トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル |
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医薬部外品表示名 | トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリル |
慣用名 | MCTオイル |
INCI名 | Caprylic/Capric Triglyceride |
配合目的 | 基剤、溶剤 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
脂肪酸と多価アルコールとのエステルの一種であり、以下の化学式で表されるグリセリンの3個のヒドロキシ基(-OH)それぞれにカプリル酸またはカプリン酸のカルボキシ基(-COOH)を脱水縮合(∗1)したトリエステル(∗2)です[1]。
∗1 脱水縮合とは、分子と分子から水(H2O)が離脱することにより分子と分子が結合する反応のことをいいます。脂肪酸とアルコールのエステルにおいては、脂肪酸(R-COOH)のカルボキシ基(-COOH)の「OH」とアルコール(R-OH)のヒドロキシ基(-OH)の「H」が分離し、これらが結合して水分子(H2O)として離脱する一方で、残ったカルボキシ基の「CO」とヒドロキシ基の「O」が結合してエステル結合(-COO-)が形成されます。
∗2 モノエステルとは分子内に1基のエステル結合をもつエステルであり、通常はギリシャ語で「1」を意味する「モノ(mono)」が省略され「エステル結合」や「エステル」とだけ記載されます。分子内に3基のエステル結合をもつ場合はギリシャ語で「3」を意味する「トリ(tri)」をつけてトリエステルと記載されます。
1.2. 物性・性状
トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルの物性・性状は(∗3)(∗4)、
∗3 比重とは固体や液体においては密度を意味し、標準密度1より大きければ水に沈み(水より重い)、1より小さければ水に浮くことを意味します。
∗4 屈折とは光の速度が変化して進行方向が変わる現象のことで、屈折率は「空気中の光の伝播速度/物質中の光の伝播速度」で表されます。光の伝播速度は物質により異なり、また同一の物質でも波長により異なるため屈折率も異なりますが、化粧品において重要なのは空気の屈折率を1とした場合の屈折率差が高い界面ほど反射率が大きいということであり、平滑性をもつ表面であれば光沢が高く、ツヤがでます(屈折率の例として水は1.33、エタノールは1.36、パラフィンは1.48)。
状態 | 比重(d 20/20) | 屈折率 |
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液体 | 0.945-0.955 | 1.452-1.466 |
このように報告されています[2]。
1.3. 化粧品以外の主な用途
トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
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医薬品 | 基剤目的の医薬品添加剤として外用剤に用いられています[3]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 油性基剤
- 溶剤
主にこれらの目的で、メイクアップ製品、化粧下地製品、スキンケア製品、クレンジング製品、ボディ&ハンドケア製品、マスク製品、日焼け止め製品、コンシーラー製品、洗顔料、コンディショナー製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、ボディソープ製品、ネイル製品など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 油性基剤
油性基剤に関しては、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルは低粘度で酸化安定性が高く、エタノールおよび各種油性成分との相溶性に優れ、皮膚に対して良好な展延性(∗5)となめらかな使用感を示すことから[4a][5a][6][7]、油性基剤として主にメイクアップ系製品、クリーム系製品、日焼け止め製品、ヘアケア製品、ネイル系製品などに汎用されています。
∗5 展延性とは、柔軟に広がり、均等に伸びる性質のことで、薄く広がり伸びが良いことを指します。
2.2. 溶剤
溶剤に関しては、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルは様々な油性成分を溶かし込むことから、油溶性の化合物やエキスの溶剤として使用されています。
また、色素の溶解性に優れることから[4b][5b]、主に口紅をはじめとするメイクアップ製品などに使用されています。
3. 混合原料としての配合目的
トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルは混合原料が開発されており、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | Pelemol TT |
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構成成分 | トリベヘニン、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル |
特徴 | 100%植物由来のバター状エステル |
原料名 | KSG-330 |
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構成成分 | ビス(PEG/PPG-16/16)PEG/PPG-16/16ジメチコン、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル |
特徴 | 長期間持続する滑らかな感触を付与するシリコーンベースの乳化剤 |
原料名 | LUSPLAN SR-DM4 |
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構成成分 | ダイマージリノール酸ダイマージリノレイル、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル |
特徴 | 光沢性、エモリエント性、酸化安定性に優れるシリコーン代替混合エステル |
原料名 | Luvigel EM |
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構成成分 | アクリレーツコポリマーNa、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル |
特徴 | 乳化物の外観をより白く見せ、光沢およびさらっとした感触を付与する感触改良剤 |
原料名 | NIKKOL ニコリピッド 81S |
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構成成分 | バチルアルコール、ステアリン酸、レシチン、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル |
特徴 | 水溶液中でゲルネットワーク構造を形成することにより安定なエマルションが得られるO/W型乳化剤 |
原料名 | NIKKOL ニコムルス LC |
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構成成分 | べヘニルアルコール、ステアリルアルコール、PEG-20フィトステロール、セタノール、フィトステロールズ、ステアリン酸グリセリル、水添レシチン、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル |
特徴 | 様々な油性成分を乳化し、皮膚上で細胞間脂質と類似の安定なラメラ型液晶構造を形成しバリア機能を発揮する複合O/W型乳化剤 |
原料名 | NIKKOL ニコムルス LC-EF |
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構成成分 | べヘニルアルコール、ステアリルアルコール、フィトステロールズ、ステアリン酸グリセリル、ミリスチン酸ポリグリセリル-10、水添レシチン、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル |
特徴 | 皮膚上で細胞間脂質と類似の安定なラメラ型液晶構造を形成しバリア機能を発揮する複合O/W型乳化剤 |
4. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2003年および2017年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗6)。
∗6 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
5. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 40年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 光感作性:ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[8a][9a]によると、
– 健常皮膚を有する場合 –
- [ヒト試験] 128名の被検者にトリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Hill Top Research,1975)
- [ヒト試験] 12名の女性被検者にトリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルを対象に21日間皮膚累積刺激性試験を実施したところ、1名の被検者は16日目に刺激スコア0.0-3.0のスケールで1.0を示したが、他の被検者はいずれも刺激スコアは0であり、この試験物質は本質的に非刺激であると結論付けられた(Hill Top Research,1975)
- [ヒト試験] 17名の被検者に95.51%トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルを含むフェイシャルオイルを24時間単回パッチテストしたところ、PII(Primary Irritation Index:皮膚一次刺激性指数)は0であり、この試験物質は皮膚刺激剤ではなかった(Anonymous,2015)
- [ヒト試験] 26名の被検者に95.51%トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルを含むフェイシャルオイルを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、いずれの被検者においても皮膚感作反応を示さなかった(Product Investigations Inc,2015)
– 皮膚炎を有する場合 –
- [ヒト試験] 皮膚アレルギーを有している100名の皮膚科患者にトリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルで飽和したティッシュペーパーを48時間適用したところ、いずれの患者においても陽性反応はみられなかった(Degos,1968)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
5.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[8b][9b]によると、
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に100%トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルを点眼し、点眼1,2および3日後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質は眼刺激を誘発しなかった(Henkel,1977)
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に100%トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルを点眼し、点眼1,2,3および4日後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質は実質的に眼刺激剤ではなかった(PVO International,1976)
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に100%トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルを点眼し、点眼72時間後まで眼刺激性を評価したところ、この試験物質は眼刺激剤ではなかった(European Chemicals Agency,2016)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。
5.3. 光感作性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[9c]によると、
- [ヒト試験] 27名の被検者に95.51%トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルを含むフェイシャルオイルを対象に光感作性試験をともなうHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、この試験物質は光感作剤ではなかった(KGL Inc,2015)
このように記載されており、試験データをみるかぎり光感作なしと報告されているため、一般に光感作性はほとんどないと考えられます。
6. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,693-694.
- ⌃日光ケミカルズ株式会社(2016)「エステル」パーソナルケアハンドブックⅠ,62-86.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリン」医薬品添加物事典2021,425.
- ⌃ab広田 博(1997)「エステル類」化粧品用油脂の科学,91-113.
- ⌃ab高級アルコール工業株式会社(2021)「エステル」製品リスト,4-5.
- ⌃日清オイリオグループ株式会社(2018)「低極性油剤」化粧品原料製品カタログ,1.
- ⌃IOI Oleo GmbH(2020)「MCTs」Personal Care Product List,22-23.
- ⌃abR.L. Elder(1980)「Final Report of the Safety Assessment for Caprylic/Capric Triglyceride(∗7)」Journal of Environmental Pathology and Toxicology(4)(4),105-120.
- ⌃abcM.M. Fiume(2017)「Amended Safety Assessment of Triglycerides as Used in Cosmetics(∗7)」, 2022年3月20日アクセス.
∗7 PCPCのアカウントをもっていない場合はCIRをクリックし、表示されたページ中のアルファベットをどれかひとつクリックすれば、あとはアカウントなしでも上記レポートをクリックしてダウンロードが可能になります。