ニコチン酸トコフェロールの基本情報・配合目的・安全性

ニコチン酸トコフェロール

化粧品表示名 ニコチン酸トコフェロール
医薬部外品表示名 ニコチン酸dl-α-トコフェロール、ビタミンEニコチネート
部外品表示簡略名 ビタミンEニコチン酸エステル
INCI名 Tocopheryl Nicotinate
配合目的 血行促進 など

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表されるトコフェロールの6位のヒドロキシ基(-OH)にニコチン酸のカルボキシ基(-COOH)を脱水縮合(∗1)したエステル(ビタミンE誘導体)です[1]

∗1 脱水縮合とは、分子と分子から水(H2O)が離脱することにより分子と分子が結合する反応のことをいいます。ナイアシンとトコフェロールのエステルにおいては、ナイアシン(C5H4NCOOH)のカルボキシ基(-COOH)の「OH」とトコフェロールのヒドロキシ基(-OH)の「H」が分離し、これらが結合して水分子(H2O)として離脱する一方で、残ったカルボキシル基の「CO」とヒドロキシ基の「O」が結合してエステル結合(-COO-)が形成されます。

ニコチン酸トコフェロール

1.2. 物性・性状

ニコチン酸トコフェロールの物性・性状は、

状態 溶解性
液体または固体 水に不溶、油脂類、アルコールに可溶

このように報告されています[2a]

1.3. ビタミンE誘導体としての特徴

トコフェロール(ビタミンE)は、皮膚において抗酸化作用、血行促進作用など優れた機能を発揮することが知られており、酸化還元力が強いものの、6位のヒドロキシ基(-OH)が空気、光、紫外線により酸化されやすいことから、皮膚に対して抗酸化作用を発揮させる目的の場合は6位をエステル化して酸化安定性を高めたビタミンE誘導体の形で用いられることが知られています[3a][4]

ニコチン酸トコフェロールは、トコフェロールの6位のヒドロキシ基(-OH)を水溶性のナイアシン(C5H4NCOOH)でエステル化したビタミンE誘導体であり、酸化安定性が高くなる代わりに酸化還元力がなくなることによって製剤中で安定に存在することが可能となります[3b][5]

内服においては、一部がニコチン酸トコフェロールのまま、残りは表皮に存在する酵素によってトコフェロールとニコチン酸に分解され、ニコチン酸トコフェロールそのものが皮膚内で血行などの微小循環系に対して優れた促進効果を発揮することが報告されていますが[6][7]、皮膚浸透において効果を発揮する物質の報告は現時点ではみつかっていません(みつかりしだい追補します)

1.4. 化粧品以外の主な用途

ニコチン酸トコフェロールの化粧品以外の主な用途としては、

分野 用途
医薬品 高脂血症や閉塞性動脈硬化症にともなう末梢循環障害の微小循環系賦活剤として用いられるほか[8]、コレステロールの異化排泄を促進し代謝回転を高める生活習慣病改善薬として用いられています[9]

これらの用途が報告されています。

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 血管拡張による血行促進作用

主にこれらの目的で、メイクアップ製品、化粧下地製品、スキンケア製品、頭皮ケア製品、ボディケア製品などに使用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 血管拡張による血行促進作用

血管拡張による血行促進作用に関しては、ニコチン酸トコフェロールは持続性の末梢血管拡張作用を有することから[10][11]、皮膚や頭皮の血行を促進する目的でファンデーション系メイクアップ製品、化粧下地製品、スキンケア製品、ボディケア製品、頭皮ケア製品などに使用されています。

3. 配合製品数および配合量範囲

ニコチン酸dl-α-トコフェロールは、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。

種類 配合量 その他
薬用石けんシャンプーリンス等除毛剤 上限なし すべてのdl-α-トコフェロール誘導体をdl-α-トコフェロールに換算して、dl-α-トコフェロールとして合計。
育毛剤 1.0
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 1.0
薬用口唇類 1.0
薬用歯みがき類 1.0
浴用剤 1.0
染毛剤 0.5
パーマネント・ウェーブ用剤 上限なし

実際の化粧品における配合製品数および配合量に関しては、海外の1998-1999年および2013-2014年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗2)

∗2 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

ニコチン酸トコフェロールの配合製品数と配合量の調査結果(1998-1999年および2013-2014年)

4. 安全性評価

ニコチン酸トコフェロールの現時点での安全性は、

  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 30年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし-わずか
  • 眼刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[2b][12]によると、

  • [ヒト試験] 被検者(人数不明)に10%ニコチン酸トコフェロールを含むミネラルオイルを対象にMaximization皮膚感作性試験を実施したところ、この試験製剤は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(BASF,1993)

– 個別事例 –

  • [個別事例] 患者はクリームを使用した後にかゆみを伴う発疹と明確な浮腫性紅斑を発症したためパッチテストを実施したところ、0.1%ニコチン酸トコフェロールを含む軟膏に対して+の陽性反応を示し、1%D-α-トコフェロールおよび1%DL-α-トコフェロールを含む軟膏に対して陰性を示した。3人の被検者に0.1%ニコチン酸トコフェロールを含む軟膏を対象にパッチテストを実施したところ、いずれの被検者においても陰性であった(H. Oshima et al,2003)

このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

ただし、個別事例において1例の皮膚感作事例が報告されているため、ごくまれに皮膚感作を引き起こす可能性が考えられます。

また、この事例はトコフェロールには感作反応を示さず、ニコチン酸トコフェロールのみに感作反応を示す事例です。

4.2. 眼刺激性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[2c]によると、

  • [動物試験] ウサギの片眼に100%ニコチン酸トコフェロールを点眼し、点眼後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質は眼刺激剤ではなかった(BASF,1993;1994;1996)

このように記載されており、試験データをみるかぎり眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。

5. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「ニコチン酸トコフェロール」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,727.
  2. abcF.A. Andersen(2002)「Final Report on the Safety Assessment of Tocopherol, Tocopheryl Acetate, Tocopheryl Linoleate, Tocopheryl Linoleate/Oleate, Tocopheryl Nicotinate, Tocopheryl Succinate, Dioleyl Tocopheryl Methylsilanol, Potassium Ascorbyl Tocopheryl Phosphate, and Tocophersolan」International Journal of Toxicology(21)(3),51-116. DOI:10.1080/10915810290169819.
  3. ab日光ケミカルズ株式会社(2016)「ビタミンE群」パーソナルケアハンドブックⅠ,436-439.
  4. 阿部 皓一・峯岸 孝次(2001)「ビタミンEの生理作用と皮膚傷害」Fragrance Journal(29)(2),13-21.
  5. 田村 健夫・廣田 博(2001)「ビタミン類」香粧品科学 理論と実際 第4版,242-245.
  6. M. Kakimura(1973)「Comparative studies of the effects of alpha-tocopheryl nicotinate and the combination alpha-tocopheryl acetate and nicotinic acid」Journal of Nutritional Science and Vitaminology(19)(5),375-381. PMID:4792209.
  7. M. Kamimura(1974)「Comparison of alpha-tocopheryl nicotinate and acetate on skin microcirculation」American Journal of Clinical Nutrition(10),1110-1116. PMID:4417850.
  8. 浦部 晶夫, 他(2021)「トコフェロールニコチン酸エステル」今日の治療薬2021:解説と便覧,425.
  9. 長田 孝司(2021)「生活習慣病改善薬」今日のOTC薬 改訂第5版:解説と便覧,502-511.
  10. ポ-ラ化成工業株式会社・エ-ザイ株式会社(1972)「ヨウモウケシヨウリヨウ」特公昭47-047663.
  11. 鈴木 一成(2012)「ニコチン酸dl-α-トコフェロール」化粧品成分用語事典2012,391.
  12. M.M. Fiume, et al(2018)「Safety Assessment of Tocopherols and Tocotrienols as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(37)(2_suppl),61S-94S. DOI:10.1177/1091581818794455.

TOPへ