テトライソステアリン酸ペンタエリスリチルの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | テトライソステアリン酸ペンタエリスリチル |
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医薬部外品表示名 | テトライソステアリン酸ペンタエリトリット、イソステアリン酸ペンタエリスリトール |
INCI名 | Pentaerythrityl Tetraisostearate |
配合目的 | 基剤、光沢、エモリエント、結合 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
脂肪酸と多価アルコールとのエステルの一種であり、以下の化学式で表されるペンタエリスリトールの4個のヒドロキシ基(-OH)それぞれにイソステアリン酸のカルボキシ基(-COOH)を脱水縮合(∗1)したテトラエステル(∗2)です[1a]。
∗1 脱水縮合とは、分子と分子から水(H2O)が離脱することにより分子と分子が結合する反応のことをいいます。脂肪酸とアルコールのエステルにおいては、脂肪酸(R-COOH)のカルボキシ基(-COOH)の「OH」とアルコール(R-OH)のヒドロキシ基(-OH)の「H」が分離し、これらが結合して水分子(H2O)として離脱する一方で、残ったカルボキシ基の「CO」とヒドロキシ基の「O」が結合してエステル結合(-COO-)が形成されます。
∗2 モノエステルとは分子内に1基のエステル結合をもつエステルであり、通常はギリシャ語で「1」を意味する「モノ(mono)」が省略され「エステル結合」や「エステル」とだけ記載されます。分子内に4基のエステル結合をもつ場合はギリシャ語で「4」を意味する「テトラ(tetra)」をつけてテトラエステルと記載されます。
1.2. 物性・性状
テトライソステアリン酸ペンタエリスリチルの物性・性状は(∗3)(∗4)、
∗3 比重とは固体や液体においては密度を意味し、標準密度1より大きければ水に沈み(水より重い)、1より小さければ水に浮くことを意味します。
∗4 屈折とは光の速度が変化して進行方向が変わる現象のことで、屈折率は「空気中の光の伝播速度/物質中の光の伝播速度」で表されます。光の伝播速度は物質により異なり、また同一の物質でも波長により異なるため屈折率も異なりますが、化粧品において重要なのは空気の屈折率を1とした場合の屈折率差が高い界面ほど反射率が大きいということであり、平滑性をもつ表面であれば光沢が高く、ツヤがでます(屈折率の例として水は1.33、エタノールは1.36、パラフィンは1.48)。
状態 | 比重 | 屈折率 |
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液体 | – | – |
このように報告されています[2]。
2. 化粧品としての配合目的
- 油性基剤
- 光沢付与
- エモリエント効果
- 結合
主にこれらの目的で、リップ系メイクアップ製品、その他のメイクアップ製品、スキンケア製品、クレンジング製品、ネイル製品など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 油性基剤
油性基剤に関しては、テトライソステアリン酸ペンタエリスリチルは油性感が少なく、顔料分散性に非常に優れ、皮膚に対してコクのある使用感をもつことから[3a][4a][5a]、油性基剤として主にメイクアップ系製品、クリーム系製品、乳液、日焼け止め製品などに汎用されています。
2.2. 光沢付与
光沢付与に関しては、テトライソステアリン酸ペンタエリスリチルは屈折率が高く、ツヤがあり、光沢やツヤを付与する目的で主に口紅、リップグロス、メイクアップ製品などに使用されています[4b][5b]。
2.3. エモリエント効果
エモリエント効果に関しては、テトライソステアリン酸ペンタエリスリチルは皮膚や毛髪に柔軟性や滑らかさを付与するエモリエント性を有していることから[3b][5c][6]、主にリップ系製品、メイクアップ製品、クリーム系製品、ヘアケア製品などに使用されています。
2.4. 結合
結合に関しては、テトライソステアリン酸ペンタエリスリチルは粉体原料同士を皿状容器に圧縮成型するとき、粉体原料同士のくっつきをよくしたり、使用時に粉が周囲に飛び散るのを防ぐ目的で主にパウダー系メイクアップ製品などに使用されています[1b][7]。
3. 混合原料としての配合目的
テトライソステアリン酸ペンタエリスリチルは混合原料が開発されており、テトライソステアリン酸ペンタエリスリチルと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | LUSPLAN SR-DP4 |
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構成成分 | ダイマージリノール酸ダイマージリノレイル、テトライソステアリン酸ペンタエリスリチル |
特徴 | 高い光沢性および密着性をもつ混合エステル(油性基剤) |
4. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2010-2011年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗5)。
∗5 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
5. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[8]によると、
- [ヒト試験] 107名の被検者に55%テトライソステアリン酸ペンタエリスリチルを含むリップグロスを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激および皮膚感作は観察されなかった(TKL Research,2010)
このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
5.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
6. 参考文献
- ⌃ab日本化粧品工業連合会(2013)「テトライソステアリン酸ペンタエリスリチル」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,658-659.
- ⌃日光ケミカルズ株式会社(2016)「エステル」パーソナルケアハンドブックⅠ,62-86.
- ⌃ab鈴木 一成(2012)「テトライソステアリン酸ペンタエリトリット」化粧品成分用語事典2012,65.
- ⌃ab日清オイリオグループ株式会社(2018)「低極性油剤」化粧品原料製品カタログ,1.
- ⌃abcCroda Europe Ltd.(2010)「Emollient Esters」Personal Care Product Guide,29-32.
- ⌃平尾 哲二(2006)「乾燥と保湿のメカニズム」アンチ・エイジングシリーズ No.2 皮膚の抗老化最前線,62-75.
- ⌃霜川 忠正(2001)「結合剤」BEAUTY WORD 製品科学用語編,216.
- ⌃L.C. Becker(2015)「Safety Assessment of Pentaerythrityl Tetraesters as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(34)(2_Suppl),99S-112S. DOI:10.1177/1091581815596731.