シア脂の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | シア脂 |
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医薬部外品表示名 | シア脂 |
慣用名 | シアバター |
INCI名 | Butyrospermum Parkii (Shea) Butter |
配合目的 | 基剤 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
アカテツ科植物シアーバターノキ(学名:Vitellaria paradoxa, syn. Butyrospermum parkii 英名:Shea)の種子から得られる脂肪(植物脂)です(∗1)[1][2a]。
∗1 「syn」は同義語を意味する「synonym(シノニム)」の略称です。
1.2. 物性・性状
シア脂の物性・性状は(∗2)、
∗2 融点とは固体が液体になりはじめる温度のことです。またヨウ素価とは油脂を構成する脂肪酸の不飽和度を示すものであり、一般にヨウ素価が高いほど不飽和度が高い(二重結合の数が多い)ため、酸化を受けやすくなります。
状態 | 融点(℃) | ヨウ素価 |
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半固体 | 23-45 | 49-67(不乾性油) |
1.3. 脂肪酸組成および不鹸化物
シア脂の脂肪酸組成は、一例として、
脂肪酸名 | 脂肪酸の種類 | 炭素数:二重結合数 | 比率(%) |
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パルミチン酸 | 飽和脂肪酸 | C16:0 | 4.0 |
ステアリン酸 | C18:0 | 41.0 | |
アラキジン酸 | C20:0 | 1.5 | |
オレイン酸 | 不飽和脂肪酸 | C18:1 | 47.4 |
リノール酸 | C18:2 | 6.1 |
このような種類と比率で構成されていることが報告されており[3b]、ステアリン酸とオレイン酸で約90%を構成していることから、酸化安定性に優れるといった特徴を有していると考えられます[4]。
また、シア脂構成成分のうち3.5-8%が不鹸化物(∗3)であり、不鹸化物の構成比は、
∗3 不鹸化物(不ケン化物)とは、脂質のうちアルカリで鹸化されない物質の総称です。水に不溶、エーテルに可溶な成分である炭化水素、高級アルコール、ステロール、色素、ビタミン、樹脂質などが主な不鹸化物であり、油脂においてはその含有量が特徴のひとつとなります。
不鹸化物 | 構成比(%) |
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直鎖炭化水素 | 34 |
トリテルペンアルコール | 60 |
フィトステロール | 3 |
その他 | 3 |
このような種類と比率で構成されていることが報告されています[5]。
1.4. 分布と歴史
シアーバターノキは、西-中央アフリカの半乾燥地から準湿潤地帯に広く天然分布しており、これらの地域ではほかに油脂植物がほとんどないため、その種子中に約40-50%存在するシア脂がマーガリンやカカオバターの代用として料理や食品に広く用いられるほか、薬用軟膏や関節炎の治療など医薬品、皮膚や髪に塗られる化粧品、塗料などに用いられるなど、この地域の重要な資源となっています[6a][7a]。
また、シア脂はヨーロッパ、米国、日本においてマーガリンやカカオ脂の代替品として、またロウソク、石鹸、美容補助剤などに用いられており、西アフリカの経済的資源としても非常に重要な枠割を担っています[6b][7b]。
2. 化粧品としての配合目的
- 油性基剤
主にこれらの目的で、メイクアップ製品、化粧下地製品、ボディ&ハンドケア製品、スキンケア製品、日焼け止め製品、クレンジング製品、ボディソープ製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、ヘアスタイリング製品、ネイル製品、入浴剤など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 油性基剤
油性基剤に関しては、シア脂は融点が23-45℃であることからヒトの体温で融解する性質をもち、またオレイン酸とステアリン酸を多く含むことからなめらかでしっとりした感触を示し、そのうえ香料の保留性も良好であることから[8][9]、油性基剤としてスキンケア製品、ボディケア製品、ヘアケア製品、リップクリーム、口紅などを中心に様々な製品に汎用されています。
3. 混合原料としての配合目的
シア脂は、混合原料が開発されており、シア脂と以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | EMACOL CD-6710 |
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構成成分 | ミリスチルアルコール、ジメチルステアラミン、ベヘニルアルコール、アジピン酸ジイソブチル、シア脂、ミリスチン酸、ヘキシルデカノール |
特徴 | 旧表示指定成分を含まず低刺激性で生分解性の高いヘアトリートメント基剤 |
原料名 | Phyto Lipid Sheabutter |
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構成成分 | シア脂、水添レシチン、レシチン、シクロペンタシロキサン、1,2-ヘキサンジオール、水 |
特徴 | 水に容易に分散し独特の感触を付与するシアバター |
原料名 | Sheabutter/Almond Oil Herbaspheres |
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構成成分 | グリセリン、水、アーモンド油、シア脂、水添レシチン、クエン酸 |
特徴 | 防腐剤フリーの植物由来ミルク |
原料名 | Natural LIP |
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構成成分 | ポウテリアサポタ種子脂、シア脂、モクロウ、カルナウバロウ、トコフェロール |
特徴 | 保護作用をもち皮脂膜を強化するリップスティック用基剤 |
原料名 | Natural BBB |
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構成成分 | シア脂、水添ヒマシ油、水添オリーブ油エチルヘキシル、トコフェロール |
特徴 | 水吸収能や共乳化作用を有する天然由来バーム基剤 |
4. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2016-2017年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗4)。
∗4 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
5. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 光毒性(光刺激性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[10a]によると、
- [ヒト試験] 104名の被検者に23.7%シア脂を含むリップグロスを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、誘導期間において1名の被検者に皮膚反応が観察されたが、この試験物質は皮膚感作剤ではなかった(TKL Reseach,2008)
- [ヒト試験] 113名の被検者に24.1%シア脂を含むリップワックスを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(TKL Reseach,2008)
- [ヒト試験] 40名の被検者に24.7%シア脂を含むリップグロスを対象に28日間連用試験(1日2-6回使用)を実施したところ、1名の被検者に落屑がみられた(Groupe Dermscan,2008)
- [ヒト試験] 109名の被検者に45%シア脂を含むボディクリームを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Clinical Research Laboratories,2004)
- [ヒト試験] 31名の被検者に45%シア脂を含むボディクリームを対象に2週間連用試験(1日2回使用)を実施したところ、いずれの被検者においても紅斑、浮腫および乾燥はみられなかった(Clinical Research Laboratories,2004)
- [ヒト試験] 111名の被検者に60%シア脂を含むヘアクリームを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Clinical Research Laboratories,2004)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
5.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[10b]によると、
- [動物試験] 3匹のウサギの片眼に未希釈のシア脂0.1mLを滴下したところ、軽度の結膜反応がみられたが、この試験物質は眼刺激剤ではなかった(Henkel Kga A,1990)
このように記載されており、試験データをみるかぎり眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。
5.3. 光毒性(光刺激性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[10c]によると、
- [動物試験] 10匹のモルモットに10および20%シア脂を含むアセトンを適用した後にUVBを80秒間照射し、次にUVAを80分間照射した後に光刺激性を評価したところk,この試験物質は光刺激剤ではなかった(IBR Forschungs GmbH,1990)
このように記載されており、試験データをみるかぎり光刺激なしと報告されているため、一般に光毒性(光刺激性)はほとんどないと考えられます。
6. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「シア脂」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,456.
- ⌃ab広田 博(1997)「植物脂」化粧品用油脂の科学,26-31.
- ⌃ab鈴木 修, 他(1990)「油脂およびろうの性状と組成」油脂化学便覧 改訂3版,99-137.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「油脂」香粧品科学 理論と実際 第4版,94-100.
- ⌃井端 泰夫(1985)「油脂原料としてのシア脂の概要」Fragrance Journal(13)(4),76-78.
- ⌃ab浅川 澄彦(2001)「熱帯樹種の造林特性(23)シアーバターノキ」熱帯林業(52),71-74.
- ⌃abNational Research Council(2006)「SHEA」Lost Crops of Africa: Volume Ⅱ:Vegetables,303-322.
- ⌃日光ケミカルズ株式会社(2016)「油脂」パーソナルケアハンドブックⅠ,1-19.
- ⌃鈴木 一成(2012)「シア脂(シアバター)」化粧品成分用語事典2012,10-11.
- ⌃abcC.L. Burnett, et al(2017)「Safety Assessment of Plant-Derived Fatty Acid Oils」International Journal of Toxicology(36)(3_suppl),51S-129S. DOI:10.1177/1091581817740569.