パーム油とは…成分効果と毒性を解説




・パーム油
[医薬部外品表示名称]
・パーム油
ヤシ科植物ギニアアブラヤシ(学名:Elaeis guineensis 英名:palm)の果肉から得られる植物油脂です。
ギニアアブラヤシは、アンゴラやガンビア周辺の西アフリカを原産とし、古くから中部アフリカの熱帯雨林地帯でその果実から得られる油脂を目的に広く栽培されています。
単位面積当たりから得られる油脂の量は植物中屈指であり、今日ではマレーシア、ナイジェリアおよびインドネシアなどで大規模栽培されており、収穫された果実は、石鹸や食用植物油の生産に使われています。
パーム油の脂肪酸組成は、抽出方法や天然成分のため国や地域および時期によって変化がありますが、主に、
脂肪酸名 | 脂肪酸の種類 | 炭素数:二重結合数 | 比率(%) |
---|---|---|---|
オレイン酸 | 不飽和脂肪酸 | C18:1 | 40.7 |
リノール酸 | 不飽和脂肪酸 | C18:2 | 9.7 |
ラウリン酸 | 飽和脂肪酸 | C12:0 | 0.2 |
ミリスチン酸 | 飽和脂肪酸 | C14:0 | 1.1 |
パルミチン酸 | 飽和脂肪酸 | C16:0 | 43.1 |
ステアリン酸 | 飽和脂肪酸 | C18:0 | 4.5 |
このような種類と比率で構成されています(文献3:1990)。
パルミチン酸含有量が多いのが特徴で、パルミチン酸が約43%、オレイン酸が約40%を占めており、パルミチン酸は飽和脂肪酸で二重結合が0であり、またオレイン酸は二重結合が1つの不飽和脂肪酸であるため、酸化安定性は高いと考えられます。
不鹸化物(∗1)は、トコフェロールおよびトコトリエノールなどが含まれています(文献7:1983)。
∗1 不鹸化物(不ケン化物)とは、脂質のうちアルカリで鹸化されない物質の総称です。水に不溶、エーテルに可溶な成分である炭化水素、高級アルコール、ステロール、色素、ビタミン、樹脂質などが主な不鹸化物であり、油脂においてはその含有量が特徴のひとつとなります。
またヨウ素価および融点(∗2)は、
∗2 融点とは固体が液体になりはじめる温度のことです。
ヨウ素価 | ヨウ素価による分類 | 融点 |
---|---|---|
43-60 | 不乾性油 | 27-50 |
一例としてこのように記載されていますが(文献4:1990)、ヨウ素価は100以下の不乾性油のため、乾燥性はほとんどなく、融点は27-50℃であるため、日本おいては、冬など27℃以下の気温では固体ですが、夏など27℃を超えてくると液体化し始めます。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、固形石鹸、洗顔石鹸&洗顔料、洗浄製品、スキンケア化粧品、ボディケア製品、メイクアップ化粧品などに使用されます(文献5:2016)。
ナトリウムセッケン合成による起泡・洗浄
ナトリウムセッケン合成による起泡・洗浄に関しては、まず前提知識としてナトリウムセッケン合成およびナトリウムセッケンの化粧品成分表示記載方法について解説します。
セッケン(∗3)は、洗浄基剤として洗浄性および起泡性を有していることが知られており、その製造法には、
∗3 セッケンには、「セッケン」「石けん」「せっけん」「石鹸」など4種の表記法があり、これらの用語には界面活性剤を意味する場合と界面活性剤を主剤とした製品を意味する場合がありますが、化学分野では界面活性剤を「セッケン」、製品を「せっけん」と表現する決まりになっています。それらを考慮し、ここでは界面活性剤を「セッケン」、セッケンを主剤とした製品を「石鹸」と記載しています。
- ケン化法:油脂 + 水酸化Na → 油脂脂肪酸Na + グリセリン
- 中和法:高級脂肪酸 + 水酸化Na → 高級脂肪酸Na + 水
この2種類があります。
パーム油は植物油脂であることからケン化法が用いられ、またケン化に用いるアルカリを水酸化Naにすることでナトリウムセッケン(固形石鹸)が得られます(文献8:1979)。
上記では、ケン化法によって合成されるセッケンを「油脂脂肪酸Na」と表記しましたが、ケン化法で得られるパーム油のナトリウムセッケンが化粧品成分表示一覧に記載される場合は、以下のように、
アルカリ剤の種類 | 化粧品成分表示方法 |
---|---|
水酸化Na | パーム油、水酸化Na |
パーム脂肪酸Na | |
石ケン素地 |
これら3つのいずれかの記載方法で記載されるため、セッケン(洗浄基剤)目的で「パーム油」が化粧品成分表示一覧に記載されている場合は、水酸化Naが一緒に記載されます。
次にパーム油を使用したナトリウムセッケンの洗浄力および起泡力についてですが、パーム油の脂肪酸組成の比率は、一例としてパルミチン酸43%、オレイン酸40%を主体とした構成となっており、以下の各高級脂肪酸の洗浄力および起泡力の比較表をみるとわかるように、
脂肪酸名 | 洗浄力 (温水) |
洗浄力 (冷水) |
起泡性 | 泡持続性 | |
---|---|---|---|---|---|
飽和脂肪酸 | ラウリン酸 | ◎ | ◎ | ◎ | ○ |
ミリスチン酸 | ◎ | ○ | ◎ | ◎ | |
パルミチン酸 | ◎ | △ | △ | ◎ | |
ステアリン酸 | ◎ | ☓ | △ | ◎ | |
不飽和脂肪酸 | オレイン酸 | ◎ | ◎ | △ | △ |
パーム油の脂肪酸組成は、冷水および温水の両方で比較的安定した洗浄力を有しますが、起泡力はかなり低いことが知られています(文献9:1990)。
ただし、市販の洗浄製品は複数の植物油脂を混合したナトリウムセッケンが使用されていることから、配合されているナトリウムセッケンの総合的な洗浄力、起泡性および泡持続性を示します(文献10:1993)。
カリウムセッケン合成による起泡・選択洗浄
カリウムセッケン合成による洗浄・起泡に関しては、まず前提知識としてカリウムセッケン合成およびカリウムセッケンの化粧品成分表示記載方法について解説します。
セッケンは、洗浄基剤として洗浄性および起泡性を有していることが知られており、その製造法には、
- ケン化法:油脂 + 水酸化K → 油脂脂肪酸K + グリセリン
- 中和法:高級脂肪酸 + 水酸化K → 高級脂肪酸K + 水
この2種類があります。
パーム油は植物油脂であることからケン化法が用いられ、またケン化に用いるアルカリを水酸化Kにすることでカリウムセッケン(液体石鹸)が得られます(文献8:1979)。
上記では、ケン化法によって合成されるセッケンを「油脂脂肪酸K」と表記しましたが、ケン化法で得られるパーム油のカリウムセッケンが化粧品成分表示一覧に記載される場合は、以下のように、
アルカリ剤の種類 | 化粧品成分表示方法 |
---|---|
水酸化K | パーム油、水酸化K |
パーム脂肪酸K | |
カリ石ケン素地 |
これら3つのいずれかの記載方法で記載されるため、セッケン(洗浄基剤)目的で「パーム油」が化粧品成分表示一覧に記載されている場合は、水酸化Kが一緒に記載されます。
また、ナトリウムセッケンやカリウムセッケンのほかに、ナトリウムセッケン(固形セッケン)にカリウムセッケン(液体セッケン)を添加することで、水に対する溶けやすさや泡立ちを改良したカリ含有ナトリウムセッケンがあり、パーム油を含むカリ含有セッケンが化粧品成分表示一覧に記載される場合は、以下のように、
アルカリ剤の種類 | 化粧品成分表示方法 |
---|---|
水酸化Na + 水酸化K | パーム油、水酸化Na、水酸化K |
パーム脂肪酸Na、パーム脂肪酸K | |
カリ含有石ケン素地 |
これら3つのいずれかの記載方法で記載されるため、セッケン(洗浄基剤)目的で「パーム油」が化粧品成分表示一覧に記載されている場合は、水酸化Naおよび水酸化Kが一緒に記載されます。
次に、カリウムセッケンによる起泡・選択洗浄に関しては、カリウムセッケンはナトリウムセッケンより溶解性が高く、起泡性に優れていることが知られています(文献11:1958)。
また、30℃および40℃での各脂肪酸における0.5%濃度の脂肪酸カリウムセッケンの起泡力および泡持続性は、
脂肪酸名 | 起泡性 | 泡持続性 | |||
---|---|---|---|---|---|
30℃ | 40℃ | 30℃ | 40℃ | ||
飽和脂肪酸 | ラウリン酸 | ○ | ○ | ○ | ○ |
ミリスチン酸 | ◎ | ◎ | ○ | ○ | |
パルミチン酸 | △ | ◎ | ○ | ○ | |
ステアリン酸 | ☓ | ☓ | ☓ | ☓ | |
不飽和脂肪酸 | オレイン酸 | ◎ | ◎ | ○ | ○ |
このような傾向が明らかにされており(文献12:1989)、パーム油の脂肪酸組成の比率は、一例としてパルミチン酸43%、オレイン酸40%を主体とした構成となっていることから、30℃および40℃の両方で安定した起泡力および泡持続性が知られています。
カリウムセッケンは主に洗顔料に使用されますが、洗顔の場合、過剰な皮脂や汚れを洗浄することが必要である一方で、皮膚の恒常性を保持するための角質細胞間脂質などまで洗い流してしまうことは望ましいことではありません。
このような背景から、洗顔において皮膚のつっぱり感や肌荒れを回避するために、皮膚の恒常性に必要な物質を極力洗い流さない選択洗浄性(∗4)が重要であり、顔におけるカリウムセッケンの選択洗浄性とは、皮膚の向上性を保つために重要な因子である角層細胞由来脂質であるコレステロールおよびコレステロールエステルを残存させ(∗5)、皮脂由来脂質であるスクワレンを汚れとともに洗浄することを意味します。
∗4 選択洗浄性とは、ある物質はよく洗い流すが、ある物質は洗い流さず残すという洗浄剤の性質のことです。
∗5 角質細胞間脂質であるコレステロールおよびコレステロールエステルの残存は皮膚の乾燥や肌荒れを防ぐための重要な因子であると考えられています。
1989年にポーラ化成工業によって報告された各カリウムセッケンの選択洗浄性検証によると、
水洗いでは、親水性の高いコレステロールが除去され、コレステロール比率の減少を示した。
また、ミリスチン酸カリウムセッケンは他のカリウムセッケンほどではないが、スクワレンを洗浄し、コレステロールエステルおよびコレステロールを残す選択洗浄性を示した。
さらに、複数のカリウムセッケンを組み合わせた処方系においても同様の選択洗浄性がみられ、とくにパルミチン酸カリウムセッケンおよびステアリン酸カリウムセッケンを組み合わせたものがスクワレン除去率が高く、
- ラウリン酸K、ミリスチン酸K
- ミリスチン酸K、パルミチン酸K、ステアリン酸K
- パルミチン酸K、ステアリン酸K
これらのいずれの組み合わせにおいてもコレステロールエステルおよびコレステロールを残す選択洗浄性を示した。
このような検証結果が明らかにされており(文献13:1989)、パーム油の脂肪酸組成の比率は、一例としてパルミチン酸43%、オレイン酸40%を主体とした構成となっていることから、コレステロールエステルおよびコレステロールは残しており、選択洗浄性を有していると考えられます。
感触改良
感触改良に関しては、油性基剤の硬さと粘性を調節する目的でスキンケア化粧品、ボディケア製品、メイクアップ化粧品などに使用されています。
感触改良剤としてパーム核油および水添パーム油と併用して用いられることがあり、これらが記載されている場合は感触改良目的である可能性が考えられます。
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の1997年および2010年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品というのは、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
パーム油の安全性(刺激性・アレルギー)について
- 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
- 50年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:最小限
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 光毒性:ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:2000;文献2:2017)によると、
- [ヒト試験] 110人の被検者に15%パーム油を含むワセリン0.025gをHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を実施し、皮膚刺激を評価(0:皮膚反応なし-4:紅斑、浮腫および水疱)したところ、誘導期間において3人の被検者に1+の反応が観察されたが、チャレンジ期間に皮膚反応は観察されず、15%パーム油を含むワセリンはいずれの被検者においても皮膚感作を誘発しなかったと結論づけた(International Research Services Inc,1997)
- [ヒト試験] 99人の被検者に2%パーム油を含むボディローション0.3mLを対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を実施したところ、いずれの被検者も接触感作反応を示さなかった(Hill Top Research Inc,1982)
- [ヒト試験] 94人の被検者に1%パーム油を含む日焼けバターを対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を実施したところ、試験期間中に皮膚反応は認められなかったため、1%パーム油を含む日焼けバターはアレルギー感作を誘発する可能性がないと結論づけた(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1979)
- [ヒト試験] 103人の被検者に1.5%パーム油を含む保湿剤を対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を実施したところ、誘導期間中に7人の被検者において最小限の紅斑反応が観察され、別の1人の被検者は誘導期間中に最大4のスコアのうち1(接触部分を覆うピンク色の均一な紅斑)を有していた。この8人のうち1人はチャレンジ期間においても反応が観察されたが、これらの反応は本質的に刺激性またはアレルギー性であると判断されず、1.5%パーム油を含む保湿剤は有意な皮膚刺激またはアレルギー性接触皮膚炎を誘発しなかったと結論付けられた(Food and Drug Human Clinical Labs Inc,1983)
- [ヒト試験] 42人の被検者に61.6%パーム油を含む石鹸を対象に28日間の連用試験を実施したところ、連用に耐えうる安全性であった(EVIC France,2009)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激性および皮膚感作性なしと報告されているため、一般的に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:2000)によると、
- [動物試験] 6匹のウサギの眼に未希釈のパーム油を滴下した後、眼はすすがず、Draize法の眼刺激スコア(0-110)で評価したところ、1-2日目の眼刺激スコアは3であり、3日目には0であった。未希釈のパーム油は最小限の眼刺激性を誘発すると結論づけられた(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)
- [動物試験] 6匹を1群としたウサギ2群に2%パームを含む2つのハンドクリームを対象に眼刺激性試験を実施したところ、どちらのハンドクリームも未希釈と同様で、最小限の眼刺激性と結論付けられた。(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1981)
- [in vitro試験] 膜分配試験において1.5%パーム油を含むローション30,50および100μLを処理したところ、最小限の眼刺激性に分類された(National Testing Corporation,1988)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して最小限の眼刺激性が報告されているため、最小限の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
光毒性について
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:2000)によると、
- [in vitro試験] 1.5%パーム油を含むフェイシャルローションの光毒性を光毒性酵母試験で評価した。1.5%パーム油で処理した試験物質にUVライトを18時間照射し、48,72および96時間の阻害ゾーンについて評価したところ、フェイシャルローションは光毒性に分類されなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1986)
と記載されています。
試験結果をみるかぎり、光毒性なしと報告されているため、光毒性はないと考えられます。
∗∗∗
パーム油はベース成分、界面活性剤にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
∗∗∗
文献一覧:
- Cosmetic Ingredient Review(2000)「Final Report on the Safety Assessmentof Elaeis Guineensis (Palm) Oil, Elaeis Guineensis (Palm) Kernel Oil, Hydrogenated Palm Oil and Hydrogenated Palm Kernel Oil」International Journal of Toxicology(19)(2),7–28.
- Cosmetic Ingredient Review(2017)「Safety Assessment of Plant-Derived Fatty Acid Oils」International Journal of Toxicology(36)(3),51S-129S.
- 日本油化学協会(1990)「植物油脂の脂肪酸組成」油脂化学便覧 改訂3版,104-110.
- 日本油化学協会(1990)「植物油脂の性状」油脂化学便覧 改訂3版,99-101.
- 田村 健夫, 他(1990)「アニオン界面活性剤」香粧品科学 理論と実際 第4版,133-136.
- 日光ケミカルズ(2016)「油脂」パーソナルケアハンドブック,6.
- 加藤 秋男(1983)「油脂成分及びその工業的利用に関する研究」油化学(32)(11),659-665.
- 小野 正宏(1979)「身のまわりの化学”セッケンおよびシャンプー”」化学教育(27)(5),297-301.
- 田村 健夫, 他(1990)「石けん」香粧品科学 理論と実際 第4版,336-348.
- 宮澤 清(1993)「化粧せっけん及びヘアシャンプーの泡立ちとソフト感」油化学(42)(10),768-774.
- Luis Mauri, 他(1958)「起ホウ力の評価」油化学(27)(5),104-106.
- 大矢 勝, 他(1989)「衣類の泡沫洗浄に関する研究」繊維製品消費科学(30)(2),87-93.
- 橋本 文章, 他(1989)「界面活性剤の皮膚への吸着性と洗顔料による選択洗浄性」日本化粧品技術者会誌(23)(2),126-133.
スポンサーリンク