ショウガ根茎エキスとは…成分効果と毒性を解説



・ショウガ根茎エキス
[医薬部外品表示名]
・ショウキョウチンキ、ショウキョウエキス
ショウガ科植物ショウガ(学名:Zingiber officinale 英名:Ginger)の根茎から得られる抽出物(植物エキス)です。
エタノールに浸出して得られる抽出液はチンキ(∗1)となり、この場合は医薬部外品表示名として「ショウキョウチンキ」または「ショウキョウエキス」、化粧品成分表示名称として「ショウガ根茎エキス」「エタノール」と表示されます。
∗1 チンキとは、生薬やハーブを高濃度のアルコールに漬けることで、水溶性成分および脂溶性成分のいずれもの植物化学成分を効率よく溶出させた液剤のことです。
ショウガ(生姜)は、熱帯アジアを原産とし、中国、ジャマイカ、ベトナム、インド、アフリカなどで主に香辛料の原料として栽培されています(文献1:2011;文献2:2013)。
日本への渡来は古く、3世紀にはすでに記録がみられ、現在は主に愛知県、岡山県、神奈川県、静岡県などで栽培されています(文献2:2013;文献3:2017)。
ショウガ根茎エキスは天然成分であることから、国・地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、
分類 | 成分名称 | |
---|---|---|
ジアリールヘプタノイド | ギンゲロール(主要成分)、ショウガオール | |
テルペノイド | セスキテルペン | ジンギベレン |
その他 | ジンゲロン |
これらの成分で構成されていることが報告されており(∗2)(文献2:2013;文献4:2011)、ジアリールヘプタノイドであるショウガオール(shogaol)やギンゲロール(gingerol)には局所刺激による血行促進作用が知られています(文献5:2008)。
∗2 生薬としてのショウガは、一般にショウキョウチンキとして用いられているため、成分組成もショウキョウチンキのものを掲載していますが、ショウガ根茎エキスも抽出法としてはエタノールを含むため、濃度の違いがあると推測されますが、主要成分は同様であると考えられます。
ショウガ根茎(生薬名:生姜)の化粧品以外の主な用途としては、漢方分野において身体を温め発汗させる効能があることから軽い感冒(∗3)に頻用され、またすべての嘔気・嘔吐に効果があることから止嘔に用いられており(文献6:2016)、民間療法分野においては風邪の初期に生姜湯として利用されています。
∗3 感冒(かんぼう)とは、くしゃみ、鼻水、発熱、倦怠感などの症状を示す急性の呼吸器疾患のことであり、一般に風邪を指します。また流行性感冒の場合はインフルエンザを指します。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、育毛剤、ヘアトニック、頭皮ケア製品、シャンプー製品、リップ化粧品、アイメイクアップ製品、ボディマッサージ製品、ホットクレンジング製品、入浴剤などに使用されています。
局所刺激による血行促進作用
局所刺激による血行促進作用に関しては、ショウキョウチンキの主要成分であるギンゲロール(gingerol)やショウガオール(shogaol)には局所刺激による血管拡張作用が知られており(文献5:2008)、その結果としての皮膚に対する血行促進作用が認められています。
このような背景から、局所皮膚刺激・毛根刺激による抹消血管拡張・血行促進によって間接的に育毛効果を発揮すると考えられており(文献7:1992;文献8:2018)、古くから頭皮の血流促進による細胞活性目的で育毛剤、ヘアトニック、頭皮ケア製品、シャンプー製品、リップ化粧品、アイメイクアップ製品、入浴剤などに配合されています(文献9:2001)。
TRPV1活性化による温感付与効果
TRPV1活性化による温感付与効果に関しては、まず前提知識として自由神経終末、温度感受性TRP(Transient Receptor Potential)チャネルおよびTRPV1について解説します。
皮膚には、体温を維持するために環境温を感受する温度受容器官が備わっており、温度受容器として働いているのが、表皮顆粒層に分布するケラチノサイト(角化細胞)および真皮から表皮に分布する自由神経終末です(文献10:2012;文献11:2013)。
ケラチノサイトおよび自由神経終末では、温度感受性TRPチャネルと呼ばれる陽イオンチャネル受容体が細胞膜に存在しており、これらが温度受容の一端を担っていると考えられています(文献10:2012;文献11:2013)。
温度感受性TRPチャネルとは、温度だけでなく多くの化学的・物理的刺激を感受する刺激受容体であり、以下の図をみるとわかりやすいと思いますが、
活性化温度域、発現部位などにより9つのチャネルが存在し、主に28℃以下の冷たい温度領域および43℃以上の熱い温度領域で活性化する温度感受性TRPチャネルは自由神経終末で発現、30-40℃の温かい温度領域で活性化する温度感受性TRPチャネルはケラチノサイトで発現すると報告されています(文献11:2013)。
TRPV1は、主に自由神経終末に存在し、43℃以上の熱刺激やトウガラシの主成分であるカプサイシン(capsaicin)によって活性化する(∗4)熱刺激受容体(カプサイシン受容体)ですが(文献11:2013;文献12:2004)、43℃は生体に痛みを引き起こす温度閾値(∗5)と考えられており、カプサイシンが熱感だけでなくヒリヒリとした痛み刺激も活性化したり、また酸刺激(プロトン)でも活性化することから、TRPV1は熱刺激だけでなく痛み刺激の受容体でもあると考えられています(文献11:2013)。
∗4 トウガラシを食べると、口の中に灼けつくような熱さを感じるのは、TRPV1の活性化によるものです。
∗5 閾値とは、境界となる値のことであり、ここでは生体に痛みを引き起こす最低温度は43℃であるという意味です。
カプサイシンはその構造にバニリル基を有しており、カプサイシンを皮膚に接触させるとこのバニリル基にTRPV1が応答し(文献12:2004)、活性化温度閾値が上昇することによって常温に近い温度で熱感が引き起こされますが、この温感はバニリル基によってTRPV1が活性化したことによって引き起こされた感覚であり、実際に温度が上昇するわけではありません。
ショウガ根茎エキスに含まれるギンゲロール(gingerol)やショウガオール(shogaol)もバニリル基を有していることから、カプサイシンほどではないものの皮膚に接触させると温感・熱感が付与されることが明らかにされており(文献10:2012)、ボディマッサージ製品、ホットクレンジング製品などに配合されています。
ショウガ根茎エキスは、エタノール抽出で得られるショウキョウチンキである場合は配合制限リスト(リストリクテッドリスト)に分類されており、化粧品に配合する場合は以下の配合制限があります。
種類 | 最大配合量(100g中) |
---|---|
すべての化粧品 | カンタリスチンキ、ショウキョウチンキまたはトウガラシチンキの合計量として1.0g |
ショウキョウチンキおよびショウキョウエキスは、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。
種類 | 配合量 | その他 |
---|---|---|
薬用石けん・シャンプー・リンス等、除毛剤 | 1.0 | カンタリスチンキ、ショウキョウエキス、ショウキョウチンキ、トウガラシチンキ及び油溶性ショウキョウエキスとして合計。 |
育毛剤 | 1.0 | |
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 | 1.0 | |
薬用口唇類 | 配合不可 | |
薬用歯みがき類 | 配合不可 | |
浴用剤 | 1.0 |
ショウガ根茎エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 30年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
日本薬局方および医薬部外品原料規格2021に収載されており、それらにおいてカンタリスチンキ、ショウキョウチンキ(ショウキョウエキス)またはトウガラシチンキの合計量として100g中1gまでの配合上限があることから、配合範囲内および通常使用下においては一般に皮膚刺激および皮膚感作は(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
眼刺激性について
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。
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ショウガ根茎エキスは血行促進成分、温冷感成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
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参考文献:
- 鈴木 洋(2011)「生姜(ショウキョウ)」カラー版 漢方のくすりの事典 第2版,220-221.
- 御影 雅幸(2013)「ショウキョウ」伝統医薬学・生薬学,219-220.
- 杉田 浩一, 他(2017)「しょうが(生姜)」新版 日本食品大事典,378-380.
- 竹田 忠紘, 他(2011)「ショウキョウ」天然医薬資源学 第5版,255.
- B.H. Ali, et al(2008)「Some phytochemical, pharmacological and toxicological properties of ginger (Zingiber officinale Roscoe): A review of recent research」Food and Chemical Toxicology(46)(2),409-420.
- 根本 幸夫(2016)「生姜(ショウキョウ)」漢方294処方生薬解説 その基礎から運用まで,11-15.
- 鈴木 正巳(1992)「ハーブのヘアケア製品への応用と課題」Fragrance Journal臨時増刊(12),138-144.
- 岩渕 徳郎(2018)「育毛薬剤の開発と評価方法(これまでと今後)」日本香粧品学会誌(42)(2),98-103.
- 田村 健夫, 他(2001)「発毛促進剤」香粧品科学 理論と実際 第4版,249-252.
- 富永 真琴(2012)「刺激感受性:温度感受性TRPチャネルの生理機能」日本香粧品学会誌(36)(4),296-302.
- 富永 真琴(2013)「温度感受性TRPチャネル」Science of Kampo Medicine(37)(3),164-175.
- 富永 真琴(2004)「温度受容の分子機構」日本薬理学雑誌(124)(4),219-227.