ヤシ脂肪酸とは…成分効果と毒性を解説



・ヤシ脂肪酸
[医薬部外品表示名称]
・ヤシ油脂肪酸
ヤシ油から得られる飽和脂肪酸です。
ヤシ脂肪酸の脂肪酸組成は、一例として、
脂肪酸名 | 脂肪酸の種類 | 炭素数:二重結合数 | 比率(%) |
---|---|---|---|
カプリル酸 | 飽和脂肪酸 | C8:0 | 3.3 |
カプリン酸 | 飽和脂肪酸 | C10:0 | 7.7 |
ラウリン酸 | 飽和脂肪酸 | C12:0 | 57.8 |
ミリスチン酸 | 飽和脂肪酸 | C14:0 | 18.1 |
パルミチン酸 | 飽和脂肪酸 | C16:0 | 8.7 |
ステアリン酸 | 飽和脂肪酸 | C18:0 | 3.6 |
このような種類と比率で構成されていることが報告されており(文献2:1975)、ラウリン酸とミリスチン酸を主とした脂肪酸構成となっています。
化学構造的に二重結合(不飽和結合)の数が多いほど酸化安定性が低くなりますが、ヤシ脂肪酸は化学構造的にすべて単結合(飽和結合)の飽和脂肪酸で構成されており、酸化安定性が非常に高いです(文献3:1997)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、洗顔料&洗顔石鹸、ボディ&ハンドソープ製品、乳化系スキンケア化粧品、メイクアップ化粧品などに使用されます。
セッケンの泡質改善作用
セッケンの泡質改善作用に関しては、まず前提知識としてセッケン合成およびセッケン(∗1)の化粧品成分表示記載方法について解説します。
∗1 セッケンには、「セッケン」「石けん」「せっけん」「石鹸」など4種の表記法があり、これらの用語には界面活性剤を意味する場合と界面活性剤を主剤とした製品を意味する場合がありますが、化学分野では界面活性剤を「セッケン」、製品を「せっけん」と表現する決まりになっています。それらを考慮し、ここでは界面活性剤を「セッケン」、セッケンを主剤とした製品を「石鹸」と記載しています。
セッケンは、以下のように、
- ケン化法:油脂 + 水酸化Naまたは水酸化K → 油脂脂肪酸Naまたは油脂脂肪酸K + グリセリン
- 中和法:高級脂肪酸 + 水酸化Naまたは水酸化K → 高級脂肪酸Naまたは高級脂肪酸K + 水
炭素数12-18の高級脂肪酸または油脂をアルカリ剤である水酸化Naまたは水酸化Kで中和またはケン化して得られる洗浄基剤であり、洗浄性および起泡性を有していることが知られています。
また、セッケンは中和またはケン化に使用するアルカリ剤によって、以下のように、
- 水酸化Naを用いてケン化または中和する場合:固形石鹸
- 水酸化Kを用いてケン化または中和する場合:液体石鹸
形状および性質が異なります(文献4:1979)。
次に、セッケンの化粧品成分表示記載方法については、以下の表のように、
表示の種類 | 使用成分(反応させる成分) | 表示成分一覧 |
---|---|---|
単一成分表示 | 高級脂肪酸または油脂 + 水酸化Na |
石ケン素地 |
高級脂肪酸または油脂 + 水酸化K |
カリ石ケン素地 | |
高級脂肪酸または油脂 + 水酸化Na + 水酸化K |
カリ含有石ケン素地 | |
反応後表示 | 高級脂肪酸 + 水酸化Na | ラウリン酸Na、ミリスチン酸Na、パルミチン酸Na、ステアリン酸Na、オレイン酸Na |
高級脂肪酸 + 水酸化K | ラウリン酸K、ミリスチン酸K、パルミチン酸K、ステアリン酸K、オレイン酸K | |
油脂 + 水酸化Na | パーム脂肪酸Na、パーム核脂肪酸Na、ヤシ脂肪酸Na、オリーブ脂肪酸Na | |
油脂 + 水酸化K | ヤシ脂肪酸K | |
反応前表示 | 高級脂肪酸 + 水酸化Na | ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、水酸化Na |
高級脂肪酸 + 水酸化K | ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、水酸化K | |
油脂 + 水酸化Na | ヤシ油、パーム油、パーム核油、オリーブ果実油、ツバキ種子油、馬油、水酸化Na | |
油脂 + 水酸化K | ヤシ油、パーム油、パーム核油、オリーブ果実油、水酸化K |
これらの記載方法があります(∗2)。
∗2 すべてが使用(記載)されるわけではなく、一般的に高級脂肪酸の場合は3つ以上、油脂脂肪酸の場合は1つ以上が使用されます。
セッケンを基剤としている場合は、セッケン基剤に使用されている油脂、油脂脂肪酸または高級脂肪酸と同じ油脂脂肪酸または高級脂肪酸(∗3)を配合することで泡のソフト感が増し(泡粒径が小さくなる)、かつ泡弾性が向上することが知られており(文献4:1993)、このようにセッケンと同様の脂肪酸を配合したセッケンを過脂肪セッケンといいます。
∗3 高級脂肪酸の場合、パルミチン酸は過脂肪剤としての効果を発揮しないため、パルミチン酸は使用されません。
このような背景から、セッケン基剤としてヤシ油、ヤシ脂肪酸またはヤシ油を構成する高級脂肪酸が使用されている場合、泡のソフト感の増大かつ泡弾性の向上目的でヤシ脂肪酸が配合されます。
過脂肪セッケンの場合は、一例として、化粧品成分表示一覧にヤシ脂肪酸Naとは別にヤシ脂肪酸も記載されるため、脂肪酸セッケンと同様の脂肪酸が別途記載されている場合は過脂肪セッケンの可能性が考えられます。
効果・作用についての補足
ヤシ脂肪酸は、化粧品基剤および/または油性基剤として乳化系スキンケア化粧品、メイクアップ化粧品などにも配合されていますが、基剤として明確な配合目的に関する文献がみあたらないため、わかり次第追補します。
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2007-2008年および2010年の比較調査結果になりますが、以下のように報告されています。
以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品というのは、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
ヤシ脂肪酸の安全性(刺激性・アレルギー)について
- 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
- 100年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし-最小限
- 眼刺激性:ほとんどなし-最小限
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性について
- [動物試験] 9匹のウサギに100%または10%ヤシ脂肪酸を含むコーン油を対象に24時間単一皮膚刺激性試験を実施し、PII(Primary Irritation Index:皮膚一次刺激性指数)を0.0-4.0のスケールで評価したところ、PIIは100%濃度で0.13、10%濃度で0.12であり、濃度にかかわらず最小限の皮膚刺激性に分類された(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1977)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、濃度にかかわらず最小限の皮膚刺激が報告されているため、皮膚刺激性は非刺激-最小限の皮膚刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
眼刺激性について
- [動物試験] 6匹のウサギ3群それぞれに未希釈のヤシ脂肪酸を対象に眼刺激性試験を実施し、眼刺激スコアを0-110のスケールで評価したところ、眼刺激スコアは3群それぞれで8,9および1であり、最小限の眼刺激性に分類された(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1975)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して最小限の眼刺激が報告されているため、眼刺激性は非刺激-最小限の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
皮膚感作性(アレルギー性)について
医薬部外品原料規格2006に収載されており、100年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
∗∗∗
ヤシ脂肪酸はベース成分、界面活性剤にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
∗∗∗
文献一覧:
- Cosmetic Ingredient Review(1986)「Final Report on the Safety Assessment of Coconut Oil, Coconut Acid, Hydrogenated Coconut Acid, and Hydrogenated Coconut Oil」International Journal of Toxicology(5)(3),103-121.
- 吉田 良之助, 他(1975)「アミノ酸系洗浄剤の研究(第1報)」油化学(24)(9),595-599.
- 広田 博(1997)「脂肪酸の組成と分類」化粧品用油脂の科学,60-64.
- 小野 正宏(1979)「身のまわりの化学”セッケンおよびシャンプー”」化学教育(27)(5),297-301.
- 宮澤 清(1993)「化粧せっけん及びヘアシャンプーの泡立ちとソフト感」油化学(42)(10),768-774.
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