センブリエキスとは…成分効果と毒性を解説

血行促進成分
センブリエキス
[化粧品成分表示名]
・センブリエキス

[医薬部外品表示名]
・センブリエキス

リンドウ科植物センブリ(学名:Swertia japonica)の全草からエタノール、またはBG(1,3-ブチレングリコール)で抽出して得られる抽出物植物エキスです。

センブリは日本各地の山地に自生する二年草であり、室町時代から薬草として健胃、腹痛、皮膚寄生虫の駆除に用いられてきた日本の代表的な民間薬です(文献3:2011;文献4:2013)

センブリエキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、

分類 成分名称
テルペノイド イリドイド スウェルチアマリン(主要成分)、スウェロシド、ゲンチオピクロシド
トリテルペン オレアノール酸
ポリケタイド キサントン スウェルチアニン、ベリジホリン

これらの成分で構成されていることが報告されており(文献5:2017;文献6:2017;文献7:2017;文献8:2011)、主要成分は苦味成分であるスウェルチアマリン(swertiamarin)です。

化粧品以外の主な用途としては、医薬品分野においてスウェルチアマリンがドーパミンD2受容体を阻害することにより胃内容排出と消化管運動を刺激・促進することから(文献9:2011)、苦味健胃薬として今日でも家庭薬に用いられ、胃痛、消化不良、食欲不振の治療に応用されています(文献5:2017;文献8:2011;文献9:2011)

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、メイクアップ製品、リップ系化粧品、まつ毛美容液、ボディケア製品、頭皮ケア製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、洗顔料、クレンジング製品などに使用されています。

局所刺激による血管拡張作用

局所刺激による血管拡張作用に関しては、センブリエキスの主要成分は苦味成分のスウェルチアマリン(swertiamarin)であり、スウェルチアマリンやスウェルチアニンなどの苦味成分には局所刺激による抹消血管拡張作用、その結果としての皮膚に対する血行促進作用が認められています(文献10:2001;文献11:1999)

このような背景から、局所皮膚刺激による抹消血管拡張・血行促進によって皮膚の血色を改善する目的でアイライナー、アイブロー、ファンデーション、リップ系化粧品、マッサージ料、マスクパック、洗顔料、クレンジング製品などに使用されています。

また、毛根刺激による抹消血管拡張・血行促進によって頭皮状態を改善する目的で頭皮ケア製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、アウトバストリートメント製品などに使用されています。

効果・作用についての補足 – 育毛作用

センブリエキスは、毛根刺激作用によって頭皮機能を促進し、発毛能力・育毛効果を発揮するといわれており(文献11:1999;文献12:2001)、古くから育毛剤・養毛剤に配合されています。

育毛効果については、1989年に名古屋大学医学部付属病院分院皮膚科および藤田学園保健衛生大学医学部皮膚科によって報告されたセンブリエキス配合育毛剤の臨床試験結果によると、

左右に同程度の男性型脱毛を有する14名の患者(50歳以下)の頭部右側に22.5%センブリエキス(スウェルチアマリン3-5mg/mL,オレアノール酸0.6-1.0mg/mL含有)を含む70%エタノール液を、頭部左側にプラセボとして70%エタノール溶液を1回1mL程度1日2回4ヶ月にわたって単純塗布してもらい、2週間ごとに皮膚初見として頭髪量、脱毛部位の拡大、生毛量、硬毛量を評価した。

その結果、医師の客観的評価では皮膚初見において3例に左右差が認められ、残りの11例には左右差は認められなかった。

半径1cmの円形部位における硬毛数は、初診日は試料塗布側113±59本、プラセボ側112±63本と有意差は認められず、4ヶ月後の最終日では試料剤塗布側154±76本、プラセボ側133±76本となり、試料剤塗布側でやや増加傾向を示したが、統計的に有意差は認められなかった。

このような試験結果が明らかにされており(文献13:1989)、センブリエキスの育毛作用は個人差があり、育毛効果を発揮する場合もありますが、統計的にほとんど認められないと考えられます。

センブリエキスの安全性(刺激性・アレルギー)について

センブリエキスの現時点での安全性は、

  • 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 40年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし-軽度
  • 皮膚刺激性(皮膚炎を有する場合):ほとんどなし-軽度
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
  • 光毒性:ほとんどなし
  • 光感作性:ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性について

名古屋大学医学部附属病院分院皮膚科の安全性試験データ(文献1:1988)によると、

  • [ヒト試験] 26名の被検者に22.5%センブリエキスを含むヘアトニック製剤を48時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去1および24時間後に本邦基準に基づいて皮膚刺激性を評価したところ、1時間で3名に軽度の紅斑反応が、24時間後で1名に軽度の紅斑反応がみられた
  • [ヒト試験] 30名の被検者に11.2%センブリエキスを含むヘアトニック製剤を48時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去1および24時間後に本邦基準に基づいて皮膚刺激性を評価したところ、1時間で4名に軽度の紅斑反応がみられたが、24時間後ではいずれの被検者にも刺激反応はみられなかった

池田回生病院皮膚科の安全性試験データ(文献2:1996)によると、

  • [ヒト試験] 30名の被検者の擦過した皮膚に2%センブリエキスを含む2%BG溶液を48時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後および翌日に皮膚刺激性を評価したところ、1名に軽度の刺激反応がみられた

と記載されています。

試験データをみるかぎり、共通して非刺激-軽度の皮膚刺激が報告されているため、一般に皮膚刺激性は非刺激-軽度の皮膚刺激を引き起こす可能性があると考えられます。

– 皮膚炎を有する場合 –

名古屋大学医学部附属病院分院皮膚科の安全性試験データ(文献1:1988)によると、

  • [ヒト試験] 皮膚炎を有する30名の被検者(接触皮膚炎17名、酒皶様皮膚炎2名、アトピー性皮膚炎5名、湿疹1名、ほか)に22.5%センブリエキスを含むヘアトニック製剤を48時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去1および24時間後に本邦基準に基づいて皮膚刺激性を評価したところ、1時間で接触皮膚炎を有する3名に軽度の紅斑反応が、24時間後で接触皮膚炎を有する1名に軽度の紅斑反応がみられた

と記載されています。

試験データをみるかぎり、非刺激-軽度の皮膚刺激が報告されているため、皮膚刺激性は非刺激-軽度の皮膚刺激を引き起こす可能性があると考えられます。

眼刺激性について

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

皮膚感作性(アレルギー性)について

池田回生病院皮膚科の安全性試験データ(文献2:1996)によると、

  • [ヒト試験] 30名の被検者の擦過した皮膚に2%センブリエキスを含む2%BG溶液を48時間閉塞パッチ適用し、2週間後に再度パッチ適用した。パッチ除去後および翌日に皮膚感作性を評価したところ、この製剤は皮膚感作剤ではなかった

と記載されています。

試験データをみるかぎり、皮膚感作なしと報告されており、また30年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないことから、一般に皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

光毒性および光感作性について

池田回生病院皮膚科の安全性試験データ(文献2:1996)によると、

  • [ヒト試験] 30名の被検者の擦過した皮膚に2%センブリエキスを含む2%BG溶液を48時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後にUVAライト(3.0J/c㎡)を12.5cmの距離から5分間照射した。照射30分後および翌日に光毒性を評価したところ、いずれの被検者も陰性であった
  • [ヒト試験] 30名の被検者の擦過した皮膚に2%センブリエキスを含む2%BG溶液を48時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後にUVAライト(3.0J/c㎡)を12.5cmの距離から5分間照射し光毒性を評価した。2週間後に同じくパッチ適用およびパッチ除去後にUVAライトを照射し、照射30分後および翌日に光感作性を評価したところ、いずれの被検者も陰性であった

と記載されています。

試験データをみるかぎり、光毒性および光感作なしと報告されているため、一般に光毒性および光感作性はほとんどないと考えられます。

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センブリエキスは血行促進成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:血行促進成分

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参考文献:

  1. 早川 律子, 他(1988)「センブリ抽出物配合育毛剤の皮膚安全性試験」皮膚(30)(2),136-143.
  2. 須貝 哲郎(1996)「頭皮用製品の低刺激性低アレルギー性評価」皮膚(38)(4),448-456.
  3. 鈴木 洋(2011)「センブリ」カラー版 漢方のくすりの事典 第2版,278-279.
  4. 御影 雅幸(2013)「センブリ」伝統医薬学・生薬学,139-140.
  5. 原島 広至(2017)「センブリ(当薬)」生薬単 改訂第3版,280-281.
  6. 藤井 勲(2017)「ポリケタイド」エッセンシャル天然薬物化学 第2版,52.
  7. 池田 剛(2017)「イリドイド」エッセンシャル天然薬物化学 第2版,125-126.
  8. 竹田 忠紘, 他(2011)「センブリ」天然医薬資源学 第5版,100-101.
  9. Y. Kimura, et al(2011)「Effects of Swertia japonica extract and its main compound swertiamarin on gastric emptying and gastrointestinal motility in mice」Fitoterapia(82)(6),827-833.
  10. 田村 健夫, 他(2001)「経皮吸収と香粧品」香粧品科学 理論と実際 第4版,55-58.
  11. 鈴木 正巳(1999)「育毛素材とその効果」Fragrance Journal臨時増刊(16),122-128.
  12. 田村 健夫, 他(2001)「発毛促進剤」香粧品科学 理論と実際 第4版,249-252.
  13. 鈴木 真理, 他(1989)「オレアノール酸配合育毛剤の臨床試験結果」皮膚(31)(4),541-547.

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