PG(プロピレングリコール)とは…成分効果と毒性を解説






・PG
[医薬部外品表示名称]
・プロピレングリコール
[慣用名]
・1,2-プロパンジオール
酸化プロピレンに酸触媒下で水を付加し、精密蒸留して得られる多価アルコール(二価アルコール:グリコール)(∗1)で、グリセリンに似た特性を示しますが、グリセリンよりも粘度が低くさっぱりした感触で使用感に優れた保湿剤です。
∗1 多価アルコールとは、2個以上のヒドロキシ基(水酸基:-OH)をもつアルコールを指し、水酸基の影響で非常に高い吸湿性と保水性をもっているため化粧品に最も汎用されている保湿剤です。名称に「アルコール」がついているので勘違いしやすいですが、一般的なアルコール(エタノール)は1個の水酸基をもつ一価アルコールで、多価アルコールと一価アルコール(エタノール)は別の物質です。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア化粧品、メイクアップ化粧品、洗浄製品、ヘアケア製品、染毛剤&カラー剤、洗顔料&洗顔石鹸、ネイル製品、香水など様々な製品に使用されます(文献1:2016;文献7:1993;文献8:1999)。
皮表の柔軟化および水分量増加による保湿作用
皮表の柔軟化および水分量増加による保湿作用に関しては、1993年に資生堂によって報告された保湿剤のまとめによると、
PGは、相対湿度50%においてグリセリンほど高い吸湿性は有していないが、相対的に高い吸湿性が示された。
このような検証結果が明らかにされており(文献7:1993)、PGに皮表の柔軟化および水分量増加による保湿作用が認められています。
グラム陰性菌の一種である大腸菌の抗菌による製品安定化剤
グラム陰性菌の一種である大腸菌の抗菌による製品安定化剤に関しては、1999年に大阪府立大学農学部生物物理化学研究室、感光社およびマンダムの共同研究として報告された多価アルコール類の抗菌性における最小発育阻止濃度の検証によると、
∗2 MICは最小発育阻止濃度であるため、数字が小さい(濃度が低い)ほど抗菌力が高いことを意味します。
多価アルコール | MIC:最小発育阻止濃度(%) |
---|---|
大腸菌(Escherichia coli) | |
PG(プロピレングリコール) | 12.22 ± 0.19 |
BG(1,3-ブチレングリコール) | 11.66 ± 0.20 |
グリセリン | 32.69 ± 1.64 |
ペンチレングリコール | 2.65 ± 0.13 |
DPG | 10.63 ± 0.14 |
PEG類 | 14.09 ± 0.25 |
PGは大腸菌(Escherichia coli)への抗菌性を示した。
このような検証結果が明らかにされており(文献8:1999)、PGにグラム陰性菌の一種である大腸菌の抗菌性が認められているため、抗菌性のある基剤として製品安定化を兼ねて配合されます。
ただし、単独では様々な菌種への抗菌性を有していないことから、他の抗菌剤・防腐剤と組み合わせることで抗菌力の高い抗菌剤・防腐剤の配合量を減らすことができます。
色素および香料の溶剤
色素および香料の溶剤に関しては、無色無臭で水に完全に溶解する上に香料、精油、樹脂など多くの有機化合物をよく溶かす特性をもつため、色素や香料などを溶かし込む溶剤として使用されます。
PGは、基剤として使用される場合は配合量がやや多いため、成分一覧表示では最初のほうに記載されます。
一方で、溶剤として使用される場合は、成分一覧表示の最後のほうに記載されるため、最後のほうにPGの記載がある場合は溶剤としての配合であると考えられます。
固形石鹸の透明化
固形石鹸の透明化に関しては、従来より枠練石鹸生地に、二糖類であるスクロース、糖アルコールであるソルビトール、多価アルコールであるグリセリン、PGまたはこれらの混合物を配合することによって石鹸の結晶化が抑制され、微細結晶化させることで石鹸が透明になることが明らかにされています(文献9:1975)。
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2009年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
PGの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
- 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
- 30年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし(まれに刺激および感作様反応による刺激が起きる可能性あり)
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(まれに刺激および感作反応が起きる可能性あり)
- 皮膚感作性(接触皮膚炎の場合):ほとんどなし
- 光感作性:なし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
皮膚刺激や感作が起こりにくい一方で、いったん感作が成立すると治療の過程で細かな注意が必要となること、また非アレルギー性の皮膚刺激であってもアレルギー反応様の皮膚反応を示すケースがあるなど、個人では刺激反応と感作反応の区別が極めて難しく、PG配合製品の使用で皮膚に異常がみられた場合は、専門医師による診察を必要とすることなどから少なからずリスクを伴っているとも考えられます。
こういった背景から、現在はPGを配合する製品は減少傾向にあり、代替として同じ多価アルコール類で性質が似ているグリセリン、BG(1,3-ブチレングリコール)またはDPG(ジプロピレングリコール)を配合した製品が増えています。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性について
- [ヒト試験] 20人患者に69.15%PGを含むデオドラント製剤の単回24時間皮膚一次刺激性試験を実施し、PII(Primary Irritation Index)を指標(無刺激性:0-0.4、弱い刺激性:0.5-1.9、中程度の刺激性:2-4.9、強い刺激性:5-8)として判定したところ、PIIは0.25であり、ほとんど非刺激性であると結論付けられた(Menning M,1997)
- [ヒト試験] 20人患者に68.06%PGを含むデオドラント製剤の単回皮膚一次刺激性試験を実施し、PII(Primary Irritation Index)を指標(無刺激性:0-0.4、弱い刺激性:0.5-1.9、中程度の刺激性:2-4.9、強い刺激性:5-8)として判定したところ、PIIは0.13であり、ほとんど非刺激性であると結論付けられた(Menning M,1998)
- [ヒト試験] 12人患者に68.06%PGを含むデオドラント製剤の単回閉塞パッチ試験を3または24時間で実施し、PII(Primary Irritation Index)を指標(無刺激性:0-0.4、弱い刺激性:0.5-1.9、中程度の刺激性:2-4.9、強い刺激性:5-8)として判定したところ、PIIは3時間で1.1、24時間で1.2であり、わずかな紅斑が認められた(Tanojo H,1999)
- [ヒト試験] 26人の男性患者に35%PGを含むデオドラント製剤の30日間連用試験を実施したところ、皮膚刺激および皮膚感作を誘発する可能性はないと結論付けられた(Clinical Research Laboratories,-)
- [ヒト試験] 40人の女性患者に65.2%PGを含むデオドラント製剤の30日間連用試験を実施したところ、皮膚刺激および皮膚感作を誘発する可能性はないと結論付けられた(Clinical Research Laboratories,2006)
- [ヒト試験] 24人の男性患者に73%PGを含むデオドラント製剤の30日間連用試験を実施したところ、皮膚刺激および皮膚感作を誘発する可能性はないと結論付けられた(Clinical Research Laboratories,2004)
- [ヒト試験] 26人の男性患者に65.8%PGを含むデオドラント製剤の4週間連用試験を実施したところ、皮膚刺激および皮膚感作を誘発する可能性はないと結論付けられた(Clinical Research Laboratories,2006)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、濃度に関わらずほとんど共通して皮膚刺激性なしと報告されているため、一般的に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
ただし、PGの皮膚刺激性は、同時に含まれる基剤成分の影響をうけるため、低濃度であっても刺激を示すこともあり、高濃度でも刺激しないこともあると報告されており(文献3:1984)、複数の基剤の混合物である化粧品などにおいてはまれに皮膚刺激が起こる可能性が考えられます。
眼刺激性について
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼の結膜嚢にPGを1滴単回注入または3日連続注入し、眼はすすがず、最終注入の1,2,3および7日後に評価したところ、単回注入においては1日目にわずかな結膜充血が認められたが2日目までに解消し、3日連続注入においては最高の眼刺激スコアが550のうち19であり、眼刺激の閾値である65を大幅に下回った。点眼数を複数に増やしても眼刺激スコアは55のうち38であり、やはり眼刺激の閾値を下回った(Shirwaikar A,1995)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、眼刺激性なしと報告されているため、一般的に眼刺激性はほとんどないと考えられます。
皮膚感作性(アレルギー性)について
– 健常皮膚を有する場合 –
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ(文献2:2012)によると、
- [動物試験] 25匹のモルモットに69.15%PGを含むデオドラント製剤に対するマキシマイゼーション皮膚感作試験を実施したところ、皮膚感作反応はなかった(KGL,1997)
- [ヒト試験] 101人の被検者(男性30人、女性71人)に73%PGを含むデオドラント製剤のRIPT(累積刺激および感作試験)を実施したところ、4人の被検者は中程度の刺激反応が繰り返し認められたため途中で試験を断念し、また別の2人の被検者は陽性反応が認められた(Consumer Product Testing Co,2005)
- [ヒト試験] 99人の被検者に86%PGを含むデオドラント製剤のRIPT(累積刺激および感作試験)を実施したところ、1人の被検者に陽性反応が認められたが感作反応ではなかった(TKL Research,2010)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、70%未満濃度においてはほとんど共通して皮膚感作性なしと報告されているため、一般的に皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
ただし、70%以上の濃度で刺激反応または感作反応の症例報告が複数あるため、まれに刺激または感作反応を引き起こす可能性があります。
– 皮膚炎を有する場合 –
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ(文献2:2012)によると、
- [ヒト試験] 2000年-2004年の間に、接触性皮膚炎を有する308人の患者(男性111人、女性197人)にヨーロッパ標準シリーズにおいてPGを含むいくつかの化学物質のパッチテストを実施したところ、5%PGを含むワセリンはいずれの患者にも陽性反応を引き起こさなかった(Boyvat A,2005)
市立堺病院皮膚科の症例報告(文献3:1984)によると、
- [ヒト試験] 接触皮膚炎を有する174人の患者に10%PG水溶液を貼布し、48,72および144時間の3回判定で評価したところ、128人(74%)の患者は反応が認められなかった。37人(21%)の患者は刺激反応と考えられる反応形態を示し、4人(2%)の被検者はアレルギー反応と考えられる反応を示したが、残りの5人の被検者は刺激性反応であっても一見アレルギー反応様の陽性反応が認められた
と記載されています。
試験データをみるかぎり、大部分では共通して皮膚感作性なしと報告されているため、一般的に皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
ただし、一部で感作反応が報告されており、またPGを貼布した場合は刺激反応であっても、一見アレルギー反応様の陽性反応(∗3)を生じることが複数報告されています(文献3:1984;文献4:1975)。
∗3 貼布部位を越える発赤が生じ、浸潤をともない、反応は48時間よりも72時間目あるいはそれ以後のほうが強くなる。
また各種濃度のPGに対する皮膚への反応は、ニューヨーク大学院皮膚科によると、PG原液にアレルギー性反応様を示した42人中12人は10%PGに対して、9人は3.2%PG水溶液に対しても同様の反応を示し、このうち4人が本当のPGに対するアレルギー反応だと推測されると報告されています(文献5:1952)。
光感作性について
- [ヒト試験] 2年間以上にわたって光接触皮膚炎を有する82人の被検者(男性30人、女性52人)にPGを含む日焼け止め製剤の光パッチ試験を実施した。被検者の背中に製剤を塗布してから24時間後に試験部位にUVA(5J/c㎡)を照射し、24および72時間後に評価したところ、PGは光感作または接触アレルギー反応を誘発しなかった(Rodriguez E,2006)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、光感作性なしと報告されているため、一般的に光感作性はほとんどないと考えられます。
∗∗∗
PGはベース成分、保湿成分、安定化成分、溶剤にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
∗∗∗
文献一覧:
- 日光ケミカルズ(2016)「多価アルコール」パーソナルケアハンドブックⅠ,96.
- Cosmetic Ingredient Review(2012)「Safety Assessment of Propylene Glycol, Tripropylene Glycol, and PPGs as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(31)(5_suppl),245S-260S.
- 東 禹彦(1984)「プロピレングリコールによるアレルギー性接触皮膚炎と刺激性皮膚炎」皮膚(26)(4),859-865.
- Hannuksela M, et al(1975)「Skin reactions to propylene glycol.」Contact Dermatitis(1)(2),112-116.
- Thelma G.Warshaw, et al(1952)「Studies of skin reactions to propylene glycol.」Journal of Investigative Dermatology(19)(6),423-439.
- 渡辺 加代子, 他(1984)「Propylene glycol による接触皮膚炎とその管理法およびパッチテストの問題点」皮膚(26)(4),866-875.
- 西山 聖二, 他(1993)「保湿剤」色材協会誌(66)(6),371-379.
- A Aono, et al(1999)「Calorimetric Study of the Antimicrobial Action of Various Polyols Used for Cosmetics and Toiletries」熱測定(26)(1),2-8.
- 花王株式会社(1975)「透明石鹸の製造法」特開昭50-135104.
スポンサーリンク