硫酸Baの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | 硫酸Ba |
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医薬部外品表示名 | 硫酸バリウム |
INCI名 | Barium Sulfate |
配合目的 | 増量・希釈 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表される硫酸のバリウム塩(体質顔料)です[1]。
1.2. 物性・性状
硫酸Baの物性・性状は、
状態 | 白色の板状粉末 |
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溶解性 | 水、エタノールに不溶 |
1.3. 分布
硫酸Baは、自然界において重晶石鉱床に産するほか、砂漠のバラ(∗1)として各地の砂漠からも採掘されます[2b]。
∗1 砂漠のバラとは、硫酸カルシウムまたは硫酸バリウムが自然現象でバラのような形状の結晶に成長した石であり、水に溶けたミネラルが結晶となったものであることから、砂漠から採掘されるとはいえども採取された場所にかつて水が存在した証拠として扱われることが有ります。
2. 化粧品としての配合目的
- 増量・希釈
主にこれらの目的で、メイクアップ製品、コンシーラー製品、ネイル製品、化粧下地製品、日焼け止め製品などに汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 増量・希釈
増量・希釈に関しては、まず前提知識としてパウダー化粧品における着色剤の役割について解説します。
パウダー化粧品において着色剤は、美肌に見せるために肌の色を好ましい色に調整し、肌のムラやくすみ、シミなどの欠点を隠す役割を担っていますが、着色顔料だけでは肌の色は好みどおりでかつ肌の欠点も隠れたとしても人工的で不自然な仕上がりになり、とても美肌とはよべない状態となり、また肌への伸びや滑り性も悪いものとなってしまうことが知られています[4a]。
そこで、着色剤の色を薄め、かつ塗りやすく均一で適切な仕上がりにするために体質顔料を混合することが、パウダー化粧品には不可欠となっています[4b]。
硫酸Baは、透明感のある白色粉末であり、被覆力(カバー力)が乏しいものの変色せず、柔らかい感触を有することから、着色剤の希釈剤や増量剤としてメイクアップ製品、コンシーラー製品、化粧下地製品、ネイル製品などに汎用されています[5][6]。
3. 混合原料としての配合目的
硫酸Baは混合原料が開発されており、硫酸Baと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | 板状硫酸バリウム・H-LFM |
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構成成分 | 硫酸Ba、ミリスチン酸 |
特徴 | 脂肪酸で表面を処理することによりマットな質感に仕上げ、より高い滑り性を有した硫酸バリウム |
原料名 | 板状硫酸バリウム・HG-LFP |
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構成成分 | 硫酸Ba、パルミチン酸エチルヘキシル、水酸化Mg |
特徴 | 脂肪酸で表面を処理することにより光沢感のある質感に仕上げ、より高い滑り性を有した硫酸バリウム |
原料名 | C91-4131 INTENZA Passionate Kiss |
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構成成分 | 赤202、硫酸Ba、合成フルオロフロゴパイト、酸化チタン、酸化スズ |
特徴 | 赤色パール顔料 |
原料名 | C91-4231 INTENZA Radiant Rose |
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構成成分 | 赤202、硫酸Ba、ロジン、合成フルオロフロゴパイト、酸化チタン、酸化スズ |
特徴 | 赤色パール顔料 |
原料名 | UNISPHERES WYRM-744SBI |
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構成成分 | マンニトール、結晶セルロース、酸化チタン、酸化鉄、アクリレーツコポリマー、硫酸Ba、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、デシルグルコシド、シリカ、シメチコン |
特徴 | 中が黄色色素、外側が白色の球状キャリア |
原料名 | UNISPHERES WNRM-665VSBI |
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構成成分 | 酸化チタン、マンニトール、結晶セルロース、酸化鉄、アクリレーツコポリマー、硫酸Ba、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、シリカ、ヒドロキシプロピルメチルセルロース |
特徴 | 中がベージュ色素、外側が白色の球状キャリア |
原料名 | UNISPHERES WNRM-558SBI |
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構成成分 | マンニトール、酸化鉄、結晶セルロース、酸化チタン、マイカ、硫酸Ba、アクリレーツコポリマー、シリカ、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、ヒドロキシプロピルメチルセルロース |
特徴 | 中が茶色色素、外側が白色の球状キャリア |
4. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2013-2014年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗2)。
∗2 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
5. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性
医薬部外品原料規格2021に収載されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
5.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
5.3. 皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[7]によると、
- 硫酸Baは、臨床試験を通じて感作活性は何も検出されていない(D.V. Belsito,2014)
このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
6. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「硫酸Ba」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,1079.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(2016)「体質粉体」パーソナルケアハンドブックⅠ,290-298.
- ⌃大木 道則, 他(1989)「硫酸バリウム」化学大辞典,2497.
- ⌃ab柴田 雅史(2021)「無色の光の美しさと感触調整 – 体質顔料」美しさをつくる色材工学,180-199.
- ⌃鈴木 一成(2012)「硫酸バリウム」化粧品成分用語事典2012,544.
- ⌃宇山 侊男, 他(2020)「硫酸Ba」化粧品成分ガイド 第7版,227.
- ⌃W. Johnson, et al(2018)「Safety Assessment of Barium Sulfate as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(37)(3_suppl),5S-11S. DOI:10.1177/1091581818799346.