのみを含む場合。
・ヒトにおいて発がん性の限定的な証拠がある
・実験動物において発がん性の十分な証拠がある
・作用因子が発がん性物質の重要な特性を示す有力な証拠がある
グループ3 ヒトに対する発がん性について分類できない 作用因子が他のグループに分類できない場合。
また「実験動物における発がん性の作用機序がヒトでは作用しないという有力な証拠」が1つ以上の腫瘍部位について存在し、残りの腫瘍部位が「実験動物における十分な証拠」とは評価されず、かつヒトにおける研究や作用機序の研究に由来するデータから他のカテゴリーに分類することが適当でない場合も含む

2010年に公開されたIARCの評価によると、タルクの発がん性は、

  • 実験動物においてアスベストまたはアスベスト繊維を含まないタルクの発がん性について限定的な証拠がある
  • ヒトにおいてアスベストまたはアスベスト繊維を含まない吸入タルクの発がん性について十分な証拠がない

このように結論づけられており、「グループ3」に分類されています[11a]

ただし、タルクをベースとしたボディパウダーの会陰部(∗1)への使用に関しては、

∗1 会陰(えいん)とは、解剖学において狭義では外陰部と肛門の間を指し、広義では左右の大腿(だいたい)と臀部(でんぶ)で囲まれる骨盤の出口全体を指します。

  • ヒトにおいてタルクベースボディパウダーの会陰部での使用について発がん性の限定的な証拠がある

このように結論づけられており、「グループ2B」に分類されています[11b]

アスベストの混入に関しては、国内においては2006年にアスベストを含むタルクの製造、輸入、譲渡、提供または使用が禁止されており、また同年に厚生労働省によってタルクの製造を行っている33事業場に対する調査も行われた背景があり[12]、現在は安全で高純度のものが供給されていると報告されています[13]

次に、米国では股ずれ(∗2)の対策として、習慣的にタルクパウダーを使用する女性が多く、このような背景からタルクを主成分としたボディパウダーの会陰への使用に関する研究が多数行われ、

∗2 股ずれとは、主に大腿部の内側同士が歩行するたびにこすれ合う身体現象のことです。

  • 研究者たちが2万人の女性を対象とした研究結果を収集したところ、タルクパウダーを会陰へ使用した場合、卵巣がんリスクが24%増加する
  • タルクの粒子が炎症を引き起こし、この炎症が卵巣がん発生に大きく関与していると考えられる

このように、会陰部でのタルクパウダーの使用と発がん性との関連性が複数報告されており、米国政府が1994年と2008年にFDA(Food and Drug Administration:アメリカ食品医薬品局)に対してタルクの警告表示義務を求めたところ、FDAは2014年に因果関係を示す「決定的な証拠」は見つからないという理由で警告表示義務を却下しているものの、タルクは「異物型反応と、一部の女性に対して上皮がんに進行する懸念のある炎症反応を起こす可能性がある」としています[14]

このような背景がある中で、2020年に米国の国立環境衛生科学研究所によって報告された卵巣がんに対するタルクパウダー長期使用の影響検証によると、

これまで会陰部でのパウダー使用と卵巣がんの関連性について、ケースコントロール試験で関連ありとの報告はあるものの、コホート試験による検証はされていなかったことから、米国を拠点とする4つの前向きコホート研究(∗3)の女性被験者のデータをプール解析(∗4)した。

∗3 コホート研究とは、特定の疾病要因に関わっている集団と、無関係の集団の2グループを作り、それぞれのグループの中での対象疾病発生率を算出することで、要因と疾患発症の関連性を調べるための観察的研究の手法の一つです。

∗4 プール解析とは、複数の研究の元データを集めて再解析する方法であり、この方法では精度の良い量的な指標が得られるだけでなく、個別研究では症例数が足りない、関連の大きさが小さいなどの理由で十分な結論が得られないテーマについて説得力のあるエビデンスを新たに作ることができる可能性があります。

研究グループとして、

研究グループ 試験登録(年) 被検者数(例) フォローアップ(年)
Nurses’ Health Study 1976 81,869 1982-2016
Nurses’ Health Study Ⅱ 1989 61.261 2013-2017
Sister Study 2003-2009 40,647 2003-2017
Women’s Health Initiative Observational Study 1993-1998 73,267 1993-2017

これらのいずれかに参加した女性被験者の会陰部でのパウダー使用について、「使用歴あり」「長期間使用(20年以上)」「頻繁に使用(週1回以上)」の状況を調べ、自己申告の卵巣がん発症との関連を調べた。

その結果、約25万人の女性被検者のうち、38%が会陰部でのパウダー使用について自己申告しており、そのうち長期間使用は10%、頻繁に使用は22%であった。

また、卵巣がんの推定発生率は会陰部へのタルクパウダー使用歴のある被検者で10万人あたり61人、使用歴のない被検者で55人であり、会陰部へのタルクパウダーの使用と卵巣がんのリスクとの間に統計的に有意な関連はなく、また卵巣がんのリスクに関連して会陰部へのタルクパウダー使用期間と頻度について明確な用量反応傾向はなかった。

このコホート研究におけるプール解析は、リスクの小さな変化を検出するには不十分でしたが、会陰部へのタルクパウダー使用に関するこれまでで最大の研究であり、この規模での前向きコホート研究は他にはないと考えられています。

タルク製品の会陰部使用と卵巣がんに関する研究の主な要因のひとつは、タルクとアスベストの潜在的な関連性であり、1976年のアスベスト禁止以前に女性がタルクパウダーを使用した可能性がある年配のコホートに限定した分析では推定される影響は一貫しており、若いコホートでは関連性は観察されなかった。

ただし、アスベストが混入していなくても上皮性卵巣組織または卵管を直接刺激することにより、タルクパウダーは炎症反応を誘発する可能性があり、これは酸化ストレスレベルの上昇、DNA損傷および細胞分裂のカスケードを引き起こす可能性があるため、そのすべてが発がん性に寄与する可能性があるといえます。

生殖管が開存していない女性と比較して、生殖管が開存している(子宮摘出または卵管結紮の病歴がない)女性のほうが炎症反応を誘発する可能性は高い傾向がみられましたが、この傾向は生殖管が開存していない女性で観察されたものと有意差はなかったため、会陰部においてタルクパウダーが炎症を誘発するという発見は仮説段階に過ぎないと考えるべきです。

このような分析結果が明らかにされており[15]、会陰部におけるタルクパウダーと、発がん性および炎症誘発の明確な関連は確認されていません。

現時点では、2020年の大規模なコホート研究の結果として会陰部におけるタルクパウダーと、発がん性および炎症誘発の明確な関連は確認されませんでしたが、この研究は発がん性リスクのわずかな増加を特定するには不十分であった可能性があり、改めて試験データが公開された場合は改めて評価する必要があります。

6. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「タルク」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,636.
  2. abc日光ケミカルズ株式会社(2016)「体質粉体」パーソナルケアハンドブックⅠ,290-298.
  3. ab日本医薬品添加剤協会(2021)「タルク」医薬品添加物事典2021,372-373.
  4. abc樋口 彰, 他(2019)「タルク」食品添加物事典 新訂第二版,216.
  5. 杉田 智明(2020)「体質顔料」色と顔料の世界 新版,312-326.
  6. 藤田 寅雄・白木 義一(2000)「タルク」顔料の事典,182-183.
  7. abcd柴田 雅史(2021)「無色の光の美しさと感触調整 – 体質顔料」美しさをつくる色材工学,180-199.
  8. M.M. Fiume, et al(2015)「Safety Assessment of Talc as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(34)(1),66S-129S. DOI:10.1177/1091581815586797.
  9. 農林水産省(2022)「国際がん研究機関(IARC)の概要とIARC発がん性分類について」, 2022年9月6日アクセス.
  10. International Agency for Research on Cancer(2022)「Agents Classified by the IARC Monographs, Volumes 1–131」, 2022年9月6日アクセス.
  11. abInternational Agency for Research on Cancer(2010)「Talc Not Containing Asbestiform Fibres」IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans(93),277-413.
  12. 厚生労働省(2006)「タルクへの石綿含有可能性調査結果について」, 2019年7月19日アクセス.
  13. 黒岩 昭郎・大澤 康紀(2003)「タルクの化粧品への新しい展開」Fragrance Journal(31)(12),131-139.
  14. “東洋経済ONLINE”(2016)「ベビーパウダーに「発がん性物質」は本当か」, 2019年7月19日アクセス.
  15. Katie M. O’Brien, et al(2020)「Association of Powder Use in the Genital Area With Risk of Ovarian Cancer」JAMA(323)(1),49-59. DOI:10.1001/jama.2019.20079.

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