トウガラシ果実エキスとは…成分効果と毒性を解説

血行促進成分 温感 着色
トウガラシ果実エキス
[化粧品成分表示名称]
・トウガラシ果実エキス

[医薬部外品表示名称]
・トウガラシチンキ

ナス科植物トウガラシ(学名:Capsicum annuum 英名:chile pepper)の果実から得られる抽出物植物エキスです。

エタノールに浸出して得られる抽出液はチンキ(∗1)となり、この場合は医薬部外品表示名称として「トウガラシチンキ」、化粧品成分表示名称として「トウガラシ果実エキス」「エタノール」と表示されます。

∗1 チンキとは、生薬やハーブを高濃度のアルコールに漬けることで、水溶性成分および脂溶性成分のいずれもの植物化学成分を効率よく溶出させた液剤のことです。

トウガラシ果実エキス(トウガラシチンキ)は天然成分であることから、国・地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、

分類 成分名称
アルカロイド系 カプサイシン(主要成分)、ジヒドロカプサイシン
カロテノイド カプサンチン(赤色色素)

これらの成分で構成されていることが報告されており(∗2)(文献2:2017;文献3:2013;文献4:2011)、主要成分は辛味成分であるカプサイシン(capsaicin)です。

∗2 生薬としてのトウガラシは、一般にトウガラシチンキとして用いられているため、成分組成もトウガラシチンキのものを掲載していますが、トウガラシ果実エキスも抽出法としてはエタノールを含むため、濃度の違いがあると推測されますが、主要成分は同様であると考えられます。

トウガラシチンキの化粧品以外の主な用途としては、医薬品分野において消化管運動を亢進することから辛味健胃薬に用いられています(文献3:2013;文献4:2011)

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、ボディケア製品、育毛製品、スキンケア化粧品、入浴剤などに使用されています。

局所刺激による血行促進作用

局所刺激による血行促進作用に関しては、トウガラシチンキの主要成分はカプサイシン(capsaicin)であり、カプサイシンには局所刺激(∗1)による抹消血管拡張作用、その結果としての皮膚に対する血行促進作用が認められています(文献4:2011;文献5:2017)

∗3 カプサイシンの皮膚塗布によって局所刺激が起こるメカニズムは「TRPV1活性化による温感付与効果」の項で解説します。

このような背景から、局所皮膚刺激・毛根刺激による抹消血管拡張・血行促進によって育毛効果を発揮すると考えられており(文献6:2001;文献7:1999)、古くから育毛・養毛目的で育毛剤・養毛剤に配合されています。

TRPV1活性化による温感付与効果

TRPV1活性化による温感付与効果に関しては、まず前提知識として自由神経終末、温度感受性TRP(Transient Receptor Potential)チャネルおよびTRPV1について解説します。

皮膚には、体温を維持するために環境温を感受する温度受容器官が備わっており、温度受容器として働いているのが、表皮顆粒層に分布するケラチノサイト(角化細胞)および真皮から表皮に分布する自由神経終末です(文献8:2012;文献9:2013)

皮膚の温度受容器官

ケラチノサイトおよび自由神経終末では、温度感受性TRPチャネルと呼ばれる陽イオンチャネル受容体が細胞膜に存在しており、これらが温度受容の一端を担っていると考えられています(文献8:2012;文献9:2013)

温度感受性TRPチャネルとは、温度だけでなく多くの化学的・物理的刺激を感受する刺激受容体であり、以下の図をみるとわかりやすいと思いますが、

温度感受性TRPチャネル

活性化温度域、発現部位などにより9つのチャネルが存在し、主に28℃以下の冷たい温度領域および43℃以上の熱い温度領域で活性化する温度感受性TRPチャネルは自由神経終末で発現、30-40℃の温かい温度領域で活性化する温度感受性TRPチャネルはケラチノサイトで発現すると報告されています(文献9:2013)

TRPV1は、主に自由神経終末に存在し、43℃以上の熱刺激やトウガラシの主成分であるカプサイシン(capsaicin)によって活性化する(∗4)熱刺激受容体(カプサイシン受容体)ですが(文献9:2013;文献10:2004)、43℃は生体に痛みを引き起こす温度閾値(∗5)と考えられており、カプサイシンが熱感だけでなくヒリヒリとした痛み刺激も活性化したり、また酸刺激(プロトン)でも活性化することから、TRPV1は熱刺激だけでなく痛み刺激の受容体でもあると考えられています(文献9:2013)

∗4 トウガラシを食べると、口の中に灼けつくような熱さを感じるのは、TRPV1の活性化によるものです。

∗5 閾値とは、境界となる値のことであり、ここでは生体に痛みを引き起こす最低温度は43℃であるという意味です。

トウガラシ果実エキスはカプサイシンを有していることから、トウガラシ果実エキスを皮膚に接触させるとTRPV1が応答し(文献10:2004)、活性化温度閾値が上昇することによって常温に近い温度で熱感が引き起こされることから、温感目的でボディケア製品、入浴剤などに使用されています。

この温感はTRPV1が活性化したことによって引き起こされた感覚であり、実際に温度が上昇するわけではありません。

橙-赤の着色

橙-赤の着色に関しては、トウガラシ果実エキスはカロテノイドの一種かつ油溶性赤色色素であるカプサンチン(Capsanthin)を含有していることから(文献11:1999)、橙-赤の着色目的で使用されています。

着色剤として配合されている場合は、以下の成分を併用することが一般的であり、

物性 併用成分一覧
水分散性 トウガラシ果実エキスアラビアゴムトコフェロールデキストリン
油溶性 トウガラシ果実エキストコフェロールカノラ油サフラワー油

これらの成分が併用されている場合は、橙-赤の着色目的で配合されていると考えられます。

色素として使用される原料には、主に辛味のない品種が利用されると報告されています(文献11:1999)

トウガラシ果実エキスは、エタノール抽出で得られるトウガラシチンキである場合はネガティブリストに分類されており、化粧品に配合する場合は以下の配合制限があります。

種類 最大配合量(100g中)
すべての化粧品 カンタリスチンキ、ショウキョウチンキまたはトウガラシチンキの合計量として1.0g

トウガラシチンキは、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。

種類 配合量 その他
薬用石けん・シャンプー・リンス等、除毛剤 1.0 カンタリスチンキ、ショウキョウエキス、ショウキョウチンキ、トウガラシチンキ及び油溶性ショウキョウエキスとして合計。
育毛剤 1.0
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 1.0
薬用口唇類 配合不可
薬用歯みがき類 配合不可
浴用剤 1.0

実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2001-2002年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。

トウガラシ果実エキスの配合製品数と配合量の調査(2001-2002年)

トウガラシ果実エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について

トウガラシ果実エキスの現時点での安全性は、

  • 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 30年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ(文献1:2007)によると、

  • [ヒト試験] 10人の被検者に0.2%-1.0%トウガラシ果実エキスを含むオイル0.02mLを48時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去30分後に皮膚刺激性を評価したところ、1人に非常にわずかな紅斑が観察されたが、この紅斑は臨床的に有意な刺激反応とはみなされず、この試験物質はヒトに塗布する上で十分な許容性があると結論付けられた(Institut D’Expertise Clinique,1995)
  • [ヒト試験] 103人の被検者に有効濃度0.025%トウガラシ果実エキスを含むベニバナ油を対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を閉塞パッチにて実施したところ、誘導期間において7人に一過性のわずかに知覚できるくらいの紅斑が観察されたが、これらは臨床的に意味のある刺激とみなされず、チャレンジ期間においてはいずれの被検者も皮膚反応を示さなかった(Reliance Clinical Testing Services Inc,2000)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、共通して臨床的に有意な皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に1%濃度以下において皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

∗∗∗

トウガラシ果実エキスは血行促進成分、温冷感成分、着色剤にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:血行促進成分 温冷感成分 着色剤

∗∗∗

参考文献:

  1. Cosmetic Ingredient Review(2007)「Final Report on the Safety Assessment of Capsicum Annuum Extract, Capsicum Annuum Fruit Extract, Capsicum Annuum Resin, Capsicum Annuum Fruit Powder, Capsicum Frutescens Fruit, Capsicum Frutescens Fruit Extract, Capsicum Frutescens Resin, and Capsaicin」International Journal of Toxicology(26)(1_Suppl),3-106.
  2. 原島 広至(2017)「トウガラシ(蕃椒)」生薬単 改訂第3版,56-57.
  3. 御影 雅幸(2013)「トウガラシ」伝統医薬学・生薬学,123.
  4. 竹田 忠紘, 他(2011)「トウガラシ」天然医薬資源学 第5版,256-257.
  5. 井上 誠, 他(2017)「ユニット由来のアルカロイド」エッセンシャル天然薬物化学 第2版,205-207.
  6. 田村 健夫, 他(2001)「発毛促進剤」香粧品科学 理論と実際 第4版,249-252.
  7. 鈴木 正巳(1999)「育毛素材とその効果」Fragrance Journal臨時増刊(16),122-128.
  8. 富永 真琴(2012)「刺激感受性:温度感受性TRPチャネルの生理機能」日本香粧品学会誌(36)(4),296-302.
  9. 富永 真琴(2013)「温度感受性TRPチャネル」Science of Kampo Medicine(37)(3),164-175.
  10. 富永 真琴(2004)「温度受容の分子機構」日本薬理学雑誌(124)(4),219-227.
  11. 大野 友道(1999)「植物性色素」Fragrance Journal臨時増刊(16),77-81.

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