ラウロイルサルコシンイソプロピルの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ラウロイルサルコシンイソプロピル |
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医薬部外品表示名 | N-ラウロイルサルコシンイソプロピル |
INCI名 | Isopropyl Lauroyl Sarcosinate |
配合目的 | 基剤、溶剤、エモリエント など |
1. 基本情報
1.1. 定義
N-アシルアミノ酸(∗1)とアルコールとのエステルの一種であり、以下の化学式で表されるラウロイルサルコシン(∗2)のカルボキシ基(-COOH)にイソプロパノールのヒドロキシ基(-OH)を脱水縮合(∗3)したエステルです[1a]。
∗1 アシルアミノ酸とは、アミノ酸にアシル基(RCO-:Rは炭化水素基)が結合したアミノ酸系界面活性剤です。アシル基とは脂肪酸(RCOOH:Rは炭化水素基)から「OH」を除いた残りの原子団(RCO-)の総称です。
∗2 サルコシン(sarcosine)とは、生体内においてコリンから中性アミノ酸であるグリシンへの代謝中間体であるN-メチルグリシンのことであり、アミノ酸であるグリシンの中間体であることからアミノ酸系に分類されます。ラウロイルサルコシンとはサルコシンと高級脂肪酸の一種であるラウリン酸のアミドであり、アミノ酸系陰イオン界面活性剤に分類されます。
∗3 脱水縮合とは、分子と分子から水(H2O)が離脱することにより分子と分子が結合する反応のことをいいます。脂肪酸とアルコールのエステルにおいては、脂肪酸(R-COOH)のカルボキシ基(-COOH)の「OH」とアルコール(R-OH)のヒドロキシ基(-OH)の「H」が分離し、これらが結合して水分子(H2O)として離脱する一方で、残ったカルボキシ基の「CO」とヒドロキシ基の「O」が結合してエステル結合(-COO-)が形成されます。
1.2. 物性・性状
ラウロイルサルコシンイソプロピルの物性・性状は、
状態 |
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液体 |
このように報告されています[2a]。
2. 化粧品としての配合目的
- 油性基剤
- 溶剤
- エモリエント効果
主にこれらの目的で、メイクアップ製品、化粧下地製品、日焼け止め製品、スキンケア製品、コンディショナー製品、クレンジング製品、洗顔料、ボディ&ハンドケア製品など様々な製品に使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 油性基剤
油性基剤に関しては、ラウロイルサルコシンイソプロピルは低粘度油であり、展延性(∗4)および顔料の分散性に優れ、皮膚に対してさっぱりとした非常に軽い感触を付与することから[2b]、主にメイクアップ製品、化粧下地製品、日焼け止め製品などに使用されています。
∗4 展延性とは、柔軟に広がり、均等に伸びる性質のことで、薄く広がり伸びが良いことを指します。
2.2. 溶剤
溶剤に関しては、ラウロイルサルコシンイソプロピルは紫外線吸収剤およびセラミド、γ-オリザノール、コレステロールなど難溶性物質の溶解性に優れることから[3]、主に日焼け止め製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、スキンケア製品、ヘアケア製品、クレンジング製品などに使用されています。
2.3. エモリエント効果
エモリエント効果に関しては、ラウロイルサルコシンイソプロピルは皮膚との親和性が高く、皮膚や毛髪に柔軟性や滑らかさを付与するエモリエント性を有していることから[1b][2c][4]、主にメイクアップ製品、化粧下地製品、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、ヘアケア製品、洗顔料などに使用されています。
3. 安全性評価
- 2002年頃からの使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし-わずか
- 眼刺激性:ほとんどなし-わずか
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
3.1. 皮膚刺激性
National Industrial Chemicals Notification and Assessment Schemeの安全性データ[5a]によると、
- [動物試験] 3匹のウサギにラウロイルサルコシンイソプロピルを半閉塞パッチ適用し、OECD404テストガイドラインに基づいてパッチ除去10日目まで皮膚刺激性を評価したところ、この試験物質はわずかな皮膚刺激剤に分類された(P.A. Cadby et al,2002)
このように記載されており、試験データをみるかぎりわずかな皮膚刺激が報告されているため、一般に皮膚刺激性はわずかな皮膚刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
ただし、試験データは濃度100%のみであり、実際の製品における濃度範囲は現時点で報告されていないものの、実際の濃度範囲に即した試験データが必要であると考えられます。
3.2. 眼刺激性
National Industrial Chemicals Notification and Assessment Schemeの安全性データ[5b]によると、
- [動物試験] 3匹のウサギの片眼にラウロイルサルコシンイソプロピルを点眼し、OECD405テストガイドラインに基づいて点眼1,24,48および72時間後まで眼刺激性を評価したところ、この試験物質はわずかな眼刺激剤に分類された(P.A. Cadby et al,2002)
このように記載されており、試験データをみるかぎりわずかな眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性はわずかな眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
3.3. 皮膚感作性(アレルギー性)
National Industrial Chemicals Notification and Assessment Schemeの安全性データおよび東京医科大学皮膚科の診療データ[5c][6]によると、
- [動物試験] 10匹のモルモットにラウロイルサルコシンイソプロピルを対象にMaximization皮膚感作性試験を実施し、OECD406テストガイドラインに基づいて皮膚感作性を評価したところ、この試験物質はわずかな皮膚感作剤ではなかった(P.A. Cadby et al,2002)
– 個別事例 –
- [個別事例] 以前に顔面に灼熱感と掻痒をともなう浮腫性紅斑と水疱の病歴をもつ日本人女性(43歳)に化粧品によるアレルギー性接触皮膚炎が疑われたため、ICDRG(International Contact Dermatitis Research Group:国際接触皮膚炎研究グループ)が推奨する基準に基づいてパッチテストを実施したところ、化粧品に陽性反応が観察された。この結果から個々の化粧品成分をパッチテストしたところ、5%ラウロイルサルコシンイソプロピルを含むエタノールで陽性反応がみられ、他の22成分では陰性であった。5%ラウロイルサルコシンイソプロピルを含むエタノールを対象に健常な皮膚を有する4名のボランティアに同様のパッチテストを実施したところ、いずれのボランティアも陰性であった
このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚感作なし報告されているため、一般に皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
ただし、個別事例において1例の皮膚感作事例が報告されているため、ごくまれに皮膚感作を引き起こす可能性が考えられます。
4. 参考文献
- ⌃ab日本化粧品工業連合会(2013)「ラウロイルサルコシンイソプロピル」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,1058.
- ⌃abc中西 紀元(2002)「新規なエモリエント剤(ラウロイルサルコシンイソプロピル)の持つ高度な溶解性とサンスクリーン処方への応用」Fragrance Journal(30)(6),43-48.
- ⌃石井 博治(2004)「アシルアミノ酸エステルの機能と応用」オレオサイエンス(4)(3),97-103. DOI:10.5650/oleoscience.4.97.
- ⌃平尾 哲二(2006)「乾燥と保湿のメカニズム」アンチ・エイジングシリーズ No.2 皮膚の抗老化最前線,62-75.
- ⌃abcNational Industrial Chemicals Notification and Assessment Scheme(2016)「Glycine, N-methyl-N-(1-oxododecyl)-, 1-methylethyl ester」Public Report,LTD/1849.
- ⌃Takafumi Numata, et al(2018)「Allergic contact dermatitis caused by isopropyl lauroyl sarcosinate」Contact Dermatitis(80)(1),58-59. DOI:10.1111/cod.13117.