ニンニク根エキスとは…成分効果と毒性を解説



・ニンニク根エキス
[医薬部外品表示名]
・ニンニクエキス
ユリ科植物ニンニク(学名:Allium sativum 英名:Garlic)の鱗茎から水、エタノール、BG、またはこれらの混液で抽出して得られる抽出物(植物エキス)です。
ニンニクは、中央アジア原産とされ、野生は発見されていないもののエジプト、中国、インドでは有史以前から栽培されており、古代エジプトのピラミッド建設の労働者へニンニクが支給されていたことや古代ローマで競技・戦闘の際にニンニクが使用されていた記録など古くから滋養・強壮剤として用いられてきた歴史があり、現在は世界の60%以上を中国が生産しています(文献1:2017;文献2:2011;文献3:2000)。
日本においても奈良時代に朝鮮を経由して伝来しましたが、仏教では「葷(くん)」(∗1)とよばれる特有の臭味と辛味のある野菜を食べることが禁じられていた影響もあり主に薬用として栽培され、食用としては洋風料理や中華料理など食の洋風化とともに身近なものとなり、現在は主に青森県で栽培されています(文献2:2011;文献4:2017)。
∗1 日本では特有の臭味と辛味のある葱類に「葷(くん)」という字を用い、仏教ではニンニク、ヒル、ニラ、ネギ、ラッキョウを「「五葷」とし、これらを食すると淫欲、憤怒の情が湧いて修行の妨げになることから摂取を禁じられていました(文献5:1966)。
ニンニク根エキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、
分類 | 成分名称 | |
---|---|---|
イオウ化合物 | アリイン、スコルジニン、シクロアリイン など | |
ビタミン | チアミン など |
これらの成分で構成されていることが報告されており(文献1:2011;文献6:1988;文献7:2015)、目的に応じてスコルジニン(scordinin)、ビタミンB₁ともよばれるチアミン(thiamine)、シクロアリイン(cycloalliin)いずれかの含有量を高めたもの、そのほかチアミンとアリシン(allicin)(∗2)を会合(∗3)させることで生成されるアリチアミン(allithiamine)を無臭化した上で含有したものなどが開発されています。
∗2 アリシンとは、無臭の含硫アミノ酸の一種であるアリインが切り刻まれる・すりおろされるなど細胞が破壊されることによって加水分解酵素であるアリイナーゼを介して分解されたニンニク臭の本体です(文献1:2011;文献8:1984)。
∗3 会合とは、同種の分子またはイオンが比較的弱い力で数個結合し、一つの分子またはイオンのようにふるまうことをいいます。
ニンニクの鱗茎(生薬名:大蒜)の化粧品以外の主な用途としては、食品分野において香味野菜や香辛料として用いられているほか、加工品としては乾燥品を粉末にしたガーリックパウダーやスライスなどを香辛料に、そのほか酢漬けやしょうゆ漬け、梅肉漬け、ニンニク酒などに用いられます(文献1:2017)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア製品、ボディケア製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、頭皮ケア製品、メイクアップ製品、ボディソープ製品などに使用されています。
血管拡張による血行促進作用
血管拡張による血行促進作用に関しては、ニンニク根エキスに含まれるビタミンB₁であるチアミン(thiamine)とアリシン(allicin)を会合させることで生成されるアリチアミン(allithiamine)やイオウ化合物の一種であるスコルジニン(scordinin)に抹消血管拡張により血液循環を活発にする作用が以前より知られており(文献6:1988;文献9:1994)、スコルジンまたはアリチアミンを含有したニンニク根エキスは末梢血管拡張による血行促進作用があると考えられています。
1988年に富士産業によって報告されたニンニク根エキスおよびアリチアミン含有ニンニク根エキスの保温効果に対する影響検証によると、
比較対照として同じ10名に初日に何も添加・投入しないさら湯で同様の工程を実施したところ、以下の表のように、
アリチアミン含有ニンニク根エキス、アリチアミン、ニンニク根エキスを溶解させた浴湯は、さら湯と比較して皮膚温度が高く保持されることが確認された。
また、アリチアミン含有ニンニク根エキスは最も高く皮膚温度が保持された。
このような試験結果が明らかにされており(文献6:1988)、ニンニク根エキスおよびアリチアミン含有ニンニク根エキスに血管拡張による血行促進作用(保温効果)が認められています。
次に、1994年に常盤薬品工業によって報告されたスコルジニン含有ニンニク根エキスの保温効果に対する影響検証によると、
比較対照として同じ14名に別の日程において何も添加・投入しない湯で同様の工程を実施したところ、以下の表のように、
試料 | 被検者数 | 保温感 | |
---|---|---|---|
有効 | 無効 | ||
ニンニク根エキス配合入浴剤 | 15 | 11 | 3 |
浴湯のみ(対照) | 1 | 13 |
2%スコルジニン含有ニンニク根エキス配合入浴剤は、ほとんどの被検者において保温効果を認める結果を示した。
このような試験結果が明らかにされており(文献9:1994)、スコルジニン含有ニンニク根エキスに血管拡張による血行促進作用が認められています。
ただし、皮膚塗布による血行促進作用の試験データはみつかっていないため、みつかりしだい追補します。
角質層水分量増加による保湿作用
角質層水分量増加による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割について解説します。
直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように、
天然保湿因子を含む角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造となっており、この構造が保持されることによって、外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています(文献10:2002;文献11:2001)。
一方で、老人性乾皮症やアトピー性皮膚炎においては、角質細胞中のアミノ酸などの天然保湿因子が顕著に低下していることが報告されていることから(文献12:1989;文献13:1991)、角質層の水分量を増加することは、肌の乾燥の改善、ひいては皮膚の健常性の維持につながると考えられています。
このような背景から、角質層の水分量が低下している場合において角質層の水分量を増やすことは、肌の乾燥の改善ひいては皮膚の健常性の維持につながると考えられています。
1995年に富士産業によって報告されたアリチアミン含有ニンニク根エキスのヒト角層水分量への影響検証によると、
∗4 コンダクタンスとは、皮膚に電気を流した場合の抵抗(電気伝導度:電気の流れやすさ)を表し、角層水分量が多いと電気が流れやすくなり、コンダクタンス値が高値になることから、角層水分量を調べる方法として角層コンダクタンスを経時的に測定する方法が定着しています。ここでは塗布後の経過時間によって角層コンダクタンス値の変化率が小さいと角層水分の増加が高く、保湿性が高いと評価しています。
アリチアミン含有ニンニク根エキス配合保湿クリームの塗布は、未配合保湿クリームと比較して角層水分量を増加することが確認された。
このような試験結果が明らかにされており(文献14:1995)、アリチアミン含有ニンニク根エキスに角層水分量増加作用が認められています。
複合植物エキスとしてのニンニク根エキス
ニンニク根エキスは、他の植物エキスとあらかじめ混合された複合原料があり、ニンニク根エキスと以下の成分が併用されている場合は、複合植物エキス原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | ファルコレックスBX32 |
---|---|
構成成分 | BG、水、ニンニク根エキス、ローマカミツレ花エキス、ゴボウ根エキス、アルニカ花エキス、セイヨウキズタ葉/茎エキス、オドリコソウ花/葉/茎エキス、オランダガラシ葉/茎エキス、セイヨウアカマツ球果エキス、ローズマリー葉エキス |
特徴 | フケ原因菌抑制および過酸化脂質抑制作用目的で設計された9種類の混合植物抽出液 |
ニンニク根エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
医薬部外品原料規格2021に収載されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
眼刺激性について
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。
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ニンニク根エキスは血行促進成分、保湿成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
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参考文献:
- 杉田 浩一, 他(2017)「にんにく」新版 日本食品大事典,592-594.
- 鈴木 洋(2011)「大蒜(たいさん)」カラー版 漢方のくすりの事典 第2版,299-300.
- 松浦 広道(2000)「ニンニクの歴史と化学」日本未病システム学会雑誌(6)(2),103-105.
- 独立行政法人農畜産業振興機構(2017)「にんにくの需給動向」, <https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/yasai/1705/yasai1.html> 2021年2月17日アクセス.
- 福井 富次郎(1966)「葱の仲間」生活衛生(10)(1),6-17.
- 富士産業株式会社(1988)「浴用剤」特開昭63-307812.
- 一丸ファルコス株式会社, 他(2015)「含硫ニンニク成分を高含有する加工ニンニク抽出物及びその製造方法、これを含む医薬品、食品、飲料、化粧料」特開2015-065928.
- 神戸 保(1984)「ニンニク」生活衛生(28)(1),51.
- 常盤薬品工業株式会社(1994)「浴用剤」特開平06-183950.
- 朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
- 田村 健夫, 他(2001)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
- I Horii, et al(1989)「Stratum corneum hydration and amino acid content in xerotic skin」British Journal of Dermatology(121)(5),587-592.
- M. Watanabe, et al(1991)「Functional analyses of the superficial stratum corneum in atopic xerosis」Archives of Dermatology(127)(11),1689-1692.
- 富士産業株式会社(1995)「化粧料」特開平07-133208.