センキュウ根茎エキスとは…成分効果と毒性を解説

血行促進 抗酸化
センキュウ根茎エキス
[化粧品成分表示名]
・センキュウ根茎エキス

[医薬部外品表示名]
・センキュウエキス

セリ科植物センキュウ(学名:Cnidium officinale 英名:Cnidium Rhizome)の根茎からエタノールBG、またはこれらの混液で抽出して得られる抽出物植物エキスです。

センキュウ(川芎)は、中国を原産とし、日本には江戸時代に薬用として渡来し現在では主に北海道をはじめ岩手県、福島県などで栽培されています(文献1:2011;文献2:2016)

センキュウ根茎エキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、

分類 成分名称
ポリケタイド フタリド クニジリド(主要成分)、リグスチリド、ブチリデンフタリド、センキュノリド

これらの成分で構成されていることが報告されており(文献1:2011;文献3:2011;文献4:1994)、フタリド系には弛緩作用に基づく鎮静、鎮痛、鎮痙、抹消血管拡張作用などが知られています(文献4:1994;文献5:1989;文献6:2007)

センキュウ根茎(生薬名:川芎)の化粧品以外の主な用途としては、漢方分野において非活動的となった血流を改善し気を巡らせる活血作用があることから月経不順、月経痛、腹痛、冷えなどに、血行を促進し沈滞した気を発散する鎮痛作用があることから頭痛に用いられており(文献1:2011;文献2:2016)トウキ(当帰)とともに婦人科領域の主薬としてよく知られています。

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、スキンケア製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、頭皮ケア製品、入浴剤、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ製品などに使用されています。

血管拡張による血行促進作用

血管拡張による血行促進作用に関しては、1992年に花王と岡山大学医学部心臓血管学科によって報告された入浴におけるセンキュウ根茎エキスの血流促進への影響検証によると、

5名の男性被検者(24-27歳)に0.033%(330ppm)濃度の各植物エキスを含む38℃の浴槽に2日連続で同じ時間に入浴してもらい、入浴の前後で前腕の血流を測定したところ、以下のグラフのように、

センキュウ根茎エキス浴槽添加による腕皮膚血流の変化

0.033%(330ppm)濃度のセンキュウ根茎エキスを溶解した後の浴槽への入浴は、血流の増加を引き起こした。

このような試験結果が明らかにされており(文献7:1992)、センキュウ根茎エキスに血管拡張による血行促進作用が認められています。

このセンキュウ根茎エキスの血行促進作用は、フタリドによるものであると考えられます(文献4:1994)

グルタチオンレダクターゼ発現増強による抗酸化作用

グルタチオンレダクターゼ発現増強による抗酸化作用に関しては、まず前提知識として活性酸素種生成メカニズム、細胞内におけるグルタチオンの役割およびグルタチオンレダクターゼについて解説します。

活性酸素種(ROS:Reactive Oxygen Species)とは、酸素(O₂)が他の物質と反応しやすい状態に変化した反応性の高い酸素種の総称であり(文献8:2002;文献9:2019)、酸素から産生される活性酸素種の発生メカニズムは、以下のように、

酸素から産生される活性酸素発生メカニズム

酸化力を有する酸素(O₂)が、比較的容易に電子を受けてスーパーオキシド(superoxide:O₂⁻)を生成し、さらに酸化が進むと過酸化水素(H₂O₂)、ヒドロキシルラジカル(HO)を経て、最終的に水(H₂O)になるというものです(文献10:2019)

この一連の反応を酸化還元反応と呼んでおり、正常な酸化還元反応において発生したスーパーオキシド(superoxide:O₂⁻)は少量であり、通常は抗酸化酵素の一種であるスーパーオキシドジスムターゼ(superoxide dismutase:SOD)により速やかに分解・消去されます(文献10:2019)

一方で、紫外線の曝露など(∗1)によりスーパーオキシド(superoxide:O₂⁻)を含む活性酸素種の過剰な産生が知られており(文献11:1998)、過剰に産生されたスーパーオキシドはスーパーオキシドジスムターゼ(superoxide dismutase:SOD)による分解・消去が追いつかず、以下の抗酸化メカニズムをみてもらうとわかるように、

∗1 皮膚において活性酸素種が発生する最大の要因は紫外線ですが、他にも排気ガスなどの環境汚染物質、タバコの副流煙などの有害化学物質なども外的要因となります。

酸素から発生する活性酸素種の抗酸化メカニズム

過酸化水素に変化した場合は、過酸化水素分解酵素であるカタラーゼ(catalase)、グルタチオンの存在下でグルタチオンペルオキシダーゼ(glutathione peroxidase)およびチオレドキシンの存在下でペルオキシレドキシン(peroxiredoxin)により水(H₂O)に分解されますが、紫外線の曝露時間やスーパーオキシドの発生量によっては過酸化水素を経てヒドロキシルラジカル(HO)まで変化することが知られています(文献12:1996;文献13:2019)

発生したヒドロキシルラジカル(HO)は、酸化ストレス障害として過酸化脂質の発生、コラーゲン分解酵素であるMMP(Matrix metalloproteinase:マトリックスメタロプロテアーゼ)の発現増加によるコラーゲン減少、DNA障害や細胞死などを引き起こし、中長期的にこれらの酸化ストレス障害を繰り返すことで光老化を促進します(文献10:2019;文献14:1996)

次に、グルタチオン(還元型グルタチオン)は紫外線などの酸化ストレスによって誘導され、グルタチオンペルオキシダーゼと共に過酸化水素(H₂O₂)を分解する抗酸化物質であり、自らの活性部位を還元することで酸化型グルタチオンに変化しますが、グルタチオンレダクターゼ(GSHレダクターゼ)とNADPH(nicotinamide adenine dinucleotide phosphate:還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)により還元型グルタチオンに再還元され、細胞の抗酸化機構を調整する役割を担っています(文献13:2019)

このような背景から、紫外線の曝露時および曝露後に活性酸素種の産生を抑制することは、皮膚の酸化ストレス障害を抑制し、ひいては光老化、炎症および色素沈着などの抑制において非常に重要であると考えられます。

2006年に日本メナード化粧品によって報告されたセンキュウ根茎エキスのグルタチオンレダクターゼおよびヒト皮膚への影響検証によると、

in vitro試験においてヒト表皮角化細胞を播種した培地に1μg/mL濃度の各植物エキスを添加し培養・処理した上澄液に酸化型グルタチオンおよびNADPHを加え、340nmの吸光度の時間変化を測定し試料未添加の細胞のグルタチオンレダクターゼ活性を100としたときの試料溶液のグルタチオンレダクターゼ活性を算出したところ、以下のグラフのように、

センキュウ根茎エキスの細胞内グルタチオンレダクターゼ活性化効果

センキュウ根茎エキスは、細胞内グルタチオンレダクターゼの活性化効果を示した。

次に、各植物エキスの細胞内還元型グルタチオンの増加作用を検討するために、in vitro試験においてヒト表皮角化細胞を播種した培地に1μg/mL濃度の各植物エキスを添加し培養・処理した上澄液にグルタチオンレダクターゼとNADPHを加え反応させた後、総グルタチオン量と酸化型グルタチオン量から還元型グルタチオン量を算出した。

試料未添加の還元型グルタチオン(GSH)/酸化型グルタチオン(GSSG)比を100としたときの試料添加のGSH/GSSG比の値を細胞内還元型グルタチオン比として算出したところ、以下のグラフのように、

センキュウ根茎エキスの細胞内還元型グルタチオン比の増加作用

センキュウ根茎エキスは、細胞内還元型グルタチオンの増加を示し、細胞の還元型グルタチオン割合を増加させる作用が認められた。

次に、シワやシミに悩む60名の女性被検者(20-45歳)のうち30名に0.5%センキュウ根茎エキス配合クリームを、別の30名に対照として未配合クリームをそれぞれ6ヶ月間にわたって使用してもらい、使用終了後に「有効:シワまたはシミが改善した」「やや有効:シワまたはシミがやや改善した」「無効:使用前と変化なし」の3段階で評価してもらったところ、以下の表のように、

試料 被検者数 シワ改善効果
有効 やや有効 無効
センキュウ根茎エキス配合クリーム 30 12 15 3
クリームのみ(対照) 30 0 9 21
試料 被検者数 シミ改善効果
有効 やや有効 無効
センキュウ根茎エキス配合クリーム 30 15 9 6
クリームのみ(対照) 30 0 11 19

0.5%センキュウ根茎エキス配合クリームは、シワおよびシミにおいて改善傾向を示した。

このような試験結果が明らかにされており(文献15:2006)、センキュウ根茎エキスにグルタチオンレダクターゼ発現増強による抗酸化作用が認められています。

ヒト試験はシワまたはシミを改善の指標としていますが、シワとシミは紫外線の曝露が主な原因であり、紫外線の曝露によってシワやシミが形成されるメカニズムはいずれも活性酸素種の発現増加を起点とするため、シワおよびシミの改善効果は抗酸化作用によるものといえます。

ただし、ヒト試験においては被検者の主観的評価のみで効果を認めているため、その点は留意する必要があります。

複合植物エキスとしてのセンキュウ根茎エキス

センキュウ根茎エキスは、他の植物エキスとあらかじめ混合された複合原料があり、センキュウ根茎エキスと以下の成分が併用されている場合は、複合植物エキス原料として配合されている可能性が考えられます。

原料名 混合植物エキス OG-D1
構成成分 エタノールトウキ根エキスシャクヤク根エキスセンキュウ根茎エキス、ジオウ根エキス、ショウガ根茎エキス
特徴 漢方処方に基づき、アンモニア、硫化水素、メチルメルカプタン、トリメチルアミン、タバコ臭に対して消臭効果を発揮する5種類の植物を同時抽出した混合液
原料名 混合植物エキス OG-1
構成成分 エタノールトウキ根エキスシャクヤク根エキスセンキュウ根茎エキス、ジオウ根エキス、コプチスチネンシス根茎エキス、シナキハダ樹皮エキス、オウゴン根エキスクチナシ果実エキス
特徴 漢方処方「温清飲」に基づき、角層水分量増加、バリア機能改善、かゆみ軽減効果を発揮する8種類の植物を同時抽出した混合液
原料名 混合植物エキス OG-2
構成成分 エタノールトウキ根エキスシャクヤク根エキスセンキュウ根茎エキス、ジオウ根エキス
特徴 漢方処方「四物湯」に基づき、血行促進作用により温浴効果を高める4種類の植物を同時抽出した混合液
原料名 混合植物エキス OG-7
構成成分 エタノールトウキ根エキスシャクヤク根エキスセンキュウ根茎エキス
特徴 漢方処方に基づき、穏やかな血行促進作用により身体のほてり感を抑える3種類の植物を同時抽出した混合液

センキュウ根茎エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について

センキュウ根茎エキスの現時点での安全性は、

  • 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚一次刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚累積刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性について

一丸ファルコスの安全性試験データ(文献16:2003)によると、

  • [動物試験] 3匹のウサギの剃毛した背部に0.5%センキュウ根茎エキス水溶液を24時間適用し、適用24,48および72時間後にDraizeの判定基準に基づいて皮膚刺激性を評価したところ、いずれの動物も紅斑や浮腫を認めなかった
  • [動物試験] 3匹のモルモットの剃毛した背部に0.5%センキュウ根茎エキス水溶液を1日1回、週5回を2週にわたって塗布し、各塗布日および最終塗布日の翌日にDraizeの判定基準に基づいて皮膚刺激性を評価したところ、いずれの動物も紅斑や浮腫を認めず、皮膚累積刺激性に関しては問題がないものと判断した

と記載されています。

試験データをみるかぎり、皮膚一次刺激および皮膚累積刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

皮膚感作性(アレルギー性)について

日本薬局方および医薬部外品原料規格2021に収載されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

∗∗∗

センキュウ根茎エキスは血行促進成分、抗酸化成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:血行促進成分 抗酸化成分

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参考文献:

  1. 鈴木 洋(2011)「川芎(せんきゅう)」カラー版 漢方のくすりの事典 第2版,270.
  2. 根本 幸夫(2016)「川芎(センキュウ)」漢方294処方生薬解説 その基礎から運用まで,167-169.
  3. 竹田 忠紘, 他(2011)「センキュウ」天然医薬資源学 第5版,185-186.
  4. 萬 秀憲, 他(1994)「センキュウ由来のフタリドの効果」日本温泉気候物理医学会雑誌(57)(2),123-128.
  5. 尾崎 幸紘, 他(1989)「川芎より得られたフタライド化合物リグスチライド類の中枢性筋弛緩作用」YAKUGAKU ZASSHI(109)(6),402-406.
  6. S.K.K. Chan, et al(2007)「Relaxation effects of ligustilide and senkyunolide A, two main constituents of Ligusticum chuanxiong, in rat isolated aorta」Journal of Ethnopharmacology(111)(3),677-680.
  7. 萬 秀憲, 他(1992)「入浴における生薬エキスの効果」日本温泉気候物理医学会雑誌(55)(2),105-112.
  8. 朝田 康夫(2002)「活性酸素とは何か」美容皮膚科学事典,153-154.
  9. 河野 雅弘, 他(2019)「活性酸素種とは」抗酸化の科学,XⅢ-XⅣ.
  10. 小澤 俊彦(2019)「活性酸素種および活性窒素種の発生系」抗酸化の科学,123-138.
  11. 荒金 久美(1998)「光と皮膚」ファルマシア(34)(1),30-33.
  12. 岡田 富雄(1996)「天然抗酸化剤」皮膚の老化と活性酸素・フリーラジカル,106-125.
  13. 小澤 俊彦(2019)「酸化ストレス障害を制御する抗酸化酵素の性質と機能」抗酸化の科学,173-183.
  14. 花田 勝美(1996)「活性酸素・フリーラジカルは皮膚でどのようにつくられるか」皮膚の老化と活性酸素・フリーラジカル,15-35.
  15. 日本メナード化粧品株式会社(2006)「グルタチオンレダクターゼ活性増強剤」特開2006-111545.
  16. 一丸ファルコス株式会社(2003)「化粧料組成物」特開2003-104835.

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