ダイマージリノール酸水添ヒマシ油の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ダイマージリノール酸水添ヒマシ油 |
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INCI名 | Hydrogenated Castor Oil Dimer Dilinoleate |
配合目的 | 結合、安定化(未分類)、エモリエント など |
1. 基本情報
1.1. 定義
ジリノール酸(∗1)の2個のカルボキシ基(-COOH)のうち1個に水添ヒマシ油のヒドロキシ基(-OH)を脱水縮合(∗2)したエステルです[1a]。
∗1 ジリノール酸はリノール酸の二量体であり、炭素数36(C36)のアルキル基をもつジカルボン酸です。二量体とはダイマー(dimer)とも呼ばれ、2つの同種の分子または単量体がまとまった物質のことをいい、オレイン酸やリノール酸を主体とする炭素数18の不飽和脂肪酸を二量化して得られる脂肪族二塩基酸をダイマー酸(dimer acid)ともよびます。ジカルボン酸とは分子内にカルボキシ基(-COOH)を2個もつ有機化合物のことです。
∗2 脱水縮合とは、分子と分子から水(H2O)が離脱することにより分子と分子が結合する反応のことをいいます。脂肪酸とアルコールのエステルにおいては、脂肪酸(R-COOH)のカルボキシ基(-COOH)の「OH」とアルコール(R-OH)のヒドロキシ基(-OH)の「H」が分離し、これらが結合して水分子(H2O)として離脱する一方で、残ったカルボキシ基の「CO」とヒドロキシ基の「O」が結合してエステル結合(-COO-)が形成されます。
1.2. 物性・性状
ダイマージリノール酸水添ヒマシ油の物性・性状は(∗3)、
∗3 融点とは固体が液体になりはじめる温度のことです。またヨウ素価とは油脂を構成する脂肪酸の不飽和度を示すものであり、一般にヨウ素価が高いほど不飽和度が高い(二重結合の数が多い)ため、酸化を受けやすくなります。
状態 | 融点(℃) | ヨウ素価 |
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ペースト状物質 | – | ≦8(不乾性油) |
このように報告されています[2a]。
2. 化粧品としての配合目的
- 結合
- 発汗防止および硬度低下抑制による安定化
- 抱水性エモリエント効果
主にこれらの目的で、パウダー系メイクアップ製品、リップ系メイクアップ製品、リップケア製品、カラートリートメント製品、ヘアスタイリング製品などに汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 結合
結合に関しては、ダイマージリノール酸水添ヒマシ油は延糸性のある高粘度油であることから、粉体原料同士を皿状容器に圧縮成型するとき、粉体原料同士のくっつきをよくしたり、使用時に粉が周囲に飛び散るのを防ぐ目的で主にパウダー系メイクアップ製品などに汎用されています[1b][3][4][5]。
2.2. 発汗防止および硬度低下抑制による安定化
発汗防止および硬度低下抑制による安定化に関しては、ダイマージリノール酸水添ヒマシ油はスティック状基剤やペンシル状基剤の結晶構造を緻密にすることで発汗(∗4)を防止し、また硬度の低下を抑制することから[6a][7a]、固形基剤の保存安定性を高める目的でスティック系製品、ペンシル系製品などに使用されています。
∗4 口紅などのスティック状化粧品における発汗(sweating)とは、温度変化などにより固形物の結晶バランスが崩れて結晶構造内にオイルが保持されなくなり、オイルが分離して固形物表面に油滴が発生する現象のことをいいます。
2.3. 抱水性エモリエント効果
抱水性エモリエント効果に関しては、ダイマージリノール酸水添ヒマシ油は約1.5倍量の水を吸収する抱水性を示し、皮膚や毛髪に柔軟性や滑らかさを付与するエモリエント性を有していることから[6b][8]、主にメイクアップ製品、リップケア製品、トリートメント製品などに使用されています。
3. 安全性評価
- 2003年からの使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし-最小限
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
3.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
- [ヒト試験] 20名の被検者に8%ダイマージリノール酸水添ヒマシ油(平均分子量3,600)を含むリップクリームを24時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去1および24時間後に皮膚刺激性を評価したところ、この試験物質は非刺激剤であった
- [ヒト試験] 20名の被検者に3%ダイマージリノール酸水添ヒマシ油(平均分子量6,100)を含むプレストパウダーを24時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去1および24時間後に皮膚刺激性を評価したところ、この試験物質は非刺激剤であった
- [動物試験] モルモットに25%ダイマージリノール酸水添ヒマシ油を含むフタル酸ジエチル溶液を対象に皮膚感作性試験(Buehler法)を実施したところ、この試験物質は皮膚感作剤ではなかった
このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
5.2. 眼刺激性
高級アルコール工業の安全性データ[2c]によると、
- [動物試験] ウサギの眼にダイマージリノール酸水添ヒマシ油を適用し、適用後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質は非刺激剤であった
このように記載されており、試験データをみるかぎり眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。
4. 参考文献
- ⌃ab日本化粧品工業連合会(2013)「ダイマージリノール酸水添ヒマシ油」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,631.
- ⌃abc川合 清隆(2003)「新規素材の開発」Fragrance Journal(31)(5),82-83.
- ⌃高級アルコール工業株式会社(2021)「エステル」製品リスト,8-9.
- ⌃鈴木 一成(2012)「ダイマージリノール酸水添ヒマシ油」化粧品成分用語事典2012,63-64.
- ⌃霜川 忠正(2001)「結合剤」BEAUTY WORD 製品科学用語編,216.
- ⌃ab苔口 由貴, 他(2003)「油性固型化粧料の開発」Fragrance Journal(31)(11),87-97.
- ⌃ab高級アルコール工業株式会社(2003)「化粧料」特開2003-238332.
- ⌃平尾 哲二(2006)「乾燥と保湿のメカニズム」アンチ・エイジングシリーズ No.2 皮膚の抗老化最前線,62-75.