水添ポリイソブテンの基本情報・配合目的・安全性

水添ポリイソブテン

化粧品表示名 水添ポリイソブテン
医薬部外品表示名 軽質流動イソパラフィン、流動イソパラフィン、重質流動イソパラフィン、流動ポリイソブチレン、水素添加ポリブテン
部外品表示簡略名 水添ポリブテン
INCI名 Hydrogenated Polyisobutene
配合目的 基剤皮膜形成増粘 など

1. 基本情報

1.1. 定義

イソブテンとn-ブテンを共重合した後に水素添加して得られる、以下の化学式で表される側鎖にメチル基(-CH3をもつ炭化水素の混合物(合成系炭化水素)です[1][2]

水添ポリイソブテン

医薬部外品表示名については、それぞれ(∗1)

医薬部外品表示名 本質
軽質流動イソパラフィン イソブテンとn-ブテンを共重合した後に水素添加して得られる側鎖を有する炭化水素の混合物で、その重合度は4-6である
流動イソパラフィン イソブテンとn-ブテンを共重合した後に水素添加して得られる側鎖を有する炭化水素の混合物で、その重合度は5-10である
重質流動イソパラフィン イソブテンとn-ブテンを共重合した後に水素添加して得られる側鎖を有する炭化水素の混合物

∗1 「重質流動イソパラフィン」は別名「水素添加ポリブテン」、簡略名「水添ポリブテン」として表示されることがあり、「流動イソパラフィン」は別名「流動ポリイソブチレン」として表示されることがあります。

このように、重合度などによって区別されており、化粧品表示名としてはすべて「水添ポリイソブテン」と表示されます。

1.2. 物性・性状

水添ポリイソブテンの物性・性状は、

医薬部外品表示名 状態 粘度(mm2/s) 溶解性
軽質流動イソパラフィン 液体 1.4-3.1 鉱物油、ロウ、脂肪酸高級アルコール、脂肪酸エステルと混和と混和
流動イソパラフィン 10.6-20.1
重質流動イソパラフィン 300-4,700

このように報告されています[3a][4a]

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 油性基剤
  • 皮膜形成 [軽質流動イソパラフィン]
  • 非水系増粘 [重質流動イソパラフィン]

主にこれらの目的で、メイクアップ製品、化粧下地製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、クレンジング製品、ヘアスタイリング製品など様々な製品に汎用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 油性基剤

油性基剤に関しては、水添ポリイソブテンは化学的安定性が非常に高く、スクワランと類似した油性感の少ないさっぱりした使用感をもつことから、油性基剤としてメイクアップ製品を中心に汎用されています[3b][5]

2.2. 皮膜形成 [軽質流動イソパラフィン]

皮膜形成に関しては、流動イソパラフィンの中でも軽質流動イソパラフィンは揮発性が高く、塗布すると比較的早く揮発するとともに耐水性に優れた塗膜を形成することから[6]、アイライナーや口紅などのメイクアップ製品や日焼け止め製品などに汎用されています。

2.3. 非水系増粘 [重質流動イソパラフィン]

非水系増粘に関しては、流動イソパラフィンの中でも重質流動イソパラフィンは高粘度の液状炭化水素であることから、低粘度の油性基剤の粘度を調整する目的で主にメイクアップ製品やヘアケア製品に使用されています[4b]

3. 混合原料としての配合目的

水添ポリイソブテンは混合原料が開発されており、水添ポリイソブテンと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。

原料名 Emulgade Sucro HLB 10.0
構成成分 ポリステアリン酸スクロース、水添ポリイソブテン
特徴 ラメラ構造の形成を促進するショ糖ベースのO/W型乳化剤
原料名 DOWSIL BY 25-337 HLB 2.0
構成成分 PEG/PPG-19/19ジメチコン、水添ポリイソブテン
特徴 高重合化ポリエーテル変性シリコーンと水添ポリイソブテンを混合した、W/Si型乳化物が得られるW/O型乳化剤
原料名 Protesil WO
構成成分 (加水分解シルク/PGプロピルメチルシランジオール)クロスポリマー、水添ポリイソブテン
特徴 ペプチド(加水分解シルク)、アルキル基およびシリコーンのハイブリッドポリマーからなるW/O型乳化基剤
原料名 NIKKOL NET-814-1
構成成分 ラウリン酸ポリグリセリル-10グリセリンジメチコン水添ポリイソブテン
特徴 高重合シリコーン、軽質流動パラフィンを主成分とするヘアコンディショニング剤(乳化物)
原料名 DOWSIL CB-2250
構成成分 水添ポリイソブテン、ポリシリコーン-13
特徴 高重合シリコーンの骨格にポリエーテル基を導入することによりシリコーンの欠点である濡れたときのごわつきを低減し、乾燥時のぱさつきを抑えることを可能とした、直鎖ブロック共重合タイプポリエーテル変性シリコーンと水添ポリイソブテンを混合したヘアコンディショニング剤

4. 配合製品数および配合量範囲

実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2005年および2013-2015年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗2)

∗2 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

水添ポリイソブテンの配合製品数と配合量の調査結果(2005年および2013-2015年)

5. 安全性評価

水添ポリイソブテンの現時点での安全性は、

  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 40年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:ほとんどなし-軽度
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
  • 光毒性(光刺激性):ほとんどなし
  • 光感作性:ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[7a]によると、

  • [ヒト試験] 200名(擦過した皮膚を有する55名含む)の被検者に100%水添ポリイソブテン、20%水添ポリイソブテンを含むワセリン、100%スクワレン、20%スクワレンを含むワセリンの4種類の試験物質を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、いずれの被検者においても皮膚感作反応を誘発しなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1974)
  • [ヒト試験] 54名の被検者に4%および1.44%水添ポリイソブテンを含む試験物質0.2-0.3mLを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激および皮膚感作を示さなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1996)
  • [ヒト試験] 110名の被検者に51%水添ポリイソブテンを含むメイクアップリムーバーを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、誘導期間において1名の被検者に激しい発赤がみられたが、チャレンジ期間において激しい発赤を有する被検者を含むすべての被検者において皮膚刺激および皮膚感作の兆候はなかったため、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではないと結論づけられた(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,2003)
  • [ヒト試験] 健常な28名の被検者に17.1%水添ポリイソブテンを含むフェイスパウダーを対象にmaximization皮膚感作性試験を実施したところ、いずれの被検者においても有害な皮膚反応はみられなかった(Ivy Laboratories,2004)
  • [ヒト試験] 25名の被検者に10.5%水添ポリイソブテンを含むアイシャドー0.05mLを対象にmaximization皮膚感作性試験を実施したところ、いずれの被検者においても接触皮膚感作は観察されなかったため、通常の使用条件下で皮膚感作反応を起こす可能性は低いと結論づけられた(Ivy Laboratories,2005)

このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

5.2. 眼刺激性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[7b]によると、

  • [動物試験] 9匹のウサギの片眼に100%水添ポリイソブテン0.1mLを点眼し、6匹は眼をすすぎ、残りの3匹は眼をすすがず、眼刺激性を評価したところ、眼をすすいだかどうかにかかわらず刺激は観察されず、この試験物質はウサギの眼において非刺激剤であった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1973)
  • [動物試験] 6匹のウサギの片眼に100%水添ポリイソブテンを点眼し、点眼後に眼刺激性を評価したところ、3匹に軽度の発赤がみられたが、他に有害な反応はみられなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1976)
  • [動物試験] ウサギの片眼に3%水添ポリイソブテンを点眼し、点眼後にDraize法に基づいて眼刺激性を評価したところ、この試験物質は非刺激剤であった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1987)

このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して非刺激-軽度の眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-軽度の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。

5.3. 光毒性(光刺激性)および光感作性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[7c]によると、

  • 30名の被検者に4%および1.44%水添ポリイソブテンを含むファンデーションを対象に光感作試験をともなうHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、いずれの被検者においても光感作反応の兆候はみられなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1996)
  • [ヒト試験] 26名の被検者の背中の4箇所に4%および1.44%水添ポリイソブテンを含むファンデーションを2箇所ずつ24時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に各1箇所ずつにUVAを照射し、残りの箇所は対照として機能した。照射後に光刺激性を評価したところ、いずれの箇所も皮膚反応は観察されず、この試験物質は光刺激剤ではなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1996)

このように記載されており、試験データをみるかぎり光刺激および光感作なしと報告されているため、一般に光毒性(光刺激性)および光感作性はほとんどないと考えられます。

6. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「水添ポリイソブテン」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,538.
  2. 田村 健夫・廣田 博(2001)「炭化水素」香粧品科学 理論と実際 第4版,108-112.
  3. ab広田 博(1997)「炭化水素類」化粧品用油脂の科学,54-60.
  4. ab日油株式会社(-)「PARLEAM」カタログ.
  5. 日光ケミカルズ株式会社(2016)「炭化水素」パーソナルケアハンドブックⅠ,25-31.
  6. 田村 健夫・廣田 博(2001)「アイライナー」香粧品科学 理論と実際 第4版,426-430.
  7. abcF.A. Andersen(2008)「Final report of the cosmetic ingredient review expert panel on the safety assessment of Polyisobutene and Hydrogenated Polyisobutene as used in cosmetics」International Journal of Toxicology(27)(Suppl 4),83-106. PMID:19101833.

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