DPG(ジプロピレングリコール)とは…成分効果と毒性を解説




・DPG
[医薬部外品表示名称]
・ジプロピレングリコール
PG(プロピレングリコール)を脱水縮合して得られる多価アルコール(二価アルコール:グリコール)(∗1)であり、水、アルコール、油脂などと混和し、保湿剤としてベタつきが少ないことから汎用されている保湿剤です。
∗1 多価アルコールとは、2個以上のヒドロキシ基(水酸基:-OH)をもつアルコールを指し、水酸基の影響で非常に高い吸湿性と保水性をもっているため化粧品に最も汎用されている保湿剤です。名称に「アルコール」がついているので勘違いしやすいですが、一般的なアルコール(エタノール)は1個の水酸基をもつ一価アルコールで、多価アルコールと一価アルコール(エタノール)は別の物質です。
BG(1,3-ブチレングリコール)と同様の性質を有しているため、BGの代替として配合されることも少なくありません。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア化粧品、メイクアップ化粧品、ボディ&ハンドケア製品、洗顔料&洗顔石鹸、洗浄製品、シート&マスク製品など様々な製品に使用されます。
皮表の柔軟化および水分量増加による保湿作用
皮表の柔軟化および水分量増加による保湿作用に関しては、1993年に資生堂によって報告された保湿剤のまとめによると、
DPGは、相対湿度50%においてPGやグリセリンほど高い吸湿性は有していないが、相対的に中程度の比較的穏やかな吸湿性が示された。
このような検証結果が明らかにされており(文献4:1993)、DPGに皮表の柔軟化および水分量増加による保湿作用が認められています。
測定方法や試験条件によってBGより吸湿性が高い場合または低い場合がありますが、およそBGと同等の吸湿性であると考えられます。
TEWL抑制によるバリア改善作用
TEWL抑制によるバリア改善作用に関しては、まず前提知識としてTEWLについて解説します。
TEWLは、Trans Epidermal Water Lossの略で、皮膚表面から空気中へ水分が蒸散される皮膚水分蒸散量(経表皮水分喪失量)を表します(文献6:2002)。
アトピー性皮膚炎、湿疹、炎症などにみられる種々の皮膚症状においては、皮膚からの水分消失が健常な皮膚に比べて盛んであることが知られており、TEWLの増加は表皮内の水分保持やバリア機能を担っている成分の減少が関与していると考えられています。
1982年に資生堂によって公開されたO/Wクリーム成分の皮膚水和に与える影響の検証によると、
閉塞性を下げる効果が最も大きいのはグリセリンであり、その次にDPG、BGの順序であった。
これは保湿剤の吸湿性の差に起因するものと考えられた。
そこで、クリーム膜中の保湿剤そのものの保水力を測定したところ、以下のグラフのように、
保水力の大きさは、グリセリンが最も大きく、次にDPG、BGの順であった。
つまり、これらの結果から、クリームに配合した際の各保湿剤の特性は、
吸湿性・保水性:グリセリン > DPG > BG
閉塞性:BG > DPG > グリセリン
となっており、吸湿性・保水性と閉塞性は逆の相関関係にあることがわかった。
このような検証結果が明らかにされており(文献5:1982)、DPGにTEWL抑制によるバリア改善作用が認められています。
抗菌・防腐による製品安定化剤
抗菌・防腐による製品安定化剤に関しては、2012年に御木本製薬によって公開された抗菌性物質の最小発育阻止濃度の検証によると、
- 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus:Sa)
- 緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa:Pa)
- 大腸菌(Escherichia coli:Ec)
- カンジダ(candida albicans:Ca)
- コウジカビ(aspergillus brasiliensis:Ab)
滅菌容器に20gの試料を入れ、1mLあたり10⁷-10⁸個に調整した微生物懸濁液0.2mLを接種・混合し、1週間おきに一部を取り出し、生菌数をMICを基準として測定したところ、以下の表(∗2)のように、
∗2 表のSa,Pa,Ec,CaおよびAbは菌の英語表記の略語です。またMICは最小発育阻止濃度であるため、数字が小さい(濃度が低い)ほど抗菌力が高いことを意味します。
抗菌剤 | MIC:最小発育阻止濃度(%) | ||||
---|---|---|---|---|---|
Sa | Pa | Ec | Ca | Ab | |
メチルパラベン | 0.2 | 0.225 | 0.125 | 0.1 | 0.1 |
フェノキシエタノール | 0.75 | 0.75 | 0.5 | 0.5 | 0.4 |
BG | 16 | 8 | 10 | 14 | 18 |
ペンチレングリコール | 4 | 2 | 2 | 3 | 3 |
エタノール | 9 | 5 | 5 | 7 | 5 |
DPG | 22.5 | 8 | 12 | 16 | 22.5 |
1,2-ヘキサンジオール | 2.5 | 1 | 1 | 1.5 | 1.5 |
カプリリルグリコール | 0.35 | >0.5 | 0.125 | 0.175 | 0.175 |
DPGは他の抗菌剤ほど抗菌力は高くはないことが示され、またBGと比較してもやや抗菌性で劣ることがわかった。
このような検証結果が明らかにされており(文献7:2012)、DPGに弱い抗菌性が認められているため、抗菌性のある基剤として製品安定化を兼ねて配合されます。
ただし、単独では十分な抗菌活性が認められないことから、他の抗菌剤・防腐剤と組み合わせることで抗菌力の高い抗菌剤・防腐剤の配合量を減らすことができます。
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の1985年と2002-2003年の比較調査結果になりますが、以下のように報告されています。
DPGの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 薬添規2018規格の基準を満たした成分が収載される医薬品添加物規格2018に収載
- 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
- 50年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性について
- [in vitro試験] 正常ヒト表皮角化細胞によって再構築された3次元培養表皮モデルを用いて、角層表面にDPGを処理した後にPII(Primary Irritation Index)を指標(無刺激性:0-0.4、弱い刺激性:0.5-1.9、中程度の刺激性:2-4.9、強い刺激性:5-8)として判定したところ、PIIは0.3であり、非刺激性であると結論付けられた。また細胞生存率においては50%以下に減少する場合は刺激物と判定されるが、dpgの細胞生存率は処理の18時間後に109.7% ± 1.2、42時間後に83.5% ± 8.8であり、非刺激性に分類された
と記載されています。
試験データをみるかぎり、皮膚刺激性なしと報告されているため、一般的に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
詳細な試験データはみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
皮膚感作性(アレルギー性)について
- ヒトのデータに基づいて皮膚感作性がない
と記載されています。
評価プロファイルをみるかぎり、皮膚感作性なしと報告されており、また50年以上の使用実績の中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、一般的に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
∗∗∗
DPGはベース成分、保湿成分、安定化成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
∗∗∗
文献一覧:
- 日光ケミカルズ(2016)「多価アルコール」パーソナルケアハンドブック,97.
- N. Morikawa(2008)「Assessment of the in vitro skin irritaion by chemicals using the Vitrolife-Skin human skin model.」Alternatives to Animal Testing and Experimentation(13)(1),11-26.
- JETOC:日本化学物質安全・情報センター(2001)「ジプロピレングリコール混合異性体と主要な異性体」初期評価プロファイル.
- 西山 聖二, 他(1993)「保湿剤」色材協会誌(66)(6),371-379.
- 西山 聖二, 他(1982)「クリームによる皮膚水和の研究」日本化粧品技術者会誌(16)(2),136-143.
- 朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
- 谷口 康将, 他(2012)「最小発育阻止濃度(MIC)を基準とした予測式からの化粧品の保存効力の予測」日本化粧品技術者会誌(46)(4),295-300.
スポンサーリンク