水添ヤシ油の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | 水添ヤシ油 |
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医薬部外品表示名 | 水素添加ヤシ油 |
部外品表示簡略名 | 水添ヤシ油 |
INCI名 | Hydrogenated Coconut Oil |
配合目的 | 基剤 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
1.2. 物性・性状
水添ヤシ油は、ヤシ油の脂肪酸に含まれる不飽和脂肪酸(二重結合)部分に水素を付加することで飽和脂肪酸(一重結合:単結合)に変化させ、その結果として融点(∗1)の上昇、固体脂量の増加、酸化安定性の向上を果たしたものであり(∗2)[2]、その物性・性状は(∗3)、
∗1 融点とは固体が液体になりはじめる温度のことです。
∗2 代表的な水素添加油としてはマーガリンがあり、マーガリンは元々バターが高価であることから、バターの代替として油脂に発酵乳・食塩・ビタミン類などを加えて乳化し、水素添加することで常温で固体とした加工食品です。
∗3 ヨウ素価とは油脂を構成する脂肪酸の不飽和度を示すものであり、一般にヨウ素価が高いほど不飽和度が高い(二重結合の数が多い)ため、酸化を受けやすくなります。
状態 | 融点(℃) | ヨウ素価 |
---|---|---|
ロウ状固体 | 36-37 | 3(不乾性油) |
このように報告されています[3a]。
1.3. 脂肪酸組成
水添ヤシ油の脂肪酸組成は、一例として、
脂肪酸名 | 脂肪酸の種類 | 炭素数:二重結合数 | 比率(%) |
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カプリル酸 | 飽和脂肪酸 | C8:0 | 1.9 |
カプリン酸 | C10:0 | 2.7 | |
ラウリン酸 | C12:0 | 53.3 | |
ミリスチン酸 | C14:0 | 21.3 | |
パルミチン酸 | C16:0 | 10.0 | |
ステアリン酸 | C18:0 | 10.0 | |
オレイン酸 | 不飽和脂肪酸 | C18:1 | 0.3 |
リノール酸 | C18:2 | 0.1 |
このような種類と比率で構成されていることが報告されています[4]。
ただし、カプリル酸やカプリン酸など炭素数10以下の脂肪酸は皮膚刺激性をもつため、たとえばこれらを含有するヤシ油などでは化粧品に用いられる際にあらかじめ除去されていると報告されていることから、同様にこれらは除去されていると推測されます。
水添ヤシ油は、ラウリン酸を主成分とし99%以上を飽和脂肪酸とした構成であることから、自動酸化に対する安定性が非常に高いといった特徴を有していると考えられます。
2. 化粧品としての配合目的
- 油性基剤
主にこれらの目的で、ペンシル系メイクアップ製品、スティック系メイクアップ製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、ボディ&ハンドケア製品、スキンケア製品などに汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 油性基剤
油性基剤に関しては、水添ヤシ油は融点が36-37℃であり、ヒトの体温で溶ける特性をもつため、使用感の良いロウ状油性基剤としてペンシル系メイクアップ製品、スティック系メイクアップ製品などに汎用されています[1b][5]。
3. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2007-2008年および2010年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗4)。
∗4 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
4. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 40年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし-最小限
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[3b]によると、
- [ヒト試験] 204名の被検者に10%水添ヤシ油を含む4種類のリップスティック製剤を対象に48時間単回パッチ試験を実施し、14日の休息期間を設けた後に48時間感作試験(チャレンジパッチ)を実施したところ、いずれの被検者も皮膚刺激および皮膚感作を示さなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1974;1979)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
4.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[3c]によると、
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に10%水添ヤシ油を含むリップスティック製剤を滴下し、滴下後に眼刺激性を評価したところ、わずかな結膜炎がみられたが48時間までに反応は消失した(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1975)
このように記載されており、試験データをみるかぎり非刺激-最小限の眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-最小限の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
5. 参考文献
- ⌃ab日本化粧品工業連合会(2013)「水添ヤシ油」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,539.
- ⌃今義 潤(2018)「水素添加」油脂製品の知識 改訂新版,105-123.
- ⌃abcR.L. Elder(1986)「Final Report on the Safety Assessment of Coconut Oil, Coconut Acid, Hydrogenated Coconut Acid, and Hydrogenated Coconut Oil」International Journal of Toxicology(5)(3),103-121. DOI:10.3109/10915818609141927.
- ⌃V. Dhaygude, et al(2018)「Solidification of the Blends of Fully Hydrogenated Coconut Oil and Non-hydrogenated Coconut Oil」Periodica Polytechnica Chemical Engineering(62)(1),123-127. DOI:10.3311/PPch.9638.
- ⌃湯浅 正治・宇山 侊男(2006)「その他の汎用されている化粧品成分」全成分表示に対応した化粧品成分ガイド 第4版,242-285.