シリカの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | シリカ |
---|---|
医薬部外品表示名 | 無水ケイ酸 |
INCI名 | Silica |
配合目的 | 増量・希釈、ソフトフォーカス、表面改質、不透明化 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
1.2. 性状
シリカの性状は、
状態 | 白色の微粉末 |
---|---|
粒径 | 1nm-400μm |
このように報告されており[2a]、また粒径(大きさ)や形状によってベアリング性(転がり)、光散乱生、吸油性、屈折率などが異なることから、目的に応じた粒径および形状のシリカが用いられています。
1.3. 分布
シリカは、自然界において地球の地殻の約60%を占める珪素の酸化物であり、天然には石英、メノウ、玉髄などの鉱物や珪藻土として産出されます[2b]。
2. 化粧品としての配合目的
- 増量・希釈
- ソフトフォーカス効果
- 粉体の表面改質
- 不透明化
主にこれらの目的で、メイクアップ製品、コンシーラー製品、化粧下地製品、ネイル製品、洗顔料、洗顔石鹸、入浴剤などに汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 増量・希釈
増量・希釈に関しては、まず前提知識としてパウダー化粧品における着色剤の役割について解説します。
パウダー化粧品において着色剤は、美肌に見せるために肌の色を好ましい色に調整し、肌のムラやくすみ、シミなどの欠点を隠す役割を担っていますが、着色顔料だけでは肌の色は好みどおりでかつ肌の欠点も隠れたとしても人工的で不自然な仕上がりになり、とても美肌とはよべない状態となり、また肌への伸びや滑り性も悪いものとなってしまうことが知られています[3a]。
そこで、着色剤の色を薄め、かつ塗りやすく均一で適切な仕上がりにするために体質顔料を混合することが、パウダー化粧品には不可欠となっています[3b]。
シリカは、平均粒径5-10μmの球状粉末がベアリング効果(転がり性)を有していることから、延びが良く非常になめらかな使用感を付与し、プレス製品においてはプレス性を向上させることから、着色剤の希釈剤や増量剤、賦形剤としてメイクアップ製品、化粧下地製品、ネイル製品などに汎用されています[2b][3c][4a]。
また、球状で多孔質(∗1)のものであれば吸油性を有しており、オイル中での分散性が良好であることや肌上で皮脂を吸着することから、オイル分散性を向上させる目的や過剰な皮脂による化粧崩れや肌のテカリを抑制する目的も兼ねて配合されています[3d]。
∗1 多孔質とは、細かい穴(孔)がたくさん空いた構造になっている性質のことです。
さらに、リキッド製品においてはツヤを低くする効果を有することから、マットな仕上がり感を付与する目的も兼ねて配合されています[2c][3e]。
2.2. ソフトフォーカス効果
ソフトフォーカス効果に関しては、まず前提知識として毛穴や小じわと光の関係およびソフトフォーカス効果について解説します。
肌の表面は皮表と呼ばれ、以下の図のように、
凸部の皮丘と凹部の皮溝で構成された肌理(キメ)構造によって形成されています。
皮丘には多くの光が当たることで明るくなる一方で、皮溝、小ジワ、毛穴などくぼんだ部分には光が当たりにくく影になり、その明度差がくぼみ部分を目立たせることが知られています[5]。
このような背景から、くぼみ部分を目立ちにくくさせるには、
- 皮膚表面の凹凸間の輪郭をぼかすこと
- 皮膚表面の凹凸間の明度差を減少させること
この2点が重要であるというソフトフォーカス理論が報告され[6]、また以下のソフトフォーカス効果の仕組み図をみてもらうとわかるように、
球状という形態から球状粉体が光を乱反射し、この乱反射により肌表面の光情報が隠されて凹凸をぼかすソフトフォーカス効果を発揮することが知られています[7][8]。
シリカは屈折率1.47であり、かつシリカのうち球状で100nm-1μmの粒径のものは光散乱能が最大となっており、この大きさの光拡散性と無機酸化物の中では低い屈折率が組み合わさることによって高いソフトフォーカス効果を有することから[4b]、ファンデーションなどに汎用されています。
2.3. 粉体の表面改質
粉体の表面改質に関しては、シリカは無機酸化物の中で最も屈折率が低いもののひとつであるとともに化学安定性が非常に高く、以下の表をみてもらうとわかると思いますが、
顔料の種類 | シリカの被覆効果 |
---|---|
体質顔料 着色顔料 |
粒子の表面反射光を低減し、過度の光沢を抑制することで高い透明性による自然感を実現するとともに皮膚の欠点をぼかす効果 |
着色顔料 | 濡れくすみの抑制によるロングラスティング性(∗2) |
微粒子酸化チタン 微粒子酸化亜鉛 |
酸化チタンおよび酸化亜鉛の化学的活性や光触媒活性を抑制することで光による劣化および変色を防止し、塗布時の白さと伸びの重さを改良 |
∗2 ロングラスティング性とは長持ちするという意味です。
シリカの被覆におけるこれらの特性を利用し[4c]、ほかの顔料と複合的な機能を発揮する目的でメイクアップ製品に汎用されています。
2.4. 不透明化
不透明化に関しては、シリカは基剤の透明度を下げる目的で主に洗顔石鹸、ボディ石鹸に使用されています[1b]。
3. 混合原料としての配合目的
シリカは混合原料が開発されており、シリカと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | RonaFlair M-Sphere |
---|---|
構成成分 | マイカ、シリカ |
特徴 | 板状マイカの微粒子とサブミクロンサイズの球状シリカの組み合わせがボールベアリングのように機能し、シルキーでなめらかな感触を付与する白色粉末 |
原料名 | トリニティカプセル TC-30T |
---|---|
構成成分 | シリカ、酸化チタン、水酸化Al |
特徴 | 顔料級酸化チタンを30%内包した感触の良い球状多孔質シリカカプセル |
原料名 | プルセア SIZ-30 |
---|---|
構成成分 | シリカ、酸化亜鉛、ジメチコン |
特徴 | 微粒子酸化亜鉛を30%被覆することによりUVカットとソフトフォーカス効果を発揮する球状多孔質シリカ |
原料名 | プルセア SIT-40 |
---|---|
構成成分 | シリカ、酸化チタン、水酸化Al、ステアリン酸 |
特徴 | 微粒子酸化チタン40%被覆することによりUVカットとソフトフォーカス効果を発揮する球状多孔質シリカ |
原料名 | PARSOL TX |
---|---|
構成成分 | 酸化チタン、酸化チタン、ジメチコン |
特徴 | シリカ処理することにより表面活性を抑えた酸化チタン |
原料名 | RonaFlair Flawless |
---|---|
構成成分 | シリカ、酸化チタン、酸化鉄 |
特徴 | コーティングされた球状粉体がしわに入り込み光を拡散することでソフトフォーカス効果を発揮する体質顔料 |
原料名 | RonaFlair Softshade |
---|---|
構成成分 | マイカ、酸化チタン、アルミナ、シリカ |
特徴 | すりガラスのようなマットなソフトフォーカス効果を発揮する体質顔料 |
原料名 | RonaFlair LDP White |
---|---|
構成成分 | ケイ酸(Na/K/Al)、酸化チタン、シリカ |
特徴 | シリカと酸化チタンをコーティングすることでソフトフォーカス効果を発揮するセラミックのミクロスフェア |
原料名 | Xirona Series |
---|---|
構成成分 | シリカ、酸化チタン、酸化スズ |
特徴 | シリカフレークを基剤とした様々な色のパール顔料 |
原料名 | Timiron Series |
---|---|
構成成分 | マイカ、酸化チタン、シリカ |
特徴 | 天然マイカを基剤とした様々な色のパール顔料 |
原料名 | Ronastar Series |
---|---|
構成成分 | ホウケイ酸(Ca/Al)、酸化チタン、シリカ、酸化スズ |
特徴 | ガラスフレークを基剤とした様々な色のパール顔料 |
原料名 | Colorona Precious Gold |
---|---|
構成成分 | マイカ、酸化チタン、酸化鉄、シリカ、酸化スズ |
特徴 | 酸化チタン・ベンガラ被覆のメタリック調のゴールドパール顔料 |
原料名 | STパウダー G-MG |
---|---|
構成成分 | シリカ、ステアリン酸Mg |
特徴 | ステアリン酸マグネシウムをコーティングしたソフトでシルキーな感触の球状多孔質シリカ |
原料名 | NIKKOL パウダーシュガースクワラン 03 |
---|---|
構成成分 | スクワラン、シリカ |
特徴 | パウダー製品へしっとり滑らかな感触を付与するスクワランを内包させた機能性球状シリカ |
原料名 | Granpowder QSA |
---|---|
構成成分 | ポリメチルシルセスキオキサン、シリカ |
特徴 | 滑り性、柔軟な感触、ソフトフォーカス効果を付与する水にも油にも分散可能な感触改良パウダー |
原料名 | CS-400 |
---|---|
構成成分 | (HDI/PPG/ポリカプロラクトン)クロスポリマー、シリカ |
特徴 | 疑似クリーミー感やソフトフォーカス効果を付与する柔軟性の高い真球状のポリウレタンパウダー |
原料名 | D-400 or D-800 |
---|---|
構成成分 | (HDI/トリメチロールヘキシルラクトン)クロスポリマー、シリカ |
特徴 | ソフトフォーカス効果にくわえて疑似モイスチャー感または疑似クリーミー感を付与する柔軟性の高い真球状のポリウレタンパウダー |
原料名 | FS-400 |
---|---|
構成成分 | ポリウレタン-44、シリカ |
特徴 | 疑似クリーミー感やソフトフォーカス効果を付与する柔軟性の高い真球状のポリウレタンパウダー |
原料名 | GRAPE CRUSH UNISPHERES L00L-647S |
---|---|
構成成分 | 乳糖、結晶セルロース、グンジョウ、シリカ、カオリン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース |
特徴 | 紫色の球状キャリア |
原料名 | DEEP PURPLE UNISPHERES L00L-612LC |
---|---|
構成成分 | 乳糖、結晶セルロース、マイカ、(アクリレーツ/メタクリル酸アンモニウム)コポリマー、クエン酸トリエチル、酸化チタン、水酸化Al、グンジョウ、シリカ、カオリン、赤226、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリソルベート20、シメチコン |
特徴 | 光沢のある紫色の球状キャリア |
原料名 | ROSE CORAL UNISPHERES NTL-3423C |
---|---|
構成成分 | マンニトール、結晶セルロース、酢酸トコフェロール、マイカ、(アクリレーツ/メタクリル酸アンモニウム)コポリマー、パルミチン酸レチノール、タルク、クエン酸トリエチル、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、酸化チタン、水酸化Al、赤226、グンジョウ、シリカ、カオリン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリソルベート20、シメチコン |
特徴 | 光沢のあるピンク色の球状キャリア |
原料名 | UNISPHERES NATURAL M0-811S |
---|---|
構成成分 | セルロース、キシリトール、タピオカデンプン、結晶セルロース、水添ヒマシ油、ホホバ種子油、酸化鉄、デシルグルコシド、シリカ、グンジョウ、カオリン、アルギン酸Na |
特徴 | 竹色の球状キャリア |
原料名 | UNISPHERES NATURAL M0-812L |
---|---|
構成成分 | セルロース、キシリトール、タピオカデンプン、結晶セルロース、水添ヒマシ油、デシルグルコシド、ホホバ種子油、酸化鉄、グンジョウ、シリカ、カオリン、アルギン酸Na |
特徴 | 竹色の球状キャリア |
原料名 | UNISPHERES UEL-611 |
---|---|
構成成分 | 乳糖、結晶セルロース、酢酸トコフェロール、グンジョウ、シリカ、カオリン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース |
特徴 | 着色剤や活性成分を坦持する目に見える大きさの青色の天然球状キャリア |
原料名 | UNISPHERES NT-2103 |
---|---|
構成成分 | マンニトール、結晶セルロース、グンジョウ、酢酸トコフェロール、シリカ、パルミチン酸レチノール、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、カオリン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース |
特徴 | 着色剤や活性成分を坦持する目に見える大きさの青色の天然球状キャリア |
原料名 | UNISPHERES UEA-509 |
---|---|
構成成分 | 乳糖、結晶セルロース、酢酸トコフェロール、グンジョウ、シリカ、カオリン、パルミチン酸レチノール、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、ヒドロキシプロピルメチルセルロース |
特徴 | 着色剤や活性成分を坦持する目に見える大きさの青色の天然球状キャリア |
原料名 | UNISPHERES UE0M-576XS |
---|---|
構成成分 | 結晶セルロース、マンニトール、タルク、酢酸トコフェロール、グンジョウ、シリカ、カオリン、デシルグルコシド、ヒドロキシプロピルメチルセルロース |
特徴 | 極小サイズの青色の球状キャリア |
原料名 | UNISPHERES DIAMOND M |
---|---|
構成成分 | マンニトール、結晶セルロース、タルク、ポリブチレンテレフタレート、アクリレーツコポリマー、(エチレン/VA)コポリマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、酸化チタン、ダイヤモンド末、グンジョウ、カオリン、シリカ、シメチコン |
特徴 | ダイヤモンド末を配合したきらめく水色の球状キャリア |
原料名 | UNISPHERES SAPPHIRE M |
---|---|
構成成分 | マンニトール、結晶セルロース、タルク、ポリブチレンテレフタレート、グンジョウ、カオリン、シリカ、アクリレーツコポリマー、(エチレン/VA)コポリマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、サファイア末、酸化鉄、シメチコン |
特徴 | サファイア末を配合したきらめく青色の球状キャリア |
原料名 | UNISPHERES GOLD |
---|---|
構成成分 | マンニトール、結晶セルロース、ホウケイ酸(Ca/Na)、酸化鉄、シリカ、酸化チタン、酸化スズ、金、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、銅 |
特徴 | 24金配合、金色の球状キャリア |
原料名 | UNISPHERES WYRM-744SBI |
---|---|
構成成分 | マンニトール、結晶セルロース、酸化チタン、酸化鉄、アクリレーツコポリマー、硫酸Ba、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、デシルグルコシド、シリカ、シメチコン |
特徴 | 中が黄色色素、外側が白色の球状キャリア |
原料名 | UNISPHERES WNRM-665VSBI |
---|---|
構成成分 | 酸化チタン、マンニトール、結晶セルロース、酸化鉄、アクリレーツコポリマー、硫酸Ba、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、シリカ、ヒドロキシプロピルメチルセルロース |
特徴 | 中がベージュ色素、外側が白色の球状キャリア |
原料名 | UNISPHERES WNRM-558SBI |
---|---|
構成成分 | マンニトール、酸化鉄、結晶セルロース、酸化チタン、マイカ、硫酸Ba、アクリレーツコポリマー、シリカ、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、ヒドロキシプロピルメチルセルロース |
特徴 | 中が茶色色素、外側が白色の球状キャリア |
原料名 | UNIFLOWERS L0-668C |
---|---|
構成成分 | マンニトール、結晶セルロース、アクリレーツコポリマー、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、グンジョウ、酸化チタン、マイカ、シリカ、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、デシルグルコシド、(アクリレーツ/メタクリル酸アンモニウム)コポリマー、クエン酸トリエチル、シメチコン |
特徴 | 紫のフラワー型ビーズ |
原料名 | BIOGOMM`AGE UE SERIES |
---|---|
構成成分 | 結晶セルロース、グンジョウ、酢酸トコフェロール、ヒドロキシプロピルセルロース、シリカ、カオリン |
特徴 | ビタミンEを使用した生分解性のあるセルロースベースの皮膚角質除去粒子 |
4. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2008-2009年および2018-2019年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗3)。
∗3 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
5. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 皮膚刺激性(ナノ粒子):ほとんどなし-わずか
- 眼刺激性(ナノ粒子):ほとんどなし-軽度
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 光毒性(光刺激性):ほとんどなし(データなし)
- 光感作性:ほとんどなし(データなし)
- 発がん性:ヒトおよび動物における十分な証拠なし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[9a][10]によると、
- [ヒト試験] 27名の被検者に21.74%シリカを含むフェイシャルパウダーの30%水溶液を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、この製品は皮膚感作を示さなかった(KGL Inc,2004)
– 微粒子シリカ(100nm以下) –
- [動物試験] 6匹のウサギの無傷および擦過した皮膚に微粒子シリカ500mgを24時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、無傷の皮膚においては皮膚刺激の兆候はみられず、3つの擦過した試験部位においてはわずかな紅斑がみられた(ECETOC,2006)
- [動物試験] 6匹のウサギの無傷および擦過した皮膚に微粒子シリカ500mgを24時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、無傷の皮膚においては24時間で1つの部位に最小限の紅斑が観察され、擦過した皮膚においては最小限の明瞭な紅斑がみられたが、72時間で紅斑の兆候は消失した(ECETOC,2006)
このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
皮膚刺激性に関しては、微粒子シリカにおいてまれに一過性のわずかな紅斑がみられますが、ほとんどのケースで皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はまれに一過性のわずかな刺激が起こる可能性があると考えられます。
5.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[9b]によると、
– 微粒子シリカ(100nm以下) –
- [動物試験] 8匹のウサギの眼に微粒子シリカ100mgを適用し、5匹は眼をすすがず、残りの3匹は適用5分後に眼をすすぎ、眼刺激性を評価したところ、いずれのウサギも刺激の兆候はなかった(ECETOC,2006)
- [動物試験] 3匹のウサギの眼に微粒子シリカ3mgを適用し、適用後に眼刺激性を評価したところ、わずか-軽度の発赤がみられたが、これらは48時間で消失した(ECETOC,2006)
- [動物試験] 6匹のウサギの眼に微粒子シリカ3.5mgを適用し、適用後に眼刺激性を評価したところ、24,48および72時間で数匹のウサギでわずかな結膜紅斑またはケモ-シスがみられた。また4時間で2匹のウサギに一時的な混濁がみられた(ECETOC,2006)
- [動物試験] 9匹のウサギの眼に微粒子シリカ100mgを適用し、6匹は眼をすすがず、残りの3匹は眼をすすぎ、眼刺激性を評価したところ、24,48および72時間で洗眼群において刺激の兆候はなかった(ECETOC,2006)
このように記載されており、試験データをみるかぎり非刺激-軽度の眼刺激が報告されているため、一般に 眼刺激性は非刺激-軽度の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
5.3. 光毒性(光刺激性)および光感作性
化学的安定性が非常に高く、また光触媒活性を有する成分を被膜して活性を抑制する被膜剤として古くから使用されている実績から、光毒性(光刺激性)および光感作性はほとんどないと考えられます。
5.4. 発がん性
世界保健機関(WHO)の一機関であるIARC(International Agency for Research on Cancer:国際がん研究機関)は、ヒトに対する発がん性に関する様々な物質・要因を評価し、以下の表のように4段階に分類しており[11][12]、
グループ | グループ内容 | 分類理由 |
---|---|---|
グループ1 | ヒトに対して発がん性がある | ヒトにおいて発がん性の十分な証拠がある |
グループ2A | ヒトに対しておそらく発がん性がある | 以下のうち少なくとも2つを含み、その中に暴露を受けたヒトまたはヒトの細胞もしくは組織のいずれかに係るものを少なくとも1つ含む場合。 ・ヒトにおいて発がん性の限定的な証拠がある ・実験動物において発がん性の十分な証拠がある ・作用因子が発がん性物質の主要な特性を示す有力な証拠がある |
グループ2B | ヒトに対して発がん性がある可能性がある | 以下のうちいずれか1つのみを含む場合。 ・ヒトにおいて発がん性の限定的な証拠がある ・実験動物において発がん性の十分な証拠がある ・作用因子が発がん性物質の重要な特性を示す有力な証拠がある |
グループ3 | ヒトに対する発がん性について分類できない | 作用因子が他のグループに分類できない場合。 また「実験動物における発がん性の作用機序がヒトでは作用しないという有力な証拠」が1つ以上の腫瘍部位について存在し、残りの腫瘍部位が「実験動物における十分な証拠」とは評価されず、かつヒトにおける研究や作用機序の研究に由来するデータから他のカテゴリーに分類することが適当でない場合も含む |
1997年に公開されたIARCの評価によると、シリカ(非晶質シリカ:Amorphous silica)の発がん性は、
- 実験動物においてシリカの発がん性について十分な証拠がない
- ヒトにおいてシリカの発がん性について十分な証拠がない
このように結論づけられており、「グループ3」に分類されています[13]。
6. 参考文献
- ⌃ab日本化粧品工業連合会(2013)「シリカ」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,522-523.
- ⌃abc日光ケミカルズ株式会社(2016)「体質粉体」パーソナルケアハンドブックⅠ,290-298.
- ⌃abcde柴田 雅史(2021)「無色の光の美しさと感触調整 – 体質顔料」美しさをつくる色材工学,180-199.
- ⌃abc田中 博和・宮崎 巧(2000)「シリカの特性と化粧品への応用」Fragrance Jpurnal(28)(11),64-70.
- ⌃栗林 さつき(2005)「毛穴対策用メイクアップ化粧料」Fragrance Journal(33)(9),33-38.
- ⌃中村 直生, 他(1987)「粉体の光学的研究とシワ隠し効果」日本化粧品技術者会誌(21)(2),119-126. DOI:10.5107/sccj.21.119.
- ⌃南 孝司(2003)「デフォーカス効果」化粧品事典,610.
- ⌃毛利 邦彦(1996)「ファンデーション用粉体の開発動向」色材協会誌(69)(8),530-538. DOI:10.4011/shikizai1937.69.530.
- ⌃abL.C. Becker, et al(2009)「Safety Assessment of Silica and Related Cosmetic Ingredients」, 2022年9月29日アクセス.
- ⌃W.F. Bergfeld, et al(2019)「Amended Safety Assessment of Synthetically-Manufactured Amorphous Silica and Hydrated Silica as Used in Cosmetics」, 2022年9月29日アクセス.
- ⌃農林水産省(2022)「国際がん研究機関(IARC)の概要とIARC発がん性分類について」, 2022年9月29日アクセス.
- ⌃International Agency for Research on Cancer(2022)「Agents Classified by the IARC Monographs, Volumes 1–131」, 2022年9月29日アクセス.
- ⌃International Agency for Research on Cancer(1997)「Silica, Some Silicates, Coal Dust and para-Aramid Fibrils」IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans(68),41-242.