イソステアリルアルコールの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | イソステアリルアルコール |
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医薬部外品表示名 | イソステアリルアルコール |
INCI名 | Isostearyl Alcohol |
配合目的 | 基剤、感触改良 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表される、炭素数18の側鎖構造をもつ一価アルコールかつ合成アルコール(高級アルコール)です[1][2a]。
1.2. 物性
イソステアリルアルコールの物性は、
融点(℃) | 沸点(℃) | 溶解性 |
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– | – | 水に不溶、エタノールに微溶、エーテルに可溶 |
このように報告されています[3a]。
1.3. 化粧品以外の主な用途
イソステアリルアルコールの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
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医薬品 | 溶解目的の医薬品添加剤として外用剤に用いられています[4]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 油性基剤
- 展延性による感触改良
主にこれらの目的で、メイクアップ製品、スキンケア製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、クレンジング製品、ボディ&ハンドケア製品など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 油性基剤
油性基剤に関しては、イソステアリルアルコールは各種油性成分との相溶性がよく、酸化安定性も高いことから、油性基剤としてメイクアップ製品、クリーム系製品、乳液、ヘアケア製品などに汎用されています[2b][5]。
2.2. 展延性による感触改良
展延性による感触改良に関しては、イソステアリルアルコールはさっぱりした感触を付与し皮膚上での広がりに優れることから、基剤の伸び・流動性を調整する目的でリキッド系メイクアップ製品、クリーム系製品、乳液などに使用されています[3b]。
3. 混合原料としての配合目的
イソステアリルアルコールは混合原料が開発されており、イソステアリルアルコールと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | EMACOL SKN-131 |
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構成成分 | ヤシ油脂肪酸BG、イソステアリルアルコール、エチルセルロース |
特徴 | 実際には乳化しないものの自己ゲル化によってO/W型乳化剤と同様の機能を有する自己ゲル化剤(疑似乳化剤) |
4. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の1988年および2005-2006年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
5. 安全性評価
- 薬添規2018規格の基準を満たした成分が収載される医薬品添加物規格2018に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 40年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし-軽度
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[6a]によると、
- [ヒト試験] 20名の被検者に100%イソステアリルアルコールを24-48時間単回パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、いずれの被検者も皮膚刺激を示さなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)
- [ヒト試験] 20名の被検者に28%イソステアリルアルコールを含むリップスティックを24-48時間単回パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、いずれの被検者も皮膚刺激を示さなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)
- [ヒト試験] 19名の被検者に27%イソステアリルアルコールを含むリップスティックを24-48時間単回パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、いずれの被検者も皮膚刺激を示さなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)
- [ヒト試験] 19名の被検者に25%イソステアリルアルコールを含むリップスティックを対象に24-48時間単回パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、いずれの被検者も皮膚刺激を示さなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)
- [ヒト試験] 12名の被検者に25%イソステアリルアルコールを含むイソプロピルアルコールを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、誘導期間において3名の被検者にわずかな紅斑が観察されたが、いずれの被検者も皮膚感作を示さなかった(Clintest Inc,1967)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
5.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[6b]によると、
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に27%イソステアリルアルコールを含むリップスティックを適用し、適用後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質は軽度の眼刺激剤とみなされた(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に25%イソステアリルアルコールを含むリップスティックを適用し、適用後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質は最小限の眼刺激剤とみなされた(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に25%イソステアリルアルコールを含むリップスティックを適用し、適用後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質は最小限の眼刺激剤とみなされた(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して非刺激-軽度の眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-軽度の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
5.3. 安全性についての補足
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データの中で、イソステアリルアルコールを含む制汗剤に重度の皮膚累積刺激や感作反応が報告されていますが、これらの反応はこの制汗剤に配合されている他の成分によるものであると分析されていることから[6c]、ここではそれらのデータを除外しています。
6. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「イソステアリルアルコール」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,177.
- ⌃ab田村 健夫・廣田 博(2001)「高級アルコール」香粧品科学 理論と実際 第4版,117-120.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(2016)「アルコール」パーソナルケアハンドブックⅠ,44-55.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「イソステアリルアルコール」医薬品添加物事典2021,51.
- ⌃広田 博(1997)「合成アルコール」化粧品用油脂の科学,87-89.
- ⌃abcR.L. Elder(1988)「Final Report on the Safety Assessment of Cetearyl Alcohol,Cetyl Alcohol, lsostearyl Alcohol,Myristyl Alcohol, and Behenyl Alcohol」Journal of the American College of Toxicology(7)(3),359-413. DOI:10.3109/10915818809023137.