ラノリンとは…成分効果と毒性を解説

ベース成分 エモリエント成分 感触改良 光沢
ラノリン
[化粧品成分表示名称]
・ラノリン

[医薬部外品表示名称]
・ラノリン、吸着精製ラノリン

ウシ科動物ヒツジ(学名:Ovis aries 英名:Sheep)の皮脂分泌物(羊毛脂:wool grease)を精製して得られる動物性ロウです。

羊毛工業が19世紀にイギリスのヨークシャー州を中心とした中・北部地区で目覚ましい発展を遂げる中で、その洗毛廃液からウールグリースを回収し精製したものを、ラテン語でwoolを意味するLannaにちなんでラノリン(lanolin)と命名したことからラノリン工業が発展しました。

ウールグリースは羊毛を柔軟かつ強靭に保つ役割をしており、これは人間の皮膚上における皮脂膜に似た機能であり、また約2倍量の水を吸収する抱水性があり、軟膏状の稠度を保つ性質などから汎用されていましたが、1929年にラノリン過敏症について報告されたことから(文献12:1929-1930)、ラノリンアレルギーに関する報告例が増えたため、現在はアレルギーの原因物質を除去した吸着精製ラノリンが使用されています。

ラノリンの脂肪酸およびアルコール組成は、きわめて他種類の脂肪酸とアルコールのエステルからなり、そのエステル形成も単純なエステル体ではなく、ポリエステルを形成していると推測されており、組み合わせが無数に考えられることからその構成を推定することは不可能であるとされています。

その中で発表されている代表的なラノリンの組成は、

脂肪酸成分 炭素数 含有率(%)
ノルマル脂肪酸 C₁₀-C₃₂ 偶数酸 7
C₁₃-C₁₇ 奇数酸
イソ脂肪酸 C₁₀-C₃₂ 偶数酸 23
アンテイソ脂肪酸 C₉-C₃₁ 奇数酸 30
α-ヒドロキシノルマル脂肪酸 C₁₂-C₂₄ 偶数酸 15
C₁₃-C₂₃ 奇数酸
α-ヒドロキシイソ脂肪酸 C₁₄-C₂₄ 偶数酸 11
α-ヒドロキシアンテイソ脂肪酸 C₁₃-C₂₅ 奇数酸 4
ω-ヒドロキシノルマル脂肪酸 C₂₆-C₃₄ 偶数酸 3
ω-ヒドロキシイソ脂肪酸 C₃₀-C₃₂ 偶数酸 0.5
ω-ヒドロキシアンテイソ脂肪酸 C₂₇-C₃₃ 奇数酸 1
確認脂肪酸合計   94.5
不明成分   5.5

このような種類と比率で構成されています(文献2:1983)

不けん化物(∗1)としては、遊離アルコール類が約21%、C₂₇ステロール類が約37%、C₃₀ステロール類が約39%、;炭化水素が1%などが報告されています(文献2:1983)

∗1 不けん化物とは、アルカリで加水分解(鹸化)したときに鹸化されずに残った物質の総称で、ステロール、色素、脂溶性ビタミンなどです。

ラノリンのアレルギーについては、多くの皮膚科学者によって指摘されてきましたが、そのアレルギーの原因はラノリン中の遊離アルコールであるといわれており(文献7:1975;文献8:1977)、そのような背景から現在は一般的に遊離アルコール類を除去した吸着精製ラノリンが使用されています。

ヨウ素価、および融点(∗2)は、

∗2 融点とは固体が液体になりはじめる温度のことです。

ヨウ素価 融点
15-30 36-42

一例としてこのように記載されており(文献2:1983)、融点は36-42℃です。

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、スキンケア化粧品、スティック状メイクアップ製品、メイクアップ化粧品、ボディ&ハンドケア製品などに使用されています(文献1:1980;文献3:1997)

皮表水分量増加によるエモリエント作用

皮表水分量増加によるエモリエント作用に関しては、日本精化の技術情報によると、

ラノリンの代替原料としてダイマージリノール酸ダイマールリノレイルビス(べヘニル/イソステアリル/フィトステリル)ダイマージリノール酸(フィトステリル/イソステアリル/セチル/ステアリル/べヘニル)の抱水性を、ラノリン、ワセリンまたはオリーブ油を比較対照として検討した。

各試験物質10gに精製水を0.2から0.5mLずつ滴下しながら練り込み、水が入らなくなった点を終点とし、英国薬局方、ラノリンの含水価測定法に準じて試料に対する百分率で抱水率を測定したところ、以下のグラフのように、

ラノリンの抱水性

ダイマージリノール酸ダイマールリノレイルビス(べヘニル/イソステアリル/フィトステリル)およびダイマージリノール酸(フィトステリル/イソステアリル/セチル/ステアリル/べヘニル)はラノリンと同等の高い抱水性を示した。

このような検証結果が明らかにされており(文献4:-)、ラノリンに皮表水分量増加によるエモリエント作用が認められています。

感触改良

感触改良に関しては、ベタつきのなさおよび肌への密着性に優れており(文献3:1997)、チキソトロピー性(∗3)に富み、また皮膚上での伸びも良く、しっとり感を付与するため、スキンケア製品やメイクアップ製品に配合されます。

∗3 チキソトロピー性とは、混ぜたり振ったり、力を加えることで粘度が下がり、また時間の経過とともに元の粘度に戻る現象をいいます。よく例に出されるのはペンキで、ペンキは塗る前によくかき混ぜることで粘度が下がり、はけなどで塗りやすくなります。そしてペンキは塗られた直後に粘度が上がり(元に戻り)、垂れずに乾燥します。

顔料分散

顔料分散に関しては、日本精化の技術情報によると、

ラノリンの代替原料としてダイマージリノール酸ダイマールリノレイルビス(べヘニル/イソステアリル/フィトステリル)、ダイマージリノール酸(フィトステリル/イソステアリル/セチル/ステアリル/べヘニル)の顔料分散性をラノリン、流動パラフィンおよびオリーブ油を比較対照として検討した。

酸化チタンまたはベンガラに各試料を20質量%加え、流動パラフィンを徐々に加えながらよくかき混ぜ、Flow Point(均一な流動性を示すようになる流動パラフィンの最小量(g/100g顔料))を求めたところ、以下のグラフのように、

ラノリンの顔料分散性(二酸化チタン)

ラノリンの顔料分散性(ベンガラ)

ダイマージリノール酸ダイマールリノレイルビス(べヘニル/イソステアリル/フィトステリル)およびダイマージリノール酸(フィトステリル/イソステアリル/セチル/ステアリル/べヘニル)はラノリンと同等もしくはそれ以上の有意な顔料分散効果が示された。

このような検証結果が明らかにされており(文献4:-)、ラノリンに顔料分散効果が認められています。

光沢付与

光沢付与に関しては、日本精化の技術情報によると、

各試料と、流動パラフィンおよびセレシンを用いて30:50:20質量%の配合比でスティック製剤を調製し、パラフィン紙に一定量を塗布し、グロスメーターで光沢度を測定したところ、以下の表のように、

試料 光沢度
なし 34
ワセリン 38
ラノリン 42
ダイマージリノール酸(フィトステリル/イソステアリル/セチル/ステアリル/べヘニル) 48
ダイマージリノール酸ダイマージリノレイルビス(べヘニル/イソステアリル/フィトステリル) 52

ダイマージリノール酸ダイマールリノレイルビス(べヘニル/イソステアリル/フィトステリル)およびダイマージリノール酸(フィトステリル/イソステアリル/セチル/ステアリル/べヘニル)はラノリン以上の光沢度を示した。

このような検証結果が明らかにされており(文献4:-)、ラノリンに光沢付与効果(ツヤ向上効果)が認められています。

実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の1980年および2002-2003年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。

ラノリンの配合製品数と配合量の調査結果(1980年および2002-2003年)

スポンサーリンク

ラノリンの安全性(刺激性・アレルギー)について

ラノリンの現時点での安全性は、

  • 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
  • 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
  • 10年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
  • 皮膚感作性(皮膚炎を有する場合):ほとんどなし

これらの結果から、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:1980)によると、

  • [ヒト試験] 200人の被検者に100%ラノリンを対象にHRIPT(皮膚累積刺激&感作試験)を実施したところ、皮膚刺激および皮膚感作性の兆候は示さなかった(CTFA,1978)
  • [ヒト試験] 200人の被検者に100%ラノリンワックスをHRIPT(皮膚累積刺激&感作試験)を実施したところ、皮膚刺激および皮膚感作性の兆候は示さなかった(CTFA,-)
  • [ヒト試験] 8人の被検者に100%ラノリンワックスを対象に21日間累積刺激性試験を実施したところ、最小限の累積刺激の兆候があった(CTFA,-)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激性および皮膚感作性なしと報告されているため、皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

ラノリンの皮膚アレルギーについては1970年代あたりから度々指摘されており、現在はラノリンというとアレルギーのイメージが定着し、化粧品原料としても使用が控えられ、代替原料が開発されている現状があります。

実際のラノリンおよびその誘導体の感作率は、2.0%-6.6%であるといわれていますが(文献9:1975;文献10:1978;文献11:1979)、これらの数値も試験におけるラノリンの精製度や試験方法に差があり、正確な感作率とはいえません。

しかし、ラノリンによりアレルギー反応が生じることは確実だといわれており、ラノリンのアレルギー原因物質が、ラノリンアルコール中の成分および一部の遊離アルコールであることが明らかになっています。

こういった背景から、現在はラノリンアルコールおよび遊離アルコールを除去した吸着精製ラノリンが一般的に使用されています。

ただし、化粧品成分表示名称としては吸着精製ラノリンであってもラノリンで統一されており、成分一覧表示には「ラノリン」と記載されているため、アレルギー原因物質を除去した吸着精製ラノリンかどうかが気になる場合は販売メーカーに確認する必要があります。

– 皮膚炎を有する場合 –

大阪回生病院皮膚科の診療データ(文献5:1994)によると、

  • [ヒト試験] 1982年から1991年までの10年間に皮膚科を受診した患者のうち香粧品または外用薬による接触皮膚炎を疑った4,839例を対象にICDRGの基準で30%ラノリンアルコール、ラノリン(局方精製ラノリン)、水素添加ラノリン(還元ラノリン)の3種類の成分のパッチテストを行ったところ、平均陽性率はラノリンアルコールが97人(2.0%)、ラノリンが29人(0.6%)、還元ラノリンが82人(1.7%)であった。ラノリンアルコールと還元ラノリンで陽性反応が認められたうちの過半数がそれぞれ単独で陽性反応であった。ラノリン陽性者のうち80.5%が多感作例で、そのうち41.6%が香料アレルゲンに陽性であった

ラノリンパッチテスト研究班の診療データ(文献6:1985)によると、

  • [ヒト試験] 化粧品皮膚炎、女子顔面黒皮症、その他湿疹、皮膚炎患者430例にラノリンおよびその誘導体をパッチテストしたところ、接触アレルギー反応率はラノリンアルコール(30%)が最も高く、+以上6.8%、++以上2.3%であった。吸着精製ラノリン(100%および30%)の場合72時間後で++以上の明らかなアレルギー反応は430例中皆無で、精製ラノリンより安全であることを確認した

と記載されています。

試験データをみるかぎり、皮膚炎を有している場合においても共通して皮膚感作性なしと報告されているため、皮膚炎を有している場合において皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:1980)によると、

  • [動物試験] 9匹のウサギに未希釈のラノリンワックスを注入したところ、刺激性はなかった(CTFA,-)
  • [動物試験] 6匹のウサギに未希釈のラノリンワックスを注入したところ、刺激性はなかった(CTFA,-)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、共通して眼刺激性なしと報告されているため、眼刺激性はほとんどないと考えられます。

∗∗∗

ラノリンはベース成分、エモリエント成分にカテゴライズされています。

それぞれの成分一覧は以下からお読みください。

参考:ベース成分 エモリエント成分

∗∗∗

文献一覧:

  1. Cosmetic Ingredient Review(1980)「Final Report of the Safety Assessment for Acetylated Lanolin Alcohol and Related Compounds」Journal of environmental pathology and toxicology(4),63-92.
  2. 府瀬川 健蔵(1983)「ラノリン」ワックスの性質と応用,39-45.
  3. 広田 博(1997)「動物性固体ロウ」化粧品用油脂の科学,39-50.
  4. 日本精化株式会社(-)「Plandool Series」技術資料.
  5. 加藤 順子, 他(1994)「ラノリンによる接触アレルギー」皮膚(36)(2),115-124.
  6. ラノリンパッチテスト研究班(1985)「パッチテストによるラノリンおよびラノリン誘導体の安全性の比較検討」西日本皮膚科(47)(5),864-873.
  7. T Sugai, et al(1975)「Hypersensitivity to hydrogenated lanolin」Contact Dermatitis(1)(3),146-157.
  8. EW Clark, et al(1977)「Lanolin with reduced sensitizing potential A preliminary note」Contact Dermatitis(3)(2),69-74.
  9. EW Clark, et al(1975)「Estimation of the general incidence of specific lanolin allergy」Journal of the Society of Cosmetic Chemists(26)(7),323-335.
  10. 須貝 哲郎, 他(1978)「ラノリン過敏症の実態」皮膚(20)(2),239-244.
  11. T Mortensen(1979)「Allergy to lanolin」Contact Dermatitis(5)(3),137-139.
  12. M Ramirez, et al(1929-1930)「The “patch” test in “contact dermatitis” (dermatitis venenata)」The Journal of Allergy and Clinical Immunology(1)(6),489–495.

スポンサーリンク

TOPへ