シクロペンタシロキサンの基本情報・配合目的・安全性
| 化粧品表示名 | シクロペンタシロキサン |
|---|---|
| 医薬部外品表示名 | デカメチルシクロペンタシロキサン |
| 部外品表示簡略名 | シクロペンタシロキサン |
| INCI名 | Cyclopentasiloxane |
| 配合目的 | 基剤、溶剤 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表される5量体の環状ポリシロキサン(∗1)（環状シリコーン油）です[1]。
∗1 シロキサン（siloxane）とは、ケイ素（元素記号：Si）と酸素（元素記号：O）を骨格とする化合物で、Si-O-Si結合（シロキサン結合）を持つものの総称です。
1.2. 物性・性状
シクロペンタシロキサンの物性・性状は(∗2)(∗3)、
∗2 比重とは固体や液体においては密度を意味し、標準密度1より大きければ水に沈み（水より重い）、1より小さければ水に浮くことを意味します。
∗3 屈折とは光の速度が変化して進行方向が変わる現象のことで、屈折率は「空気中の光の伝播速度／物質中の光の伝播速度」で表されます。光の伝播速度は物質により異なり、また同一の物質でも波長により異なるため屈折率も異なりますが、化粧品において重要なのは空気の屈折率を1とした場合の屈折率差が高い界面ほど反射率が大きいということであり、平滑性をもつ表面であれば光沢が高く、ツヤがでます（屈折率の例として水は1.33、エタノールは1.36、パラフィンは1.48）。
| 状態 | 粘度 25℃ (mm2/s) | 比重(25℃) | 屈折率(25℃) |
|---|---|---|---|
| 液体 | 4.0 | 0.956-0.960 | 1.396-1.400 |
2. 化粧品としての配合目的
- 油性基剤
- 溶剤
主にこれらの目的で、メイクアップ製品、日焼け止め製品、化粧下地製品、コンシーラー製品、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、クレンジング製品、アウトバストリートメント製品、トリートメント製品など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 油性基剤
油性基剤に関しては、シクロペンタシロキサンは低粘度の揮発性オイルであり、他の成分との相溶性や展延性(∗4)に優れ、さらっとした感触を付与することから[2b][3b][4]、油性基剤としてメイクアップ製品、日焼け止め製品、化粧下地製品、コンシーラー製品、スキンケア製品、アウトバストリートメント製品などに汎用されています。
∗4 展延性とは、柔軟に広がり、均等に伸びる性質のことで、薄く広がり伸びが良いことを指します。
2.2. 溶剤
溶剤に関しては、シクロペンタシロキサンはシリコーン系皮膜形成成分を溶かす溶剤として使用されています[5a]。
溶剤のシクロペンタシロキサンが揮発することによって形成された皮膜は、撥水性(∗5)や潤滑性をもつことから、耐水性を高めて汗や水、皮脂で落ちにくくする目的で日焼け止め製品に、撥水性を高めて化粧崩れを防ぐ目的やなめらかさや伸びを良くする目的でメイクアップ製品に、感触や櫛通りを良くするとともにツヤを付与する目的でヘアケア製品にそれぞれ使用されます[5b]。
∗5 撥水（はっすい）とは、水をはじく性質のことです。
3. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2008-2009年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
4. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 30年以上の使用実績
- 皮膚刺激性：ほとんどなし
- 眼刺激性：ほとんどなし
- 皮膚感作性（アレルギー性）：ほとんどなし
- 光毒性（光刺激性）：ほとんどなし
- 光感作性：ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性（アレルギー性）
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[6]によると、
– 健常皮膚を有する場合 –
- [ヒト試験] 110名の被検者に90.37%シクロペンタシロキサンを含むヘアスプレー製品を対象にHRIPT（皮膚刺激性&皮膚感作性試験）を半閉塞パッチにて実施したところ、試験期間中において22名の被検者にほとんど知覚できないレベルから軽度の皮膚反応が観察されたが、これらの皮膚反応は臨床的に意味のある皮膚刺激および皮膚感作ではないと結論付けられた（Anonymous,2007）
- [ヒト試験] 154名の被検者に89.75%シクロペンタシロキサンを含むヘアスプレー製品を対象にHRIPT（皮膚刺激性&皮膚感作性試験）を実施したところ、試験期間中において15名の被検者にほとんど知覚できないレベルの皮膚反応が観察されたが、これらの皮膚反応は臨床的に意味のある皮膚刺激および皮膚感作ではないと結論付けられた（Anonymous,2007）
- [ヒト試験] 105名の被検者に55.76%シクロペンタシロキサンを含む制汗剤を対象にHRIPT（皮膚刺激性&皮膚感作性試験）を閉塞パッチにて実施したところ、試験期間を通じていずれの被検者も皮膚反応を示さず、この製品は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではないと結論付けられた（TKL Research,2008）
– 過敏な皮膚を有する場合 –
- [ヒト試験] 敏感肌であると自己申告している106名の被検者（18-66歳）に56.3%シクロペンタシロキサンを含むデオドラント製品を対象にHRIPT（皮膚刺激性&皮膚感作性試験）を閉塞パッチにて実施したところ、試験期間を通じていずれの被検者も皮膚反応を示さず、この製品は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではないと結論付けられた（TKL Research,2008）
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
4.2. 眼刺激性
Scientific Committee on Consumer Safetyの安全性データ[7]によると、
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に100%シクロペンタシロキサンを点眼し、Draize法に基づいて点眼後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質はこの試験条件下において眼刺激剤ではなかった（Toxikon Corp,1990）
- [動物試験] 5匹のウサギの片眼に100%シクロペンタシロキサンを点眼し、点眼後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質は眼刺激剤ではないと判断された（Carnegie-Mellon Institute of Research, Chemical Hygiene Fellowship,1976）
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。
4.3. 光毒性（光刺激性）および光感作性
シクロペンタシロキサンは紫外線を吸収しないため、試験は実施されていません[8]。
5. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会（2013）「シクロペンタシロキサン」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,476.
- ⌃abダウ・東レ株式会社（2020）「油剤 揮発性オイル」油剤・皮膜形成剤・ワックスセレクションガイド,4-5.
- ⌃ab信越化学工業株式会社（2021）「シリコーンオイル」化粧品用シリコーン オリジナル原料 Plus,5.
- ⌃樋口 浩一, 他（2016）「化粧品用シリコーン」シリコーン大全,201-209.
- ⌃ab鈴木 一成（2012）「シクロペンタシロキサン」化粧品成分用語事典2012,620-621.
- ⌃W. Johnson, et al（2011）「Safety Assessment of Cyclomethicone, Cyclotetrasiloxane, Cyclopentasiloxane, Cyclohexasiloxane, and Cycloheptasiloxane」International Journal of Toxicology(30)(6_suppl),149S-227S. DOI:10.1177/1091581811428184.
- ⌃Scientific Committee on Consumer Safety（2010）「OPINION ON Cyclomethicone」SCCS/1241/10.
- ⌃近藤 秀俊・菅沼 紀之（2014）「シリコーンの歴史と安全性」化粧品の安全・安心の科学 -パラベン・シリコーン・新原料,98-109.
