ステアリン酸の基本情報・配合目的・安全性

ステアリン酸

化粧品表示名 ステアリン酸
医薬部外品表示名 ステアリン酸
INCI名 Stearic Acid
配合目的 基剤乳化表面改質 など

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表される、炭素数と二重結合の数が18:0で構成された飽和脂肪酸高級脂肪酸です[1]

ステアリン酸

1.2. 物性

ステアリン酸の物性は、

融点(℃) 沸点(℃) 溶解性
69-70 383、232(15mmHg) 水に不溶、エタノールに可溶

このように報告されています[2][3a]

1.3. 分布

ステアリン酸は、自然界においてグリセリド(∗1)として動植物油一般に広く存在しますが、とくに牛脂、カカオ脂などに多く存在しています[3b][4]

∗1 「グリセリド(glyceride)」とは、グリセリンと脂肪酸とのエステル化合物の総称であり、とりわけグリセリンに3つの脂肪酸が結合した「トリグリセリド(triglyceride)」が多くを占めますが、ほかにもグリセリンに1つの脂肪酸が結合した「モノグリセリド(monoglyceride)」やグリセリンに2つの脂肪酸が結合した「ジグリセリド(diglyceride)」もわずかながら存在します。グリセリンに結合する脂肪酸には多くの種類があり、油脂の種類によって脂肪酸の種類や割合が異なります。

1.4. 化粧品以外の主な用途

ステアリン酸の化粧品以外の主な用途としては、

分野 用途
医薬品 安定・安定化、滑沢、基剤、矯味、結合、光沢化、コーティング、糖衣、乳化、賦形、分散、崩壊補助、防湿、流動化目的の医薬品添加剤として外用剤、耳鼻科用剤、歯科外用剤および口中用剤などに用いられています[5]

これらの用途が報告されています。

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 油性基剤
  • セッケン合成による乳化
  • 無機酸化物の表面改質

主にこれらの目的で、メイクアップ製品、化粧下地製品、洗顔料、日焼け止め製品、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、クレンジング製品など様々な製品に汎用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 油性基剤

油性基剤に関しては、市販のステアリン酸はパルミチン酸との混合物であることが多く、混合比によって性質が異なりますが、クリームの展延性(∗2)や硬さなどに影響を与えるワックス成分として、クリーム、乳液、ファンデーションなどクリーム系リーブオン製品に使用されています[6][7]

∗2 展延性とは、柔軟に広がり、均等に伸びる性質のことで、薄く広がり伸びが良いことを指します。

2.2. セッケン合成による乳化

セッケン合成による乳化に関しては、まず前提知識として乳化およびエマルションについて解説します。

乳化とは、互いに溶け合わない2種の液体の一方が微細な液滴(乳化粒子)となり他方の液体中に均一に分散されることをいいます[8][9]

そして、油と水のように互いに溶け合わない2種の液体の一方が微細な液滴(乳化粒子)として他の液体中に分散している乳化物をエマルション(emulsion)といい[10]、基本的なエマルションとして、以下の図のように、

エマルションの基本構造

水を外部相とし、その中に油が微細粒子状に分散しているO/W型(Oil in Water type:水中油滴型)と、それとは逆に油を外部相とし、その中に水が微細粒子状に分散しているW/O型(Water in Oil type:油中水滴型)があります[11]

身近にあるO/W型エマルションとしては、牛乳、生クリーム、マヨネーズなどがあり、一方でW/O型エマルションとしてはバター、マーガリンなどがあります。

現在、一般的に乳化に使用される界面活性剤は非イオン界面活性剤が主流ですが、1950年代以降、非イオン界面活性剤が発達するまでは、化粧品用エマルションの乳化剤として陰イオン系のステアリン酸セッケンなどが主として使用されてきた歴史があります[12a]

ステアリン酸セッケンは、様々な油性成分を乳化し、またO/W型エマルションを生成するための乳化剤として優れており、さらにセッケン乳化によって生成したエマルションは安定性が高く、ある程度の硬度をもちながらさっぱりした感触を付与するという特徴から[12b]、非イオン界面活性剤が発達した今日でもある程度の硬度とさっぱりした感触を目的に使用されています。

ただし、セッケンを乳化剤としたエマルションは温度によって硬度が変化しやすく、また経日変化が大きいことから[12c]、一般に他の乳化剤と併用する処方が用いられます。

2.3. 無機酸化物の表面改質

無機酸化物の表面改質に関しては、まず酸化チタンや酸化亜鉛の性質について解説します。

代表的な無機酸化物かつ紫外線散乱剤である酸化チタン酸化亜鉛は、紫外線を吸収すると電子が励起(∗3)され、酸化チタンや酸化亜鉛の表面で大気中の水や酸素と反応してラジカルを生成し、周囲の油を酸化分解する光触媒活性をもつことが知られています[13]

∗3 励起(れいき)とは、原子や分子に外部からエネルギーを与えることによってエネルギーの低い状態からエネルギーの高い状態に遷移させることをいいます。

このような背景から、光触媒活性の抑制や粒子分散性の向上目的でステアリン酸が使用される場合は、主にステアリン酸とアルミナまたは水酸化Alを併用した表面処理技術が用いられている可能性が考えられます。

3. 混合原料としての配合目的

ステアリン酸は、混合原料が開発されており、ステアリン酸と以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。

原料名 MPS脂肪酸
構成成分 ミリスチン酸パルミチン酸ステアリン酸
特徴 セッケン基剤、油性基剤、乳化剤
原料名 Picocare SE
構成成分 水添レシチンミリスチン酸ステアリン酸ベヘン酸ステアリルアルコールベヘニルアルコール
特徴 独特の肌触りを付与する天然レシチン乳化剤
原料名 PROLIPID 141
構成成分 ステアリン酸グリセリルベヘニルアルコールパルミチン酸ステアリン酸レシチン、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコールセタノール
特徴 ラメラ液晶を形成し、疎水性ネットワークで皮膚を保護するO/W型乳化剤
原料名 NIKKOL ニコリピッド 81S
構成成分 バチルアルコールステアリン酸レシチントリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル
特徴 水溶液中でゲルネットワーク構造を形成することにより安定なエマルションが得られるO/W型乳化剤
原料名 NIKKOL MGS-TGLV HLB 2.0
構成成分 ステアリン酸グリセリルステアリン酸、ステアリン酸グリコール、トリセテス-5リン酸
特徴 酸性安定型の親油性乳化剤
原料名 NIKKOL MGS-TGV HLB 4.0
構成成分 ステアリン酸グリセリルステアリン酸ステアリン酸ソルビタン、ジオレス-8リン酸Na
特徴 酸性安定型の親油性乳化剤

4. 配合製品数および配合量範囲

実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2006年および2016-2019年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗4)

∗4 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

ステアリン酸の配合製品数と配合量の比較調査結果(2006年および2016-2019年)

5. 安全性評価

ステアリン酸の現時点での安全性は、

  • 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 40年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:ほとんどなし-軽度
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
  • 光毒性(光刺激性):ほとんどなし
  • 光感作性:ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[14a]によると、

  • [ヒト試験] 21名の被検者に40%ステアリン酸を含むミネラルオイルを単一パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、この製剤は皮膚刺激剤ではなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1972)
  • [ヒト試験] 52名の被検者に13%ステアリン酸を含むフェイスクリームを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を開放パッチおよび閉塞パッチにて実施したところ、誘導期間において数人の被検者の閉塞パッチ部位に軽度の反応がみられたが、チャレンジ期間において皮膚反応はみられなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
  • [ヒト試験] 116名の被検者に10%ステアリン酸を含む製剤を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、誘導期間において1名の被検者に軽度-中程度の紅斑がみられたが、チャレンジ期間ではいずれの被検者においても皮膚反応はみられなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1977)
  • [ヒト試験] 101名の被検者に7.7%ステアリン酸を含むマスカラを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、誘導期間の8回目のパッチで1名の被検者に皮膚反応がみられたが、いずれの被検者においてもチャレンジパッチでは皮膚反応はみられなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1979)
  • [ヒト試験] 205名の被検者に5%ステアリン酸を含むマスカラを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を半閉塞パッチにて実施したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激および皮膚感作反応はみられなかった(UCLA,1985)
  • [ヒト試験] 51名の被検者に2.8%ステアリン酸を含むハンドローションを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、誘導期間において2名の被検者にわずかな反応がみられたが、チャレンジ期間においては処置部位および未処置部位ともにいずれの被検者も皮膚反応を示さなかった(Food and Drug Research Laboratories,1980)

このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

セッケンの皮膚刺激性に関しては、

ラウリン酸(C₁₂) ← ミリスチン酸(C₁₄) ← パルミチン酸(C₁₆) ← ステアリン酸(C₁₈)

この順に皮膚刺激が強いことが知られており、またナトリウムセッケンよりカリウムセッケンのほうが刺激性が強く[15]、セッケンの中ではラウリン酸カリウムセッケンが最もスティンギング(∗5)が強いと報告されています[16]

∗5 スティンギングとは、チクチクと刺すような主観的な刺激感のことです。

ただし、一般に洗浄製品のような短時間の非連続使用として皮膚から完全に洗い流すように設計された製品において、セッケンが皮膚に与える影響は極めて少ないことが明らかにされています[17]

5.2. 眼刺激性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[14b]によると、

  • [動物試験] 6匹のウサギの眼に13%ステアリン酸を含む製剤を適用し、適用後にDraize法に基づいて眼刺激性を評価したところ、1匹のウサギに虹彩炎が観察された(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1983)
  • [動物試験] 6匹のウサギの眼に2.8%ステアリン酸を含む製剤を適用し、3匹のウサギは眼をすすぎ、残りの3匹のウサギは眼をすすがず、適用後に眼刺激性を評価したところ、適用1日後で非洗眼群の眼刺激スコアは0.7で、2日後で結膜紅斑は正常にもどった。洗眼群においては眼刺激を示さなかった(CPT,1978)
  • [動物試験] 9匹のウサギの眼に2.8%ステアリン酸を含む製剤を適用し、3匹のウサギの眼はすすぎ、6匹のウサギの眼はすすがず、適用後にDraize法に基づいて眼刺激性を評価したところ、非洗眼群の48時間後の眼刺激スコアは0.7、72時間後で0.3であった。洗眼群の眼刺激スコアも同様でわずかな結膜紅斑がみられた(Consumer Product Testing Co,1982)
  • [動物試験] 4匹のウサギの眼に1%ステアリン酸を含む製剤を適用し、適用後にDraize法に基づいて眼刺激性を評価したところ、1時間後で最大眼刺激スコア6.0で、すべてのウサギに結膜刺激かつ2匹のウサギにはさらにわずかな角膜刺激がみられたが、24時間ですべて正常にもどった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1977)

このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して非刺激-軽度の眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-軽度の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。

ただし、洗浄製品に用いられる(眼をすすぐことが想定される製品)場合は、眼刺激の度合いは小さくなる傾向があります。

5.3. 光毒性(光刺激性)および光感作性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[14c]によると、

  • [ヒト試験] 52名の被検者に13%ステアリン酸を含むフェイスクリームを24時間開放および閉塞パッチ適用し、パッチ除去48時間後に処置部位にUVAライトを3回照射した。次にチャレンジパッチ除去24時間後にUVAライトを3分照射し、各照射後に皮膚反応を評価したところ、いずれの被検者においても開放パッチ部位および閉塞パッチ部位で皮膚反応は観察されなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
  • [ヒト試験] 25名の被検者に1%ステアリン酸を含む日焼け製剤を対象に光感作性試験を実施したところ、この試験物質は光感作反応を示さなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1979)

このように記載されており、試験データをみるかぎり光刺激および光感作なしと報告されているため、一般に光毒性(光刺激性)および光感作性はほとんどないと考えられます。

5.4. 皮膚吸着性

皮膚吸着性に関しては、まず前提知識として脂肪酸セッケンが吸着した場合の皮膚への影響について解説します。

セッケンを含む洗顔料を使用した洗顔においては、カリウムセッケンが皮膚に吸着残留する量が増えるほど洗顔後につっぱり感やかさつき感を感じる傾向にあり、洗顔後のつっぱり感やかさつき感を防ぐためには、皮膚吸着の少ないカリウムセッケンを使用することが重要であると考えられます[18]

1999年にポーラ化成工業によって報告されたカリウムセッケンの皮膚吸着性検証によると、

皮脂由来スクワレンと角層細胞由来脂質であるコレステロールエステルおよびコレステロールの比率が72:14:14のモデル皮脂を濃度0.5%に調整した各カリウムセッケン洗浄液300mLで5分,15分および30分間洗浄し、30分後に残存した脂肪酸(洗浄に使用したものと同じ脂肪酸)の量を測定したところ、以下のグラフのように、

脂肪酸セッケンによる皮膚洗浄後に残存吸着した脂肪酸量の比較

ラウリン酸およびミリスチン酸で洗浄した場合は、使用した脂肪酸と同じ脂肪酸量が洗浄時間とともに増加したことから、明らかに皮膚吸着を示していると考えられた。

一方で、パルミチン酸およびステアリン酸は残存量が非常に少なく、洗浄時間とともに減少しており、皮膚吸着していないものと考えられた。

このような検証結果が明らかにされており[19]、ステアリン酸のカリウムセッケンは皮膚吸着性がほとんどないことが認められています。

6. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「ステアリン酸」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,552.
  2. 大木 道則, 他(1989)「ステアリン酸」化学大辞典,1197.
  3. ab有機合成化学協会(1985)「ステアリン酸」有機化合物辞典,482.
  4. 平野 二郎(1990)「脂肪酸の分類と発生源」新版 脂肪酸化学 第2版,41-49.
  5. 日本医薬品添加剤協会(2021)「ステアリン酸」医薬品添加物事典2021,321-323.
  6. 日光ケミカルズ株式会社(2016)「脂肪酸および有機酸」パーソナルケアハンドブックⅠ,32-43.
  7. 鈴木 一成(2012)「ステアリン酸」化粧品成分用語事典2012,38.
  8. 薬科学大辞典編集委員会(2013)「乳化」薬科学大辞典 第5版,1150.
  9. 鈴木 敏幸(2003)「乳化」化粧品事典,638-639.
  10. 鈴木 敏幸(2003)「エマルション」化粧品事典,356.
  11. 田村 健夫・廣田 博(2001)「乳化作用」香粧品科学 理論と実際 第4版,270-273.
  12. abc光井 武夫(1969)「化粧品における応用」油化学(18)(9),521-529. DOI:10.5650/jos1956.18.521.
  13. 坂井 章人(2011)「微粒子粉体:紫外線防止と粉体」色材協会誌(84)(9),329-334. DOI:10.4011/shikizai.84.329.
  14. abcR.L. Elder(1987)「Final Report on the Safety Assessment of Oleic Acid, Laurie Acid, Palmitic Acid, Myristic Acid, and Stearic Acid」Journal of the American College of Toxicology(6)(3),321-401. DOI:10.3109/10915818709098563.
  15. Leroy D. Edwards(1939)「The pharmacology of SOAPS」Journal of the American Pharmaceutical Association(28)(4),209-215. DOI:10.1002/jps.3080280404.
  16. 奥村 秀信(1998)「皮膚刺激感(痛み)について」日皮協ジャーナル(39),78-82.
  17. 岩本 行信(1972)「セッケン」油化学(21)(10),699-704. DOI:10.5650/jos1956.21.699.
  18. 藤原 延規, 他(1992)「脂肪酸石鹸の皮膚吸着残留」日本化粧品技術者会誌(26)(2),107-112. DOI:10.5107/sccj.26.107.
  19. 酒井 裕二(1999)「理想的な洗顏料の開発」日本化粧品技術者会誌(33)(2),109-118. DOI:10.5107/sccj.33.2_109.

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